初恋

咲良

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GW合宿

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去年のGW合宿、高校入って初めての校外活動だった。
中学では一応バスケ部だったのでついていけると思っていたが、インハイ3位のプライドのせいでやたら厳しかった。
1年は基礎体力だと言って先輩たちが紅白戦をしている間は折り返しダッシュとフライングの繰り返しでこの合宿中に新調したサポーターがすぐボロボロになったほどだ。
スパイク練習の時はボール拾いでやたらと怒鳴られ、つい最近までは最上学年として引っ張ってきた新1年としてはこのむかつく上下関係に嫌気がさす。
まぁ辞めた2人も上下関係がうざいとも言ってたし、僕も「早く引退しろよ」とずっと思っていた。
バレーは【落とさない】球技だ。それがこのスパイク練では打ち落とされたボールを拾うのが1年の役目だ。
打ち落とされバウンドする瞬間に拾わないとボールが大きく跳ねて飛んで行ってしまう。そのボールを取りこぼすと
「馬鹿野郎!危ねぇだろうが!ちゃんと周り見ろ!」
と怒鳴られてしまう。スパイク練では同じリズムで先輩たちが打ち続けてくる。
1年がボールを拾えなくてもかまわず打ち続けてくる。周りを見ろというなら拾えなかった時に待てば良いだけなのに…周りが見えていないのはお互い様なのではないか…

去年のGW合宿の最終日に1年が初めてゲームをさせてもらえた。
3年対1年という、ついこの間まで中学生だった奴らをいじめて楽しむものだとしか思えなかった。
もちろん入部してから初めてのゲームだ、まだ息もあわないし、基礎練しかしてなかったからポジションに合わせての初練習でもある。
そんなチームで勝てるわけない。案の定3年のストレート勝ちだ。
その最終日のゲームの後にポジション別にミーティングがされた。当時3年のかなり見た目厳つく無口な川崎先輩とかなり頭のまわる只野先輩と当時2年だった佐藤先輩と僕と玉井の1年
「うちのブロックは基本、バンチリードブロック、MBはライン取りが重要なんだよね。リベロが居る時はクロスを閉めリベロへのストレートを誘導するわけ。まぁこれはどんなに口でいっても駄目なんだけどね。頭でリードブロックと思っていても強豪を相手にしていると目の前のボールに飛びつきたくなっちゃうものなのよ。体で覚えるしかない」
リトルクラブでそんなブロックはしたことない。中学のバスケと同じようにボールに飛びつくのだ。
川崎さんくらいの体格であればかなりの圧になるだろう。
さっきの紅白戦でも壁かと思うくらい怖いブロックだった……
只野さんはコース取りはもちろんそうなんだけど「今クロス閉めてるからストレート打つよね?」っていう圧が凄い。もちろん僕や玉井に比べれば体の厚みが違う。
2年の佐藤さんは3年を立ててるのか細かい指示を出してくる。
「ほらほら手は前!!」「タイミング誤るな!」
3年のWS吉田さんを加えて3対3をする。佐藤さんと僕と玉井。
吉田さん、川崎さん、只野さんの3対3
「おら!只野!いいトス寄こせ!」吉田さんがスパイク打つために助走に入る。
僕と佐藤さんが前方で待ち構える。
後に玉井が居る、助走の向きからクロスだと思って動こうとするが佐藤さんが邪魔をする。
「ボール見ろ」
シンプルな佐藤さんの指示にさっき言われたばかりなのに…視線をボールに戻すと吉田さんがスパイクを打つフォームに入ってる。出遅れた。
そう思い慌ててジャンプする、出遅れたと思ったが佐藤さんも同じタイミングだった。
しかもやはりクロス、僕が慌てて飛んだのは佐藤さんと同じストレート側…チッ思わず心の中で舌打ちする。
が…佐藤さんのブロックに伸ばした腕はスパイクに振り下ろしたタイミングに合わせて少しクロス寄りに振り回した。すると吉田さんのスパイクにかすった。勢いの落ちたスパイクを玉井がフライングレシーブで繋いだ、そのボールを佐藤さんがセッテイングする。このままセンターに飛べば正面の川崎さんに確実に捕まるのが目に見えるけども、スパイク打とうとジャンプした、川崎さんの横にはぴったりと只野さん、打つ場所がない…
「塩!」
思わずスパイクの力が抜けるとトンとボールに手が当たる程度で思いがけずフェイントの形になり吉田さんが慌ててフォローにフライングするが間に合わずコートに落ちた。
高校に入って初めての僕の得点だった。
「いぇ―――いっ!!」
満面の笑みでハイタッチを求めてくる佐藤さんに対してこの時の僕はよほど酷い顔をしていたんだろう佐藤さんから笑顔が薄れていきちょっと引きつった顔をした。
「あ…わりぃ…塩…田だっけ?」
なるほど、確かに1年は3年にこき使われているだけで2年との接触も少なかった、名前をちゃんと憶えられていなかったのか
「あ…あぁ塩田です…」
「悪い悪い、塩谷、塩川、塩田どれだったかなって思ったら思わず塩しか出なかったわ」
本当に悪いなんて思っているのだろうかと言うくらいヘラヘラとして笑いかけられた。
「ああ――っ!クソっ佐藤が声かけなけりゃフェイントにならなかっただろうに…」
フライングでコートに転んでる体勢から立ち上がろうとしながら吉田さんが文句を言っている。
「いやいやぁ~あのまま打ってたらドシャットもんじゃないっすかぁ」
ネットを挟んで吉田と佐藤がやり取りをしている横で無口な川崎がこぼした。
「調味料…」
その一言を聞き逃さなかった只野さんは佐藤さんと僕を見てから顔を逸らし笑い出した
「ップッ…砂糖と塩…クククッ」
「おおっ!調味料コンビネーション」
文句を付けていた吉田さんも僕らを見て勝手に納得した顔をしている。なんだそのオヤジギャグのようなものは…とうんざりした
「調味料コンビで次はブロックしますよ?」
そんなこと言いながら僕の肩に腕を回してきた佐藤さん
「ちょっと!…っ」
馬鹿らしいそんなギャグとスキンシップに思わず素で【嫌だ】という顔をしてしまった。
しまった、この上下関係うるさい先輩たちに対してこの表情は絶対に見せてはいけない物だ
「おおっと名前通り塩対応なのな」
すかさず佐藤さんがフォローしながらニヤニヤと笑ってくると3年の先輩たちは本格的に笑い出してしまった。
それからだった。早く引退しろよと悪態つきたくなる3年と打ち解けられて川崎さんも只野さんも僕と玉井に技術を惜しみなく指導してくれるようになったのは……

ミドルの本質なのか煽りを入れてくるのは只野さんも佐藤さんも同じくらいだったと思うけど、佐藤さんと僕の事をセットで『シュガソル』と呼び出したのは只野さんだった。
それは部内ですぐ広まったが、別の所にも飛び火してしまっていたがその話はまた今度…
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