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20王宮の花畑
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「えっ、えぇ……!?」
ショウはジュリの返事を聞かず、ニッと笑うとジュリを横抱きにした。
そのまま芝生の上を勢いよく蹴り上げるとすさまじい速さで走り出した。
「わぁ!ちょ、ちょっと!落ちる、落ちるって!」
「ははっ!大丈夫、絶対落とさないから、しっかり捕まってて」
慌てて落ちないようにショウの首にぎゅっとしがみつく。
その時、ふわっとショウのアルファの匂いがジュリの鼻腔をくすぐった。
それはラットを起こしていた時とは違い、甘酸っぱくて胸いっぱいに嗅いでいたいほどの爽やかな香りだった。
ー---
「着いたよ」
そう言って降ろされた場所は、色とりどりの花が咲く美しい広大な花畑だった。
今は亡きジェイダ国王の妻・マリアは花を育てることが好きでこの花畑を実の子供のように愛していたらしい。
マリアが亡くなった今でもこの花畑は使用人たちによって丁寧に世話され美しく咲き誇っている。
「う、わぁ……すごい、こんな綺麗な景色見たことない……」
「そうか、ここに来てよかった。……ジュリは何の花が好きなんだ?」
「花……?うーん、あんまり知らないけど……あっ!ユリは好き」
2人は青空の下、花畑の中をゆっくりと歩いた。ジュリは花が珍しいのかしゃがみこんでじっと見たり、くんくんと匂いを嗅いでみたりして、まるでくるくる踊っているようだった。
そうこうしていると、花畑中央にあるベンチに着いた。少し錆びついているが重厚感ある天然木の立派なガーデンベンチだ。
ジュリは疲れたのか一目散にそこに座ると、少し遅れて隣にショウが座った。
「ユリの花か。どうして?」
ショウは隣にいるジュリに尋ねた。
”んー-”と青空に向かっていた両腕を伸ばしていたジュリはショウの問いに一瞬顔が曇ったがすぐに、にっこりと微笑んだ。
「う、んとね。お母さんの匂いだから、かな……」
「お母さんの匂い?」
「そ、お母さんオメガだったから。ていっても、元番だった人が”ユリの匂いみたい”って言ってただけだから本当は嗅いだことがないんだ。……だからお客さんがユリの花持ってきてくれると『あーお母さんってこんな匂いだったのかな』って嬉しくて……」
そこでジュリの表情が一気に翳った。膝の上に置いていた指が白くなるほど力強く拳を作り、今にも泣きそうな、悔しそうなそんな顔をしている。ショウは、そんな表情をしているジュリを見ていられなくて話しを止めるようにその白い手をぎゅっと握った。
「ジュリ、無理に話さなくてもいい」
「いいの」
「ショウには聞いてほしい。ずっと、誰にも言えないでいたこと」
そう言うとジュリはその紫色の瞳でショウを見つめた。
ショウはジュリの返事を聞かず、ニッと笑うとジュリを横抱きにした。
そのまま芝生の上を勢いよく蹴り上げるとすさまじい速さで走り出した。
「わぁ!ちょ、ちょっと!落ちる、落ちるって!」
「ははっ!大丈夫、絶対落とさないから、しっかり捕まってて」
慌てて落ちないようにショウの首にぎゅっとしがみつく。
その時、ふわっとショウのアルファの匂いがジュリの鼻腔をくすぐった。
それはラットを起こしていた時とは違い、甘酸っぱくて胸いっぱいに嗅いでいたいほどの爽やかな香りだった。
ー---
「着いたよ」
そう言って降ろされた場所は、色とりどりの花が咲く美しい広大な花畑だった。
今は亡きジェイダ国王の妻・マリアは花を育てることが好きでこの花畑を実の子供のように愛していたらしい。
マリアが亡くなった今でもこの花畑は使用人たちによって丁寧に世話され美しく咲き誇っている。
「う、わぁ……すごい、こんな綺麗な景色見たことない……」
「そうか、ここに来てよかった。……ジュリは何の花が好きなんだ?」
「花……?うーん、あんまり知らないけど……あっ!ユリは好き」
2人は青空の下、花畑の中をゆっくりと歩いた。ジュリは花が珍しいのかしゃがみこんでじっと見たり、くんくんと匂いを嗅いでみたりして、まるでくるくる踊っているようだった。
そうこうしていると、花畑中央にあるベンチに着いた。少し錆びついているが重厚感ある天然木の立派なガーデンベンチだ。
ジュリは疲れたのか一目散にそこに座ると、少し遅れて隣にショウが座った。
「ユリの花か。どうして?」
ショウは隣にいるジュリに尋ねた。
”んー-”と青空に向かっていた両腕を伸ばしていたジュリはショウの問いに一瞬顔が曇ったがすぐに、にっこりと微笑んだ。
「う、んとね。お母さんの匂いだから、かな……」
「お母さんの匂い?」
「そ、お母さんオメガだったから。ていっても、元番だった人が”ユリの匂いみたい”って言ってただけだから本当は嗅いだことがないんだ。……だからお客さんがユリの花持ってきてくれると『あーお母さんってこんな匂いだったのかな』って嬉しくて……」
そこでジュリの表情が一気に翳った。膝の上に置いていた指が白くなるほど力強く拳を作り、今にも泣きそうな、悔しそうなそんな顔をしている。ショウは、そんな表情をしているジュリを見ていられなくて話しを止めるようにその白い手をぎゅっと握った。
「ジュリ、無理に話さなくてもいい」
「いいの」
「ショウには聞いてほしい。ずっと、誰にも言えないでいたこと」
そう言うとジュリはその紫色の瞳でショウを見つめた。
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