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第2 全ての始まり 1
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エレンと私エレナは双子だった。
何代か前の王の政策によって、双子を忌み子として扱うことは禁止されていた。
先に生まれた子どもを遺棄したり、殺したり、そんなことが禁止されている時代に生まれたことは私にとって数少ない幸運だった。
だけどいつの時代でも因習にこだわる人達はいる。
私の場合、それが両親だったということが全ての不運の始まりだった。
国の防御の要の都市。東の都と言われるカナトス。
その大都市の中でも私の実家はそれなりに大きな商会を持つ男爵家だ。
そんな両親の元で後から生まれたエレンは長女として大切に育てられていた。そして私のことには見向きもしなかった。
家族というよりは、ほとんど使用人とした扱いの毎日。そんな日々が変わったのはカナトス辺境伯家の令息リオネル様がエレンを庇って事故に巻き込まれてからだった。
エレンが直接傷付けたわけじゃない。でもエレンの不注意が招いた事故に、このままではマズイ状態なのだろう。
あの日以来、ピリピリとした様子が屋敷の中には漂っていた。
「エレンはどこですか?」
当の本人が見当たらない状況に、私もどんどん心配になる。思いきって尋ねた両親は知っているのだろう。だけど私には教えてくれる気はなさそうだった。
そんな張り詰めた状況の中だった。
差し出されたエレンのドレスに私は目を瞬いた。
汚れるからと触ることが許されていなかったはずなのに。突然着替えを命じられ、髪の毛も綺麗に結い上げられた。
エレンよりは健康的に日に焼けた肌におしろいをはたかれたのも初めてだった。そのまま馬車へ押し込まれた私は何が何だか分からない。
「どこに向かうんですか?」
「良いからお前は黙っていろ。エレナ、いや違う。お前はこの瞬間から、私が良いと言うまでエレンとして生きていろ」
冷たい眼で私を見ているお父様が何を言っているのか分からなかった。
それでも見向きもされてこなかった私という存在が、ついに消されてしまった。そのことだけは理解できて、何も言葉が出なくなる。
「先日の事故の代償としてエレンを治癒するまでの間差し出せと言ってきた」
「カナトス卿がですか?」
その言葉に私は驚きを隠せなかった。
カナトス卿といえば、位の高さに反して傲った所がなく、公明正大な人柄だったはずだ。その令息であるリオネル様も人目を引くお姿と聡明さで引く手数多の状態なのだ。
抱えられた使用人だって我が家の比じゃない。それなのになぜ、我が家にそんなことを言い出したのだろう。
「辺境伯であるカナトス卿に逆らうわけにはいかんが、おいおいと差し出してしまってエレンに傷がついても困る。お前なら嫁ぐ心配もないだろう。エレンの代わりに仕えてこい」
愛されていないことは知っていた。でもこうもハッキリと捨て駒なのだと言われれば、やっぱり心は痛かった。
「もしリオネル様を上手くたらし込めれば、正式に嫁がせるエレンの代わりに戻してやる」
分かったな、というお父様の顔は不快そうに歪んでいた。
何代か前の王の政策によって、双子を忌み子として扱うことは禁止されていた。
先に生まれた子どもを遺棄したり、殺したり、そんなことが禁止されている時代に生まれたことは私にとって数少ない幸運だった。
だけどいつの時代でも因習にこだわる人達はいる。
私の場合、それが両親だったということが全ての不運の始まりだった。
国の防御の要の都市。東の都と言われるカナトス。
その大都市の中でも私の実家はそれなりに大きな商会を持つ男爵家だ。
そんな両親の元で後から生まれたエレンは長女として大切に育てられていた。そして私のことには見向きもしなかった。
家族というよりは、ほとんど使用人とした扱いの毎日。そんな日々が変わったのはカナトス辺境伯家の令息リオネル様がエレンを庇って事故に巻き込まれてからだった。
エレンが直接傷付けたわけじゃない。でもエレンの不注意が招いた事故に、このままではマズイ状態なのだろう。
あの日以来、ピリピリとした様子が屋敷の中には漂っていた。
「エレンはどこですか?」
当の本人が見当たらない状況に、私もどんどん心配になる。思いきって尋ねた両親は知っているのだろう。だけど私には教えてくれる気はなさそうだった。
そんな張り詰めた状況の中だった。
差し出されたエレンのドレスに私は目を瞬いた。
汚れるからと触ることが許されていなかったはずなのに。突然着替えを命じられ、髪の毛も綺麗に結い上げられた。
エレンよりは健康的に日に焼けた肌におしろいをはたかれたのも初めてだった。そのまま馬車へ押し込まれた私は何が何だか分からない。
「どこに向かうんですか?」
「良いからお前は黙っていろ。エレナ、いや違う。お前はこの瞬間から、私が良いと言うまでエレンとして生きていろ」
冷たい眼で私を見ているお父様が何を言っているのか分からなかった。
それでも見向きもされてこなかった私という存在が、ついに消されてしまった。そのことだけは理解できて、何も言葉が出なくなる。
「先日の事故の代償としてエレンを治癒するまでの間差し出せと言ってきた」
「カナトス卿がですか?」
その言葉に私は驚きを隠せなかった。
カナトス卿といえば、位の高さに反して傲った所がなく、公明正大な人柄だったはずだ。その令息であるリオネル様も人目を引くお姿と聡明さで引く手数多の状態なのだ。
抱えられた使用人だって我が家の比じゃない。それなのになぜ、我が家にそんなことを言い出したのだろう。
「辺境伯であるカナトス卿に逆らうわけにはいかんが、おいおいと差し出してしまってエレンに傷がついても困る。お前なら嫁ぐ心配もないだろう。エレンの代わりに仕えてこい」
愛されていないことは知っていた。でもこうもハッキリと捨て駒なのだと言われれば、やっぱり心は痛かった。
「もしリオネル様を上手くたらし込めれば、正式に嫁がせるエレンの代わりに戻してやる」
分かったな、というお父様の顔は不快そうに歪んでいた。
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