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第51 終わりが始まる 1
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「貴女がレナね、話はマエリスからずっと聞いていたわ。お会いできる日を楽しみにしていましたのよ」
カナトス家の皆様に続いて挨拶をする。その直後に呼ばれた愛称に、私は思わず目を見開いた。まさか王太后様からもそうやって呼ばれるなんて。私はあまりの驚きに返事が一瞬遅れてしまう。
「…そのように仰って頂き光栄でございます」
「今日は私のプライベートなお茶会ですから、私もレナとお呼びしますわね」
「王太后にそのようにお呼び頂けるなど、幸甚の至りでございます」
「ふふっ、ここではそのように固く構えなくても大丈夫ですよ」
プライベートなお茶会というのは本当だったのだろう。微笑んで私にそう言った王太后様は王族というにはあまりに気さくな雰囲気で私に話しかけていた。
「今日は我が家の意を酌んで頂きありがとうございます」
「とんでもないわ。マエリスのたっての願いですもの。あとはこれで王室への遺恨を流してくれれば良いのですけど」
「そう仰って頂き感謝の念に堪えません。ですが王太后様、あの戦争はもう過去のもの。私どもカナトス家はあの件については遺恨を抱いてはおりませんよ」
それはカナトス家が補給路を断たれて、我が家が爵位を賜る切っ掛けになった戦争のことだろう。たしか補給路が断たれたきっかけが、皇太子派と王弟派の内紛だったはずだ。
加熱していた内部争いの結果、突然のヴァラハテール国からの侵略の時には近隣諸侯は援軍の兵を挙げることさえできない状況だったらしい。
その時に侵略をカナトス領だけで食い止めたことへの勲功という名前の報償で、最大限の自治権を与えられている。
どこまで本気か分からない言葉だった。だけど王室への遺恨など、私が聞いて良いような話ではない。
思わずマエリス様を窺えば、マエリス様は慣れていることなのだろう。苦笑を浮かべながら首を振って見せただけだった。
「それでしたらもう少し宮中へ顔を出しても良いではないですか」
「宮中は派閥の争いが盛んですので。ですが王太后様のお誘いへはいつだって応じておりますわ」
そんなマエリス様の言葉へ王太后様は「そうね」と大きく溜息を吐いた。
「カナトス家が取り込まれてしまえば、バランスは大きく変わりますから、仕方ありませんわね。本当はもう少しそばに居て欲しいのですけど」
「そう仰って頂けるのは光栄ですわ」
もう1度溜息を吐きながら微笑んだ王太后様にフワリとマエリス様も笑っていた。気兼ねなくお話しをされている様子から、日頃懇意とされているというのは本当なのだろう。
そんなお二人の会話が一段落ついたところで、そろそろお茶会の時間だと言われて別な部屋へ案内をされた。
扉が開かれて王太后様が入室する。その後に続いてカナトス辺境伯にマエリス様が入室し、私もリオネル様にエスコートされて部屋の中へ踏み入れた。
ついにこの時が来てしまったのだ。
お茶会の招待客を聞いていた時に覚悟は決めたつもりだったのに、私の指先はどんどん冷たくなっていくようだった。
私は先に席へ通されていた2人を見た。ここに居る誰よりも遠くて近い私のお父様とお母様の姿に、王太后様へ謁見するのとはまた違った緊張をしてしまう。
久しぶりに会ったはずなのに、喜びも懐かしさも湧いてはこなかった。ただ一瞬だけ真っ直ぐに絡んだお母様の視線が、手元にある綺麗な扇に落とされる。
それがお母様が不愉快なモノを見たときの癖だと私は知っていた。
思わず表情が強ばってしまいそうだった。それでも笑顔を必死に保ち続ける私の手に、リオネル様の手が重なった。
その温もりが、いまの私には支えだった。
カナトス家の皆様に続いて挨拶をする。その直後に呼ばれた愛称に、私は思わず目を見開いた。まさか王太后様からもそうやって呼ばれるなんて。私はあまりの驚きに返事が一瞬遅れてしまう。
「…そのように仰って頂き光栄でございます」
「今日は私のプライベートなお茶会ですから、私もレナとお呼びしますわね」
「王太后にそのようにお呼び頂けるなど、幸甚の至りでございます」
「ふふっ、ここではそのように固く構えなくても大丈夫ですよ」
プライベートなお茶会というのは本当だったのだろう。微笑んで私にそう言った王太后様は王族というにはあまりに気さくな雰囲気で私に話しかけていた。
「今日は我が家の意を酌んで頂きありがとうございます」
「とんでもないわ。マエリスのたっての願いですもの。あとはこれで王室への遺恨を流してくれれば良いのですけど」
「そう仰って頂き感謝の念に堪えません。ですが王太后様、あの戦争はもう過去のもの。私どもカナトス家はあの件については遺恨を抱いてはおりませんよ」
それはカナトス家が補給路を断たれて、我が家が爵位を賜る切っ掛けになった戦争のことだろう。たしか補給路が断たれたきっかけが、皇太子派と王弟派の内紛だったはずだ。
加熱していた内部争いの結果、突然のヴァラハテール国からの侵略の時には近隣諸侯は援軍の兵を挙げることさえできない状況だったらしい。
その時に侵略をカナトス領だけで食い止めたことへの勲功という名前の報償で、最大限の自治権を与えられている。
どこまで本気か分からない言葉だった。だけど王室への遺恨など、私が聞いて良いような話ではない。
思わずマエリス様を窺えば、マエリス様は慣れていることなのだろう。苦笑を浮かべながら首を振って見せただけだった。
「それでしたらもう少し宮中へ顔を出しても良いではないですか」
「宮中は派閥の争いが盛んですので。ですが王太后様のお誘いへはいつだって応じておりますわ」
そんなマエリス様の言葉へ王太后様は「そうね」と大きく溜息を吐いた。
「カナトス家が取り込まれてしまえば、バランスは大きく変わりますから、仕方ありませんわね。本当はもう少しそばに居て欲しいのですけど」
「そう仰って頂けるのは光栄ですわ」
もう1度溜息を吐きながら微笑んだ王太后様にフワリとマエリス様も笑っていた。気兼ねなくお話しをされている様子から、日頃懇意とされているというのは本当なのだろう。
そんなお二人の会話が一段落ついたところで、そろそろお茶会の時間だと言われて別な部屋へ案内をされた。
扉が開かれて王太后様が入室する。その後に続いてカナトス辺境伯にマエリス様が入室し、私もリオネル様にエスコートされて部屋の中へ踏み入れた。
ついにこの時が来てしまったのだ。
お茶会の招待客を聞いていた時に覚悟は決めたつもりだったのに、私の指先はどんどん冷たくなっていくようだった。
私は先に席へ通されていた2人を見た。ここに居る誰よりも遠くて近い私のお父様とお母様の姿に、王太后様へ謁見するのとはまた違った緊張をしてしまう。
久しぶりに会ったはずなのに、喜びも懐かしさも湧いてはこなかった。ただ一瞬だけ真っ直ぐに絡んだお母様の視線が、手元にある綺麗な扇に落とされる。
それがお母様が不愉快なモノを見たときの癖だと私は知っていた。
思わず表情が強ばってしまいそうだった。それでも笑顔を必死に保ち続ける私の手に、リオネル様の手が重なった。
その温もりが、いまの私には支えだった。
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