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第五章
29. 噂のアイツ
しおりを挟むハンターギルドに登録してから数か月がたった。
この間、様々な人との出会いや魔族のリーベラさんとの交流、ヘスラーやクロウリーとの召喚契約など色々な出来事があった。
代わりの映えの無かった一人暮らしの生活は激変し、今では5人のクランメンバーと2人の住み込みのお手伝いさん、魔族のペット2匹とたまにやってくる魔族の王女様という、とても賑やかな生活に変わっていた。
世間では日が経つにつれて<ワームホール>が発生する頻度も少しずつ増えてきており、出てくる魔物もブラッドウルフと呼ばれる狼だけではなく、トロールと名付けられた巨大なサルのような魔物や、蜘蛛や蟻などこちらにもいる昆虫を大きくしたような魔物など、様々な魔物が出てくる様になった。
未知の魔物の対応はオレたちの仕事なので、任務に赴く回数も増えてきていた。
幸いこれまで大きなケガや事故などなくこなせている。
神様のお告げ通り徐々に強い魔物が出現するようになってきたが、ミリテリア側も負けていなかった。
巡回部隊やオレたちを含む各クランやハンターが迅速に対応し、被害を最小限に止めることが出来ていた。
これにはスキルや魔法の使い方に慣れてきて戦闘の幅が広がったことや魔物の素材を活かした武器や防具などが出てきて戦闘力が上がってきたこと、魔物の研究が進み対処法が確立されてきたことなど様々な要因があったが、とりわけ “信号弾”という”トーチ“が付与された棒状の道具が開発されたことが大きかった。
“信号弾”を使用すると“トーチ”で作った光の玉が空に浮かび上がる。
光には色が付いており、赤は「魔物の発見」、黄色は「ワームホールの発見」、青は「救助者発見」や「援軍を求む」など、色によって意味が異なるようになっている。
トーチの色と場所により遠方にも情報が素早く伝わるため、これまでの様に巡回部隊が近くの街まで伝えに行くという時間のロスがなくなった。
さらに、赤と黄色を同時に打ち上げれば、『ワームホールから魔物が発生中』、赤と青なら『魔物と戦闘中、応援求む』などの様な情報も伝達でき、適切な人員が適切な現場に駆け付けるための時間が大幅に短縮された。
初めはオレたちがクラン内で使うために作ったものだったが、その有用性からオレたち以外にも使ってもらった方が良いと話し合いで決まり、ギルドに作り方を伝えることにした。
初級魔法の付与術で出来るので効果のわりに作り方が簡単で、あっという間に各国ギルドにも広まった。
また、魔法が使えなくても予め魔力を込めておけば誰でも使えるため、ハンターではない人も携帯できるようになった。
巡回部隊じゃなくとも発見者がすぐに情報を伝達できるということが非常に大きく、人々がそのまま監視網となるため、被害がかなり抑えられるようになった。
今後は、新たな色を増やして魔物でも未知なのか既知なのか分かるようにしたり、複数のトーチを上げることで魔物の数を知らせたり、トーチのサイズの違いで魔物の強さを示したりと色々改良を考えている。
ただし、あまり複雑になりすぎても困るので、ギルドや各クランたちの意見を聞きながら調整しているところだ。
ハンターは複雑な方、ハンターじゃない人はシンプルな方を使うなどでもいいかもしれない。
ちなみにこの“信号弾”を開発した功績が高く評価され、ギルドや各国から開発料や使用料、御褒美などもろもろ合わせ金貨1,500枚近くを貰えることになった。
“ブルータクティクス”では基本的に報酬を得た際、報酬額の2割をクランへ、残りは仕事をした人数で割り、端数はクラン資金へという形にしている。
今回も300枚はクラン資金とし、1200枚を6人で割って1人200枚ずつという形にした。
このクラン資金で日用品や食材、仕事での交通費や宿泊費、エイミーちゃんやリルファちゃんの給料などを支出している。
エイミーちゃんとリルファちゃんの学費もクラン資金から出していいと皆が言ってくれたが、オレも周りの人に助けられたしその恩返しだと思い、オレが出すことにしている。
このような感じでみんなで協力しながら、魔物の脅威に打ち勝つべく切磋琢磨しながら日々過ごしていた。
◆
「爆炎陣の使い手?」
「あぁ、最近登録したハンターらしい。王都周辺の魔物溜まりの殲滅で名を上げているらしいぜ。登録時はCランクだったらしいがもうBランクになったって話だ」
情報収集のためセラーナとギルドに来たところ、そんな会話が耳に入ってきた。
“信号弾”の普及で迅速に対応できるようになったものの、やはり発見が遅れるワームホールも存在する。
そのワームホール周辺に魔物が集結、生息してしまうことを「魔物溜まり」と呼ぶようになった。
魔物が大量にいるので、ハンターの数も揃えなければならず、こちらも最近の問題となって来ているが、心強いハンターが登場したようだ。
魔物の情報交換だけでなく、ハンター同士で目立ったハンターの噂話をしているのも良く見られる光景だ。
「へーすごいな。どんな奴なんだ?」
「18歳だか19歳のヒト族の男で、燃えるような赤い髪と鋭い目つきをしているらしい。両手に呪文が刻まれた包帯を巻いているからすぐわかるらしいぜ」
「一度見てみたいもんだな。何にせよ強い奴が増えてくれるのはありがたいな」
「あぁ。ただ、性格に問題があるらしいけどな」
「どんな風にだ?」
「とにかく偉そうなんだとさ。強い分ある程度は仕方ないのかもしれないが、他のハンターを雑魚と呼んだり、近くに戦っているハンターがいてもお構いなしに魔法をぶっ放したりするらしい。オレの知り合いもそいつに殺されかけたっていってたな」
「なんだそいつ。誰か文句言わないのか?」
「言ってるらしいさ。でも文句があるなら俺より強くなってから言えとかいって全然聞かないらしいぜ」
聞き耳を立てているとセラーナも聞いていたようだ。
「強いのは良いですけどそういうのは困りますね」
「うん。ものすごく面倒くさそうだから関わりたくはないね」
強ければいいという考え方の奴は好きじゃない。
だから近寄らないようにしよう。
でも爆炎陣という魔法はとっても気になる。
名前からして魔方陣を使うタイプなのだろうが、どんなものなんだろうか。
罠の様に仕掛けるのか?
魔物だまりで名を上げているということは範囲魔法なのだろうか?
呪文を刻んだ包帯は付与術なのかも。
爆発炎上する魔法なら威力はかなりの物なのだろうし、更に底上げするためのものかも知れないな。
まだまだオレの知らない魔法がたくさんあってワクワクする。
後学の為にも是非とも一度見て“模倣”をしてみたい。
“魔法創造”でも作れるかもしれないけど、オリジナルを見てから改良した方が使い勝手が良さそうだし。
でも、やっぱり関わりたくはないので機会があれば遠くから覗き見させてもらおう。
なんて気長に考えていたが、その機会は意外と早く訪れるのだった。
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