さようしからばこれにてごめん 愚かな貴方達とは、もう会いたくありません!

白雪なこ

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「お前の生まれは僻地で遠いからと、王立学園に入学するまで挨拶を待ってやったというのに!学園入学の年になっても挨拶に来ないとはどう言うことだ!」
「そうよそうよ!」

「………」

「この可愛いアンリタンとの半年前の運命の出会いにしてもだ!お前という顔も見せない婚約者の存在があるせいで、親にも恋人だと紹介できず、我慢させられたのだぞ!」
「そうよそうよ!」

「………」

「おまけにだ!この可愛い可愛いアンリタンから、アンリタンを姉として敬わず無視するお前の極悪非道ぶりを聞いて、私はもう呆れ果てたのだぞ!」
「そうよ、酷いわ!」

「………」

「だが、だがな!そろそろ結婚の準備に入らねばならぬのに、未だに顔見せぬお前と!!偶然にここで会った2週間前から、私は王族の責任、婚約者の責任で、お前という下劣な人間を教育すべく時間が許す限り、会いに来てやっていたのだ!」
「なんて優しい!」

「………」

「愛するアンリタンが、突然婚約破棄なんてしたら妹が可哀そうだから、相思相愛なことをよくわかってもらって、ついでに妹のダメなところを指摘してなおしてあげてと言うからな!即刻婚約破棄すべきだったのにだ!」
「そうなのよ!」

「………」

「だが、この2週間の私の頑張りと気遣いは、無駄に終わった。お前の如何しようも無い腐った根性のせいだ!平民のお前は、私やアンリタンの前に跪き、感謝と謝罪をすべきなのに、お前は返事もしない!態度も悪すぎる!」
「そうよそうよ!」

「………」

 婚約者が挨拶に来ないと言うが、婚約した家と領地が離れている場合、この国では結婚寸前まで婚約者同士会えないのは当たり前だ。

 各領地の境は大抵が険しい山であり、隣の領地との行き来でさえ大変なのに、その先へとなると、若い子女が婚約者に会うために馬車で旅するなど簡単にできるはずもない。

 手紙のやりとりに関しても、緊急性のないものは数週間以上かかるのが普通なので、顔合わせの挨拶も済ませていない男女が頻繁に手紙のやりとりをすることことはあまりない。

 また、国自体が広いため、学園に入学するのは、王族やそれに連なる者、王都近隣に領地がある者、将来王宮勤めを希望する者や、家業のために王都に屋敷を構え、王宮とのやりとりをする必要がある家の貴族の令息令嬢に限られる。

 そして少年は、貴族令嬢の婚約者が平民になったので婚約解消と言っているが、婚約者が貴族令嬢だと思っている期間から、すでに別の女性と付き合っていた宣言をしているのだから、彼のそれは、浮気を正当化するただのクズ男の言い訳でしかない。

(あのクソ坊主、なんなの!毎日毎日あの女の子にウザ絡みしてるけど、片手に娼婦ぶら下げた状態でよく言いやがるわ!学園記念サロン内雑貨店勤務 R女子談)

 この2週間、ほぼ毎日この少年に絡まれている少女はと言えば、無表情、そして無言で目の前の自称婚約者と、自称少女の姉を見つめている。

 最初は反論しようとしたのだが、発言へのツッコミどころが多すぎる上に、大根役者な少年のセリフが多すぎ、発言の機会が回ってこないのだ。

 正論を返したところで、会話が成立する相手ではないことも、早々に理解した少女は、2回目に絡まれた時から、人形の様に黙って接している。煩い声も現在は「騒音解決耳栓」のお陰で、そこまで気にならなくなった。「騒音解決耳栓」の開発者さん、有難う!である。お小遣いで余裕で買える値段にも、感謝だ。まあ、目の前のカップルのウザさは、音が小さくなったぐらいでは消えてくれないが。

 尚、顔も知らぬ筈の人物相手に絡まれている理由は、図書館の利用サービス登録時にフルネームで名前を呼ばれ、運悪く、それを少年に聞かれてしまったからである。

 その時の図書館の受付嬢は、少女と顔を合わせる度に王都で人気のお菓子をくれたりする様になったのだが、美味しいお菓子での癒し度も、連日の少年相手のストレスを上回ることはなく、少女の中での王都滞在の印象は最悪のものとなるであろうことが決まっている。

 辺境に住むらしいこの年齢の少女が「旅」をして、「王都に滞在」となると、同行者が誰であれ、それは非常に珍しい体験となり、年若い少女なら、浮かれ楽しんで当然の筈なのに、連日頭のおかしな人間に絡まれ続け、少女のテンションは下がりつづけている。待ち合わせの相手がなかなか来ないせいでもあるが。
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3点リーダと鉤括弧の最後の、。については、そのうち訂正予定。

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