上 下
22 / 85

22ジュリの過去②

しおりを挟む
「ごめん……。こんな泣くつもりなんてなかったのに」

しばらく泣き続けた後、ショウの腕を離したジュリはそのまま申し訳なさそうにごめん、と呟いた。
泣きはらした目は赤く腫れぼったくなっていて、鼻先や頬までピンク色に染まっている。

「気にしないでいい、俺の腕ならいつでも貸すから。……ところで弟たちは今どうしているんだ?」

「弟たちは娼館のオーナーが経営してる施設に預かってもらってる。僕も週に1回の休みはそこに帰ってるんだー。……弟たちがベータで本当に良かった。僕と同じ事しないでいいんだから」

ジュリは目をごしごし擦りながら自嘲気味に笑った後、「でもこの生活も、終わりが近いのかも」と話し出した。

「ショウが、ちゃんと相応しい人と結婚して世継ぎが出来たら、お母さんの残した借金返してくれるんだって」

気持ちよさそうに天に手を伸ばしながら空を見上げるジュリ。その横顔も手首も見えているところ全てが儚げで今にも消えてしまいそうだった。

「ジュリ……俺は君がいい。友達から始めていずれ好きになってくれれば……。俺と結婚すれば弟たちもすぐここに」

「何言ってるの?……僕はアルファを信用していないし嫌いなんだ。お母さんを捨てたようなアルファなんか……。そもそも、僕は結婚とか番とか一生いらないし。ショウもよく考えてみなって!男娼なんて結婚相手に相応しくないよ」

さっきまで穏やかだったジュリの顔が途端に冷たくなる。眉間に皺を寄せ顔を背けると急にその場で立ち上がった。

「でも、ショウはアルファだけど威圧的じゃないし、いい人だと思ってるから。……仕事として協力はするよ」

もうこの話はおしまい、と言いショウの方を見るジュリの顔は作られたような綺麗な笑顔だった。
夕日が沈む頃、二人は並んで王宮まで戻った。今度はゆっくり景色を楽しむようにのんびりと歩いた。
広大な花畑に緑の木々。その後ろに聳え立つ城はまるで絵画のようだ。

「ジュリ、今日は言いにくい事話してくれてありがとう。君の事を知れて嬉しかった」

「あー……うん、ごめん。なんか恥ずかしいや。もう忘れて、ね!」

「いや、忘れない。……今度は俺の事を知ってもらいたい」

その言葉にジュリは苦笑いを浮かべるだけで、何も答えはしなかった。
なんでこの仕事をしているのか、なんでアルファを嫌うのか。ジュリの話を聞いて理由はわかったが、本音を隠して笑う顔や一人でたくさん背負っている姿を見ると、ぎゅっと胸が締め付けられる感じがした。
俺にだけでも、心から笑って欲しい、一人で背負わないで俺に頼ってほしい。そう思ったショウはジュリの右手をぎゅっと握りしめた。

「ちょ、ちょっと、手!」

「友達でも手ぐらい握るだろう。そうだ、友達だから2人きりで食事くらいするな。今日の夕食は俺の部屋で食べよう!決まりだ!」

「え、えー……」

ジュリは困った表情で手を振りほどこうとしたが、その手が解けないことがわかると、「しょうがないな」と言いながら眉を八の字にしながらくすくすと笑った。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる
恋愛
 祖国を追われた少年リアムが貨物船に密航してたどり着いたのは、オーウェルズ国最大の港町サガン。  リアムは伯爵令嬢ルシアを助けたことをきっかけにスチュワート家の執事となった。  希少な魔術の使い手である彼は、ルシアのためにしょうもない魔道具を作ったり、裏工作をしたりと忙しい。  ルシアが社交界デビューを飾った夏、二人の運命は大きく動き出す。  とある事件が引き金となり二人の周囲の状況が変化していく。  命の危機が迫ったルシアを助けるために姿を消すことになったリアム。  すれ違う二人の運命が再び結ばれるまでの物語。 ※完結しました。 ※小説家になろうさんでも同時掲載しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。 顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。 「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」 これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。 ※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...