20 / 53
20 みんなの目が死んでしまうお店
しおりを挟む
昼食後、近辺にあった数軒の古着屋巡りを満喫した後、先にお土産を買っておきましょうと、【アタラッシ】という、新規オープンしたばかりだという焼き菓子の店に向かった姉弟。
場所は、自家経営の【カフェ ボルドガボルド】から目と鼻の先、真横ではないが、目視で十分見える距離だ。ライバルになるうる近さに、少し警戒度を上げるアーリエアンナ。姉のリサーチという名の敵情観察に同行できるレーリスは嬉しげだ。
本日は買い物の予定がないため、店の前を通り過ぎるだけだった【カフェ ボルドガボルド】には、もうすぐオープン時間を迎えるカフェの席への案内待ちなのか、店内で買い物するだけなのかは不明であるが、十数人の客による行列が出来ていたが、【アタラッシ】には、2名程の客が店前で、立ち話しているだけだった。彼女達の手には購入した商品らしきものがあるので、並んでいるのではないようだ。
ド派手な看板を掲げた【アタラッシ】は、行列せずとも良い程広い店で、店内に客が沢山いるのかと思えば、壁沿いの棚と入り口の倍幅のカウンターがあるのみで、持ち帰り専門店のように、コンパクトな作りだった。看板は派手なのに、店内装飾はシンプル、素朴、というか、塗り加工もされていない棒と板で構成されているというか。非常にチグハグな印象だ。
カウンターの奥の壁に並ぶフックには、平べったい穴あきパン、エショーデが大量に引っ掛けられている。蜂蜜がけ、塩がけ、プレーンの3種類だ。この世界でお馴染みのおやつ兼軽食である。地球にある、プレッツェルの元祖に近いが、アーリエアンナの記憶にはない。
店内の左右の棚には、果物のジャムが3種類程。同じものをひたすら並べたような印象だ。ただ、ラベルは看板と同じ傾向の派手さだった。店の奥を含めても3人しかいなさそうな店員の衣服は、シンプルな私服らしきワンピースの上に超フリフリなピンク色の制服エプロン、髪に同様の色とデザインのリボン。ピンクのフリフリが全員に似合っているかどうかはノーコメントで。
正直、この店の“売り”がわからない。
新規開店から数日の筈なのに、目新しさを求める行列客もない。売っているのは数百年前からある穴あきパン。味の進化もなさそうに見える。見た目上は。
何故、この品揃えで店を出そうとしたのか?
考えてもわからない。
信じられないほど美味しいエショーデと感激するほど美味なジャムなので、食べたらびっくりとか?
それしかないような気がするが、店員と客の目が死んでいるのが気になる。非常に気になる。
ジャムをひとつ手に取り、中身を光に透かしてみた後、ラベルを眺めた。
「…………ああ…………」
謎は解けた。前世風に言えば、秒で解けた。
アーリエアンナ、大ショックぅ!
「ね。姉様?」
姉の目が突然死んだので、レーリスが動揺して呼びかけてきた。
返事はせず、ジャム3種を手に取った、アーリエアンナは、覇気のない声で、店員に声をかける。
「これと、壁のエショーデを各1個づつ、お願い」
テキパキとそれらを紙に巻いて包んでくれた店員に、パンとジャムの代金としては少し高い金額を払うと、空気を読んで無言になった弟を連れ、アーリエアンナは店の外に出た。
パカパカ、トボトボ。
店から遠ざかる、馬とアーリエアンナの歩みは遅い。
同じように歩きながら、姉をチラチラ見るレーリス。
そのまま、【アタラッシ】の見えない位置まで歩いたところで、アーリエアンナは呟いた。
「あのお店、ピンクアータ様のお店みたい」
「…………ああ…………」
レーリスも、謎が解けた。アーリエアンナの前世風に言えば、秒で解けた。
大ショックぅ!ではないけれど、脱力し、目が死んだ。
****
後書き
服屋さんに行くのを忘れていたので、書き足しました。てへっ。←
場所は、自家経営の【カフェ ボルドガボルド】から目と鼻の先、真横ではないが、目視で十分見える距離だ。ライバルになるうる近さに、少し警戒度を上げるアーリエアンナ。姉のリサーチという名の敵情観察に同行できるレーリスは嬉しげだ。
本日は買い物の予定がないため、店の前を通り過ぎるだけだった【カフェ ボルドガボルド】には、もうすぐオープン時間を迎えるカフェの席への案内待ちなのか、店内で買い物するだけなのかは不明であるが、十数人の客による行列が出来ていたが、【アタラッシ】には、2名程の客が店前で、立ち話しているだけだった。彼女達の手には購入した商品らしきものがあるので、並んでいるのではないようだ。
ド派手な看板を掲げた【アタラッシ】は、行列せずとも良い程広い店で、店内に客が沢山いるのかと思えば、壁沿いの棚と入り口の倍幅のカウンターがあるのみで、持ち帰り専門店のように、コンパクトな作りだった。看板は派手なのに、店内装飾はシンプル、素朴、というか、塗り加工もされていない棒と板で構成されているというか。非常にチグハグな印象だ。
カウンターの奥の壁に並ぶフックには、平べったい穴あきパン、エショーデが大量に引っ掛けられている。蜂蜜がけ、塩がけ、プレーンの3種類だ。この世界でお馴染みのおやつ兼軽食である。地球にある、プレッツェルの元祖に近いが、アーリエアンナの記憶にはない。
店内の左右の棚には、果物のジャムが3種類程。同じものをひたすら並べたような印象だ。ただ、ラベルは看板と同じ傾向の派手さだった。店の奥を含めても3人しかいなさそうな店員の衣服は、シンプルな私服らしきワンピースの上に超フリフリなピンク色の制服エプロン、髪に同様の色とデザインのリボン。ピンクのフリフリが全員に似合っているかどうかはノーコメントで。
正直、この店の“売り”がわからない。
新規開店から数日の筈なのに、目新しさを求める行列客もない。売っているのは数百年前からある穴あきパン。味の進化もなさそうに見える。見た目上は。
何故、この品揃えで店を出そうとしたのか?
考えてもわからない。
信じられないほど美味しいエショーデと感激するほど美味なジャムなので、食べたらびっくりとか?
それしかないような気がするが、店員と客の目が死んでいるのが気になる。非常に気になる。
ジャムをひとつ手に取り、中身を光に透かしてみた後、ラベルを眺めた。
「…………ああ…………」
謎は解けた。前世風に言えば、秒で解けた。
アーリエアンナ、大ショックぅ!
「ね。姉様?」
姉の目が突然死んだので、レーリスが動揺して呼びかけてきた。
返事はせず、ジャム3種を手に取った、アーリエアンナは、覇気のない声で、店員に声をかける。
「これと、壁のエショーデを各1個づつ、お願い」
テキパキとそれらを紙に巻いて包んでくれた店員に、パンとジャムの代金としては少し高い金額を払うと、空気を読んで無言になった弟を連れ、アーリエアンナは店の外に出た。
パカパカ、トボトボ。
店から遠ざかる、馬とアーリエアンナの歩みは遅い。
同じように歩きながら、姉をチラチラ見るレーリス。
そのまま、【アタラッシ】の見えない位置まで歩いたところで、アーリエアンナは呟いた。
「あのお店、ピンクアータ様のお店みたい」
「…………ああ…………」
レーリスも、謎が解けた。アーリエアンナの前世風に言えば、秒で解けた。
大ショックぅ!ではないけれど、脱力し、目が死んだ。
****
後書き
服屋さんに行くのを忘れていたので、書き足しました。てへっ。←
14
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました
Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。
男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。
卒業パーティーの2日前。
私を呼び出した婚約者の隣には
彼の『真実の愛のお相手』がいて、
私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。
彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。
わかりました!
いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを
かまして見せましょう!
そして……その結果。
何故、私が事故物件に認定されてしまうの!
※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。
チートな能力などは出現しません。
他サイトにて公開中
どうぞよろしくお願い致します!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる