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第19 サポート役ですから…? 4
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「トパストに含まれていた水分が長い年月で蒸発して硬度と透明度を増したのがオルスクレームです。ここまで美しく澄んでいるのでしたらかなり長い年月が必要だったはずなので、とても希少価値が高いと思います」
それを安価なトパストと間違えられるのでは、法外な金額を払ってこの宝石を手に入れた者達には我慢できないことなのだろう。
そのため商人の間では、確証を持てない限りは貴族にトパストという単語は避けている状況なのだ。
「えぇ、そうなんです!」
「特にオルスクレームの生産と加工の技術は隣国のヴァラハテール王国の専売なので、我が家の商会でもなかなか手に入れることができません」
ヴァラハテール国は今でこそ停戦協定が結ばれているが、我が家が爵位を賜った戦争の相手国なのだ。あれから100年以上停戦状態は保たれていても、和平条約でないため国交は正常化してるとは言えなかった。
そんなすごい物を持っているのだという遠回しの言葉はメリーナ様にも伝わったようだ。ますます綻んでいく顔は自慢気な様子だった。
「なかなか手に入れることはできないものですが、我が家にはヴァラハテール国の商人にも特別なルートがありますから」
「まぁ、素晴らしいです。伯爵家となりますとやはり男爵家の我が家とは違うのですね」
あからさまなおべっかに近い言葉だけど、それでもすでに上機嫌となっているメリーナ様には心地良い言葉のようだった。
「今回は麦のお値段をいつもよりもお安くして差し上げる代わりに、入手してきて頂きましたの。最近は豊作が続いておりますから、その程度で色々便宜をはかって頂けるのでしたら我が家としても悪い話ではございませんもの」
楽しそうな様子で色々お話しをしてくれた。
だが本当は麦は備蓄から流通まで国で管理がされている。豊作だからといって安易に売買できるものではないのだ。しかもそれが停戦中とはいえ敵国であるはずのヴァラハテール国となればさらに問題は大きくなってしまう。
思っていた以上にマズイ状況だった。だけどメリーナ様の口の軽さを見ている限り、事の重大さを認識しているようには思えなかった。
知ってしまった状況にドキドキして掌がジンワリと汗ばんでくる。このことをリオネル様へお伝えした方が良いのだろうか。でも下手をすればグラネルト伯爵家に嫌疑がかかる可能性もあるのだ。
とりあえずこのことはテラスで1人になってからしっかり考えたかった。
「…そのように特別なルートを持っていらっしゃるメリーナ様だからこそ手に入れられた物ですから、一見して『オルスクレーム』の名前を当てるのは難しいかと存じます」
あとは早く1人になるためにもエディス様のフォローをしつつ、会話をこれ以上広げないように気をつけて打ち切る方向にもっていく。
「そうね、確かに意地悪だったかもしれないわね。見かけたこともなければ判断はつきませんものね」
『特別』といった言葉でだいぶ機嫌が直っていたのか、エディス様を見るメリーナ様の表情からはさっきまであった不機嫌そうな様子はなかった。
「それでは私はベルナデット様からもお声を掛けられておりますので、そろそろ失礼致しますわ」
その名前も日頃エディス様と一緒にメリーナ様のおそばにいる1人として、エレンから聞いたことのある名前だった。きっと1人でも多くの人へそのペンダントをお披露目したいのだろう。去って行く後ろ姿に私はホッと胸をなで下ろした。
「それでは私もそろそろーーー」
「…いったいどういうおつもりですの!?」
テラスに向かうためにお暇を告げようとしていた私の言葉にエディス様の声が重なってくる。声量を押し殺しながらも怒りを感じるその声に、私はそっと溜息を吐いて真っ赤になったエディス様の顔を見つめた。
それを安価なトパストと間違えられるのでは、法外な金額を払ってこの宝石を手に入れた者達には我慢できないことなのだろう。
そのため商人の間では、確証を持てない限りは貴族にトパストという単語は避けている状況なのだ。
「えぇ、そうなんです!」
「特にオルスクレームの生産と加工の技術は隣国のヴァラハテール王国の専売なので、我が家の商会でもなかなか手に入れることができません」
ヴァラハテール国は今でこそ停戦協定が結ばれているが、我が家が爵位を賜った戦争の相手国なのだ。あれから100年以上停戦状態は保たれていても、和平条約でないため国交は正常化してるとは言えなかった。
そんなすごい物を持っているのだという遠回しの言葉はメリーナ様にも伝わったようだ。ますます綻んでいく顔は自慢気な様子だった。
「なかなか手に入れることはできないものですが、我が家にはヴァラハテール国の商人にも特別なルートがありますから」
「まぁ、素晴らしいです。伯爵家となりますとやはり男爵家の我が家とは違うのですね」
あからさまなおべっかに近い言葉だけど、それでもすでに上機嫌となっているメリーナ様には心地良い言葉のようだった。
「今回は麦のお値段をいつもよりもお安くして差し上げる代わりに、入手してきて頂きましたの。最近は豊作が続いておりますから、その程度で色々便宜をはかって頂けるのでしたら我が家としても悪い話ではございませんもの」
楽しそうな様子で色々お話しをしてくれた。
だが本当は麦は備蓄から流通まで国で管理がされている。豊作だからといって安易に売買できるものではないのだ。しかもそれが停戦中とはいえ敵国であるはずのヴァラハテール国となればさらに問題は大きくなってしまう。
思っていた以上にマズイ状況だった。だけどメリーナ様の口の軽さを見ている限り、事の重大さを認識しているようには思えなかった。
知ってしまった状況にドキドキして掌がジンワリと汗ばんでくる。このことをリオネル様へお伝えした方が良いのだろうか。でも下手をすればグラネルト伯爵家に嫌疑がかかる可能性もあるのだ。
とりあえずこのことはテラスで1人になってからしっかり考えたかった。
「…そのように特別なルートを持っていらっしゃるメリーナ様だからこそ手に入れられた物ですから、一見して『オルスクレーム』の名前を当てるのは難しいかと存じます」
あとは早く1人になるためにもエディス様のフォローをしつつ、会話をこれ以上広げないように気をつけて打ち切る方向にもっていく。
「そうね、確かに意地悪だったかもしれないわね。見かけたこともなければ判断はつきませんものね」
『特別』といった言葉でだいぶ機嫌が直っていたのか、エディス様を見るメリーナ様の表情からはさっきまであった不機嫌そうな様子はなかった。
「それでは私はベルナデット様からもお声を掛けられておりますので、そろそろ失礼致しますわ」
その名前も日頃エディス様と一緒にメリーナ様のおそばにいる1人として、エレンから聞いたことのある名前だった。きっと1人でも多くの人へそのペンダントをお披露目したいのだろう。去って行く後ろ姿に私はホッと胸をなで下ろした。
「それでは私もそろそろーーー」
「…いったいどういうおつもりですの!?」
テラスに向かうためにお暇を告げようとしていた私の言葉にエディス様の声が重なってくる。声量を押し殺しながらも怒りを感じるその声に、私はそっと溜息を吐いて真っ赤になったエディス様の顔を見つめた。
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