上 下
50 / 51

50 元がつく婚約者との圧迫面接

しおりを挟む
 現在、アーリエアンナは目の前に座る男を見つめながら、盛大に顔を顰めている。彼女の母親に見られれば叱られるであろうレベルに、それはもうハッキリと、本来は態度を取り繕うべき相手の前で、顔面を不機嫌に歪めていた。

 応募先は王妃陛下で、本来なら今この目の前の男と会う必要などないのに、「半年後まで会わないと誓うから、応募の際に1回だけ会って、条件を確認させてほしい」と頼まれたのだ。この男に。命令ではなく、お願いだそうだが、アーリエアンナが断りにくい相手である王妃陛下を通してのお願いなところが嫌らしいと、アーリエアンナは怒っている。

「リードル様。私と貴方は婚約を破棄した間柄です。私は、新たな殿方との見合いを望んでいるのです。……それにその顔……」
「アーリエアンナが、見合いの条件とやらを出し、応募を受け付けていると聞いた。……先ずは身長だ。身長195センチ以上。俺は195.5センチだ。問題ない!体重110kg以上とウエスト90センチ以上については、これから近づける予定だ。問題ない!握力100以上は、多分半年以内になんとかなる。問題ない!」
「……はぁ」
「短髪については、具体的な指示を出してくれれば、今日にでもその髪型にする。問題ない!顔面は十分強面だと思うのだが、ダメなのだろうか?今日は顔に傷を描いてもらったが、この方が良いなら、常に描くか、実際に傷をつけても良い」
「……態々怪我をしていただきたくありません」
「ならば、どんな顔つきになれば良いのか……。髭でも生やせば良いか?」
「食事の邪魔ですので、髭はちょっと……。」
「か、顔については後で考えることにする。上腕二頭筋の盛り上がりについては、半年後まで待ってほしい。今現在は、不可な細マッチョに近い自覚はあるが、時間をかければ大丈夫だ。笑顔重視……。こ、これでどうだ?」

 アーリエアンナは、笑顔が可愛い男性が良いとか、いかにもな爽やか青年風笑顔を好んでいるわけではない。だが、緊張しながら、にっこり微笑んで見せるリードルのその印象は……

「怖っ!顔、怖っ!無理っ!」
「っ!!だ、大丈夫だ!半年後には、怖くない顔で笑ってみせる!問題ない!」
「無理では?」
「いや、可能だ!次だ、次。高圧的な性格不可と低会話能力不可についてだが……こ、これについても、なんとかする……アーリエアンナが逃げようとするから、つい高圧的になって、一方的に命令口調で話していただけだ……逃げないで側にいてくれるなら、俺だって……」
「は?私のせいだと?」
「いや、違う!これも、半年待ってくれ!今は、次の条件の確認だ。中毒患者不可と清潔感なし不可は、問題ないはずだ。食事に興味がない人不可についても、旨いものを食べ歩きたいなら、同行する。問題ない!」
「別に、無理して食べ歩きについてきていただかなくとも結構ですけど?」
「無理ではない!同行したいのだ!つ、次!次の条件のワンコ系歓迎がよくわからない。だが、どうすれば良いのか指示を出してくれればなんとかする。年齢は38歳以下だ。38歳の男の方が良いなら、もっと年上に見える様に努力する。問題ない!とにかく、今日は申し込みだけだ。俺は、応募する!そして、婚約と、結婚を望む。今、結論は出さないでくれ!」
「リードル様は、以前から武術の訓練はされていますけど、身体が大きくなるというより、締まっていく、細マッチョ系ですよね?今までと同じ方法で、身体を大きくしながら、筋肉を育てるのは無理だと思います。半年を無駄にしないために、申し込むのをやめませんか?」

 半年間も「リードルが婚約者になってしまう可能性を残したまま」過ごしたくないアーリエアンナも必死だ。今ここで諦めてもらおうと、説得する。

「やめないぞ!大丈夫だ!食べて鍛えまくれば、なんとかなる!時間ももっと作れる!問題ない!」
「リードル様は、お忙しいですから、これ以上何かされるより、しっかり身体を休めていただいた方が良いと思います」
「俺は、忙しくない。凄く暇なのだ!問題ない!」
「は?」 

 ちょっと何言ってるかわからない。 
 この男も、この国の侯爵位以下の家の者の様に、忙しすぎておかしくなったのだろうか。

***

あとがき

もうワンコになってきてる気がしますけど。アーリエアンナは拒否反応が強いので、気づけない様ですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

マルフィル嬢の日々

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉襦袢を着込んだ肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットを始めた。そして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することをスタート目標に、更生計画を開始する! ※こちらはアルファポリス様、小説家になろう様で投稿させて頂きました「婚約破棄から〜2年後〜からのおめでとう」の連載版です。タイトルは仮決定です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~

茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。 更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。 シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。 初対面のはずの彼はシスカにある提案をして―― 人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

処理中です...