初恋

咲良

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夏休み①

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1・2年だけの新体制となって初めての夏休み。
部活に所属してると夏休みも関係なく毎日のように学校へ来ている

「ん?あれ?1年少なくね?」
まぁそうだろう……今居るのは半分の3人だ
「あの……3人は補習です」
玉井が佐藤さんの問いかけに答えた
「マジか!!酒瀬川は想像ついてたけど梅谷と峯川も?」
うちの学校1年は入試の順番で1組から割り振られる、酒瀬川と梅谷は5組、つまりドベだ峯川は4組だが試験も野生の勘で受けているので中間では全く問題なかったのだが期末ではその野生の勘が見事外れてしまい再試も散々な結果となり赤点補習コースとなっている。
酒瀬川は中間でも赤点で再試でどうにか補習は免れたが、期末では再試に合格できず補習、梅谷は中間はギリギリで期末は赤点、再試で合格できず補習コース
「奏太~赤点回避できるくらいちょっくらヤマカケでいいからあの3人教えてやれよ~」
「え?なんで僕が……」
「奏太1組だろ?」
「そんなこと言ったって僕テストでヤマ張ったことないですよ、だいたい授業聞いてれば分るじゃないですか」
「それは頭いいやつの台詞な、勉強できないやつにとって授業聞いてるだけじゃ理解できないんだよ、それに人に教えれば自分の理解力深まるって言うじゃん?」
「え……」
「はいっ主将命令な!!」
「え!?」
「人数少なすぎてまともな練習できないじゃん?」
元から10人しかいないんだからゲーム式の練習はできないじゃないか
「それとも奏太は外周多めがいい?」
煽るように厭味ったらしく笑う
―自分だってこの炎天下のなか外周するなんて嫌な癖に……僕が一番嫌いな練習メニューを言い出すなんて、ホント性格悪い
「……今週末の再々試で合格できるよう一応手は尽くしますよ」
渋々承諾する、玉井が手伝うよと言ってくれたが、ホントに分らないのだ、授業聞いてれば分る問題しかテストには出ないのに、それができないと言う事が……

人数も少ない事からスパイクレシーブをメインにした練習だった。
セッターの正田さんにパスしそれをスパイクする、反対コートに3人レシーバーとして待機して正田さんの正面にリベロの飯田さんが立ってるのでレシーバーは飯田さんへAパスで返せるようにレシーブする、レシーバーは順番にスパイカーとして反対コートへ走る。
「パス・トス・スパイク・レシーブ。このリズムは崩さない、レシーブミスってもスパイカーは止まらないこと」
パーン・パーン・パーン・パーンと手を鳴らし佐藤さんが指示する。
各務さんからスタートするが、レシーブミスでボールは飯田さんへではなく反対のネットにぶち当たる、それでも飯田さんはセッターの定位置を離れず、ミスした玉井が慌てて取りに行こうとするが佐藤さんはお構いなくリズムよくスパイクを打とうとする
「おい!奏太っ各務が打ったからお前はこっちのコートだ!」
佐藤さんから檄が飛ぶ、確かに各務さんがこっちのコートに入ってきてる、順番は僕だけどまだ玉井がボールを取りきれていないのに……危ないじゃないか
「ほらほら周り見ろよ~」
そんな事言いながらスパイクを打つ
「塩田、攻撃コートに移動しな」
各務さんに言われて追い出されるかのように攻撃側コートに走る。
佐藤さんのスパイクは各務さんが飯田さんへAパスで繋いだので玉井が慌てて攻撃コートへ移動してくる。それを見届けてから正田さんへパスをするとトスしてもらえない……
「奏太、佐藤の言ってたこと聞いてたか?」
「え?」
正田さんは僕がパスしたボールをしっかりと受け取り問いかけてきた
「リズム崩すなって言ったよな?」
僕を真っ直ぐ見てから天使のような爽やかな笑顔を向ける。
いや、実際天使なんて見たことないけどTVとかで出てくる一般的なイメージでしかないけど
「でも……」
「周り見ろって前から言ってるよな?」
笑顔のまま攻めてくる
「はいはいちょい待ち」
練習が中断されてしまい佐藤さんもネットに寄って来る
「ん~まぁ1年足りないけど、あの3人は特に疑問持ってなかったから……まぁいっか」
全員がネット中央に集まるように佐藤さんが手招きする
「1年、特に奏太は『周り見ろ』って疑問に思ってるんじゃないか?」
―疑問と言うより周り見ろと言いながらレシーブミスしてもスパイクする方が矛盾してるじゃないか
「っぷ顔っ……」
顔を上げ佐藤さんを見ると必死で笑いを堪えているが笑いが漏れている、多分僕の表情を見て笑っているのは想像がついた、だって矛盾してる癖に疑問に思ってるんじゃないか?なんてわざとらしい事を言うからあまりにも馬鹿らしくて思わず顔に出たのは自分でも認識していた。
「あれ、佐藤ネタバレしちゃう感じ?」
「まぁ俺らも意味わかんないうちに『周り見ろ』って言われて嫌な思いしたじゃん?自分で気付くのも大事だけど理不尽に続けても習得遅くなるだろ?」
佐藤さんと正田さんが話すのを各務さんは無表情に見つめ、飯田さんは達観した笑顔で見ている。
「『周り見ろ』ってのはさ、まだプレーは続いてるってことな」
―だから危ないんじゃないか……
「試合中にミスしたらどうする?相手にとっちゃチャンスだ、その時相手は待ってくれるか?待つわけないよな?」
「っ……」
「ミスのカバーを待つんじゃない、ミスした時相手はどう動くか、自分に出来ることは何か、常に思考を張り巡らせ、周りを見て『何ができるか、どう動けば挽回できるか』ってことまで考えるってことな。体育の授業でバレーしてる訳じゃないんだ、相手のミスはチャンスだ、点をとるには、とられないためにはって見て動かなきゃ試合にならないだろ?」
「ミスしたらカバーできるまで待てば良いじゃん!って俺らも1年の夏合宿で愚痴ってたな~」
佐藤さんの説明に正田さんが笑いながら突っ込む
「夏合宿の最後、他校と練習試合した時も散々『だから周り見ろって言ってたろ』って怒鳴られたな」
飯田さんがにこやかな顔をしながら話に加わってきた
「まぁ、なんだ?練習中からそんな意識なくただ怒鳴られないようにって練習してても本番でそれが出せるかって話は別だろ?しかも意味は自分たちで気付けって、怒鳴られないように練習こなすだけで意味なんか考えられないってんだよなぁ」
散々怒鳴られてきた過去を思い返しているのか佐藤さんが遠くを見ていた
「でもさ!ちゃんと気付いて、意識して練習していけば身に着くんだよ」
ドヤ顔で笑った佐藤さんの顔はまるで今からマルチ商法で騙すんじゃないかってくらい危険な匂いはしたが、「意識して練習すれば」という言葉に嘘は感じられなかった。

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