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第28 あの日に出会った貴女がいない 4
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『彼女だ!!』
『エレン嬢がどうかしたのか?』
『違う!!あの日の彼女だ!!』
そう言った俺にクラウスは意味が分からないといった顔を向けていた。言葉にすることは難しかった。
『いや、いつものエレン嬢だろ?』
確かに見た目はそうだった。でも違うのだ。
フッとした時の表情も、何かに興味を抱いて視線を向ける物も違う。何かを考え込む時の表情が違う。
『いや、俺には同じようにしか見えないぞ』
明らかに違う2人を同じ人物として見ているクラウスに俺は唖然としてしまう。
『2人なのに1人…。どういうことだ……?』
『違う2人を1人と勘違いしてるっていうのか? そんなの双子ならまだしも、ブランシャール卿に娘は1人だけだぞ』
そんなことはさんざん調べたのだから分かってはいる。だけど実際に2人で1人のブランシャール男爵令嬢を演じているような状態なのだ。
『双子……忌み子…』
『……まさかだろ。そんなことになれば王室統治法への違反で重罪だぞ』
『でも、彼女とエレン嬢が双子で彼女が隠されているとしたら、いまの状況を含めて色々辻褄が合うだろう』
『……俺にはいつものエレン嬢と同じに見えるがな。それに場合によっては、統治法違反は死罪なんだぞ。家族1人あたりに払う人頭税だって、これだけ大きな商会を持っていて払えないわけでもない。わざわざ娘を間引くメリットもないのに、そんなリスクを犯すか?』
『因習なんてそんなもんだ。ただリスクは避けたいだろうからな、きっとブランシャール卿ならそうしている』
『どういうことだ?』
『国は人頭税さえ納められていれば何も言わない。きっと国に対しては2人分の登録をされているはずだ』
『あまりに壮大だな……バカバカしいお話しに聞こえるが、お前は自信があるのか?』
『賭けてもいい』
『なら、俺が勝ったらもうこんな彼女探しは止めてくれ。それで、お前が勝ったらどこまでもお前に協力してやるよ』
『いいのか? これは俺が勝つぞ?』
『かまわないさ。俺はお前が幸せになってくれるんなら、どっちに転んだって良いからな』
声も掛けられないまま、あの日の彼女が馬車に乗っていく姿に慌てて俺もクラウスも馬で追いかける。気付かれないように、それでも見失ってしまわないように。
2年以上をかけて初めてつかんだ可能性に俺は必死だった。
そして馬車はよく見慣れたブランシャール男爵家の敷地へと入っていった。
『ずっとここにいたのか……』
治めている領地内で彼女がずっとそんな扱いを受けていたことが苦しくて、手綱を握る手に力がこもっていった。
『エレン嬢がどうかしたのか?』
『違う!!あの日の彼女だ!!』
そう言った俺にクラウスは意味が分からないといった顔を向けていた。言葉にすることは難しかった。
『いや、いつものエレン嬢だろ?』
確かに見た目はそうだった。でも違うのだ。
フッとした時の表情も、何かに興味を抱いて視線を向ける物も違う。何かを考え込む時の表情が違う。
『いや、俺には同じようにしか見えないぞ』
明らかに違う2人を同じ人物として見ているクラウスに俺は唖然としてしまう。
『2人なのに1人…。どういうことだ……?』
『違う2人を1人と勘違いしてるっていうのか? そんなの双子ならまだしも、ブランシャール卿に娘は1人だけだぞ』
そんなことはさんざん調べたのだから分かってはいる。だけど実際に2人で1人のブランシャール男爵令嬢を演じているような状態なのだ。
『双子……忌み子…』
『……まさかだろ。そんなことになれば王室統治法への違反で重罪だぞ』
『でも、彼女とエレン嬢が双子で彼女が隠されているとしたら、いまの状況を含めて色々辻褄が合うだろう』
『……俺にはいつものエレン嬢と同じに見えるがな。それに場合によっては、統治法違反は死罪なんだぞ。家族1人あたりに払う人頭税だって、これだけ大きな商会を持っていて払えないわけでもない。わざわざ娘を間引くメリットもないのに、そんなリスクを犯すか?』
『因習なんてそんなもんだ。ただリスクは避けたいだろうからな、きっとブランシャール卿ならそうしている』
『どういうことだ?』
『国は人頭税さえ納められていれば何も言わない。きっと国に対しては2人分の登録をされているはずだ』
『あまりに壮大だな……バカバカしいお話しに聞こえるが、お前は自信があるのか?』
『賭けてもいい』
『なら、俺が勝ったらもうこんな彼女探しは止めてくれ。それで、お前が勝ったらどこまでもお前に協力してやるよ』
『いいのか? これは俺が勝つぞ?』
『かまわないさ。俺はお前が幸せになってくれるんなら、どっちに転んだって良いからな』
声も掛けられないまま、あの日の彼女が馬車に乗っていく姿に慌てて俺もクラウスも馬で追いかける。気付かれないように、それでも見失ってしまわないように。
2年以上をかけて初めてつかんだ可能性に俺は必死だった。
そして馬車はよく見慣れたブランシャール男爵家の敷地へと入っていった。
『ずっとここにいたのか……』
治めている領地内で彼女がずっとそんな扱いを受けていたことが苦しくて、手綱を握る手に力がこもっていった。
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