漆黒のエクスカリバー

Sho-5

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後編・セイジVS宇宙怪人

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「悪行はそこまでよ。宇宙怪人!」
「誰だっ⁉︎」
 遙か上空から一人の女性の声が、街中に響き渡る。俺が上を見上げると、飛行船に乗ったアリスさんの姿があった。
「貴方の相手は、そこにいるセイジ君が相手してあげるわ」
 俺は、真上の飛行船にいるアリスさんから指を差される。
「ちょっと、博士。勝手に決めないで下さい!」
「黙りなさい。起爆スイッチ押すわよ」
「……すみません。爆破されたくないので、行きます」
 こうして俺は、宇宙怪人と地球の運命を握る決闘をさせられる事になってしまった。
 当然、俺の意見としては今すぐにでも家に帰りたいのだが。
「おいおい、女。こんなモヤシ野郎で大丈夫なのか?」
「甘いわね。その子は、漆黒のエクスカリバーに選ばれた存在よ!」
「な……何だと! あの伝説の存在に選ばれただと⁉︎」
 漆黒のエクスカリバーの事実を知る俺はあえて口を挟まず、アリスさんと宇宙怪人とは目線を合わせないようにした。
「ふんっ! 先手必勝!」
 宇宙怪人が羽を動かし、まさに新幹線の勢い、速さで突撃してくる。
「貴様のような若僧が、このイケメン様に立ち向かうなんて一万光年早いんだよ!」
 宇宙怪人の拳を、俺は鉄の両腕で何とか堪える。威力を殺す事には成功したが、一撃が強かった為か俺はやや後ずさりしてしまう。
「ぐっ……! 改造されていなかったら吹っ飛ばされてるな。こいつは」
「ブハハ、怖じ気づいたか?」
 俺は焦る。一方、宇宙怪人は下品な笑い声と共に余裕の表情を見せる。
 そして宇宙怪人は笑いながら何十発もの鉄拳を俺に浴びせる。至近距離に追い詰められた俺は、ひたすら雨霰のように激しい猛攻を両腕でひたすら耐え続ける。
「オメーは、何の為に地球を滅茶苦茶にするんだ?」
 互いの攻防で激しくぶつかり合う中、俺はふと疑問に感じていた事を宇宙怪人に問い掛ける。
「ブワァーーハハ! 地球が気にくわないから潰す。ただ、それだけだ。貴様だって目の前に小蠅が飛んでいたら思わず潰すだろ? それと一緒の事だ」
「な……なんて野郎だ」
 宇宙怪人の返答によって俺は度重なる攻撃で心身ともに疲れていたのに、今の一言でずっしりと重くなったように感じた。
「セイジ君! 心してかかりなさい!」
 どれだけ凶悪なのか分からない。またアリスさんの忠告は、先程まで闘争心を持たなかった俺の心をぴりぴりと引き締めさせる。
「……セイジ君、左腕のボタンを押してみなさい」
 俺は、アリスさんの言われたままに左腕のボタンを押してみる。

 ーー!? 俺の左腕の先から白銀の鋭く尖った細い物が生えていた。
 け、剣? アニメやゲームでしか見た事が無い代物だ。そんな二次元でしか拝めない物が堂々と鋭く光り輝く。
 剣という攻撃手段を手にすると、それが自信へと変わり、俺は蠅と互角に渡り合えるような気持ちになった。
 俺は前に一歩。さらに前へと、もう片足を踏み出す。コンクリートの地面を蹴り上げ、宇宙怪人の方角へと全力で走り出す。宇宙怪人に斬りかかろうとする。
「うおおおーーっ‼︎」
 まずは一突き。横にかわされる。今度は剣を大きく振り回す。宇宙怪人は羽根を飛び上がり、素早く避ける。かすりもせず、斬撃は悲しくも空を切る。
 慣れない剣をぶんぶんと振り回したせいで、疲れ果てた俺。視界がかすみ、思わず顔を下に向ける。その時、一枚の紙切れが落ちている事に気付いた。
「何だ、これは?」
 紙切れと思った物は、一枚の写真だった。
 そこには二匹の蠅が、お互いに身体を寄せ合って写っている。さらによく見てみると、片方の蠅の頭に可愛らしい真っ赤なリボンが付いている。
「はっ……写真が無いだと! 貴様! その写真をあんまりジロジロ見るんじゃねえ!」
 慌てた様子の宇宙怪人は、俺の手から写真を素早く奪った。
「おい、この写真はいったい……?」
「あ? そいつは俺様がなぁ愛して止まなかった彼女だーーだけど、その彼女が地球人の野郎に取られちまったんだ!だから地球を滅茶苦茶にしてやりたいんだ! 情けねぇけど、それが本音だ……」
 宇宙怪人は震える声で応えた。俺の気のせいで無ければ、宇宙怪人の目が潤んでいるように見えた。
「そりゃ、怒るな。だが、俺にはさっぱり分からねえな」
「なんだと⁉︎」
「俺は今まで一度も人を愛した事ねぇし、愛された事も無いからな!」
「お前……英雄として、それは言っちゃいけないだろ」
 俺がそう吐き出すと、宇宙怪人は呆れた顔をした。
 蠅にまで呆れられるとは、やっぱり俺の人生は可哀想だとつくづく思ってしまう。さっきの状況とは逆に俺が泣きそうだ。
「だから、オメーは俺よりも凄いよ。たかが蠅のくせに他人を愛した事があるんだからよ」
「モヤシ野郎……実は良い奴なんだな。友達がいないどころか人望の無い陰気臭い奴だと思ってたけどよ」
 蠅にここまではっきりとけなされたのは、生まれて初めてだ。
「うおおーーん! 地球人にも良い人がいるんだなぁ!」
「感動しただけさ! オメーは立派な王子様だよ!」
 心打たれた俺は、宇宙怪人と涙を分かち合った。そして熱い抱擁を交わす。宇宙怪人の手が俺の背に触れた瞬間、スイッチの音がした。
「あ……」
 俺の身体が光り出す。

 そして、大きな音と共に爆風を巻き起こす。

「ああぎゃああーーーーっ!」
 俺と宇宙怪人は木っ端微塵に散り、目の前が真っ白になった。

 ***

「おはよう、セイジ君」
「あれ……俺、生きてる?」
 俺が倒れてから一週間後。初めてアリスさんと出会った日と同じように実験室のベッドで目覚める。
 アリスさんが俺を修理してくれたお陰で、運よく第二の人生を送る事になる。
「お疲れ様。これからも英雄として宜しく頼むわよ。あと、英雄として働いてもらう報酬だけど……」
 俺の腕の中にある配線を一本一本繋いでいく。そんな細かい修理作業しながらも、冷静な顔をして商談をしようとするアリスさん。
「断る。この前みたいに痛い思いはしたくない!」
「あら? 勇敢なる英雄さんは、いかなる時でも逃げ出さないのよ」
 爽やかで明るい口調とは対称に、手元には俺を爆発させる事ができる起爆スイッチが握られていた。
「ちょい待て! 起爆スイッチは反則だろ」
「ちなみに、セイジ君を直せるのは……世界中を捜しても私だけよ、ウフフ」
 そんな無邪気な笑顔で言われても萌えねぇよ。立派なパワハラじゃないか。職権乱用で訴えられるレベルだぞ。
 もし弁護士に相談したら……ロボットに改造された俺の姿を見ても、まともに相手をしてくれるのだろうか。そう頭の中で考えても解決は不可能だろう。俺が出せる答えは一つしか無かった。
「……わ、分かりましたよ! やれば良いんでしょ。やれば!」
「うん、宜しい! お利口さんね。セイジ君は」
 こんな上司の元に付くと大変だ。
 俺がいつ、爆発されるか分からないからたまったものでないーーこれは、漆黒のエクスカリバーに選ばれし俺の物語である。
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