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5 勇者・宮内翔が召喚された日
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「宮内先輩、ありがとうございました!」
「主将、本当に今までありがとうございましたっ…!」
ここは東京。夏の日差しが一段と厳しい8月、総合体育館の前で宮内翔は総勢30人ほどの後輩に囲まれていた。
「俺は今日で引退だが、お前ら来月も試合があるんだから頑張れよ」
「はい!先輩が来てくれたおかげで俺たちここまでこれました!来月もがんばります!」
次の主将だと思われる部員が少し涙目になりながら頭をさげ礼を言う。翔はその姿を見ると、ニコッと笑い一人その場を後にした。
翔は、東京の大学に通う四年生だ。黒髪短髪、190cmの身長と体格の良さで一見怖く思われることもあるが、実際は真面目で誠実な正義感あふれる青年なのだ。
中学から始めた剣道は持ち前のセンスと努力で高校三年連続全国大会ベスト8、スポーツ推薦で入学した大学では主将になった四年生で初めて全国大会準優勝まで登り詰めた。
「試合に出たのは2か月ぶりだが、部に貢献出来てよかった。これで終わりだと思うと寂しくなるな……」
夏前には部活を引退した翔だったが、試合に出るはずだった部員が怪我をした為、急遽試合に駆り出される事になったのだ。
試合の結果は翔の活躍もあり、予選突破。来春から警察官になる翔にとって、大学生活最後にいい思い出が出来たと心の中で喜んでいた。
帰り道、大学のジャージを身にまとい肩には竹刀袋、そして反対の手にはキャリー型の防具袋を持った翔は駅に向かっていた。
時刻は夕方4時過ぎ。日曜日の夕方ともなれば、車や人の数も増え駅に向かうにつれだんだんと混雑してきている。翔はただでさえ体の大きい自分が大きな荷物を持っている事が申し訳なく、防具袋と竹刀袋を持ったまま歩道の端に移動し、どこか休憩できる場所を探した。
「ママ―……、パパー……」
ふと翔の耳に女の子のか細い声が聴こえた。初めは聞き間違いかと思ったが、何度も何度も聞こえるその声を不思議に思い、目を凝らしながらその声の主を探した。
「あの子か……?」
人混みの中、4歳くらいの女の子が泣きそうになりながらふらふらと歩いている。途中、通行人とぶつかりそうになるも誰も女の子の存在に気付いていない。
「あそこにいると危ないな。助けに行かないと」
翔は、女の子の所へ向かおうと竹刀袋だけを肩にかけ歩き出した時だった。
女の子が横断歩道に向かって急に走り出したのだ。どうやら女の子の両親が道の向かいにいたらしい。
だが、信号は赤。このまま横断歩道を渡れば間違いなく車に轢かれてしまう。
それに気づいた翔は、走りながら女の子に向かって叫んだ。
「おい!待つんだ、危ない!」
だが、女の子の耳には届かない。
翔は全速力で走った。息を切らせ、人にぶつかるのも気にせず、どうか間に合ってくれと願いながら手を伸ばした。
「ふんっ!」
女の子が横断歩道に一歩進んだところだった。翔はなんとか女の子の腕を掴むと勢いよく歩道の方へなげ飛ばした。
きゃあ、と女の子の小さい悲鳴が翔の耳まで届いた。
「良かった、間に合った……」
ほっと安心し頭を上げた瞬間。目の前には大型トラックがすぐそこまで迫っていた。
ブー、とクラクションが大音量で響き渡る。立ち上がろうにも体勢を崩していて上手く立ち上がれない。
ーーくそっ!もうだめか……。
そう諦めかけた時、翔の目の前に突如金色に輝く光の輪が現れた。
『勇者よ。お前が来るのを心から待っていた』
「え……?」
脳内に直接話しかけられているような感覚がする。それに驚くと同時に翔の体は吸い込まれるように光の輪に入っていってしまった。
「主将、本当に今までありがとうございましたっ…!」
ここは東京。夏の日差しが一段と厳しい8月、総合体育館の前で宮内翔は総勢30人ほどの後輩に囲まれていた。
「俺は今日で引退だが、お前ら来月も試合があるんだから頑張れよ」
「はい!先輩が来てくれたおかげで俺たちここまでこれました!来月もがんばります!」
次の主将だと思われる部員が少し涙目になりながら頭をさげ礼を言う。翔はその姿を見ると、ニコッと笑い一人その場を後にした。
翔は、東京の大学に通う四年生だ。黒髪短髪、190cmの身長と体格の良さで一見怖く思われることもあるが、実際は真面目で誠実な正義感あふれる青年なのだ。
中学から始めた剣道は持ち前のセンスと努力で高校三年連続全国大会ベスト8、スポーツ推薦で入学した大学では主将になった四年生で初めて全国大会準優勝まで登り詰めた。
「試合に出たのは2か月ぶりだが、部に貢献出来てよかった。これで終わりだと思うと寂しくなるな……」
夏前には部活を引退した翔だったが、試合に出るはずだった部員が怪我をした為、急遽試合に駆り出される事になったのだ。
試合の結果は翔の活躍もあり、予選突破。来春から警察官になる翔にとって、大学生活最後にいい思い出が出来たと心の中で喜んでいた。
帰り道、大学のジャージを身にまとい肩には竹刀袋、そして反対の手にはキャリー型の防具袋を持った翔は駅に向かっていた。
時刻は夕方4時過ぎ。日曜日の夕方ともなれば、車や人の数も増え駅に向かうにつれだんだんと混雑してきている。翔はただでさえ体の大きい自分が大きな荷物を持っている事が申し訳なく、防具袋と竹刀袋を持ったまま歩道の端に移動し、どこか休憩できる場所を探した。
「ママ―……、パパー……」
ふと翔の耳に女の子のか細い声が聴こえた。初めは聞き間違いかと思ったが、何度も何度も聞こえるその声を不思議に思い、目を凝らしながらその声の主を探した。
「あの子か……?」
人混みの中、4歳くらいの女の子が泣きそうになりながらふらふらと歩いている。途中、通行人とぶつかりそうになるも誰も女の子の存在に気付いていない。
「あそこにいると危ないな。助けに行かないと」
翔は、女の子の所へ向かおうと竹刀袋だけを肩にかけ歩き出した時だった。
女の子が横断歩道に向かって急に走り出したのだ。どうやら女の子の両親が道の向かいにいたらしい。
だが、信号は赤。このまま横断歩道を渡れば間違いなく車に轢かれてしまう。
それに気づいた翔は、走りながら女の子に向かって叫んだ。
「おい!待つんだ、危ない!」
だが、女の子の耳には届かない。
翔は全速力で走った。息を切らせ、人にぶつかるのも気にせず、どうか間に合ってくれと願いながら手を伸ばした。
「ふんっ!」
女の子が横断歩道に一歩進んだところだった。翔はなんとか女の子の腕を掴むと勢いよく歩道の方へなげ飛ばした。
きゃあ、と女の子の小さい悲鳴が翔の耳まで届いた。
「良かった、間に合った……」
ほっと安心し頭を上げた瞬間。目の前には大型トラックがすぐそこまで迫っていた。
ブー、とクラクションが大音量で響き渡る。立ち上がろうにも体勢を崩していて上手く立ち上がれない。
ーーくそっ!もうだめか……。
そう諦めかけた時、翔の目の前に突如金色に輝く光の輪が現れた。
『勇者よ。お前が来るのを心から待っていた』
「え……?」
脳内に直接話しかけられているような感覚がする。それに驚くと同時に翔の体は吸い込まれるように光の輪に入っていってしまった。
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