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 シルビナだが、王都についても、実家であるルマルド侯爵家には顔を出してもいなかった。

 王都で男を作って、連れ込み宿ラブホに長期滞在しているとか。知り合いの令嬢に、可愛いホテルにラブホいるので遊びに来いとの手紙が届いていたそうで、ルマルド侯爵家は、王城と各貴族家にシルビナとの絶縁の知らせを出したそうだ。ルマルド侯爵家に戻ることがあっても、放逐されるので、そのうちのたれ死ぬだろう。






 ルマルド侯爵家の5人の姉妹は皆、茶色い髪に、茶色の瞳だ。

 23歳の長女メルーナは、深みのあるダークブラウンの髪と琥珀色の瞳の儚げな美女で、領地にある女子学園での成績は「秀」。実は運動も好きでダンスが得意。侯爵家の長女と言うことで、婿を探すために、両親と共に多くの社交パーティに参加し、侯爵家の優秀な次男で、人気貴族男性ベスト10に入る美男子との結婚を決めた。目の保養になるカップルだと言われている。ちなみに、学園の成績評価は、秀、優、良、可、不可の5段階評価である。メルーナの成績の「秀」は、最優秀レベル判定ということであり、同学年で1~5名程度の人間にしかつかない評価だ。可や不可でも卒業はできるが、頭脳労働への就職や良条件での婚姻は厳しくなる。

 シルビナは、何もかもが優秀な長女メルーナが大嫌いだった。儚げな美女と言われているのを聞くとイライラした。幸いにも14歳で入学する女子学園への通学期間は被らず、直接比較されずに済んだ。姉に敵わないのは、姉より後に生まれたせいなので、シルビナは悪くない。姉を慕っている振りをした方が、周囲の反応が良いことに気がついたので、外では姉を慕う可愛い妹として振る舞った。

 ――今年はメルーナ姉様も結婚よね。豪華な式になるのかしら。私はまだ式を挙げていないのに、狡いったら。ああ、でも結婚式まで挙げちゃうとあの髭面の大男の妻になっちゃいますから、もしかして挙げない方が良いのかしら?姉様の結婚式では、トレンダム辺境伯夫人には主賓席を用意してもらいましょう。辺境から出れない夫は欠席だから、ちょうど良いですわ。ふふ。


 20歳の次女シルビナは、ブラウンの髪とブラウンの瞳の細身だが部分的にふくよかな女性だ。顔の印象が薄くて地味なせいか、胸の印象が強い。本人は、夜会で華やかで自慢の胸を見せつけられる様なドレスが着たいらしいが、実は家族の中で一番の悪趣味なので、完璧に好みなドレスを選ばせてもらえず不満に思っている。

 勉強が大嫌いで、刺繍なども嫌うが、女子学園での成績は「優」。長女と三女が少し疑いの目を向けているが、「不出来な子息子女」の成績の不正自体は貴族の中では当たり前のことでもあったので、騒がず静観している。悪い成績は、どこの貴族家も家の恥となり、子息子女の未来を閉ざす。最下位評価の「不可」でも卒業はできるが、実質落第や退学と同じ扱いだ。貴族家がそんな判定を受け入れることは難しい。

 シルビナは、メルーナの妹の癖にと言われるのが嫌で、勉強ができて命令に従う生徒を探したが見つからなかった。だが、口止めのためには、業者を雇うのが当たり前だそうだ。生徒に頼めば、卒業後に脅される可能性があるなんて知らなかった。その話を聞いた後、運よく、代理で課題をこなしてくれるベテラン業者を紹介してもらえた。

 学園の三分の一の生徒が自分で課題をこなさずに卒業評価を得ているらしい。世の中うまくできている。「秀」だとバレる可能性が高いので、昔から業者は「優」しか受けないそうだ。学園での成績のいい加減さに笑ってしまった。
 代金を親に出してもらう生徒も多いが、シルビナは親に頼むのをやめた。姉妹全員が頼んでいるならともかく、自分だけとなった時に、他の姉妹より不出来という誤解を受けたくないからだ。自分は勉強が面倒なだけで、出来ないわけではないのに。

 お金が必要なので、下の2人の妹、サーリアとティーナのドレスやアクセサリーを売って、代金を払うことにした。二人にはよく言い聞かせておいたので告げ口はしないだろう。もともとシルビアからお下がりとして譲った品も多いので返してもらっただけだ。ドレスが必要な時には、メルーナかアリアに借りれば良いじゃないと教えてあげた。そう伝えたらなぜか嬉しそうだったけど、妹たちは売るものがなくて、業者が雇えないだろうから、自力で課題を提出できるように、沢山の指導をしてあげた。姉の優しさで、刺繍や編み物の課題をさせてあげたのだ。課題に沿った物を期日内に作れるようなったので、自分が入学した時には苦労せずこなせるだろう。可愛い妹への姉からの優しさだ。


 19歳の3女のアリアは、ダークブラウンの髪とハニーブラウンの瞳のメガネ姿が似合う、凛々しい雰囲気のある女性だ。女子学園での成績は「優」。読書を好み、王立図書館で王弟の4男と恋に落ちた。爵位は今のところないが、王太子の側近なので、給料は高いし、特に困ることはないそうだ。出世すれば、領地なしの男爵位ぐらいは叙爵される可能性がある。家に婚約の申し込みが来て、妹たちと喜んでいた。

 19歳の3女のアリアも、シルビナは嫌いだった。自分の1年後に入学してきた可愛くない妹のアリアは、苦労もせずに1年目から「優」の見込みがあると言われていた。長女程美しくもない癖に、王弟の4男と結婚する予定なんて、本当に腹が立った。相手が高位の爵位持ちなら、なんとかして邪魔する方法を探しただろう。

 ――アリアはいつ結婚するのかしら?平民同士として結婚することになりますわね?トレンダム辺境伯夫人が結婚式に参加したら、高貴すぎて浮いてしまうんじゃないかしら?ふふふ。


 16歳4女のサーリアは、ブラウンの髪とヘーゼルの瞳の少し長女に似た顔つきだが、ぽやぽや感が強い。女子学園での成績は「優」の見込みありだ。温厚で、手芸が得意。特に刺繍が上手い。ふんわりのんびりしたおしゃべりに、癒されると人気だ。王城の騎士団の若手有望株から、突然求婚され、話題になった。なかなかの美男子で、公爵家の3男らしい。現在は騎士爵位しかないが、将来は騎士団での出世が期待される。次女の意地悪には困っていたが、趣味の悪いお下がりが手元から消えて、長女や三女の持ち物を借りられることには喜んでいる。

 16歳4女のサーリアも、シルビナは気に食わなかった。少し長女に似ているところに腹が立つのだ。ぽやぽやしてるくせに、成績は「優」になりそうだなんて。公爵家の3男と婚約なんてあり得ないと思った。だけど、課題の刺繍で、シルビナの「優」には貢献したし、相手はまだ騎士爵位なので、平民に嫁ぐようなものだと思えば、少しだけ許せる気がした。

 ――サーリアは、婚約しても、結婚はまだ結婚はできない年齢ですし……公爵家の3男と言っても、騎士爵でしょう?だとすれば、子供は平民。サーリアは平民の子供の母になりますのね。あら?騎士爵は本人の爵位ですから、妻は平民になるのではないかしら。まあ……サーリアが平民……。ふふふ。ふふふ。


 15歳5女ティーナは、明るめのブラウンの髪とヘーゼルの瞳の笑顔の可愛い元気な子。お茶が大好きで茶葉を選ぶのが得意。女子学園での成績は「優」の見込みありだ。剣士に憧れ、剣術を習いに行き、伯爵家の嫡男と仲良くなった。最近家に婚約の申し込みが来て、驚いていた。ティーナも次女の意地悪には困っていたが、趣味の悪いお下がりが手元から消えて、長女や三女の持ち物を借りられることには喜んでいる。

 15歳5女ティーナは、笑顔の可愛い元気な子というが、姉様、姉様、とうるさいだけの子だと、シルビナは思っている。騒がしい馬鹿だと思っていたのに、成績は「優」になりそうというところがむかつく。だけど、課題のお茶の選び方の提案書作りで、シルビナの「優」には貢献したし、婚約の申し込みが格下の伯爵位だから、ギリギリ許せた。酷くは怒らないであげることにした。

 ――ティーナは、将来、伯爵夫人になりますのね。
 アリアもサーリアも平民になるのだし、私が平民の親戚になってあげる必要はないですわ。他人ということにしましょう。お身内は?と聞かれたら、メルーナとティーナだけ、姉妹として扱ってあげれば良いですわ。メルーナとティーナの地位は、トレンダム辺境伯夫人より劣りますけど、貴族ではありますものね。ふふふふ。ふふふふ。


 ルマルド侯爵家には、10歳と6歳の男児ハリーとアルスもいるが、歳の離れた長女が非常に優秀なため、どう育つかわからぬ男児は跡取りにはしなかった。年齢が離れているので、分家に婿にやって孫のサポートをさせても良いし、どこかの婿入りさせても良いと考えられている。

 シルビナとまだ子供な弟たちとは、生活ペースが合わないので、性格や能力は知らない。だけども、爵位なしなので、ちょっと可哀想だと思っていた。シルビナと同じで、長女のメルーナの被害者だからだ。メルーナさえいなければ、弟は、何もせずとも跡取りになれたのにと思うから。

 ――ハリーとアルスは可愛いとは思わないけれど、可哀想ですわ。メルーナ姉様が存在するせいで、不幸になるなんて。まあ、良い子に育てば、トレンダム辺境伯夫人が助けてあげても良くってよ。ふふふふふ。ふふふふふ。



 シルビナにとって、実家、ルマルド侯爵家での生活は窮屈で息がつまった。
 だから、シルビナは、18歳から参加を始めた社交シーズンが大好きだ。大空に飛び出せた様な、自由になれたような気がするから。

 男性とのダンスは好きだけど、ダンス教師は厳しいから嫌い。正直ダンスは得意ではないけど、パートナーとくっついて踊れば問題ないんじゃないかと思う。「ダンスは下手なの」と言いながら、胸同士をピタッとくっつける感じで抱きついて、恥ずかしそうにして甘えると、喜ばれるから。上達しなくて正解だった。

 お茶会は親が参加していない、同世代だけの小規模なのは、堅苦しくなくて良いけど、自慢話をされるのは嫌い。姉や妹の話題を出されるのも嫌い。

 ハンカチの隅に細工をして、小さな釘を隠し持つようになった。豪華なドレスやアクセサリーを身につけた令嬢とすれ違う時にさりげなく、フレアー部分に穴や傷をつけるのが上手になった。
 ルマルド侯爵家は、娘が多いので、結婚の準備にお金がかかるんだって。侯爵家の生まれなのに、好きなだけドレスを作れないなんて、酷いと思う。

 ――皆様、メルーナお姉様の髪や瞳ばかり褒められるけれど、我が家の姉妹はみんな少し似てるらしいのですから、私もきっと、綺麗だと思いますの。
 超絶美人ではないのは知ってます。そこまで勘違いはしておりません。ですが、美しい侯爵令嬢になれないのは、ドレスとかお化粧かと、周囲の協力がないせいです。私だって、私に似合うドレスで着飾れば、美しくなる筈ですの。

 もしも、私が、王族とか、公爵家の娘に生まれていれば。こんなに苦労せずに済みましたのに。

 でも、侯爵家も、高位貴族ですものね。

 私は自分に相応しい、誰からも羨まれる人と結婚し、優雅に、贅沢に、暮らしてみせますわ。

 仕事が忙しい貴族家に嫁ぐと大変?貴族の仕事なんて、学園と同じで、下の人間にやらせれば良いのです。

 はぁ~。疲れましたわ。馬車の中で出来る趣味などないですし、考え事で、暇つぶしをするのには限度がありますわ。

 そういえば、1ヶ月前の移動でも、途中で嫌になってましたわ。
 辺境って、遠すぎなんですもの。
 おかげ、王都に戻るのも大変。
 
 でも、治安が良い国なので、日中に移動する分には危険はあまりないですし、私を監視して告げ口するような侍女などいなくてもなんとかなるのは助かりますわね。あの辺境の子猿は、騎馬で移動したこともあるとか。馬車が使えない身分は大変ですわね。それに比べて、高貴な私はこの可愛い馬車で移動できますし。今は少し狭いですけど、大事なドレスですから、我慢できます。王都までの宿は、貴族向けなら世話をする人間が沢山いて、快適です。見張りの侍女がいる、ど田舎の辺境の屋敷よりずっと。

 私、もう辺境に行かないことにしますわ。ずっと王都の屋敷タウンハウスで生活すれば良いんですもの。
 ああ、そうだ。アリアとサーリアが生活に困ったら、メイドとして雇ってあげましょう!下女なんかにしないわ。元侯爵令嬢を下女にしたら、私が意地悪な姉みたいに思われてしまいますからね。でも、姉だと思って甘えてきたら、困りますわね。平民なのにいつまでも貴族令嬢のままだと思っていてはダメだとわからせてあげないと。仕事をしないメイドは、ちゃんと辺境伯夫人として、厳しく指導しなくては。

 明日には王都に着きますし、忙しくなりますわね。
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