お前を愛することはない!?それより異世界なのに魔物も冒険者もいないだなんて酷くない?

白雪なこ

文字の大きさ
上 下
45 / 53

45 夜のティータイムは、密談にもってこいです。

しおりを挟む
 巨大なチーズサンドを食べた後も、まだ足りないと言い出したレーリスだが、調理場にある、すぐに食べられる食材は、ナッツなどのおつまみぐらいしかなかった。塊のハムはあるが、パンがもうないのだ。
 ハムを掴んだまま途方にくれていると、レーリスが近寄ってきた。ハムだけでもなんでも、とにかくまだ食べたいらしい。
 薄く切るより、食べ応えがある方が良いだろうと、母が知れば行儀が悪いと叱られるだろうが、塊のままのハムを渡せば、嬉しげに齧り付いていた。

 マールリは完全に呆れていたが、乾燥麺と、幾つかの瓶詰めを出してくれたので、大鍋で湯掻いた麺に、瓶詰めの野菜ソースと同じく瓶詰めの肉を絡めて、レーリスに渡す。10人前はある。

 本気でレーリスのブラックホールを埋めようとすれば、王城にある食材が丸ごと消えるような気さえしてきたアーリエアンナである。

 結局、その夜のレーリスの口から、「お腹がいっぱいになった」という言葉が出ることはなかったが、餓死寸前の状態からは脱却できたようで、ナッツの大袋を抱えて、大人しく客室に向かってくれた。

 王城のサロン付近にある、自由に使える部屋で、ベッドも用意されている部屋だ。

 それを見送り、ティーセットを持って、マールリとサロンに向かった。

 2人ともなんとなく疲れていたが、すぐに眠りたいというより、お茶でも飲んで休憩したい気分だったのだ。レーリスのブラックホールに消えなかった先程のクッキー缶も持っていき、サロンのソファーで夜のティータイムだ。

「それで、私に相談とは?」

 お茶を飲んで一息ついた後、マールリから話を振られた。

「マールリ様は、私がリードル様と婚約破棄したことはご存知ですか?」
「ええ、私は城によく顔を出していますからね。それでも、知ったのはつい最近よ。なんでも、各家の本家当主達には知らせがいったとか。城で小耳に挟んだ時には、驚きましたわよ。
 ある捜査に必要な任務により、婚約破棄する必要があった。アーリエアンナの悪評と、アーリエアンナが婚約破棄されたとの噂を王都の外まで広げる必要があるので、噂の内容を否定しないようになんていう、とんでもないものでしたし。婚約破棄はともかくとして、悪評だなんて、ボーボルド侯爵ご夫妻はよく承知されましたわね?」

「父は知っていました。母には最近、婚約破棄の報告をして、その流れで悪評の件も知られてしまいましたが」

「まあ。さぞ驚かれたことでしょうね。受け入れた貴女も叱責されたのでは?女性達がこの話を知ったら、作戦自体を非難をされたでしょうね。だからこそ、男性にしか知らせなかったのでしょうけど。貴女、大丈夫なの?」

 私の任務の話は、女性陣には内緒だった。知られれば、他の方法を考えるようにと言われただろう。リアル貴族令嬢なアーリエアンナを囮に使えないとなると、架空の人物を作ることから始めねばならず、女性陣に非難されない様に女装して囮になる人物を作ったり、それを実在の人物として世間に認知させてから、噂をばら撒く必要が出てくる。

 アーリエアンナを使う場合と比べれば、倍の手間と時間がかかることになっただろう。それを避けようと、女性陣には知らせないことにした。王都内では、ローエリアあたりにしか噂を流していないので、ミッドエリアまでしか行かない女性には、バレないと踏んでいたのだ。

「私は他の貴族家との政略結婚は望んでいませんので、悪評によって困ることはありません。一族の中から相手を見つけるか、平民から見つけるかすれば良いので。母もそこまで怒っていませんでした。寧ろ、リードル様が仰っていた再婚約がどうのという提案のことを心配していましたわ」

「そう。それで、再婚約されるのかしら?」
「とんでもない!折角念願の婚約破棄が叶ったのですから、夫は自分で好きな人を選びますわ」

 再婚約など絶対にせず、好きな人を選ぶと宣言するアーリエアンナは、自信満々で、嬉しげだ。そんなアーリエアンナに胡乱な目を向けるマールリ。

「あら……リードル様は、再婚約を諦めてくださると?」
「……諦めるしかない……ようにしたくて、ですね。その件で、マールリ様にご相談が」

 そう。アーリエアンナとて、再婚約しませんという一言で話が済むはずなどとは考えていないし、できると信じていない。

 元鬼畜上司で、元婚約者のリードルは、狡賢い、油断ならない男なのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...