妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)

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第4 全ての始まり 3

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「名乗るのが遅くなって申し訳ございません。エレン=ブランシャールと申します。よろしくお願いします」

「…エレン…では、レナと呼んでも良いだろうか?」

一瞬だけリオネル様が黙り込む。
私は気付かれてしまったのかと血の気が引いた。
だから、そのまま気安く愛称で呼ばれたことを気にしている余裕なんて全くなかった。

「はい、かまいません」

だって、そんなことなんて正体がばれてしまうことに比べれば些細なことだ。それにレナという愛称ならエレナにも通じる愛称だった。これなら呼ばれたときに罪悪感を感じずに返事ができる。

「ですが、リオネル様はそれでもよろしいのでしょうか?」

愛称で呼ぶなど、他の人が聞けば関係を誤解されかねない。

「レナが良いなら、私はかまわない」

さっそく呼び始めたリオネル様に私はとても驚いた。
将来有望でおもてになる状況に反して、女性との浮いた話は聞いたことはなかった。でもその様子は仕事だけに埋没して、女性と交流がなかったようには見えない。

「リオネル様…なんだか慣れていらっしゃいますね?」

「まさか!そんなことはない!」

何をそんなに焦っているのだろう。私はコテンと首をかしげた。

リオネル様が例え女性に慣れていたとしても私が何かを言う立場ではない。それにリオネル様なら遊びで手を出すような不誠実な真似はしないだろう。

目の前のリオネル様を見ていれば、その誠実さが伝わってくる。人の悪意をさんざん見てきたせいか、こういった直感には自信があった。

1年間だけでもそばにいられることが嬉しい私にとっては、そうやって呼んでもらえることは幸せでしかなかった。それにうちの両親だって、きっと私に悪い噂がついたとたん、正体をバラしてエレンのことを守るだろう。

それなら誰も傷付かない。

「と、とりあえずこれからはレナと呼ばせてもらおう」

「はい」

レナと呼ぶ声がエレンではなくて、本当に私を呼んでいるみたいだ。エレンのフリをするのとは違った緊張がまたあった。頬が熱くなって返事をする声が震えてしまう。

「じゃあ、こっちに来てもらえるか。部屋へ案内しよう。荷物は?」

だけど次に聞こえたリオネル様の言葉に、私は胃の辺りがキュッとなった。

荷物なんて持っていない。だってどこに連れて行かれるのかも分からないまま、馬車に押し込められたのだ。あの父が私のために着替えだとか、そんな物に気を回すはずがない。

「申し訳ございません…かなり急なことでしたので…」

私はあまりの状況に顔が上げられなかった。

自分の着替えさえも持たされずに、1年間も他の屋敷へ送り込まれる令嬢なんて普通はいない。
男爵家とはいえ、うちは商会のおかげでそれなりに羽振りは良い方だ。決して貧しいわけでもないのに、この着ているドレス以外には何もないというのは誰から見てもおかしいだろう。

私がもし本物のエレンなら、お父様も新しいドレスをいくつも持たせたはずだ。この違和感でエレンではないと気付かれてしまったら、そう思うと不安だった。

それにもし気付かれなかったとしても、こんな惨めな状態があまりにも恥ずかしい。

リオネル様はどんな顔をしているのだろう。
不安で情けなくて、恥ずかしくて。私はどうしても顔を上げることができなかった。
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