天上の桜

乃平 悠鼓

文字の大きさ
上 下
92 / 189
第二章

雪中四友 〜蠟梅の咲く頃〜 《一》

しおりを挟む
あけましておめでとうございます m(__)m
今年一年の皆様のご多幸とご健康をお祈りいたします(人*´∀`)。*゜+

本年も、よろしくお願いいたします。\(^O^)/









********

「いったい、どうするんだよ!」
「なんでこんなことに!」

 頼れる者は誰もいない。死んだように眠り続ける父と母を前にして、幼い兄弟に何ができるだろうか。

「お父様とお母様を、助けたいですか」
「だれだ!」
「おまえ…は」

 兄弟の前に現れたのは、一ヶ月前に母が拾ってきた女怪だった。









 平頂山へいちょうざんにある洞窟蓮花洞れんげどうの奥には、一つの村が広がっていた。洞窟の中とは思えないその場所にある妖怪が住む村は、今は百角大王ひゃっかくたいおうが治めている。
 この村を築いたのは、百角大王の父親である千角せんかく大魔王。今は隠居して孫の金角きんかく銀角ぎんかくの相手をしたり、元部下の年寄り達と趣味にきょうじたりして、気ままな生活を送っている。
 そんなある日、母親が洞窟の外で行き倒れの女怪を拾ってきた。思えば、平穏な村に少しずつ異変の足音が近づいて来たのは、この女怪が現れてからだったかも知れない。



「じいちゃん、どっかいくのか!」
「オレらも、ついてっていいか!」

 金角と銀角が洞窟の入口で遊んでいると、出かける準備をした千角大魔王が出てきた。二人はすぐさま千角大魔王にまとわりつくと、“自分も行きたい!” と訴える。大魔王は、まだ幼い双子の孫の顔を見て

「金角、銀角、急ぎの用事じゃ。しばらく村を留守にすることになった。土産をたくさん買って来るからの、父ちゃんと母ちゃんを頼むぞ」

 と言って、その頭を撫でた。土産と聞いて

「まかせとけ、じいちゃん!」
「かあちゃんは、みおもだからな!」

 と、“任せろ!” と言わんばかりに、金角と銀角はその腰に両手をあて、“フンス!” と胸を張った。大王の子供として父の手伝いをすることも、身重の母の手伝いをすることも当然のことだ。
 特に、弟か妹の誕生を楽しみにしている金角と銀角は、身重の母の手伝いをよくしていた。その大きなお腹に耳をあて “うごいた!” “はやくうまれておいで!” と話しかけることも、二人は大好きだった。
 金角と銀角の見た目は人間で言えば七歳くらいの子供で、人間の七歳よりは遥かに長生きだが、妖怪としてはまだまだ幼子だ。
 この時、金角と銀角はまだ知らなかった。よそにある妖怪の村で異変が起こっていること、そのせいで “助けて欲しい” と連絡があり、祖父がでかけたこと。その異変は、この蓮花洞の中でも起こっていることを。



「とうちゃん、かあちゃん、おきてくれよ!!」
「なんでおきてくれないんだよ、とうちゃん、かあちゃん!!」

 祖父が出かけて数日。金角と銀角の身に、突然その異変は降りかかった。ある朝 “どう声をかけても大王様と奥様が目を覚まさないのです” と、下働きの女が慌ててやって来たのだ。
 金角と銀角がどんなに父と母の身体を揺さぶっても、大声で話しかけても、父と母が目を覚ますことはない。それが一日、二日と続き、七日が過ぎても二人が目覚めることはなかった。
 このまま父と母が目覚めなかったらどうしょう、母のお腹の中にいる赤ん坊は、果たして無事だろうか。だんだんと金角と銀角の不安は大きくなり、何かに押しつぶされてしまいそうだった。

「こんなとき、じいちゃんがいてくれたら」
「オレら、どうしたら…」

 今の二人に、助けてくれる者は誰一人としていない。なぜなら、父と母たけでなく、村の長老達も眠りについているからだ。起きる気配がない大人達を前にして、助言してくれそうな人は誰もいない。今全てを考え決定する立場にいるのは、大王の息子である金角と銀角だけのだから。



 それから、更に数日が過ぎた。父と母が目覚める気配は、一向にない。いよいよ金角と銀角は、どうしたらいいのかわからなくなった。

「いったい、どうするんだよ!」
「なんでこんなことに!」
「このままじゃ、とうちゃんとかあちゃんが…」
「あかんぼうは、どうなるんだ…」

 頭を抱えて悩む小さな子供達。そんな二人の子供を、少し離れた場所にある柱から見つめる女が一人。その顔はわずかな笑みをたたえ、この状況を楽しんでいるようにも見えた。女は、そっと柱から姿を現すと

「お父様とお母様を、助けたいですか」

 と、二人に言った。突然聞こえた声に、驚き振り返る金角と銀角。

「だれだ!」
「おまえ…は」

 そこに居たのは、少し前に母が拾ってきた女。二人は母から、この女が蓮花洞の近くで行き倒れていたと聞いた。住んでいた村が人間のいくさに巻き込まれ、命からがら逃げて来たのだと。
 母は女の話を聞いて哀れに思い、自分の下女としてこの村に迎え入れた。とても気立ての良い娘だと父に話しているのも、聞いたことがある。

「なにかしってるのか」
「どうしたらいいか、わかるのか」

 二人だけで、どうしたらいいのかわからない。そんな時に、母がとても良い娘だと言っていた女が声をかけてきた。金角と銀角は、何かにすがるような睛眸ひとみでその女を見た。

「金角様と銀角様は、“天上の桜” をご存知ですか」

 優しげな表情で、二人の視線に合わせるように両膝をついた女が語りかける。

「天上の桜?」
「なんだ、それ?」

 女の言葉に金角と銀角は顔を見合わせて、その首を傾けた。










********

雪中四友→玉梅・蠟梅(ろうばい)・茶梅(さざんか)・水仙の4種のこと。雪中は、雪の降る中、または雪の降り積もった中
興じる→興ずる→おもしろがって熱中する、楽しんで愉快に過ごす、の上1段化
命からがら→「何とか命だけは失わずにぎりぎりのところで」といった意味の言い回し
身重→妊娠していること
下女→雑事に召し使う女。女中
果たして→本年に
一向→全然。まったく
気立て→他人に対する態度などに現れる、その人の心の持ち方。性質。気質


次回投稿は14日か15日が目標です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...