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45 夜のティータイムは、密談にもってこいです。
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巨大なチーズサンドを食べた後も、まだ足りないと言い出したレーリスだが、調理場にある、すぐに食べられる食材は、ナッツなどのおつまみぐらいしかなかった。塊のハムはあるが、パンがもうないのだ。
ハムを掴んだまま途方にくれていると、レーリスが近寄ってきた。ハムだけでもなんでも、とにかくまだ食べたいらしい。
薄く切るより、食べ応えがある方が良いだろうと、母が知れば行儀が悪いと叱られるだろうが、塊のままのハムを渡せば、嬉しげに齧り付いていた。
マールリは完全に呆れていたが、乾燥麺と、幾つかの瓶詰めを出してくれたので、大鍋で湯掻いた麺に、瓶詰めの野菜ソースと同じく瓶詰めの肉を絡めて、レーリスに渡す。10人前はある。
本気でレーリスのブラックホールを埋めようとすれば、王城にある食材が丸ごと消えるような気さえしてきたアーリエアンナである。
結局、その夜のレーリスの口から、「お腹がいっぱいになった」という言葉が出ることはなかったが、餓死寸前の状態からは脱却できたようで、ナッツの大袋を抱えて、大人しく客室に向かってくれた。
王城のサロン付近にある、自由に使える部屋で、ベッドも用意されている部屋だ。
それを見送り、ティーセットを持って、マールリとサロンに向かった。
2人ともなんとなく疲れていたが、すぐに眠りたいというより、お茶でも飲んで休憩したい気分だったのだ。レーリスのブラックホールに消えなかった先程のクッキー缶も持っていき、サロンのソファーで夜のティータイムだ。
「それで、私に相談とは?」
お茶を飲んで一息ついた後、マールリから話を振られた。
「マールリ様は、私がリードル様と婚約破棄したことはご存知ですか?」
「ええ、私は城によく顔を出していますからね。それでも、知ったのはつい最近よ。なんでも、各家の本家当主達には知らせがいったとか。城で小耳に挟んだ時には、驚きましたわよ。
ある捜査に必要な任務により、婚約破棄する必要があった。アーリエアンナの悪評と、アーリエアンナが婚約破棄されたとの噂を王都の外まで広げる必要があるので、噂の内容を否定しないようになんていう、とんでもないものでしたし。婚約破棄はともかくとして、悪評だなんて、ボーボルド侯爵ご夫妻はよく承知されましたわね?」
「父は知っていました。母には最近、婚約破棄の報告をして、その流れで悪評の件も知られてしまいましたが」
「まあ。さぞ驚かれたことでしょうね。受け入れた貴女も叱責されたのでは?女性達がこの話を知ったら、作戦自体を非難をされたでしょうね。だからこそ、男性にしか知らせなかったのでしょうけど。貴女、大丈夫なの?」
私の任務の話は、女性陣には内緒だった。知られれば、他の方法を考えるようにと言われただろう。リアル貴族令嬢なアーリエアンナを囮に使えないとなると、架空の人物を作ることから始めねばならず、女性陣に非難されない様に女装して囮になる人物を作ったり、それを実在の人物として世間に認知させてから、噂をばら撒く必要が出てくる。
アーリエアンナを使う場合と比べれば、倍の手間と時間がかかることになっただろう。それを避けようと、女性陣には知らせないことにした。王都内では、ローエリアあたりにしか噂を流していないので、ミッドエリアまでしか行かない女性には、バレないと踏んでいたのだ。
「私は他の貴族家との政略結婚は望んでいませんので、悪評によって困ることはありません。一族の中から相手を見つけるか、平民から見つけるかすれば良いので。母もそこまで怒っていませんでした。寧ろ、リードル様が仰っていた再婚約がどうのという提案のことを心配していましたわ」
「そう。それで、再婚約されるのかしら?」
「とんでもない!折角念願の婚約破棄が叶ったのですから、夫は自分で好きな人を選びますわ」
再婚約など絶対にせず、好きな人を選ぶと宣言するアーリエアンナは、自信満々で、嬉しげだ。そんなアーリエアンナに胡乱な目を向けるマールリ。
「あら……リードル様は、再婚約を諦めてくださると?」
「……諦めるしかない……ようにしたくて、ですね。その件で、マールリ様にご相談が」
そう。アーリエアンナとて、再婚約しませんという一言で話が済むはずなどとは考えていないし、できると信じていない。
元鬼畜上司で、元婚約者のリードルは、狡賢い、油断ならない男なのだから。
ハムを掴んだまま途方にくれていると、レーリスが近寄ってきた。ハムだけでもなんでも、とにかくまだ食べたいらしい。
薄く切るより、食べ応えがある方が良いだろうと、母が知れば行儀が悪いと叱られるだろうが、塊のままのハムを渡せば、嬉しげに齧り付いていた。
マールリは完全に呆れていたが、乾燥麺と、幾つかの瓶詰めを出してくれたので、大鍋で湯掻いた麺に、瓶詰めの野菜ソースと同じく瓶詰めの肉を絡めて、レーリスに渡す。10人前はある。
本気でレーリスのブラックホールを埋めようとすれば、王城にある食材が丸ごと消えるような気さえしてきたアーリエアンナである。
結局、その夜のレーリスの口から、「お腹がいっぱいになった」という言葉が出ることはなかったが、餓死寸前の状態からは脱却できたようで、ナッツの大袋を抱えて、大人しく客室に向かってくれた。
王城のサロン付近にある、自由に使える部屋で、ベッドも用意されている部屋だ。
それを見送り、ティーセットを持って、マールリとサロンに向かった。
2人ともなんとなく疲れていたが、すぐに眠りたいというより、お茶でも飲んで休憩したい気分だったのだ。レーリスのブラックホールに消えなかった先程のクッキー缶も持っていき、サロンのソファーで夜のティータイムだ。
「それで、私に相談とは?」
お茶を飲んで一息ついた後、マールリから話を振られた。
「マールリ様は、私がリードル様と婚約破棄したことはご存知ですか?」
「ええ、私は城によく顔を出していますからね。それでも、知ったのはつい最近よ。なんでも、各家の本家当主達には知らせがいったとか。城で小耳に挟んだ時には、驚きましたわよ。
ある捜査に必要な任務により、婚約破棄する必要があった。アーリエアンナの悪評と、アーリエアンナが婚約破棄されたとの噂を王都の外まで広げる必要があるので、噂の内容を否定しないようになんていう、とんでもないものでしたし。婚約破棄はともかくとして、悪評だなんて、ボーボルド侯爵ご夫妻はよく承知されましたわね?」
「父は知っていました。母には最近、婚約破棄の報告をして、その流れで悪評の件も知られてしまいましたが」
「まあ。さぞ驚かれたことでしょうね。受け入れた貴女も叱責されたのでは?女性達がこの話を知ったら、作戦自体を非難をされたでしょうね。だからこそ、男性にしか知らせなかったのでしょうけど。貴女、大丈夫なの?」
私の任務の話は、女性陣には内緒だった。知られれば、他の方法を考えるようにと言われただろう。リアル貴族令嬢なアーリエアンナを囮に使えないとなると、架空の人物を作ることから始めねばならず、女性陣に非難されない様に女装して囮になる人物を作ったり、それを実在の人物として世間に認知させてから、噂をばら撒く必要が出てくる。
アーリエアンナを使う場合と比べれば、倍の手間と時間がかかることになっただろう。それを避けようと、女性陣には知らせないことにした。王都内では、ローエリアあたりにしか噂を流していないので、ミッドエリアまでしか行かない女性には、バレないと踏んでいたのだ。
「私は他の貴族家との政略結婚は望んでいませんので、悪評によって困ることはありません。一族の中から相手を見つけるか、平民から見つけるかすれば良いので。母もそこまで怒っていませんでした。寧ろ、リードル様が仰っていた再婚約がどうのという提案のことを心配していましたわ」
「そう。それで、再婚約されるのかしら?」
「とんでもない!折角念願の婚約破棄が叶ったのですから、夫は自分で好きな人を選びますわ」
再婚約など絶対にせず、好きな人を選ぶと宣言するアーリエアンナは、自信満々で、嬉しげだ。そんなアーリエアンナに胡乱な目を向けるマールリ。
「あら……リードル様は、再婚約を諦めてくださると?」
「……諦めるしかない……ようにしたくて、ですね。その件で、マールリ様にご相談が」
そう。アーリエアンナとて、再婚約しませんという一言で話が済むはずなどとは考えていないし、できると信じていない。
元鬼畜上司で、元婚約者のリードルは、狡賢い、油断ならない男なのだから。
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