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8娼館に来た2人
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「ランララン、ランラランー……」
朝7時過ぎ、ジュリは鼻歌を歌いながら客が帰った後の部屋の片づけをしていた。今日は貴重な週に1回の休日。まだ幼い双子の弟と一緒に過ごせるジュリの大切な休息日なのだ。
白いベビードールを身にまとい、くるくると踊りながら汚れたシーツをはぎ取り空気の入れ替えをする。
「朝ご飯のパン、余分に貰えたら双子に持って帰ろ!あっ金平糖のお店今日やってるかな、帰り道寄りたいなー」
ふふふと思わず笑みが漏らしながらジュリは掃除を続ける。カーテンをタッセルに止めた後、水に濡らした雑巾を固く絞り窓を拭いている時だった。
「へぇ……王宮のお偉いさんも、こんなところ来るんだ」
窓から見えたのは白いシルクの生地に金の刺繍が入ったローブ姿の男2人。この衣装は王の側近だけが着ることの出来るものだ。
「最近、王様亡くなったみたいだけど、娼館なんて来ていいのかな。……まぁ、僕には関係ないけど」
そう言いながらジュリは窓ふきの掃除を続ける。
ようやく掃除が終わり、着ていたランジェリーから麻の普段着に着替えた時だった。
ーコンコンー
部屋の扉をノックする音が聞こえた途端、ジュリの表情が曇る。
明日の夕方までの大切な休み。これ以上無駄な時間を過ごしたくないのだ。
ーーもう帰る時間なのに……!
どうしても苛立ちが抑えられずドスドスと足音を立てて歩いてしまう。
「オーナー、もう帰るんですけど……」
不機嫌そうに口をへの字に曲げながらドアを開けるとそこにいるはずのオーナーはいなかった。
代わりにドアの前で立っていたのはさっき窓から見えた白いローブ姿の男2人だった。
「あ、の……部屋間違っていますよ」
「突然すいません……あなたがジュリさんですか?」
男たちは慣れない場所にそわそわしながら小声でジュリに尋ねた。
きっとお偉いさんがこんな場所にいるってばれたら大変なんだろう、そう感じたジュリも小声で返事をした。
「はい、そうですけど……」
「あ、あの!緊急なんですっ、どうしてもお願いしたいことがあって!」
2人の男の内、若い方が突然大声で叫びながら頭を下げた。
いきなりの事にジュリはびっくりして動けないでいたが、はっと我に返ると他の部屋から何人もの娼婦がこちらを見ているのに気付き慌てて部屋の中に招き入れた。
2人は部屋に入るとそれぞれマーリン、レミウスと名乗った。
二人は突然の来たことを謝りながら人気菓子屋の金平糖が入った袋をジュリにそっと差し出した。
「あの、突然なんですか。緊急って……お偉いさん達がオメガの男娼に何の用ですか?」
一瞬迷ったがお土産に買うはずだった金平糖だったことにどうしても目が眩んでつい受け取ってしまった。
”ベッドにでも座ってて”と言いながらチェストの前に立つジュリ。
そのチェストの一番上の引き出しを開けると抑制剤を一錠ぽいと口に入れた。
「端的に言います、あなたには勇者専属の男娼になってもらいたい」
「……は?」
あまりの衝撃にジュリの手から金平糖のお菓子がぽろっと落ちた。
朝7時過ぎ、ジュリは鼻歌を歌いながら客が帰った後の部屋の片づけをしていた。今日は貴重な週に1回の休日。まだ幼い双子の弟と一緒に過ごせるジュリの大切な休息日なのだ。
白いベビードールを身にまとい、くるくると踊りながら汚れたシーツをはぎ取り空気の入れ替えをする。
「朝ご飯のパン、余分に貰えたら双子に持って帰ろ!あっ金平糖のお店今日やってるかな、帰り道寄りたいなー」
ふふふと思わず笑みが漏らしながらジュリは掃除を続ける。カーテンをタッセルに止めた後、水に濡らした雑巾を固く絞り窓を拭いている時だった。
「へぇ……王宮のお偉いさんも、こんなところ来るんだ」
窓から見えたのは白いシルクの生地に金の刺繍が入ったローブ姿の男2人。この衣装は王の側近だけが着ることの出来るものだ。
「最近、王様亡くなったみたいだけど、娼館なんて来ていいのかな。……まぁ、僕には関係ないけど」
そう言いながらジュリは窓ふきの掃除を続ける。
ようやく掃除が終わり、着ていたランジェリーから麻の普段着に着替えた時だった。
ーコンコンー
部屋の扉をノックする音が聞こえた途端、ジュリの表情が曇る。
明日の夕方までの大切な休み。これ以上無駄な時間を過ごしたくないのだ。
ーーもう帰る時間なのに……!
どうしても苛立ちが抑えられずドスドスと足音を立てて歩いてしまう。
「オーナー、もう帰るんですけど……」
不機嫌そうに口をへの字に曲げながらドアを開けるとそこにいるはずのオーナーはいなかった。
代わりにドアの前で立っていたのはさっき窓から見えた白いローブ姿の男2人だった。
「あ、の……部屋間違っていますよ」
「突然すいません……あなたがジュリさんですか?」
男たちは慣れない場所にそわそわしながら小声でジュリに尋ねた。
きっとお偉いさんがこんな場所にいるってばれたら大変なんだろう、そう感じたジュリも小声で返事をした。
「はい、そうですけど……」
「あ、あの!緊急なんですっ、どうしてもお願いしたいことがあって!」
2人の男の内、若い方が突然大声で叫びながら頭を下げた。
いきなりの事にジュリはびっくりして動けないでいたが、はっと我に返ると他の部屋から何人もの娼婦がこちらを見ているのに気付き慌てて部屋の中に招き入れた。
2人は部屋に入るとそれぞれマーリン、レミウスと名乗った。
二人は突然の来たことを謝りながら人気菓子屋の金平糖が入った袋をジュリにそっと差し出した。
「あの、突然なんですか。緊急って……お偉いさん達がオメガの男娼に何の用ですか?」
一瞬迷ったがお土産に買うはずだった金平糖だったことにどうしても目が眩んでつい受け取ってしまった。
”ベッドにでも座ってて”と言いながらチェストの前に立つジュリ。
そのチェストの一番上の引き出しを開けると抑制剤を一錠ぽいと口に入れた。
「端的に言います、あなたには勇者専属の男娼になってもらいたい」
「……は?」
あまりの衝撃にジュリの手から金平糖のお菓子がぽろっと落ちた。
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