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第31話 王の懇願
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「この件に関わった者達を、全て洗い出せ」
兵士とは異なる恰好の臣下へ指示を出せば、残りの臣下達も頭を下げて邸を去る。その後ろ姿を見送るイヴァシグスの視線は鋭い。
決して機嫌が良いようには思えない王の姿に、リュシェラの緊張は最高値まで高まっていた。
(この子達は、守らなきゃ……)
リュシェラの言葉1つで、ここで優しくしてくれた人達を傷付けてしまうかもしれないのだ。何はともあれ、王の前で礼も執らずに、いつまでも座り込んでいて良いはずがない。
リュシェラは身体をよろめかせながら、フラフラと立ち上がった。だけど傷からは相変わらず血が流れており、緊張も酷いリュシェラは、本人が思う以上にもう心身共にボロボロだった。
立ち上がった瞬間、襲った目眩にリュシェラの身体が大きく傾いた。
「危ない!」
イヴァシグスの大きな手が、その身体を掬い上げ、自分の身体に凭れさせる。そのまま周りを見回して、離れた位置にある東屋に気が付けば、そこへ向かって歩き出した。
触れ合ってはいけない。魔石に悟られれば、爆発してしまう。分かっているのに、揺れる振動さえ気持ち悪くて、リュシェラは揺れを軽減するように、思わずイヴァシグスの身体に頭を押し当てた。
「ツラいか、もう少し待っていろ」
なぜかイヴァシグスは酷く焦っているようだった。1度は死を願って、見捨てた隷妃なはずなのに。そんな妃の身体を今さら慮るぐらいの事態とは、いったい何が起きたのだろう。
そんな不安と魔石の不安。そしてリュシェラを支えてくれた人達への不安。積もっていく不安が、リュシェラの細い身体にのしかかる。
もうイヤだ、沢山だ。
叫びたかった。そう言って、小さな子どものように、みっともないぐらい、泣きたくなった。でも、そんな事をしたって意味がないのだ。むしろ事態は悪い方にしか転がらない。それを分かっていて、感情的に振る舞える訳もなく、リュシェラは唇を噛んで押し留めた。
そんなリュシェラを、腕に抱えたイヴァシグスが、酷く痛そうな表情を浮かべながら見つめていた。目を固く瞑って耐える事に必死なリュシェラは、そんな王の顔に気が付く事は全くなかった。
フッと瞑った目蓋越しに、日の陰りを感じて、リュシェラはようやく目を開けた。東屋の下に入ったため、降り注いでいた日の光が遮られたからだった。
しばらく目を瞑り、身体を任せていた分、目眩はだいぶマシになっている。リュシェラはイヴァシグスの腕から降ろしてもらおうと、持たれていた身体に力を込めた。
「危ないから、そのままで居てくれ」
だが、このまま東屋に設置されていた椅子に降ろされる。そんなリュシェラの考えに反して、身体を引き留めたイヴァシグスは、リュシェラを抱えたまま、椅子へと腰掛けた。
唖然とするリュシェラの身体を、支えるように抱え直して、当たり前のように腕を掬う。途端にリュシェラは、身体をビクッと跳ねさせた。
「ケガの確認をするだけだ」
イヴァシグスが気まずそうに、そう言ったのを耳にして、我に返ったリュシェラは、慌てて身動ぎ、離れようと試みる。
「ダメです、お願い、離して下さい!」
「何もしない! 本当にケガを確認するだけだ! 目眩を起こして居ただろう、椅子に1人で座らせるのが危ないのだ」
慌ててその身体を抱き留めて、宥めるように伝えるイヴァシグスの声は、かなり必死の声だった。でも、リュシェラだってこのまま触れ合う訳にはいかないのだ。
「ダメなんです、お願い致します! 離して下さい! お願い、私に触れないで!」
「……この後は、指一本触れないと約束しよう。だから、今だけ、今だけは堪えてくれ」
王であり、命じる事が当たり前なはずなのに。イヴァシグスのその声は、まるで懇願しているようだった。驚いて動きを止め、そこで初めて真っ直ぐに、リュシェラは自分を抱えるイヴァシグスの顔を仰ぎ見た。
兵士とは異なる恰好の臣下へ指示を出せば、残りの臣下達も頭を下げて邸を去る。その後ろ姿を見送るイヴァシグスの視線は鋭い。
決して機嫌が良いようには思えない王の姿に、リュシェラの緊張は最高値まで高まっていた。
(この子達は、守らなきゃ……)
リュシェラの言葉1つで、ここで優しくしてくれた人達を傷付けてしまうかもしれないのだ。何はともあれ、王の前で礼も執らずに、いつまでも座り込んでいて良いはずがない。
リュシェラは身体をよろめかせながら、フラフラと立ち上がった。だけど傷からは相変わらず血が流れており、緊張も酷いリュシェラは、本人が思う以上にもう心身共にボロボロだった。
立ち上がった瞬間、襲った目眩にリュシェラの身体が大きく傾いた。
「危ない!」
イヴァシグスの大きな手が、その身体を掬い上げ、自分の身体に凭れさせる。そのまま周りを見回して、離れた位置にある東屋に気が付けば、そこへ向かって歩き出した。
触れ合ってはいけない。魔石に悟られれば、爆発してしまう。分かっているのに、揺れる振動さえ気持ち悪くて、リュシェラは揺れを軽減するように、思わずイヴァシグスの身体に頭を押し当てた。
「ツラいか、もう少し待っていろ」
なぜかイヴァシグスは酷く焦っているようだった。1度は死を願って、見捨てた隷妃なはずなのに。そんな妃の身体を今さら慮るぐらいの事態とは、いったい何が起きたのだろう。
そんな不安と魔石の不安。そしてリュシェラを支えてくれた人達への不安。積もっていく不安が、リュシェラの細い身体にのしかかる。
もうイヤだ、沢山だ。
叫びたかった。そう言って、小さな子どものように、みっともないぐらい、泣きたくなった。でも、そんな事をしたって意味がないのだ。むしろ事態は悪い方にしか転がらない。それを分かっていて、感情的に振る舞える訳もなく、リュシェラは唇を噛んで押し留めた。
そんなリュシェラを、腕に抱えたイヴァシグスが、酷く痛そうな表情を浮かべながら見つめていた。目を固く瞑って耐える事に必死なリュシェラは、そんな王の顔に気が付く事は全くなかった。
フッと瞑った目蓋越しに、日の陰りを感じて、リュシェラはようやく目を開けた。東屋の下に入ったため、降り注いでいた日の光が遮られたからだった。
しばらく目を瞑り、身体を任せていた分、目眩はだいぶマシになっている。リュシェラはイヴァシグスの腕から降ろしてもらおうと、持たれていた身体に力を込めた。
「危ないから、そのままで居てくれ」
だが、このまま東屋に設置されていた椅子に降ろされる。そんなリュシェラの考えに反して、身体を引き留めたイヴァシグスは、リュシェラを抱えたまま、椅子へと腰掛けた。
唖然とするリュシェラの身体を、支えるように抱え直して、当たり前のように腕を掬う。途端にリュシェラは、身体をビクッと跳ねさせた。
「ケガの確認をするだけだ」
イヴァシグスが気まずそうに、そう言ったのを耳にして、我に返ったリュシェラは、慌てて身動ぎ、離れようと試みる。
「ダメです、お願い、離して下さい!」
「何もしない! 本当にケガを確認するだけだ! 目眩を起こして居ただろう、椅子に1人で座らせるのが危ないのだ」
慌ててその身体を抱き留めて、宥めるように伝えるイヴァシグスの声は、かなり必死の声だった。でも、リュシェラだってこのまま触れ合う訳にはいかないのだ。
「ダメなんです、お願い致します! 離して下さい! お願い、私に触れないで!」
「……この後は、指一本触れないと約束しよう。だから、今だけ、今だけは堪えてくれ」
王であり、命じる事が当たり前なはずなのに。イヴァシグスのその声は、まるで懇願しているようだった。驚いて動きを止め、そこで初めて真っ直ぐに、リュシェラは自分を抱えるイヴァシグスの顔を仰ぎ見た。
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