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第39 さよなら、恋の期間 3
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「あの、何かあったのでしょうか?」
パッと見た感じではいつものカナトス家の食卓だった。だけど何か雰囲気がふわふわと浮き足だっているような感じなのだ。
「えぇ、待っていた良い知らせがありましたの」
マエリス様の笑顔がすがすがしい。美しい顔立ちでこうも晴れやかに笑われると、なんだか圧倒されるようだった。
何の知らせだったのかは、分からない。部外者でしかない私がズカズカと踏み込んで良いようなことじゃないだろう。
それでもリオネル様も嬉しそうな雰囲気で、カナトス卿も穏やかな笑みを浮かべていた。
「そうだったんですね」
何だか空気が暖かい。
大切だと思う人達の楽しそうな姿も見ているだけで、私まで何だか嬉しくなってくる。こんなことは始めてだった。
一緒に過ごす人達次第で気持ちはこんなにも変わるのかと、驚きながら私は目の前の紅茶に口を付けた。
「クラウス様は昨夜からこちらへ?」
一緒に朝食を食べているクラウス様の姿も珍しい。
特に最近ではリオネル様の依頼でどこかに行かれていたらしい。そのためお会いするのは久しぶりだった。
きっとその嬉しい報告をもたらしたのもクラウス様なのだろう。
「あぁ、遅かったからなそのまま泊まらせてもらった。さんざんこき使われたからな。今日はいったん帰って、また明日こよう」
「悪かった。だがお前のおかげでようやく先に進める。感謝しているぞ」
私とクラウス様の会話へリオネル様が横から混ざってくる。
「…長かったな、お前の執着心を尊敬するよ」
「執着心って、人聞きが悪い」
「いや、実際そうだろ。レナ様も大変だ。レナ様、たえきれなくなったら、ちゃんと言って下さいね」
「だから!お前はそうやって、サラッといらないことばかりを言うんじゃない!」
「いやいや!俺が言っているのは真実だけで、いらないことなど言ってないぞ!」
突然会話を振られたと思えば舞踏会の時のように2人の空気がどんどん不穏になっていく。そんな2人を交互に見比べながら私は戸惑うだけだった。
「お止めなさい」
そんな2人が黙り込んだ一瞬に、マエリス様の冷たい声が聞こえてくる。
「なんです、良い歳をして食事の場でみっともない」
マエリス様へはさすがの2人も反論できないのだろう。
2人がムスッとした顔で黙り込む。その姿はまるで子どもがやんちゃをして、叱られているようだった。
「ごらんなさい、レナも戸惑っているでしょう」
だけど続いた言葉に2人がハッとした顔で私の方を振り返った。どこか気まずそうな2人の表情に私はクスッと笑ってしまう。
市井では、冷静沈着で聡明だと言われているリオネル様なはずなのだ。クラウス様にしても、執務室で見かける飄々と真意が読めない笑顔はすっかり消えてしまっている。
「本当にお二人はとても仲がよろしいのですね。喧嘩をされていても互いに信頼し合っているのが伝わるようです。このままずっと変わらないお2人でいて下さい」
本来なら不遜になるような言葉かもしれない。でもリオネル様が愛しているエレンからの言葉であれば、きっと不快にはならないだろう。
「……そうだな」
「はい、お互いに補い合える人がいるなんて幸せですもの。だからどれだけ喧嘩をなさってても、ちゃんと仲直りされて下さいね。お2人がずっと変わらずにいて、今日のような日々が続くと私も嬉しく思います」
そんな風に続いている未来を思うと、心が温かくなってクスクスとまた笑ってしまった。
気軽に喧嘩をしあえる関係を含めて、いつまでも変わらない姿でいてくれたなら。
離れて居ても、今日もきっとカナトス家やクラウス様は幸せに過ごしていらっしゃる、と思っていられるのだ。
そんなワガママからの思いだけど。
大好きだと思える人達の幸せな日々を信じて過ごしていく時間は、やっぱり幸せだと感じられた。
パッと見た感じではいつものカナトス家の食卓だった。だけど何か雰囲気がふわふわと浮き足だっているような感じなのだ。
「えぇ、待っていた良い知らせがありましたの」
マエリス様の笑顔がすがすがしい。美しい顔立ちでこうも晴れやかに笑われると、なんだか圧倒されるようだった。
何の知らせだったのかは、分からない。部外者でしかない私がズカズカと踏み込んで良いようなことじゃないだろう。
それでもリオネル様も嬉しそうな雰囲気で、カナトス卿も穏やかな笑みを浮かべていた。
「そうだったんですね」
何だか空気が暖かい。
大切だと思う人達の楽しそうな姿も見ているだけで、私まで何だか嬉しくなってくる。こんなことは始めてだった。
一緒に過ごす人達次第で気持ちはこんなにも変わるのかと、驚きながら私は目の前の紅茶に口を付けた。
「クラウス様は昨夜からこちらへ?」
一緒に朝食を食べているクラウス様の姿も珍しい。
特に最近ではリオネル様の依頼でどこかに行かれていたらしい。そのためお会いするのは久しぶりだった。
きっとその嬉しい報告をもたらしたのもクラウス様なのだろう。
「あぁ、遅かったからなそのまま泊まらせてもらった。さんざんこき使われたからな。今日はいったん帰って、また明日こよう」
「悪かった。だがお前のおかげでようやく先に進める。感謝しているぞ」
私とクラウス様の会話へリオネル様が横から混ざってくる。
「…長かったな、お前の執着心を尊敬するよ」
「執着心って、人聞きが悪い」
「いや、実際そうだろ。レナ様も大変だ。レナ様、たえきれなくなったら、ちゃんと言って下さいね」
「だから!お前はそうやって、サラッといらないことばかりを言うんじゃない!」
「いやいや!俺が言っているのは真実だけで、いらないことなど言ってないぞ!」
突然会話を振られたと思えば舞踏会の時のように2人の空気がどんどん不穏になっていく。そんな2人を交互に見比べながら私は戸惑うだけだった。
「お止めなさい」
そんな2人が黙り込んだ一瞬に、マエリス様の冷たい声が聞こえてくる。
「なんです、良い歳をして食事の場でみっともない」
マエリス様へはさすがの2人も反論できないのだろう。
2人がムスッとした顔で黙り込む。その姿はまるで子どもがやんちゃをして、叱られているようだった。
「ごらんなさい、レナも戸惑っているでしょう」
だけど続いた言葉に2人がハッとした顔で私の方を振り返った。どこか気まずそうな2人の表情に私はクスッと笑ってしまう。
市井では、冷静沈着で聡明だと言われているリオネル様なはずなのだ。クラウス様にしても、執務室で見かける飄々と真意が読めない笑顔はすっかり消えてしまっている。
「本当にお二人はとても仲がよろしいのですね。喧嘩をされていても互いに信頼し合っているのが伝わるようです。このままずっと変わらないお2人でいて下さい」
本来なら不遜になるような言葉かもしれない。でもリオネル様が愛しているエレンからの言葉であれば、きっと不快にはならないだろう。
「……そうだな」
「はい、お互いに補い合える人がいるなんて幸せですもの。だからどれだけ喧嘩をなさってても、ちゃんと仲直りされて下さいね。お2人がずっと変わらずにいて、今日のような日々が続くと私も嬉しく思います」
そんな風に続いている未来を思うと、心が温かくなってクスクスとまた笑ってしまった。
気軽に喧嘩をしあえる関係を含めて、いつまでも変わらない姿でいてくれたなら。
離れて居ても、今日もきっとカナトス家やクラウス様は幸せに過ごしていらっしゃる、と思っていられるのだ。
そんなワガママからの思いだけど。
大好きだと思える人達の幸せな日々を信じて過ごしていく時間は、やっぱり幸せだと感じられた。
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