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前編
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「――すげぇ。あの人めっちゃいい身体してますね。」
「ん?あぁ、あの人ね、常連さんなんだよ。確か――あぁ、そうだ自衛官だったはず。この間のフォックスハントの時なんかすごかったよー!どんどんハントしてっちゃうんだもん。やっぱ本職は違うよね~。」
「へぇー……。」
同僚に誘われて行ったサバゲー会場で見かけた理想の人。宮田さん。鍛え上げられた肉体はきれいな逆三角形で、装備のベストを脱げばパンと張った胸筋と、引き締まった腹筋、重量級のエアガンを悠々と取り回すその腕は太く、頼もしい。昨今の細マッチョとは違い、腰はくびれているものの、下半身の筋肉もすごいのだろう。ハンドガンの巻かれた太い足に、アーミーブーツが最高にカッコいい。
宮田さんがこのサバゲフィールドの常連だと聞いて、オレもここに通うようになった。今までは、なんとなく気恥ずかしくて、遠くから見ているだけだったが、いい加減今日こそは仲良くなってみせる!と駐車場に車を停めて、荷物を担ぎながら意気込む。まだ開場したばかりだけど、セーフティエリアにはすでにちらほらと人がいる。宮田さんはいつも来るの早いからきっといるはず。ほら、いた。よし――!オレは何気ない風を装って宮田さんと向かい合う席の前に立って、宮田さんに声をかける。
「あの、ここいいですか?」
「ん?あぁ、いいですよ。けど、もっと広いところじゃなくていいんですか?」
「ぁ、いや……そのうち混んでくるでしょうし、その、フィールドの入り口に近い方がいいなって……」
やばい。確かにまだほかのテーブルも空いてるのに向かいに座るのは不自然じゃん!なんか変な言い訳してしまったし!あぁ、宮田さんなんかぽかんとしてる。うぅ~……。
「ふふっ、確かに近い方が楽ですもんね。この時期だと暑いし。マスクとかグローブとか早く取りたいもんね。」
「そうですね。」
笑ってくれたぁ!そうですね、じゃねぇ!話を続けないと!
「オレわりと暑いの平気なんですけど、最近はほんと暑いですよね。」
「そうだねー。へぇ、暑さに強いの?」
「オレ、スーツアクターなんで、夏場はやばいくらい暑いですよ。」
「スーツアクター?」
「ぁ、知りませんか?なんか特撮モノとかで着ぐるみとか変身スーツ着て演技する専門の俳優です。」
「へぇ!すごい!俳優さんなの!?」
「けど、顔は出さないですし、それに……」
「それでもすごいよ!最近はどんな役やったの?」
う、そうだよな。この流れなら絶対この質問くるよな。ゔぅ~。しばらく黙っていると、宮田さんが申し訳なさそうに言う。
「ぁ、もしかして守秘義務とかで言えない?ごめんね、聞いちゃって。」
「ぁ、いえ、守秘義務とかは特に……、笑いませんか?」
「笑うわけないよ!」
「えっと、爆裂戦隊のピンクと、グラサンライダーに出てくるモグモンって敵キャラです。」
「ん?ピンクって、女の人じゃないの?」
「あー、変身したら顔わかんないんで、変身後は別のスタントできる人がやったりするんですよ。」
「へぇ、そうなんだ。でも、本当にすごいね!どっちも人気番組でしょ?」
「まぁ……でも、」
女とかマスコットキャラばっかりしかやらせてもらえないんですけど。とは言えなかった。卑屈すぎる。
「ほうほう。モグモンってこれか。なんか敵にしてはかわいい感じだね。」
オレが黙っている間に、スマホで検索したらしいキャラを見ながら宮田さんがつぶやく。
「オレ、身長低いんで……その、そういう役ばっかり……」
つい、愚痴みたいな言葉が口から漏れる。昔からこの身長がコンプレックスだった。スーツアクターという夢は叶ったけど、本当に憧れだったヒーローにはなれないし、こんな役ばっかり――
「つまり君にしかできない仕事ってことじゃん!」
「え?」
「身長低い人が大きくみせるのはある程度可能だけど、大きい人が低いキャラはできないでしょ?つまりこのキャラは君にしかできない仕事だったってことでしょ?」
「――そう、ですかね?」
「そうだよ!いいなぁ。かっこいい。俺も俺にしかできない仕事です!とか言ってみたいなぁ。」
宮田さんがにこにこ笑っている。あぁ、もう!嘘でしょ。泣きそうだ。こんな――見た目が理想なのに、中身が最高ってもう、こんなん好きになるじゃん。ならない方がおかしいだろ。たぶん真っ赤になったであろう顔を隠すために「ちょっとトイレ行ってきます」と宣言して、宮田さんの方を見ないまま、オレはその場を離れた。
***
――ちょっと無理矢理距離詰めすぎたかな。涙目になってたし、いやでも、真っ赤な顔はかわいかったな。
初めて見たのは、数ヶ月前のサバゲーの時。珍しく色白のきれいな子がいるなぁと目に止まった。セーフティエリアで説明を聞きながら準備をする横顔がきれいで、一緒に来た友だちと話している時の笑顔が可愛くてつい目で追ってしまった。
フィールドに出てプレイしている時も、つい目に留まる。そして、驚いた。
「今日、サバゲー初めてって言ってたよな……?」
つい独り言が溢れる。俺はスナイパーメインでプレイしてるから、高いところにいることが多い。わりと仲間の動きも見える。彼は、猫のように忍び寄って、素早く裏をとるなんていう、初心者とは思えない動きをしていた。すごい。
そんな一回目以降、サバゲーにハマってくれたのか、このフィールドで見かけることが増えた。同じチームになることもあれば、敵になることもあった。どっちにしても、彼はいつも俺の目をひいた。いつだか「敵にめちゃくちゃ上手いスナイパーさんがいた。オレ二回もヘッドショットされた。何がだめだったんだろ。」と友人に愚痴っているのを聞いた。そのスナイパーは俺だった。上手いと言われて嬉しくなるのと同時に、申し訳ないと思った。理屈はわからないが、彼の姿はよく見えるのだ。
それに、寮に戻っても、――彼が猫のようにしなやかな身体を存分に見せつけながら、四つん這いで俺にのしかかってにこりと笑うと、俺のを――なんていう厄介な夢で目が覚めるのだ。そしてその日一日、なんとも言えないもやもやを抱えることになる。
そんなこんなで、次にフィールドであったら話しかけてみよう。そう思っていた矢先だった。彼が俺の前の席にやってきたのは。彼はスーツアクターという仕事をしているらしい。なるほど。それで一つ謎が解けた。あの猫科の動物のような軽やかな身のこなしは、スーツアクターだったからか。それにしても女性役……なるほど。確かに彼は着替える時も更衣室を使うので見たことはないが、線が細い。動き的にきっと筋肉自体は付いているのだろうが、肥大しにくいのだろう。あらぬ妄想をしそうになって、頭を振る。……帰ったら彼がやっているというキャラの番組を見てみよう。
***
しばらくして、席に戻ると、宮田さんは装備を整えていた。アンダーウェアのみの上半身は、思ったとおり鍛えられていて、どきどきする。それに、男として普通に憧れる。
「――筋肉、すごいですね。」
思わず声に出してしまった。
「そうかな?まぁ、訓練とかもあるし、こんなもんじゃない?」
「いえ、オレどんだけ筋トレしても全然太くなれなくて……」
「触ってみる?」
「いいんですか?」
「全然構わないよ?」
「じゃあ――失礼します!」
「ふふっ、どうぞ。」
よくわからないけど、触らせてくれるらしい。マジか!鼻血でないように気をつけなきゃ。ペタペタと胸筋に触る。ぷにぷにしたいい筋肉だ。ついでに両手で腕を握ってみる。硬い。俺の両手でやっと囲めるサイズってやばいだろ。すげぇ!そして――鎖骨。僧帽筋と胸筋に挟まれてひっそり主張してくる。それらを存分に堪能して、お礼を言う。
「ありがとうございます。ほんと、すごいですね。」
「……あぁ、うん……」
ん?何か様子が変だけど……って、オレなんかめちゃくちゃ無遠慮に触ったわ!え、やばい。羞恥で顔が赤くなる。気まずい空気のなかその日のゲームが始まった。オレと宮田さんは同じチームだった。
スタートコールを待つ間、ふと思う。そう言えば宮田さんのプレイ中の姿って見たことないな……。今日は注意してみてみようかな……。
***
本当に触ってくるなんて……。しかも、腕、掴んでくるし……もしかして、慣れてるのだろうか?
自分から提案しておいて、実際に触られると動揺してしまった。なんとなく気まずい空気になったし、と、プレイ中に余計なことを考えてしまう。あと……何か今日、やたらと彼と目が合うような……。
フィールドアウトして席に着くと、彼が近寄って来て俺のプレイを褒めてくれる。そう言えば……。
「ありがとう、えっと、そう言えば名乗ってなかったね。宮田大和です。」
「あぁ、そう言えばそうですね。オレ、上野隆二と言います。」
「リュウジくんね。俺のことは大和って呼んで?」
「はい。そういえば、ヤマトさん。」
「うん?」
「ヤマトさんのプレイ、見てたんですけど――」
リュウジくんが、俺の名前を読んで、俺のプレイのここがすごかったけど、どう考えているのか、より上手く立ち回るにはどんなことに注意すればいいか質問してくる。熱心に聴いてくれるので説明するのも楽しい。そうこうしているうちに、次のゲームが始まった。
◇◇◇
――その日のゲームが終わる頃、俺とリュウジくんはだいぶ仲良くなっていた。
片付けをしながら、リュウジくんに声を掛ける。
「もしよければ、一緒に温泉に寄らない?近くに天然温泉があるから……」
しまった!つい普通の仲間とのノリで話してしまった。いや、しかし男同士だし、大丈夫か?だめか?
「温泉……。あ、すみません……オレは……。」
「あ、あぁ、ごめんね?突然誘っちゃって。都合とかもあるよね。いや~……。」
だめだったか……。何となく残念に思いながら、片付けをしていると、リュウジくんが俺の方をチラチラ見ていることに気づいた。片付けは終わっているようだし、もう帰るのだろうか?
「どうかした?」
「えっと……連絡先、交換しませんか?装備の相談とか乗ってもらえたらなとか。あと、温泉は無理なんですけど、ご飯とかなら。あ、いえ、別に、奢ってほしいとかではなく、ですよ?」
あわあわと言いつのるリュウジくんが可愛い。
「連絡先、何がいい?電話?メール?ロインが一番わかりやすいかな?」
「あ、じゃあロインで、」
「はい。」
「ありがとうございます。」
そう言って連絡先を交換すると、リュウジくんは帰っていった。進展、したよな?
***
よっしゃ!連絡先ゲット!とは言え……うぅ、大和さんと温泉、行きたかった……っ!!けど、オレ入れないからな……。
ちょっと、いや、結構落ち込みつつ、それでもただ遠くから見ていた時より、だいぶ近づけたと嬉しくなる。
悩ましい妄想をするヤマトさん
【イラスト:SF様(@SF30844166)】
「ん?あぁ、あの人ね、常連さんなんだよ。確か――あぁ、そうだ自衛官だったはず。この間のフォックスハントの時なんかすごかったよー!どんどんハントしてっちゃうんだもん。やっぱ本職は違うよね~。」
「へぇー……。」
同僚に誘われて行ったサバゲー会場で見かけた理想の人。宮田さん。鍛え上げられた肉体はきれいな逆三角形で、装備のベストを脱げばパンと張った胸筋と、引き締まった腹筋、重量級のエアガンを悠々と取り回すその腕は太く、頼もしい。昨今の細マッチョとは違い、腰はくびれているものの、下半身の筋肉もすごいのだろう。ハンドガンの巻かれた太い足に、アーミーブーツが最高にカッコいい。
宮田さんがこのサバゲフィールドの常連だと聞いて、オレもここに通うようになった。今までは、なんとなく気恥ずかしくて、遠くから見ているだけだったが、いい加減今日こそは仲良くなってみせる!と駐車場に車を停めて、荷物を担ぎながら意気込む。まだ開場したばかりだけど、セーフティエリアにはすでにちらほらと人がいる。宮田さんはいつも来るの早いからきっといるはず。ほら、いた。よし――!オレは何気ない風を装って宮田さんと向かい合う席の前に立って、宮田さんに声をかける。
「あの、ここいいですか?」
「ん?あぁ、いいですよ。けど、もっと広いところじゃなくていいんですか?」
「ぁ、いや……そのうち混んでくるでしょうし、その、フィールドの入り口に近い方がいいなって……」
やばい。確かにまだほかのテーブルも空いてるのに向かいに座るのは不自然じゃん!なんか変な言い訳してしまったし!あぁ、宮田さんなんかぽかんとしてる。うぅ~……。
「ふふっ、確かに近い方が楽ですもんね。この時期だと暑いし。マスクとかグローブとか早く取りたいもんね。」
「そうですね。」
笑ってくれたぁ!そうですね、じゃねぇ!話を続けないと!
「オレわりと暑いの平気なんですけど、最近はほんと暑いですよね。」
「そうだねー。へぇ、暑さに強いの?」
「オレ、スーツアクターなんで、夏場はやばいくらい暑いですよ。」
「スーツアクター?」
「ぁ、知りませんか?なんか特撮モノとかで着ぐるみとか変身スーツ着て演技する専門の俳優です。」
「へぇ!すごい!俳優さんなの!?」
「けど、顔は出さないですし、それに……」
「それでもすごいよ!最近はどんな役やったの?」
う、そうだよな。この流れなら絶対この質問くるよな。ゔぅ~。しばらく黙っていると、宮田さんが申し訳なさそうに言う。
「ぁ、もしかして守秘義務とかで言えない?ごめんね、聞いちゃって。」
「ぁ、いえ、守秘義務とかは特に……、笑いませんか?」
「笑うわけないよ!」
「えっと、爆裂戦隊のピンクと、グラサンライダーに出てくるモグモンって敵キャラです。」
「ん?ピンクって、女の人じゃないの?」
「あー、変身したら顔わかんないんで、変身後は別のスタントできる人がやったりするんですよ。」
「へぇ、そうなんだ。でも、本当にすごいね!どっちも人気番組でしょ?」
「まぁ……でも、」
女とかマスコットキャラばっかりしかやらせてもらえないんですけど。とは言えなかった。卑屈すぎる。
「ほうほう。モグモンってこれか。なんか敵にしてはかわいい感じだね。」
オレが黙っている間に、スマホで検索したらしいキャラを見ながら宮田さんがつぶやく。
「オレ、身長低いんで……その、そういう役ばっかり……」
つい、愚痴みたいな言葉が口から漏れる。昔からこの身長がコンプレックスだった。スーツアクターという夢は叶ったけど、本当に憧れだったヒーローにはなれないし、こんな役ばっかり――
「つまり君にしかできない仕事ってことじゃん!」
「え?」
「身長低い人が大きくみせるのはある程度可能だけど、大きい人が低いキャラはできないでしょ?つまりこのキャラは君にしかできない仕事だったってことでしょ?」
「――そう、ですかね?」
「そうだよ!いいなぁ。かっこいい。俺も俺にしかできない仕事です!とか言ってみたいなぁ。」
宮田さんがにこにこ笑っている。あぁ、もう!嘘でしょ。泣きそうだ。こんな――見た目が理想なのに、中身が最高ってもう、こんなん好きになるじゃん。ならない方がおかしいだろ。たぶん真っ赤になったであろう顔を隠すために「ちょっとトイレ行ってきます」と宣言して、宮田さんの方を見ないまま、オレはその場を離れた。
***
――ちょっと無理矢理距離詰めすぎたかな。涙目になってたし、いやでも、真っ赤な顔はかわいかったな。
初めて見たのは、数ヶ月前のサバゲーの時。珍しく色白のきれいな子がいるなぁと目に止まった。セーフティエリアで説明を聞きながら準備をする横顔がきれいで、一緒に来た友だちと話している時の笑顔が可愛くてつい目で追ってしまった。
フィールドに出てプレイしている時も、つい目に留まる。そして、驚いた。
「今日、サバゲー初めてって言ってたよな……?」
つい独り言が溢れる。俺はスナイパーメインでプレイしてるから、高いところにいることが多い。わりと仲間の動きも見える。彼は、猫のように忍び寄って、素早く裏をとるなんていう、初心者とは思えない動きをしていた。すごい。
そんな一回目以降、サバゲーにハマってくれたのか、このフィールドで見かけることが増えた。同じチームになることもあれば、敵になることもあった。どっちにしても、彼はいつも俺の目をひいた。いつだか「敵にめちゃくちゃ上手いスナイパーさんがいた。オレ二回もヘッドショットされた。何がだめだったんだろ。」と友人に愚痴っているのを聞いた。そのスナイパーは俺だった。上手いと言われて嬉しくなるのと同時に、申し訳ないと思った。理屈はわからないが、彼の姿はよく見えるのだ。
それに、寮に戻っても、――彼が猫のようにしなやかな身体を存分に見せつけながら、四つん這いで俺にのしかかってにこりと笑うと、俺のを――なんていう厄介な夢で目が覚めるのだ。そしてその日一日、なんとも言えないもやもやを抱えることになる。
そんなこんなで、次にフィールドであったら話しかけてみよう。そう思っていた矢先だった。彼が俺の前の席にやってきたのは。彼はスーツアクターという仕事をしているらしい。なるほど。それで一つ謎が解けた。あの猫科の動物のような軽やかな身のこなしは、スーツアクターだったからか。それにしても女性役……なるほど。確かに彼は着替える時も更衣室を使うので見たことはないが、線が細い。動き的にきっと筋肉自体は付いているのだろうが、肥大しにくいのだろう。あらぬ妄想をしそうになって、頭を振る。……帰ったら彼がやっているというキャラの番組を見てみよう。
***
しばらくして、席に戻ると、宮田さんは装備を整えていた。アンダーウェアのみの上半身は、思ったとおり鍛えられていて、どきどきする。それに、男として普通に憧れる。
「――筋肉、すごいですね。」
思わず声に出してしまった。
「そうかな?まぁ、訓練とかもあるし、こんなもんじゃない?」
「いえ、オレどんだけ筋トレしても全然太くなれなくて……」
「触ってみる?」
「いいんですか?」
「全然構わないよ?」
「じゃあ――失礼します!」
「ふふっ、どうぞ。」
よくわからないけど、触らせてくれるらしい。マジか!鼻血でないように気をつけなきゃ。ペタペタと胸筋に触る。ぷにぷにしたいい筋肉だ。ついでに両手で腕を握ってみる。硬い。俺の両手でやっと囲めるサイズってやばいだろ。すげぇ!そして――鎖骨。僧帽筋と胸筋に挟まれてひっそり主張してくる。それらを存分に堪能して、お礼を言う。
「ありがとうございます。ほんと、すごいですね。」
「……あぁ、うん……」
ん?何か様子が変だけど……って、オレなんかめちゃくちゃ無遠慮に触ったわ!え、やばい。羞恥で顔が赤くなる。気まずい空気のなかその日のゲームが始まった。オレと宮田さんは同じチームだった。
スタートコールを待つ間、ふと思う。そう言えば宮田さんのプレイ中の姿って見たことないな……。今日は注意してみてみようかな……。
***
本当に触ってくるなんて……。しかも、腕、掴んでくるし……もしかして、慣れてるのだろうか?
自分から提案しておいて、実際に触られると動揺してしまった。なんとなく気まずい空気になったし、と、プレイ中に余計なことを考えてしまう。あと……何か今日、やたらと彼と目が合うような……。
フィールドアウトして席に着くと、彼が近寄って来て俺のプレイを褒めてくれる。そう言えば……。
「ありがとう、えっと、そう言えば名乗ってなかったね。宮田大和です。」
「あぁ、そう言えばそうですね。オレ、上野隆二と言います。」
「リュウジくんね。俺のことは大和って呼んで?」
「はい。そういえば、ヤマトさん。」
「うん?」
「ヤマトさんのプレイ、見てたんですけど――」
リュウジくんが、俺の名前を読んで、俺のプレイのここがすごかったけど、どう考えているのか、より上手く立ち回るにはどんなことに注意すればいいか質問してくる。熱心に聴いてくれるので説明するのも楽しい。そうこうしているうちに、次のゲームが始まった。
◇◇◇
――その日のゲームが終わる頃、俺とリュウジくんはだいぶ仲良くなっていた。
片付けをしながら、リュウジくんに声を掛ける。
「もしよければ、一緒に温泉に寄らない?近くに天然温泉があるから……」
しまった!つい普通の仲間とのノリで話してしまった。いや、しかし男同士だし、大丈夫か?だめか?
「温泉……。あ、すみません……オレは……。」
「あ、あぁ、ごめんね?突然誘っちゃって。都合とかもあるよね。いや~……。」
だめだったか……。何となく残念に思いながら、片付けをしていると、リュウジくんが俺の方をチラチラ見ていることに気づいた。片付けは終わっているようだし、もう帰るのだろうか?
「どうかした?」
「えっと……連絡先、交換しませんか?装備の相談とか乗ってもらえたらなとか。あと、温泉は無理なんですけど、ご飯とかなら。あ、いえ、別に、奢ってほしいとかではなく、ですよ?」
あわあわと言いつのるリュウジくんが可愛い。
「連絡先、何がいい?電話?メール?ロインが一番わかりやすいかな?」
「あ、じゃあロインで、」
「はい。」
「ありがとうございます。」
そう言って連絡先を交換すると、リュウジくんは帰っていった。進展、したよな?
***
よっしゃ!連絡先ゲット!とは言え……うぅ、大和さんと温泉、行きたかった……っ!!けど、オレ入れないからな……。
ちょっと、いや、結構落ち込みつつ、それでもただ遠くから見ていた時より、だいぶ近づけたと嬉しくなる。
悩ましい妄想をするヤマトさん
【イラスト:SF様(@SF30844166)】
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