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後編
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王都学園に通っていた、スチュード伯爵家の3男のアレンが、大罪を犯したらしい。
彼の婚約者だったランバン伯爵家の令嬢への暴力暴言不名誉な悪評に対し、損害賠償を請求されているとか。
ランバン伯爵家の乗っ取りを計画していたらしい。
ランバン伯爵家の令嬢を監禁の上、殺害の計画や、人身売買の計画を立てていたのがバレたとか。
令嬢を亡き者にすると同時に、ランバン次期伯爵夫妻も排除して、自分がランバン伯爵になる予定でいたらしい。
王国の貴族達が最初に聞いたのはそんな話だった。
ランバン伯爵家といえば、次期伯爵が、現宰相補佐である。その奥方は王妃陛下の右腕と言われる側近侍女だ。王国の貴族なら知らぬ者はいない。また、令嬢も有名だ。将来は王女殿下の側近として仕えることが決まっている、才女だ。
現国王一家とは、主従関係を超えた、家族ぐるみの付き合いをしている家族であり、絶大な信頼を置かれる友人であることもよく知られている。
そのランバン次期伯爵一家を、殺害?放逐?
スチュード伯爵家の3男が?
「令嬢の殺害は、護衛がいない場所でなら、容易いだろうが、現国王一家の親友家族だぞ?未成年がどうこうできる相手か?」
「令嬢は生きている様だし、ランバン次期伯爵も無事な様だ。未遂で済んで害はないのだろう?」
「スチュード伯爵家の3男の評判は聞いたことがないな。優秀ではないということか?」
「評判になる程ではないのだろう。相手はランバン次期伯爵一家だ。未遂どころか、未遂の未遂ぐらいかもしれないぞ?紙にこうしようああしようと妄想計画を立てていただけとか」
「そうだな、だが、令嬢への暴言やら暴力があった上でなら、本気だったと判断されるんじゃないか?」
「子供の戯言では済まなかったのだろうが、案外軽い罰になるかもしれないな」
「それでも、そのアレン・スチュードとやらは、貴族として、もう終わりだろう」
「そうだな、スチュード伯爵家も大変だ。賠償金で家が傾くのは確実だ。スチュード伯爵も優秀な上の子息達も災難だな」
最近は大きな事件がなかったこともあり、貴族達が集まる場所では、この話題で持ちきりだった。
ランバン伯爵一家が皆殺しにされたとかならともかく、皆無事である。貴族界から消えるのは、元から認識されていないアレン・スチュードだけであり、知られているスチュード伯爵家が、落ち目になる。貴族達にとっては、それほど衝撃的なニュースではなかった。
そのうち賠償額や刑罰が決まり、それがまた話題になり、しばらくすれば忘れ去られるような。
最初に漏れ出したのは、アレン・スチュードが通っていた王都学園からだった。
王都学園の生徒が、親に、親族に、友人に出した手紙からそれは流れ出した。
1人の生徒が数通出しただけなら、すぐに乾いてしまう、雫のようなものだっただろう。
だけど、その1人の生徒は、自分の知り合い全てに手紙を出した。
もう1人の生徒も手紙を書いた。自分の知り合い全てに送るために。
もう1人も、もう1人も、もう1人も。
1人の生徒は、学内でも、自分が知っていることを話した。同じ学園に通うのだから、他の生徒も勿論知っている話題だ。アレン・スチュードは、勉学には励まなかったが、悪評のばら撒きに非常に熱心だった。押し付けられるように、耳に入ってきた話は多い。だけど、知らない話もあった。もっと他にもあるかもしれない。生徒達は自分が知っていること、聞いたことをどうにか思い出して話そうとした。
世間ではそのうち忘れ去られるだろう話題だとしても、学園に通う者達にとって、アレン・スチュードは身近な存在だ。事件の当事者に近いこともあって、この話題は沸きに沸いた。
彼ら学園に通う者達にとって、それは長く、「今、話題の話」であり続けた。
多くの生徒が、家族や友人への手紙にその話題について書くのが自然な程に。
王都学園の生徒である、アリアン・ランバンの学友達が、事件が公になる前に送っていた彼女への手紙には書かれていない、アレン・スチュードの言動が、その手紙には散りばめられていた。
・婚約者や婚約者の家に対する暴言、暴力、悪評のばら撒き。
・婚約者を害し、ランバン家に入り込む計画。
・婚姻後、婿入りした先で、妻のアリアンを地下室に監禁の上殺害という計画。
・婚姻後、妻のアリアンを人買いに売る計画。
・婚姻後、妻の両親を害する計画。
大人達の話題に上っていたアレン・スチュードの罪状が、シンプルに箇条書きされたものだとすれば、学園の生徒からもたらされた手紙には、アレンが実際にはどんなことを話したのか、前後の話を含め、より詳しく正確に書き記されていた。それは、受け取った者達の興味を引いた。
学園での普段の悪辣な言動も詳しく書かれており、「まだ子供だからと思っていたが、アレン・スチュードは最低な奴だった、捕まってよかった」と、手紙を受け取った者達は、家族や知り合いに話した。
学園から漏れ出した水は、雫どころか、小川になり、大河になり、海になる勢いで、王国を覆っていった。
アレン・スチュードは、便利屋や貧民街の人間に、人買いをしてくれる業者を知らないか聞いてまわっていた。その時、聞かれた人間が、「自分は人買いなど知らないのに、おかしな少年が、話しかけてきた」と、その当時のことを事細かに話し出す。犯罪者に話しかけられただけの、善良な人間として。
「売り物」が魅力的でないと、話に乗ってもらえぬと、アレン・スチュードは考えていた様だ。
「成人したばかりの若くてそこそこ見た目の良い女だぞ。貴族の親戚だが本人は平民なので売り買いしても大丈夫だ。頭の悪い女だから、扱うのには苦労しないぞ」
「2人いた方が良いなら、おばさんも用意できる。ギリギリ30代だ、見た目はそこまで悪くないと思うから、年増でも売り物になるんじゃないか?母娘セットの需要は?」
「流石に日中はまずいが、屋敷に引き取りに来てくれたら、渡せる。簡単だから良いだろう?母も娘も、どんな扱いにしても良いが、出来れば高く売りたい。娼館に売れるんじゃないか?ボロボロになるまで使って、最後は嗜虐趣味のヤバい男に売ればまた儲かるだろう?」
「貴族の屋敷に住んでるが、俺が中に入れてやるから問題ないんだ。なんなら、邪魔する侍女やメイドも持って行っていい。金は払ってもらうが。若いのがそこそこいる。娼館に売れるぞ」
「屋敷にあるあの女たちの服や宝石も売りたいな。邪魔だし。そうだ!代々の家宝みたいなものも俺は興味ないから売るか!」
「どうせなら、屋敷に賊の振りして来てもらうのも良いな。女も金目のものも一度で片付くし。ああ、俺が使うものはダメだぞ。俺が許可したものだけだ」
「男も何人かいるから邪魔になるかもしれないな。娘の父親だけじゃなく、働いてる奴らもいらねぇ。俺の代では邪魔だから、始末しちまおう!切り殺したら、屋敷が汚れるからダメだ。紐で縛って毒殺が良いんじゃないか?ああ、若い男は奴隷として売れるか?売れるなら売りたいな」
「毒も用意しておいた方が良いかな。どこで買えるか知らないか?井戸は俺が使うからダメだ。水差しとかに入れるだけでイチコロなやつが良い」
「領地とかいるかな?俺の家もいらないから売ったのだし、全部売っちまうのも良いな。領地は田舎だろうから、忍び込んでもバレないんじゃないか?ジジイとババアなんて、脅したらびっくりして死ぬだろ?後継の俺がいるんだから、安心して逝けるってもんだろ」
「10人では無理か。金目のものと売る人間を運ばないとならないから、20人ぐらい用意してくれれば、1日か2日で全部片付くぞ!あ、前金とかないから、代金は現物支給な。残りは金に変えて、俺によこせよ」
「えー、お前、人買いじゃねぇの?悪そうな顔してるのに。ちぇっ」
「お前だ、お前!俺が探していたのはお前!おい、良い話があるんだ!」
「見つけた!ああ、やっと見つけた。お客様に探させるとはいい度胸だ。まあいいや。来週なんだが、ちょっと王都にある屋敷を襲って欲しいんだが!え?お前盗賊だろ?人相悪いし、すぐにわかったぞ!」
「ふふふふ、こんなところに隠れていやがったか。狭いし、汚ったねえ店だな。まあ、イメージ通りだが。お前とこでさ、女を10人ばかり買ってくれよ。まとめて用意できるんだ!」
「おい、この娼館は、女を買うんだろ?いや、俺が買うんじゃねぇよ。この店にいる女は売られて来たんだろ?もっと人数多い方がいいだろ?若いのも年増もいるけど、まあそこそこ見れる女たちだ。まとめて買ってくれ!お、おい、どうして追い出すんだ!」
薄汚れた男が吐き出した排泄物より汚れた欲望は、濁流となって、王国の民の心に押し寄せた。
気持ちが悪い。怖い。恐ろしい。
人ではない、悪魔だ。
まだ子供だから?それがどうした!
アレン・スチュードを、この世界で生かしておくなど、危険すぎる。
平民も貴族も、アレン・スチュードの極刑を望んだ。
国王の命令で、新たに判明したアレン・スチュードの罪が訴状に書き込まれていく。
アリアン・ランバンの提出した告訴状にもそれは付け加えられ、スチュード伯爵家に請求される賠償金は、およそこの家で用意できる額ではなくなった。
この時点で、スチュード伯爵家は既に事業などできる状態ではなかった。国中にばら撒かれ、染み込んだアレン・スチュードの罪状は、未遂だとか未成年だとかの言い訳もできぬ程、残酷で悍ましい内容だったからだ。
当然スチュード伯爵家の事業を買ってくれるものなど出るはずもない。現金も多少は用意できたが、莫大な請求額に足りるはずがない。伯爵家の全てを差し出しても足りないが、幸いにもランバン伯爵家が丸ごと受け取った後に、売って金に換えてくれることになった。
スチュード伯爵家の人間は、まだ足りない賠償金を払おうとしたが、アリアン・ランバンがそれを止めた。
幾許かの現金と最低限の身の回りの品を持ち、他国へ行ってやり直してほしい。
ランバン伯爵家の説得で、王家もそれを認めた為、アレン・スチュードの死刑を見守った後、彼らは旅立っていった。
スチュード伯爵家の三男アレンは、小さな頃から悪辣な思考をしていた訳ではない。幼い頃は平民なら無邪気でわんぱくな子供と称されただろう、貴族としては家庭教師泣かせな勉強のできない少年であった。親も家庭教師も、頭はあまりよろしくないかもしれないが、大きくなって本人に目標となるやりたいことが出来れば、なんとか自立して生きていくことぐらいはできると考えていた。
成長するにつれ、家業に興味を示さずとも、「俺は騎士様になるのだ!」と学園に入るのを楽しみにしている様子で、今後は勉学と騎士の鍛錬にも頑張ってくれると信じていた。
それが何故こんなことになったのか。愚かなことをしたバカ息子と、当初は情けなさと申し訳なさでいっぱいであった伯爵夫妻は、国の調査が進むにつれ、明らかになる、息子アレンが化け物に変わっていく様を聞いて愕然とした。
アレンの将来を考え、騎士を目指すにしても、男爵家や子爵家に婿入りできるのならさせてやりたい。多少の援助と引き換えでもと考え、婿入り先を探し始めたら、思わぬ良家から声がかかり、トントン拍子で婚約が決まった。
それに安心していたのが悪かったのか。家を継げぬ三男が、幸運にも伯爵家の婿になれるのだ。きっと学園では、やる気に満ち溢れた生活をしているだろうと、学園の寮に入ってから、実家に顔をみせに来なくとも、それは学園生活が充実している証拠だと思っていた。
婿入り先から苦情なども来ないので、交流のお茶会では、粗相などもせずに済んでいるのだろうと。それが、まさか。本当にまさかなことになってしまった。
甘ったれなで愚かなアレンは、自分が伯爵家の「当主」になる様に懇願される優秀な人間だと勘違いしていたらしい。婚約者の令嬢が、現伯爵の子女ではなく、孫だから平民だとか、学園に通っていないことを、入学できないバカなのだと判断し、見下していたそうだ。 賢い長兄と同じ次期伯爵になる、立派で優秀な自分には釣り合わぬ女だと。
アレンには、次男三男は爵位が継げないと告げていた。お前の妻子も平民になるのだと。だから、嫡男のくせに爵位を「継がせてもらえない出来損ない」と勝手に思い込んだアリアン嬢の父親が、元々の自分と同じ立場になったと考え、父親は将来平民となり、妻子は既に平民だと思い込んだようだ。対して、自分はアリアン嬢の父親が継がせてもらえないランバン伯爵爵位を「どうか継いでください」と頼まれた立場だと。
そして、高くなるばかりな自己評価と異なる、学内での低い評価への苛立ちと反発から、婚約者を悪様に言い出した。
「自己顕示欲・自意識過剰・自己陶酔」や「自分が特別な存在」という思い込みは、思春期特有のものであるが、アレンの少し遅れてやってきたその思春期は、様々な要因が重なり、最悪な方向への暴走状態になったのだろうと言われている。
同世代の少年達の目にうつる、悪口雑言の限りを尽くすアレンのその姿は、愚かで、自信に溢れていたという。
その時点で、学内で振り撒く悪評が外に漏れなかったのは、アレンのせいで、婚約者の令嬢の精神状態がおかしくなっていたのが原因だそうだ。
それでもそこで学園から処分でもあれば気づけただろうが、生憎学園ではアレンを既に見限っていた。成績と態度があまりに悪く、2年終了時に騎士科を退学処分にすると決めていたのだ。1年時の退学は学外で喧嘩騒ぎでも起こさぬ限り、将来のことを考えた保護者が納得しないので、落第退学は2年生を終えてからと決められていた。この学園の無責任な対応も問題とされ、改革することが決まったそうだが、既に起きてしまったことはもうどうにもできない。
親や教師は、彼らの前では、ただの落ちこぼれでしかないアレンの変貌に気づけなかったのだ。アレンの言動はどんどんエスカレートし、婚約者家族など自分はいつでも好きに処分できると吹聴する様になり、最後にはそれを実現しようと動き、罪人となった。
どうして、自分達は、アレンの変化に気づけなかったのか。どうして、馬鹿で愚かなアレンには、爵位のない婿という立場であっても、とても役目を果たすことなどできないと考えなかったのか。
自分達も、アレンと同じく、伯爵家から選ばれたことで、「アレンは、将来を期待された、誇らしい存在」だと勘違いしてしまっていたのかもしれない。
かつては小さかったあの手をどうしてしっかり掴んでおかなかったのか。手など離していても大丈夫なのだと何故思えたのか……
どれだけ悔いても、時は戻らない。誰かの命を奪う前に、ことが公になったことだけが救いだ。
自分達の罪の重さに打ちひしがれ、それでも、なんとか償いをせねばと、一族が滅びようが賠償金だけは支払いきりたかったが、アレンの罪の大きさが明らかになるにつれ、償いきれないそれに、更に絶望することになった。
集団自殺のような真似をされても困る、幼い孫を真っ当に育てる義務があると、元婚約者の令嬢に説得されて、罪としては軽いと思ってしまう、国外追放という処分を受け入れることにしたが、悔恨の念に堪えない。
それでも、受け入れた国外追放の日は、すぐに訪れた。爵位を返還したスチュード元伯爵夫妻とその一族は、元婚約者の令嬢とその家族の慈悲の心に背中を押される様にして、旅立つことになった。
生きる気力を失った家族が生き延びられるかどうかはわからない。
だけど、アリアンとその両親は、どうにか生きてほしいと願い、王都の外れまで見送った。
彼らの荷物はこれから長旅に出るとは思えない程少ない。国外追放という形をとったので、国境までは荷馬車で移動できる。それが救いだが、辿り着くまでに儚くなる命は減らしたい。
元伯爵夫妻には、薬と清潔な布を。
長男と次男には、お金と長持ちする干し肉の入った袋を。
それぞれの妻には、ずっしり重く大きなパンを。
長男の子供は、母親に背負われているが、3歳だというその男の子に、栄養のある菓子を詰めた袋を渡す。
他の親族にも、毛布や裁縫道具、マントなどを配った。
仲の良い一族だから、なんとか助けあってくれるだろう。国外なら、頼れる知り合いもいるかもしれない。
最後に、3歳児の小さな頭を優しく撫でれば、嬉しげな笑顔を見せてくれた。
状況がわかってないからこそ浮かぶものだが、幸せそうな笑顔だった。
それを見て、スチュード一族の人たちも僅かにだが、笑みを浮かべた。ランバン伯爵家の三名も少しだけ笑った。
「最後まで、ご迷惑をおかけしました。ご温情に深く感謝申し上げます。遠くから、ランバン伯爵家の皆様の幸せを願っております」
アリアンとその両親は、王都から遠ざかる馬車を見つめていた。
もう少ししたら見えなくなる。
そんな時に、馬車の一番後ろに座っていた、小さな手がフリフリと動いた。
それにアリアンは、大きく手を振りかえした。
濁った水を綺麗にできるように。
ブンブン、くるくる。ブンブン、くるくる。
清流になるにはまだ時間がかかるだろう。だけど、少しだけ、ほんの少しだけ、濁りが薄くなった気がした。
お父様、お母様、家に帰りましょう。
あのね?帰ったら、新作の桃のタルトが待っているの。
昨日、料理長に頼んだのよ。
なんとなんと。20センチもあるの。
大丈夫、心配ないわ!3ホールあるから!
美味しかったら、陛下や殿下たちのお土産にしましょう。
本当に、お人よしね~。
でも、まあ、そこが私の親友らしいところね。
どう?
みんな、次期女王を舐めるとどうなるかわかったでしょう?
よく覚えておいてね。
情報という名の水が、天上から溢れ落ちてきて、
王国という海へと奔流し、永遠に堰堤の中には戻らない様を。
私、親友のことで、物凄く怒っていたの。
本当に怒っていたのよ。
あ、タルトは、私だけ特別に25センチにしておいてね?
親友でしょ?
いいじゃない、たまには私だけ、特別大きくても。
私、今、甘いものが食べたい気分なの。
たくさん、食べたい気分なのよ?
え?
私は、乳姉妹よ!幼馴染だし!
ダメなの?
みんな一緒に、同じ20センチ?
5センチサービスは許せる範囲ではない?
あの? 私、王女で、次期女王なのですけど。
タルトの恨みを舐めてはいけない?
ボスを舐めるな??
怖っ!
なんだかわからないけど、怖っ!
あ、あのぉ、ボ、ボス様?
王家に届いた、幼少期の慰謝料……金より高い隣国のフルーツを使ったタルトを月3で食べたいって……この手紙はなんでございましょう?
もう一通?ああ、届いてますね。
ご、ご両親の給料から天引きして、フルーツのダイヤと言われてるらしい名前もわからないのを取り寄せてほしい?え?そんな無茶な。
アリちゃん悲しい?
ぐっ!そう言われますと……国王陛下と王妃陛下に伝えておきます。
ボス様、怖っ!
fin
***
あとがき
スッキリしていただけましたでしょうか。桃も良いけど、いちごのタルトもいいね!
アレンが泣き叫ぶシーンが足りないと言うご意見もありますが、ナレ死ということでご納得いただけると幸いです。
王女殿下とアリアンの最後の会話で、ボスという言葉に九条律子のルビが振られていますが、アリアンはルビつきで発言し、王女は、ルビなしで受け取っています。ボスの意味は日本語なのでわかっていません。アリアンが、私とか、ニックネームみたいな感じで、ボスと言ってると思っています。
彼の婚約者だったランバン伯爵家の令嬢への暴力暴言不名誉な悪評に対し、損害賠償を請求されているとか。
ランバン伯爵家の乗っ取りを計画していたらしい。
ランバン伯爵家の令嬢を監禁の上、殺害の計画や、人身売買の計画を立てていたのがバレたとか。
令嬢を亡き者にすると同時に、ランバン次期伯爵夫妻も排除して、自分がランバン伯爵になる予定でいたらしい。
王国の貴族達が最初に聞いたのはそんな話だった。
ランバン伯爵家といえば、次期伯爵が、現宰相補佐である。その奥方は王妃陛下の右腕と言われる側近侍女だ。王国の貴族なら知らぬ者はいない。また、令嬢も有名だ。将来は王女殿下の側近として仕えることが決まっている、才女だ。
現国王一家とは、主従関係を超えた、家族ぐるみの付き合いをしている家族であり、絶大な信頼を置かれる友人であることもよく知られている。
そのランバン次期伯爵一家を、殺害?放逐?
スチュード伯爵家の3男が?
「令嬢の殺害は、護衛がいない場所でなら、容易いだろうが、現国王一家の親友家族だぞ?未成年がどうこうできる相手か?」
「令嬢は生きている様だし、ランバン次期伯爵も無事な様だ。未遂で済んで害はないのだろう?」
「スチュード伯爵家の3男の評判は聞いたことがないな。優秀ではないということか?」
「評判になる程ではないのだろう。相手はランバン次期伯爵一家だ。未遂どころか、未遂の未遂ぐらいかもしれないぞ?紙にこうしようああしようと妄想計画を立てていただけとか」
「そうだな、だが、令嬢への暴言やら暴力があった上でなら、本気だったと判断されるんじゃないか?」
「子供の戯言では済まなかったのだろうが、案外軽い罰になるかもしれないな」
「それでも、そのアレン・スチュードとやらは、貴族として、もう終わりだろう」
「そうだな、スチュード伯爵家も大変だ。賠償金で家が傾くのは確実だ。スチュード伯爵も優秀な上の子息達も災難だな」
最近は大きな事件がなかったこともあり、貴族達が集まる場所では、この話題で持ちきりだった。
ランバン伯爵一家が皆殺しにされたとかならともかく、皆無事である。貴族界から消えるのは、元から認識されていないアレン・スチュードだけであり、知られているスチュード伯爵家が、落ち目になる。貴族達にとっては、それほど衝撃的なニュースではなかった。
そのうち賠償額や刑罰が決まり、それがまた話題になり、しばらくすれば忘れ去られるような。
最初に漏れ出したのは、アレン・スチュードが通っていた王都学園からだった。
王都学園の生徒が、親に、親族に、友人に出した手紙からそれは流れ出した。
1人の生徒が数通出しただけなら、すぐに乾いてしまう、雫のようなものだっただろう。
だけど、その1人の生徒は、自分の知り合い全てに手紙を出した。
もう1人の生徒も手紙を書いた。自分の知り合い全てに送るために。
もう1人も、もう1人も、もう1人も。
1人の生徒は、学内でも、自分が知っていることを話した。同じ学園に通うのだから、他の生徒も勿論知っている話題だ。アレン・スチュードは、勉学には励まなかったが、悪評のばら撒きに非常に熱心だった。押し付けられるように、耳に入ってきた話は多い。だけど、知らない話もあった。もっと他にもあるかもしれない。生徒達は自分が知っていること、聞いたことをどうにか思い出して話そうとした。
世間ではそのうち忘れ去られるだろう話題だとしても、学園に通う者達にとって、アレン・スチュードは身近な存在だ。事件の当事者に近いこともあって、この話題は沸きに沸いた。
彼ら学園に通う者達にとって、それは長く、「今、話題の話」であり続けた。
多くの生徒が、家族や友人への手紙にその話題について書くのが自然な程に。
王都学園の生徒である、アリアン・ランバンの学友達が、事件が公になる前に送っていた彼女への手紙には書かれていない、アレン・スチュードの言動が、その手紙には散りばめられていた。
・婚約者や婚約者の家に対する暴言、暴力、悪評のばら撒き。
・婚約者を害し、ランバン家に入り込む計画。
・婚姻後、婿入りした先で、妻のアリアンを地下室に監禁の上殺害という計画。
・婚姻後、妻のアリアンを人買いに売る計画。
・婚姻後、妻の両親を害する計画。
大人達の話題に上っていたアレン・スチュードの罪状が、シンプルに箇条書きされたものだとすれば、学園の生徒からもたらされた手紙には、アレンが実際にはどんなことを話したのか、前後の話を含め、より詳しく正確に書き記されていた。それは、受け取った者達の興味を引いた。
学園での普段の悪辣な言動も詳しく書かれており、「まだ子供だからと思っていたが、アレン・スチュードは最低な奴だった、捕まってよかった」と、手紙を受け取った者達は、家族や知り合いに話した。
学園から漏れ出した水は、雫どころか、小川になり、大河になり、海になる勢いで、王国を覆っていった。
アレン・スチュードは、便利屋や貧民街の人間に、人買いをしてくれる業者を知らないか聞いてまわっていた。その時、聞かれた人間が、「自分は人買いなど知らないのに、おかしな少年が、話しかけてきた」と、その当時のことを事細かに話し出す。犯罪者に話しかけられただけの、善良な人間として。
「売り物」が魅力的でないと、話に乗ってもらえぬと、アレン・スチュードは考えていた様だ。
「成人したばかりの若くてそこそこ見た目の良い女だぞ。貴族の親戚だが本人は平民なので売り買いしても大丈夫だ。頭の悪い女だから、扱うのには苦労しないぞ」
「2人いた方が良いなら、おばさんも用意できる。ギリギリ30代だ、見た目はそこまで悪くないと思うから、年増でも売り物になるんじゃないか?母娘セットの需要は?」
「流石に日中はまずいが、屋敷に引き取りに来てくれたら、渡せる。簡単だから良いだろう?母も娘も、どんな扱いにしても良いが、出来れば高く売りたい。娼館に売れるんじゃないか?ボロボロになるまで使って、最後は嗜虐趣味のヤバい男に売ればまた儲かるだろう?」
「貴族の屋敷に住んでるが、俺が中に入れてやるから問題ないんだ。なんなら、邪魔する侍女やメイドも持って行っていい。金は払ってもらうが。若いのがそこそこいる。娼館に売れるぞ」
「屋敷にあるあの女たちの服や宝石も売りたいな。邪魔だし。そうだ!代々の家宝みたいなものも俺は興味ないから売るか!」
「どうせなら、屋敷に賊の振りして来てもらうのも良いな。女も金目のものも一度で片付くし。ああ、俺が使うものはダメだぞ。俺が許可したものだけだ」
「男も何人かいるから邪魔になるかもしれないな。娘の父親だけじゃなく、働いてる奴らもいらねぇ。俺の代では邪魔だから、始末しちまおう!切り殺したら、屋敷が汚れるからダメだ。紐で縛って毒殺が良いんじゃないか?ああ、若い男は奴隷として売れるか?売れるなら売りたいな」
「毒も用意しておいた方が良いかな。どこで買えるか知らないか?井戸は俺が使うからダメだ。水差しとかに入れるだけでイチコロなやつが良い」
「領地とかいるかな?俺の家もいらないから売ったのだし、全部売っちまうのも良いな。領地は田舎だろうから、忍び込んでもバレないんじゃないか?ジジイとババアなんて、脅したらびっくりして死ぬだろ?後継の俺がいるんだから、安心して逝けるってもんだろ」
「10人では無理か。金目のものと売る人間を運ばないとならないから、20人ぐらい用意してくれれば、1日か2日で全部片付くぞ!あ、前金とかないから、代金は現物支給な。残りは金に変えて、俺によこせよ」
「えー、お前、人買いじゃねぇの?悪そうな顔してるのに。ちぇっ」
「お前だ、お前!俺が探していたのはお前!おい、良い話があるんだ!」
「見つけた!ああ、やっと見つけた。お客様に探させるとはいい度胸だ。まあいいや。来週なんだが、ちょっと王都にある屋敷を襲って欲しいんだが!え?お前盗賊だろ?人相悪いし、すぐにわかったぞ!」
「ふふふふ、こんなところに隠れていやがったか。狭いし、汚ったねえ店だな。まあ、イメージ通りだが。お前とこでさ、女を10人ばかり買ってくれよ。まとめて用意できるんだ!」
「おい、この娼館は、女を買うんだろ?いや、俺が買うんじゃねぇよ。この店にいる女は売られて来たんだろ?もっと人数多い方がいいだろ?若いのも年増もいるけど、まあそこそこ見れる女たちだ。まとめて買ってくれ!お、おい、どうして追い出すんだ!」
薄汚れた男が吐き出した排泄物より汚れた欲望は、濁流となって、王国の民の心に押し寄せた。
気持ちが悪い。怖い。恐ろしい。
人ではない、悪魔だ。
まだ子供だから?それがどうした!
アレン・スチュードを、この世界で生かしておくなど、危険すぎる。
平民も貴族も、アレン・スチュードの極刑を望んだ。
国王の命令で、新たに判明したアレン・スチュードの罪が訴状に書き込まれていく。
アリアン・ランバンの提出した告訴状にもそれは付け加えられ、スチュード伯爵家に請求される賠償金は、およそこの家で用意できる額ではなくなった。
この時点で、スチュード伯爵家は既に事業などできる状態ではなかった。国中にばら撒かれ、染み込んだアレン・スチュードの罪状は、未遂だとか未成年だとかの言い訳もできぬ程、残酷で悍ましい内容だったからだ。
当然スチュード伯爵家の事業を買ってくれるものなど出るはずもない。現金も多少は用意できたが、莫大な請求額に足りるはずがない。伯爵家の全てを差し出しても足りないが、幸いにもランバン伯爵家が丸ごと受け取った後に、売って金に換えてくれることになった。
スチュード伯爵家の人間は、まだ足りない賠償金を払おうとしたが、アリアン・ランバンがそれを止めた。
幾許かの現金と最低限の身の回りの品を持ち、他国へ行ってやり直してほしい。
ランバン伯爵家の説得で、王家もそれを認めた為、アレン・スチュードの死刑を見守った後、彼らは旅立っていった。
スチュード伯爵家の三男アレンは、小さな頃から悪辣な思考をしていた訳ではない。幼い頃は平民なら無邪気でわんぱくな子供と称されただろう、貴族としては家庭教師泣かせな勉強のできない少年であった。親も家庭教師も、頭はあまりよろしくないかもしれないが、大きくなって本人に目標となるやりたいことが出来れば、なんとか自立して生きていくことぐらいはできると考えていた。
成長するにつれ、家業に興味を示さずとも、「俺は騎士様になるのだ!」と学園に入るのを楽しみにしている様子で、今後は勉学と騎士の鍛錬にも頑張ってくれると信じていた。
それが何故こんなことになったのか。愚かなことをしたバカ息子と、当初は情けなさと申し訳なさでいっぱいであった伯爵夫妻は、国の調査が進むにつれ、明らかになる、息子アレンが化け物に変わっていく様を聞いて愕然とした。
アレンの将来を考え、騎士を目指すにしても、男爵家や子爵家に婿入りできるのならさせてやりたい。多少の援助と引き換えでもと考え、婿入り先を探し始めたら、思わぬ良家から声がかかり、トントン拍子で婚約が決まった。
それに安心していたのが悪かったのか。家を継げぬ三男が、幸運にも伯爵家の婿になれるのだ。きっと学園では、やる気に満ち溢れた生活をしているだろうと、学園の寮に入ってから、実家に顔をみせに来なくとも、それは学園生活が充実している証拠だと思っていた。
婿入り先から苦情なども来ないので、交流のお茶会では、粗相などもせずに済んでいるのだろうと。それが、まさか。本当にまさかなことになってしまった。
甘ったれなで愚かなアレンは、自分が伯爵家の「当主」になる様に懇願される優秀な人間だと勘違いしていたらしい。婚約者の令嬢が、現伯爵の子女ではなく、孫だから平民だとか、学園に通っていないことを、入学できないバカなのだと判断し、見下していたそうだ。 賢い長兄と同じ次期伯爵になる、立派で優秀な自分には釣り合わぬ女だと。
アレンには、次男三男は爵位が継げないと告げていた。お前の妻子も平民になるのだと。だから、嫡男のくせに爵位を「継がせてもらえない出来損ない」と勝手に思い込んだアリアン嬢の父親が、元々の自分と同じ立場になったと考え、父親は将来平民となり、妻子は既に平民だと思い込んだようだ。対して、自分はアリアン嬢の父親が継がせてもらえないランバン伯爵爵位を「どうか継いでください」と頼まれた立場だと。
そして、高くなるばかりな自己評価と異なる、学内での低い評価への苛立ちと反発から、婚約者を悪様に言い出した。
「自己顕示欲・自意識過剰・自己陶酔」や「自分が特別な存在」という思い込みは、思春期特有のものであるが、アレンの少し遅れてやってきたその思春期は、様々な要因が重なり、最悪な方向への暴走状態になったのだろうと言われている。
同世代の少年達の目にうつる、悪口雑言の限りを尽くすアレンのその姿は、愚かで、自信に溢れていたという。
その時点で、学内で振り撒く悪評が外に漏れなかったのは、アレンのせいで、婚約者の令嬢の精神状態がおかしくなっていたのが原因だそうだ。
それでもそこで学園から処分でもあれば気づけただろうが、生憎学園ではアレンを既に見限っていた。成績と態度があまりに悪く、2年終了時に騎士科を退学処分にすると決めていたのだ。1年時の退学は学外で喧嘩騒ぎでも起こさぬ限り、将来のことを考えた保護者が納得しないので、落第退学は2年生を終えてからと決められていた。この学園の無責任な対応も問題とされ、改革することが決まったそうだが、既に起きてしまったことはもうどうにもできない。
親や教師は、彼らの前では、ただの落ちこぼれでしかないアレンの変貌に気づけなかったのだ。アレンの言動はどんどんエスカレートし、婚約者家族など自分はいつでも好きに処分できると吹聴する様になり、最後にはそれを実現しようと動き、罪人となった。
どうして、自分達は、アレンの変化に気づけなかったのか。どうして、馬鹿で愚かなアレンには、爵位のない婿という立場であっても、とても役目を果たすことなどできないと考えなかったのか。
自分達も、アレンと同じく、伯爵家から選ばれたことで、「アレンは、将来を期待された、誇らしい存在」だと勘違いしてしまっていたのかもしれない。
かつては小さかったあの手をどうしてしっかり掴んでおかなかったのか。手など離していても大丈夫なのだと何故思えたのか……
どれだけ悔いても、時は戻らない。誰かの命を奪う前に、ことが公になったことだけが救いだ。
自分達の罪の重さに打ちひしがれ、それでも、なんとか償いをせねばと、一族が滅びようが賠償金だけは支払いきりたかったが、アレンの罪の大きさが明らかになるにつれ、償いきれないそれに、更に絶望することになった。
集団自殺のような真似をされても困る、幼い孫を真っ当に育てる義務があると、元婚約者の令嬢に説得されて、罪としては軽いと思ってしまう、国外追放という処分を受け入れることにしたが、悔恨の念に堪えない。
それでも、受け入れた国外追放の日は、すぐに訪れた。爵位を返還したスチュード元伯爵夫妻とその一族は、元婚約者の令嬢とその家族の慈悲の心に背中を押される様にして、旅立つことになった。
生きる気力を失った家族が生き延びられるかどうかはわからない。
だけど、アリアンとその両親は、どうにか生きてほしいと願い、王都の外れまで見送った。
彼らの荷物はこれから長旅に出るとは思えない程少ない。国外追放という形をとったので、国境までは荷馬車で移動できる。それが救いだが、辿り着くまでに儚くなる命は減らしたい。
元伯爵夫妻には、薬と清潔な布を。
長男と次男には、お金と長持ちする干し肉の入った袋を。
それぞれの妻には、ずっしり重く大きなパンを。
長男の子供は、母親に背負われているが、3歳だというその男の子に、栄養のある菓子を詰めた袋を渡す。
他の親族にも、毛布や裁縫道具、マントなどを配った。
仲の良い一族だから、なんとか助けあってくれるだろう。国外なら、頼れる知り合いもいるかもしれない。
最後に、3歳児の小さな頭を優しく撫でれば、嬉しげな笑顔を見せてくれた。
状況がわかってないからこそ浮かぶものだが、幸せそうな笑顔だった。
それを見て、スチュード一族の人たちも僅かにだが、笑みを浮かべた。ランバン伯爵家の三名も少しだけ笑った。
「最後まで、ご迷惑をおかけしました。ご温情に深く感謝申し上げます。遠くから、ランバン伯爵家の皆様の幸せを願っております」
アリアンとその両親は、王都から遠ざかる馬車を見つめていた。
もう少ししたら見えなくなる。
そんな時に、馬車の一番後ろに座っていた、小さな手がフリフリと動いた。
それにアリアンは、大きく手を振りかえした。
濁った水を綺麗にできるように。
ブンブン、くるくる。ブンブン、くるくる。
清流になるにはまだ時間がかかるだろう。だけど、少しだけ、ほんの少しだけ、濁りが薄くなった気がした。
お父様、お母様、家に帰りましょう。
あのね?帰ったら、新作の桃のタルトが待っているの。
昨日、料理長に頼んだのよ。
なんとなんと。20センチもあるの。
大丈夫、心配ないわ!3ホールあるから!
美味しかったら、陛下や殿下たちのお土産にしましょう。
本当に、お人よしね~。
でも、まあ、そこが私の親友らしいところね。
どう?
みんな、次期女王を舐めるとどうなるかわかったでしょう?
よく覚えておいてね。
情報という名の水が、天上から溢れ落ちてきて、
王国という海へと奔流し、永遠に堰堤の中には戻らない様を。
私、親友のことで、物凄く怒っていたの。
本当に怒っていたのよ。
あ、タルトは、私だけ特別に25センチにしておいてね?
親友でしょ?
いいじゃない、たまには私だけ、特別大きくても。
私、今、甘いものが食べたい気分なの。
たくさん、食べたい気分なのよ?
え?
私は、乳姉妹よ!幼馴染だし!
ダメなの?
みんな一緒に、同じ20センチ?
5センチサービスは許せる範囲ではない?
あの? 私、王女で、次期女王なのですけど。
タルトの恨みを舐めてはいけない?
ボスを舐めるな??
怖っ!
なんだかわからないけど、怖っ!
あ、あのぉ、ボ、ボス様?
王家に届いた、幼少期の慰謝料……金より高い隣国のフルーツを使ったタルトを月3で食べたいって……この手紙はなんでございましょう?
もう一通?ああ、届いてますね。
ご、ご両親の給料から天引きして、フルーツのダイヤと言われてるらしい名前もわからないのを取り寄せてほしい?え?そんな無茶な。
アリちゃん悲しい?
ぐっ!そう言われますと……国王陛下と王妃陛下に伝えておきます。
ボス様、怖っ!
fin
***
あとがき
スッキリしていただけましたでしょうか。桃も良いけど、いちごのタルトもいいね!
アレンが泣き叫ぶシーンが足りないと言うご意見もありますが、ナレ死ということでご納得いただけると幸いです。
王女殿下とアリアンの最後の会話で、ボスという言葉に九条律子のルビが振られていますが、アリアンはルビつきで発言し、王女は、ルビなしで受け取っています。ボスの意味は日本語なのでわかっていません。アリアンが、私とか、ニックネームみたいな感じで、ボスと言ってると思っています。
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バカの身内が立場とその責任から償う羽目になるのは理解できますが現実を知らされた時にまず詫びをするのは当然ですが息子に対しての対応が生ぬるく感じられたのでその後の様子をみるに同情はできなくないが後味が悪くなってしまいました。
バカがボコボコギタギタにされてからなら素直に同情できたのかもなと思いました。
なんだか身内ばかりが償わされてバカはなんの呵責をうけていないように見えてしまって…違うとわかっているんですが感覚的にそう感じてしまって…。
ラストの表現は凄く好きなんですが。
もやもやしちゃいました。
これ、万が一クズの計画通りになったとしても、
クズが爵位を継ぐ前にランバン伯爵一族の別の方に継がれるんじゃ。
だってクズはランバンの血を引いてないし、
計画通りならアリアンとの子を成してないし。
一色様
コメントありがとうございます。
ご期待に添えず申し訳ございません。ヒロインが考える、「この先ずっと、都合よく使ってやるわよ!」という罰が、一般的なざまあレベルに達しませんでした。
ヒロイン的には、子供時代を思い出せば、私ってば可哀想だった!」とは思うけれど、両親とほぼ親戚のおじさんおばさんな王族は、「今も恨みまくっているわけではない」「愛する人たち」なので、彼女が好きな時に出せる脅しネタ的な感じになってしまっています。
まあ、金銭的にはかなりの罰を与えていますので、キツイ罰金刑だと思っていただければ。(大汗)
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コメント有難うございました。また遊びに来ていただけると嬉しいです。(^^)