異世界から来た勇者様は男娼オメガに恋をする

小鳥遊ゆう

文字の大きさ
上 下
17 / 85

17好きになってくれるまでは

しおりを挟む
そのまま部屋を追い出されるように外に出ると、既に娼館の前には前回と同じ黒い馬車が用意されていた。
また、これで行くのか……。行きたくなくて馬車に乗るのを躊躇っていると、中から見知った人物が降りてきた。

「朝方ぶりですね、ジュリさん」

「……マーリンさん!」

マーリンはにこにこと嬉しそうにジュリに小さな袋を渡した。
あの金平糖だ。

「ほら、次会えたらお渡しするって約束でしたでしょう?というかさきほど勇者様がお渡しになりませんでしたか?」

「俺がなんだって」

突然後ろから声が聞こえた。
ジュリがその声に勢いよく振り返るとショウがまるでジュリを逃がさないかのようにぴったりと真後ろに立っていたのだった。

「別に逃げないけど……」

「わかってるよ。さあ乗って、みんな待ってるから」

ジュリは、みんな?と聞き返したが勇者は何も答えずジュリの手を持つとそのまま馬車へ乗り込んだ。
前に一人で乗った時よりもゆったり走ってくれているからか、揺れは少なく馬車の中は快適な乗り心地だった。
だがそれは馬車の揺れの話だけで、ジュリは居心地の悪い状況に陥っていた。

「あの、なんでずっとこっち見てるの」

馬車の中は合計四人乗り。ジュリの隣はショウ。ショウの前はマーリンが座っている。
その狭い空間で、ずっとショウはジュリの横顔を見つめていた。

「君がとても綺麗だからだ。……ずっと見ていたいくらい」

「それはオメガの匂いのせいだからっ……!」

ベッドの中以外で綺麗と言われる事に慣れていなくて、ジュリの頬がぽっと赤く色づく。
そんな姿を見られたくなくて、ジュリは「もうこっち見ない」と言い放つと赤い顔を見られないようにそっぽをむいてしまった。

そのまま馬車に揺られること15分。王宮に着くと、レミウスが後ろに屈強な男たち10人ほど連れ、王宮の門まで待っていてくれた。
マーリン、ショウ、ジュリの順番で馬車を降りる。レミウスはジュリに駆け寄るとにこっと微笑んだ後深々と頭を下げた。

「ジュリさん。よくお戻りになられた」

「あーはい。戻ってきました」

「勇者様もお帰りなさいませ。このまま部屋に行かれますか?」

レミウスの発言にジュリは思わずビクッと肩を揺らしてしまう。
お金で契約した事だ。やることはわかっている。
バッグの中をちらっと覗き、一番効く抑制剤を持ってきている事を確認した。

「あぁ。俺が連れていく。騎士団長は午後の訓練メニューを引き続き行っていてくれ」

ショウがそう言い、ジュリの手を握る。
今回は使用人専用の入り口じゃない、正門から王宮に入る。
真っ赤な絨毯ときらきら輝くシャンデリアが出迎えるエントランスを抜け階段を上がる。
3階まで上がると見知った部屋の前までたどり着いた。
さっきまでジュリの前を歩いていたショウはくるっと振り返った。

ー-ついに、やっちゃうのか……。いやまあ、これが仕事だし。勇者が誰かと結婚出来れば男娼やめれるし。

ジュリはふぅ、と息を吐くと覚悟を決めて、しっかりとショウの顔を見据えた。
勇者は繋いでいた手を離すと代わりにルームキーをジュリに握らせた。

「え……?これ」

「ジュリの部屋は俺の部屋の斜め向かいだから、何かあったら俺を呼んで。……あーでも、今から訓練だからな。1階にメイドさんかだれかはいると思うから」

「いやいや、今からするんじゃないの!?」

バッグを投げ捨てるとショウに詰め寄る。ショウの紋章が入ったマントを引っ張ると思ったより力が強かったのかよろけて唇が軽くあたった。愛のあるキスとは到底言えたものじゃないが間違いなくお互いの唇が触れ合ったのだ。
その瞬間、ショウは勢いよくジュリを引き離した。

「ごご、ごめん。悪かった、そんなつもりはなくて……」

みるとショウの顔が真っ赤になっている。
そのまま片手で口元を隠しながら一歩下がると眉間にしわを寄せながら顔を伏せてしまった。

「俺は付き合っていない子とはしない。……だからジュリが俺の事好きになってくれるまでは友人としてここにいてもらうから」

それじゃあ、俺は訓練に行ってくる、そう言い残すとショウはものすごいスピードで階段を駆け下りていった。
後に残されたのは、ぽかんと口を開けたまま唖然としているジュリだけだった。

















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

愛すべき『蟲』と迷宮での日常

熟練紳士
ファンタジー
 生まれ落ちた世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界。だが、現実は非情で夢や希望など存在しないシビアな世界だった。そんな世界で第二の人生を楽しむ転生者レイアは、長い年月をかけて超一流の冒険者にまで上り詰める事に成功した。  冒険者として成功した影には、レイアの扱う魔法が大きく関係している。成功の秘訣は、世界でも4つしか確認されていない特別な属性の1つである『蟲』と冒険者である紳士淑女達との絆。そんな一流の紳士に仲間入りを果たしたレイアが迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟で過ごす物語。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...