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第17 平穏の中の違和感
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心が軽くなりそうな、陽気な気候と爽やかな風に反して、ディファラートを中心とした一行からは、殺伐とした雰囲気が漂っていた。
子どものように見えるリュシェラに上手い具合にあしらわれて、苗を与える事になったのだ。ディファラードのプライドが傷付けられたのだろう。
「噂通りに強欲な種族め!敗戦国からの捕虜の立場でありながら、我々魔族を見下しよって!」
だいぶ邸から離れた今でも、顔を赤くしたままそう言って罵っていた。ディファラートを取り巻く兵士に関しては、門外漢だと口を開くつもりがもともとなく。飛び火を避けたかった、使用人達は互いに目配せをしながらも黙っている。
トカゲの男。クゥルーバだけは、ディファラートの言葉を、口に指をあてて考えていた。何度も『強欲な種族め!』と、繰り返しているディファラートに反して、クゥルーバは強欲だとは思わなかった。
─── 嫁いで、妃として傅かれるはずが、食べ物さえ与えられずに放置されていたらしいからな。
そんな中で食料を求めるのは、生き物として当たり前。むしろ、誰の手も借りずに1人で生きていくために、苗や種をねだる事のどこが強欲なのだろうか。クゥルーバは、あの妃からは噂に聞く人間の強欲さも、傲慢さも感じなかった。
挑発的な態度はあったものの、交渉に当たっては強気にでるのはよくある事だ。最後に頭を下げていた姿からも、見下しているとは思わなかった。
─── 何か誤解があるんじゃないか?
クゥルーバは終戦処理に駆り出されていた1人のため、リュシェラが嫁いだ直後の事は分からない。妃の状況を知ったのさえも、今日が初めてだったのだ。
広大な魔国を治めるために、敵に対する非常さはある王だが、決してイヴァシグスは冷酷な王ではない。そのため魔族の民は、平和で穏やかな暮らしをしている。
そんな王が、本当にあんなに幼い妃を、餓死や自死へ追い込むようなマネをするのだろうか。
「……イヴァシグス様は本当に、あの方を捨て置くように言われたのですか? 念のために、確認された方が良いのでは?」
「私が直接、イヴァシグス様から伺ったのだ! 私が嘘を言っているとでも、お前は言うのか!!」
「いえ、そういうつもりはありません。ただ、民へ向けられる慈悲を思うと、違和感を拭いきれないのです」
「ハッ! お前にイヴァシグス様の何が分かるのだ!」
その言葉に、クゥルーバは黙り込んだ。
「それとも何だ。側近である私より、一使用人でしかないお前の方が、イヴァシグス様のお心を知っていると言うのか?」
「そういうつもりは、ございません」
確かに、庇護を受ける一民として、離れた場所からイヴァシグスを見ていたクゥルーバよりは、ディファラートの方が王を知る立場ではある。
だが、ディファラートの方が詳しいとも、クゥルーバは思えなかった。
そもそも、側近とはいえディファラートも、あのリュシェラという人間の妃の輿入れを機に、側近へと上がったばかりだ。
もともと王の側近は12名で構成されている。
一口に魔族と言っても、実際は6つの種族から成り立っていて、1つの種族に偏る事がないように、各種族から臣下を出して、国政・軍事に関する役が分けられていた。
内務、外務、警備、軍備、司法、財務。
この役を持つ6人が通常、王の側に常に居る。
12名の内、残り6名は各種族から1人ずつ娶った妃と王の為の臣下となる。妃が住む邸を管理するバトラーを、妃とは異なる種族から1人ずつ選ぶ。その者が第2の側近で、ディファラートもこの位置だった。
バトラーは邸の管理および、自分が仕える妃とは王との間の調整を図るため、公務をサポートする第1側近と異なり、第2側近の仕事は王の私事のサポートだ。
もともとディファラードは第1側近を望んでいたと聞いた事があった。だが、今回の終戦で、急遽人間の妃の為のバトラーが必要になってしまったのだ。
誰もが人間に仕える事を嫌がった。そんな中で白羽の矢が立ったのが、ディファラードだったと聞いている。
そんな背景を耳にしたことがあるだけに、ディファラートの言葉を鵜呑みに出来ない。だからと言ってこれ以上、クゥルーバはディファラートへ、進言する訳にもいかなかった。
ディファラートはリュシェラ付きのバトラーだ。わずか数時間で、あの邸の使用人全てを動かしてしまうぐらい、あの妃に関わる使用人へは、絶対的な人事権を持っている。
─── いったん状況を確認せねば。
「なら、口を慎め。あの邸に配属されたお前など、どうとでも出来るのだからな」
ここで不況を買ってしまえば、あの妃は全ての魔族から、このまま忘れ去られてしまうのだろう。
「……かしこまりました」
クゥルーバはそれ以上、何も言わずに頭を下げた。
子どものように見えるリュシェラに上手い具合にあしらわれて、苗を与える事になったのだ。ディファラードのプライドが傷付けられたのだろう。
「噂通りに強欲な種族め!敗戦国からの捕虜の立場でありながら、我々魔族を見下しよって!」
だいぶ邸から離れた今でも、顔を赤くしたままそう言って罵っていた。ディファラートを取り巻く兵士に関しては、門外漢だと口を開くつもりがもともとなく。飛び火を避けたかった、使用人達は互いに目配せをしながらも黙っている。
トカゲの男。クゥルーバだけは、ディファラートの言葉を、口に指をあてて考えていた。何度も『強欲な種族め!』と、繰り返しているディファラートに反して、クゥルーバは強欲だとは思わなかった。
─── 嫁いで、妃として傅かれるはずが、食べ物さえ与えられずに放置されていたらしいからな。
そんな中で食料を求めるのは、生き物として当たり前。むしろ、誰の手も借りずに1人で生きていくために、苗や種をねだる事のどこが強欲なのだろうか。クゥルーバは、あの妃からは噂に聞く人間の強欲さも、傲慢さも感じなかった。
挑発的な態度はあったものの、交渉に当たっては強気にでるのはよくある事だ。最後に頭を下げていた姿からも、見下しているとは思わなかった。
─── 何か誤解があるんじゃないか?
クゥルーバは終戦処理に駆り出されていた1人のため、リュシェラが嫁いだ直後の事は分からない。妃の状況を知ったのさえも、今日が初めてだったのだ。
広大な魔国を治めるために、敵に対する非常さはある王だが、決してイヴァシグスは冷酷な王ではない。そのため魔族の民は、平和で穏やかな暮らしをしている。
そんな王が、本当にあんなに幼い妃を、餓死や自死へ追い込むようなマネをするのだろうか。
「……イヴァシグス様は本当に、あの方を捨て置くように言われたのですか? 念のために、確認された方が良いのでは?」
「私が直接、イヴァシグス様から伺ったのだ! 私が嘘を言っているとでも、お前は言うのか!!」
「いえ、そういうつもりはありません。ただ、民へ向けられる慈悲を思うと、違和感を拭いきれないのです」
「ハッ! お前にイヴァシグス様の何が分かるのだ!」
その言葉に、クゥルーバは黙り込んだ。
「それとも何だ。側近である私より、一使用人でしかないお前の方が、イヴァシグス様のお心を知っていると言うのか?」
「そういうつもりは、ございません」
確かに、庇護を受ける一民として、離れた場所からイヴァシグスを見ていたクゥルーバよりは、ディファラートの方が王を知る立場ではある。
だが、ディファラートの方が詳しいとも、クゥルーバは思えなかった。
そもそも、側近とはいえディファラートも、あのリュシェラという人間の妃の輿入れを機に、側近へと上がったばかりだ。
もともと王の側近は12名で構成されている。
一口に魔族と言っても、実際は6つの種族から成り立っていて、1つの種族に偏る事がないように、各種族から臣下を出して、国政・軍事に関する役が分けられていた。
内務、外務、警備、軍備、司法、財務。
この役を持つ6人が通常、王の側に常に居る。
12名の内、残り6名は各種族から1人ずつ娶った妃と王の為の臣下となる。妃が住む邸を管理するバトラーを、妃とは異なる種族から1人ずつ選ぶ。その者が第2の側近で、ディファラートもこの位置だった。
バトラーは邸の管理および、自分が仕える妃とは王との間の調整を図るため、公務をサポートする第1側近と異なり、第2側近の仕事は王の私事のサポートだ。
もともとディファラードは第1側近を望んでいたと聞いた事があった。だが、今回の終戦で、急遽人間の妃の為のバトラーが必要になってしまったのだ。
誰もが人間に仕える事を嫌がった。そんな中で白羽の矢が立ったのが、ディファラードだったと聞いている。
そんな背景を耳にしたことがあるだけに、ディファラートの言葉を鵜呑みに出来ない。だからと言ってこれ以上、クゥルーバはディファラートへ、進言する訳にもいかなかった。
ディファラートはリュシェラ付きのバトラーだ。わずか数時間で、あの邸の使用人全てを動かしてしまうぐらい、あの妃に関わる使用人へは、絶対的な人事権を持っている。
─── いったん状況を確認せねば。
「なら、口を慎め。あの邸に配属されたお前など、どうとでも出来るのだからな」
ここで不況を買ってしまえば、あの妃は全ての魔族から、このまま忘れ去られてしまうのだろう。
「……かしこまりました」
クゥルーバはそれ以上、何も言わずに頭を下げた。
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