愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)

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 受け取る慎重な手つきは、まるで繊細な国宝級の宝でも扱っているようだった。

 ヴィルトス様が小瓶の蓋を開け、唇に押し当てて、傾ける。
 かつて見た光景が、私の脳裏を過っていく。

 解毒薬として、これまで効果は確認していた。
 でも、あの日の禁忌薬に対しては、これが初めての服用だった。本当に、この薬が効いてくれるか分からないのだ。心臓がバクバクと跳ねていた。

 瓶の中が空になり、わずかに濡れた唇を、ヴィルトス様が拭い取る。そのまま黙り込んだ彼は、何を考えているのだろう。

「どうですか……?」

 素直に応えてくれるか分からない。
 でも、これ以上の緊張には、耐えきれなかった。期待と不安が入り交じる。

 私は祈るような気持ちで、ヴィルトス様を見つめていた。

「……いまにも、倒れそうな顔だな」
 
 ヴィルトス様の手が、スルッと私の頬を撫でてきた。温かく、大きくて、剣の鍛錬で固くなった手の平だった。

「ヴィルトス様……」

「……あぁ、ようやくお前に触れられる……」

 ホッと息を吐き出して、ヴィルトス様が私の身体を引き寄せた。痛いぐらいに込められた腕の力は、もう2度と離したくない。そう言っているようだった。

 これまでダンスで引き寄せられた事はあっても、こんな風に抱かれたような覚えはない。初めての距離に、戸惑ってしまう。

「あ、あの……ヴィルトス様……」

 取りあえず、いったん離して欲しかった。
 腕の中で、どうにかもぞもぞと身動げば、黙ったまま抱き締め続けていたヴィルトス様も、ようやく気が付いたようだった。

「あぁ、すまない。苦しかったか?」

 軽く頭にキスをして、ヴィルトス様が力を緩めた。

 抱き締められる事が初めてなら、当然こんな風にキスをされる事も初めてなのだ。こんな時に上手く振る舞えるような、ノウハウなんて持っていない。

 私はわたわたとヴィルトス様の胸を押してみる。
 記憶にあるよりも、厚みの出たヴィルトス様の身体は、これぐらいの力では、ビクともしなかった。緩められた腕にしても、私の身体を囲んだまま、外れる様子はない。

「どうした? もう良いか?」

 良いって何が?
 待って、そもそも私は返事をしていない。

 それなのに、再び抱き締め直されて、ヴィルトス様の頬が私の頭に擦り寄った。
 頭の中が真っ白になって、身動き1つ取れなくなる。

「コホンッ」

 そんな私の後から、わざとらしい咳が1つ聞こえた。

「あ~、あのヴィルトス様。まずは、ご説明された方が良いと思います」

 そう言えば、この部屋は2人きりではなかったのだ。ようやく、アンガルドさんを思い出して、私は思わず悲鳴をあげた
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