お前を愛することはない!?それより異世界なのに魔物も冒険者もいないだなんて酷くない?

白雪なこ

文字の大きさ
上 下
25 / 53

25 焼肉屋さんでは、令嬢令息も香ばしくなります!

しおりを挟む
【肉通の店 業火】の個室は、ドアの正面に腰高窓、入って左がレストルームへのドアと外套や荷物置きスペース、右が飾り模様が壁全面に入った鏡で出来ている。バランスとしては、鏡に飾りが入っているというより飾りの隙間が鏡なので、全身鏡として使う物ではないけれど、なんとなくな様子がわかるぐらいには映っている。

「レーリス、準備はいいかしら?」
「イエスマム!」

 着替えを終えた自身と弟が細切れに映る鏡越し。弟に問いかけてみると、細切れ貴公子から、元気な返事が返ってきた。
 そういえば、小さい頃、軍人ごっこもしていたなと、懐かしく思う。

 まあ、前世の記憶はゲーム由来ばかりなので、リアルな軍隊のことなどわからないけれど。
 でも、そうね。お姉様的にも、敵地へ出陣気分だから、そのお返事も間違いではないかもしれないわね。

 はっ!ホッコリしている場合じゃないわ。

「レーリス、良いお返事だけど、今から母様にお会いするのよ?どこからどうみても常識ある上品な貴族令嬢令息は、イエスマムなんて言わないわ。」
「申し訳ございません。姉様、気をつけます!」

 あ~。ダメですわ。
 やはり普段から“お”をつけておかないと、癖が抜けないようです。

「レーリス。お母様、お姉様と呼ばなくちゃダメですわよ。」
「あ、そうでした!」

 父様や兄様は気にしませんし、祖父母も、他の親族も気にしませんが、我が家とは担当する方角が違う侯爵家からお嫁入りされたお母様は、貴族の礼儀作法などに厳しいのです。乙女ゲームに出てくる社交界なんてない世界なので、パーティでのマナーとか、カーテンシーがどうのとかがないのが救いです。

 さあさあ、準備ができたので、いざ、出陣!

 ああ!レーリスより、私の方がダメな子の様です。





 この世界の貴族屋敷は、家によって無骨だったり、可愛かったりと、結構印象が違う。素材は主に石と木材で、レンガはないが、形を整えればレンガそっくりになる石があるなど、石素材は豊富である。

 造りとしては、大きな身体の人間が多いせいか、天井や屋根が高め。部屋やドア、窓、家具、全てのサイズが大きい。
 アーリエアンナは前世のリアルな建物のことはあまり覚えていないのだか、本邸と比べて規模が小さい王都街屋敷でも、400畳以上のエントランスがあるのが普通だと言っておこう。400畳でも、729.62平方メートルでもイメージ出来ないが、とにかく広いことだけわかっていただければと思う。

 ちなみに、アーリエアンナの自室は100畳程度で、壁際の本棚にはギッチリ本が収納されているが、部屋全体としてはがらんとしている。本人曰く、大事なものはクローゼットやベッドルームに隠しているため、特に置くものがない、そうだ。


 そんなこんなで、ミッドエリアの【肉通の店 業火】を出た姉弟は、目的地の少し手前まで、馬車道を走った。


 大通りには、馬を引いて入る。身嗜みと呼吸を整え、ボーボルド家の商いの本部である、王都街屋敷に到着した2人は、エントランスにある受付に寄り、業者などとの打ち合わせ用ではなく、親族だけが使う会議室に案内してもらう。

 巨大テーブルの周囲に、ハイバックタイプチェアが50脚以上並ぶ部屋もあるが、今回は人数が少ないので、一番小さな部屋だ。1人掛けと3人掛けのソファーが数台あるだけだが、それでも10人は座れるし、テーブルも10人分のティーセットを並べても余裕がありそうなサイズだ。

 親族専用は基本的に壁やドアが厚く、防音性能バッチリ。機密扱いの話は親族専用でしか話さない決まりだ。

 親族専用といえど、寛げる場所ではない。姉弟共に、母親に会うのは久しぶりだ。長い話になるかもしれないので、少しでもこの場を居心地をよくしようと、落ち着きそうな場所にあるソファーを選んで座り、メイドにティーセットを頼む。

 母親は現在来客中で、少し待たねばならぬらしい。
 2人で会話でもして待てば良いのだが、今話したいこと聞きたいことは、母にも話さねばならぬことであるし、姉弟が盛り上がるような他の話題はこの部屋ではできず、黙り込む2人。防音性能バッチリは、親族には適用されないことがある。壁に耳ありな怖い身内の城で、馬鹿話など自殺行為でしかない。ここでは、借りて来た猫のように大人しくなるのが、身内の男と子供達の特徴となっている。

 大人しく座り、お茶を飲み、待ち続ける2人。
 手持ち無沙汰すぎて、困った姉弟は、お土産や、持参した書類などを、机の上に並べてしまう。

 レーリスは、お土産の飴の袋の山の横に、3ヶ月前まで行っていた下屋敷での成績表まで並べている。出発時には母に会うとは伝えていなかったのだから、いつも持ち歩いているのかもしれない。

 3ヶ月の間に、兄達には会えただろうが、祖父母や両親には会えていなかったのだろう。成績表を見せることが目標ではないが、見てもらって話したいのだろう健気な弟を想い、アーリエアンナはレーリスの頭をグリグリと強く撫で回したくなってしまった。


 ダメダメ、ここは我慢ですわよ!


 弟の頭に伸ばしかけた手を下ろしたアーリエアンナに、レーリスから不思議そうな視線が向けられる。それにニッコリ、微笑んで誤魔化していると、ノックの音が響く。

 居住まいを正して、どうぞと応えたその時、アーリエアンナは気がついた。
 貴族令嬢らしい品のあるお忍び服と、貴族令息らしい品のあるお忍び服に、焼肉の匂いがついていることに!

 きゃーーーー!ファブナントカプリーズ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】王子と結婚するには本人も家族も覚悟が必要です

宇水涼麻
ファンタジー
王城の素晴らしい庭園でお茶をする五人。 若い二人と壮年のおデブ紳士と気品あふれる夫妻は、若い二人の未来について話している。 若い二人のうち一人は王子、一人は男爵令嬢である。 王子に見初められた男爵令嬢はこれから王子妃になるべく勉強していくことになる。 そして、男爵一家は王子妃の家族として振る舞えるようにならなくてはならない。 これまでそのような行動をしてこなかった男爵家の人たちでもできるものなのだろうか。 国王陛下夫妻と王宮総務局が総力を挙げて協力していく。 男爵令嬢の教育はいかに! 中世ヨーロッパ風のお話です。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...