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第二章
雪中四友 〜蠟梅の咲く頃〜 《一》
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あけましておめでとうございます m(__)m
今年一年の皆様のご多幸とご健康をお祈りいたします(人*´∀`)。*゜+
本年も、よろしくお願いいたします。\(^O^)/
********
「いったい、どうするんだよ!」
「なんでこんなことに!」
頼れる者は誰もいない。死んだように眠り続ける父と母を前にして、幼い兄弟に何ができるだろうか。
「お父様とお母様を、助けたいですか」
「だれだ!」
「おまえ…は」
兄弟の前に現れたのは、一ヶ月前に母が拾ってきた女怪だった。
平頂山にある洞窟蓮花洞の奥には、一つの村が広がっていた。洞窟の中とは思えないその場所にある妖怪が住む村は、今は百角大王が治めている。
この村を築いたのは、百角大王の父親である千角大魔王。今は隠居して孫の金角と銀角の相手をしたり、元部下の年寄り達と趣味に興じたりして、気ままな生活を送っている。
そんなある日、母親が洞窟の外で行き倒れの女怪を拾ってきた。思えば、平穏な村に少しずつ異変の足音が近づいて来たのは、この女怪が現れてからだったかも知れない。
「じいちゃん、どっかいくのか!」
「オレらも、ついてっていいか!」
金角と銀角が洞窟の入口で遊んでいると、出かける準備をした千角大魔王が出てきた。二人はすぐさま千角大魔王にまとわりつくと、“自分も行きたい!” と訴える。大魔王は、まだ幼い双子の孫の顔を見て
「金角、銀角、急ぎの用事じゃ。しばらく村を留守にすることになった。土産をたくさん買って来るからの、父ちゃんと母ちゃんを頼むぞ」
と言って、その頭を撫でた。土産と聞いて
「まかせとけ、じいちゃん!」
「かあちゃんは、みおもだからな!」
と、“任せろ!” と言わんばかりに、金角と銀角はその腰に両手をあて、“フンス!” と胸を張った。大王の子供として父の手伝いをすることも、身重の母の手伝いをすることも当然のことだ。
特に、弟か妹の誕生を楽しみにしている金角と銀角は、身重の母の手伝いをよくしていた。その大きなお腹に耳をあて “うごいた!” “はやくうまれておいで!” と話しかけることも、二人は大好きだった。
金角と銀角の見た目は人間で言えば七歳くらいの子供で、人間の七歳よりは遥かに長生きだが、妖怪としてはまだまだ幼子だ。
この時、金角と銀角はまだ知らなかった。よそにある妖怪の村で異変が起こっていること、そのせいで “助けて欲しい” と連絡があり、祖父がでかけたこと。その異変は、この蓮花洞の中でも起こっていることを。
「とうちゃん、かあちゃん、おきてくれよ!!」
「なんでおきてくれないんだよ、とうちゃん、かあちゃん!!」
祖父が出かけて数日。金角と銀角の身に、突然その異変は降りかかった。ある朝 “どう声をかけても大王様と奥様が目を覚まさないのです” と、下働きの女が慌ててやって来たのだ。
金角と銀角がどんなに父と母の身体を揺さぶっても、大声で話しかけても、父と母が目を覚ますことはない。それが一日、二日と続き、七日が過ぎても二人が目覚めることはなかった。
このまま父と母が目覚めなかったらどうしょう、母のお腹の中にいる赤ん坊は、果たして無事だろうか。だんだんと金角と銀角の不安は大きくなり、何かに押しつぶされてしまいそうだった。
「こんなとき、じいちゃんがいてくれたら」
「オレら、どうしたら…」
今の二人に、助けてくれる者は誰一人としていない。なぜなら、父と母たけでなく、村の長老達も眠りについているからだ。起きる気配がない大人達を前にして、助言してくれそうな人は誰もいない。今全てを考え決定する立場にいるのは、大王の息子である金角と銀角だけのだから。
それから、更に数日が過ぎた。父と母が目覚める気配は、一向にない。いよいよ金角と銀角は、どうしたらいいのかわからなくなった。
「いったい、どうするんだよ!」
「なんでこんなことに!」
「このままじゃ、とうちゃんとかあちゃんが…」
「あかんぼうは、どうなるんだ…」
頭を抱えて悩む小さな子供達。そんな二人の子供を、少し離れた場所にある柱から見つめる女が一人。その顔は僅かな笑みをたたえ、この状況を楽しんでいるようにも見えた。女は、そっと柱から姿を現すと
「お父様とお母様を、助けたいですか」
と、二人に言った。突然聞こえた声に、驚き振り返る金角と銀角。
「だれだ!」
「おまえ…は」
そこに居たのは、少し前に母が拾ってきた女。二人は母から、この女が蓮花洞の近くで行き倒れていたと聞いた。住んでいた村が人間の戦に巻き込まれ、命からがら逃げて来たのだと。
母は女の話を聞いて哀れに思い、自分の下女としてこの村に迎え入れた。とても気立ての良い娘だと父に話しているのも、聞いたことがある。
「なにかしってるのか」
「どうしたらいいか、わかるのか」
二人だけで、どうしたらいいのかわからない。そんな時に、母がとても良い娘だと言っていた女が声をかけてきた。金角と銀角は、何かにすがるような睛眸でその女を見た。
「金角様と銀角様は、“天上の桜” をご存知ですか」
優しげな表情で、二人の視線に合わせるように両膝をついた女が語りかける。
「天上の桜?」
「なんだ、それ?」
女の言葉に金角と銀角は顔を見合わせて、その首を傾けた。
********
雪中四友→玉梅・蠟梅(ろうばい)・茶梅(さざんか)・水仙の4種のこと。雪中は、雪の降る中、または雪の降り積もった中
興じる→興ずる→おもしろがって熱中する、楽しんで愉快に過ごす、の上1段化
命からがら→「何とか命だけは失わずにぎりぎりのところで」といった意味の言い回し
身重→妊娠していること
下女→雑事に召し使う女。女中
果たして→本年に
一向→全然。まったく
気立て→他人に対する態度などに現れる、その人の心の持ち方。性質。気質
次回投稿は14日か15日が目標です。
今年一年の皆様のご多幸とご健康をお祈りいたします(人*´∀`)。*゜+
本年も、よろしくお願いいたします。\(^O^)/
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「いったい、どうするんだよ!」
「なんでこんなことに!」
頼れる者は誰もいない。死んだように眠り続ける父と母を前にして、幼い兄弟に何ができるだろうか。
「お父様とお母様を、助けたいですか」
「だれだ!」
「おまえ…は」
兄弟の前に現れたのは、一ヶ月前に母が拾ってきた女怪だった。
平頂山にある洞窟蓮花洞の奥には、一つの村が広がっていた。洞窟の中とは思えないその場所にある妖怪が住む村は、今は百角大王が治めている。
この村を築いたのは、百角大王の父親である千角大魔王。今は隠居して孫の金角と銀角の相手をしたり、元部下の年寄り達と趣味に興じたりして、気ままな生活を送っている。
そんなある日、母親が洞窟の外で行き倒れの女怪を拾ってきた。思えば、平穏な村に少しずつ異変の足音が近づいて来たのは、この女怪が現れてからだったかも知れない。
「じいちゃん、どっかいくのか!」
「オレらも、ついてっていいか!」
金角と銀角が洞窟の入口で遊んでいると、出かける準備をした千角大魔王が出てきた。二人はすぐさま千角大魔王にまとわりつくと、“自分も行きたい!” と訴える。大魔王は、まだ幼い双子の孫の顔を見て
「金角、銀角、急ぎの用事じゃ。しばらく村を留守にすることになった。土産をたくさん買って来るからの、父ちゃんと母ちゃんを頼むぞ」
と言って、その頭を撫でた。土産と聞いて
「まかせとけ、じいちゃん!」
「かあちゃんは、みおもだからな!」
と、“任せろ!” と言わんばかりに、金角と銀角はその腰に両手をあて、“フンス!” と胸を張った。大王の子供として父の手伝いをすることも、身重の母の手伝いをすることも当然のことだ。
特に、弟か妹の誕生を楽しみにしている金角と銀角は、身重の母の手伝いをよくしていた。その大きなお腹に耳をあて “うごいた!” “はやくうまれておいで!” と話しかけることも、二人は大好きだった。
金角と銀角の見た目は人間で言えば七歳くらいの子供で、人間の七歳よりは遥かに長生きだが、妖怪としてはまだまだ幼子だ。
この時、金角と銀角はまだ知らなかった。よそにある妖怪の村で異変が起こっていること、そのせいで “助けて欲しい” と連絡があり、祖父がでかけたこと。その異変は、この蓮花洞の中でも起こっていることを。
「とうちゃん、かあちゃん、おきてくれよ!!」
「なんでおきてくれないんだよ、とうちゃん、かあちゃん!!」
祖父が出かけて数日。金角と銀角の身に、突然その異変は降りかかった。ある朝 “どう声をかけても大王様と奥様が目を覚まさないのです” と、下働きの女が慌ててやって来たのだ。
金角と銀角がどんなに父と母の身体を揺さぶっても、大声で話しかけても、父と母が目を覚ますことはない。それが一日、二日と続き、七日が過ぎても二人が目覚めることはなかった。
このまま父と母が目覚めなかったらどうしょう、母のお腹の中にいる赤ん坊は、果たして無事だろうか。だんだんと金角と銀角の不安は大きくなり、何かに押しつぶされてしまいそうだった。
「こんなとき、じいちゃんがいてくれたら」
「オレら、どうしたら…」
今の二人に、助けてくれる者は誰一人としていない。なぜなら、父と母たけでなく、村の長老達も眠りについているからだ。起きる気配がない大人達を前にして、助言してくれそうな人は誰もいない。今全てを考え決定する立場にいるのは、大王の息子である金角と銀角だけのだから。
それから、更に数日が過ぎた。父と母が目覚める気配は、一向にない。いよいよ金角と銀角は、どうしたらいいのかわからなくなった。
「いったい、どうするんだよ!」
「なんでこんなことに!」
「このままじゃ、とうちゃんとかあちゃんが…」
「あかんぼうは、どうなるんだ…」
頭を抱えて悩む小さな子供達。そんな二人の子供を、少し離れた場所にある柱から見つめる女が一人。その顔は僅かな笑みをたたえ、この状況を楽しんでいるようにも見えた。女は、そっと柱から姿を現すと
「お父様とお母様を、助けたいですか」
と、二人に言った。突然聞こえた声に、驚き振り返る金角と銀角。
「だれだ!」
「おまえ…は」
そこに居たのは、少し前に母が拾ってきた女。二人は母から、この女が蓮花洞の近くで行き倒れていたと聞いた。住んでいた村が人間の戦に巻き込まれ、命からがら逃げて来たのだと。
母は女の話を聞いて哀れに思い、自分の下女としてこの村に迎え入れた。とても気立ての良い娘だと父に話しているのも、聞いたことがある。
「なにかしってるのか」
「どうしたらいいか、わかるのか」
二人だけで、どうしたらいいのかわからない。そんな時に、母がとても良い娘だと言っていた女が声をかけてきた。金角と銀角は、何かにすがるような睛眸でその女を見た。
「金角様と銀角様は、“天上の桜” をご存知ですか」
優しげな表情で、二人の視線に合わせるように両膝をついた女が語りかける。
「天上の桜?」
「なんだ、それ?」
女の言葉に金角と銀角は顔を見合わせて、その首を傾けた。
********
雪中四友→玉梅・蠟梅(ろうばい)・茶梅(さざんか)・水仙の4種のこと。雪中は、雪の降る中、または雪の降り積もった中
興じる→興ずる→おもしろがって熱中する、楽しんで愉快に過ごす、の上1段化
命からがら→「何とか命だけは失わずにぎりぎりのところで」といった意味の言い回し
身重→妊娠していること
下女→雑事に召し使う女。女中
果たして→本年に
一向→全然。まったく
気立て→他人に対する態度などに現れる、その人の心の持ち方。性質。気質
次回投稿は14日か15日が目標です。
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