天上の桜

乃平 悠鼓

文字の大きさ
上 下
63 / 187
第一章

真夜中の産鬼 《一》

しおりを挟む
幕間ぽい話でスルッと終わります。多分…。(^^;





********

 大きな街を出て数日、玄奘一行は山道を歩いていた。街を出てからはこれと言ったもめ事もなく、何もない山道を珍しくのんびりと進む旅だった。
 これから先は、しばらく小さな村が続く。たいした出来事など、何も起こらないはずだ。そんな山道で一人の女性がうずくまり、苦し気に息をしていた。それを最初に見つけたのは悟空。

「大丈夫か? どっか痛いのか?」

 悟空が走りより声をかければ、振り返ったのは二十代くらいの女性で、お腹の大きな妊婦だった。

「大丈夫…です。少し、気分が悪くて……。」

 そう言う女性に悟空が手をかし、近くの木陰に移動させる。女性は “ふぅ…” と息をはいて、大きくなったお腹を撫でると

「ありがとう…ございます……。」

 と悟空に言って、ニッコリと笑った。この女性は美友ビユウと言い、近くの村にある小さな宿屋の娘で、今日は宿屋のお客様に夕食として出す山菜を採りに山に入ったが、急に気分が悪くなり蹲っていたと言う。
 玄奘一行はちょうどその村に泊まる予定で歩みを進めていたため、美友に案内してもらいながら村まで行くことになった。

「すみません、荷物まで持っていただいて」
「いいって。これ、オレ達の夕食になるんだろう」

 妊婦の美友を気遣って、悟空が美友の持っていた山菜が入った籠を持ち、ゆっくりと歩く。この季節は山の恵みが多く、美味しい山菜がたくさん採れるのだそうだ。悟空が、自分達は色々な場所を旅しながら西へ向かっているんだと話せば

「そうですか、西へ行かれる旅の途中なのですね。私はこの村から出たことはありませんが、よその地には色々なものがあるんでしょうね。想像もつきませんけど。あっ、此処ここがうちの宿屋になります。どうぞ」

 と、村に入り案内してくれた。そこは、小さな村の美友の両親が営む小さな宿屋。それが今日の玄奘一行の寝床となる。玄奘一行以外には二組の旅人しかおらず、宿屋の主人達は大神オオカミを連れた一行を大歓迎してくれた。
 こじんまりとした宿屋の中で、一番大きな部屋は何時いつものごとく大神と沙麼蘿の部屋となり、その横の小さめの部屋二つが玄奘と悟空、悟浄と八戒に宛がわれる。

沙麼蘿さばら
「わかっている」

 琉格泉るうのの言葉に、沙麼蘿は答えた。その時、琉格泉の頭の上にいた玉龍ハムスター

「ぴゅー」

 “此処、何かいるよねー” と、呑気のんきに鳴いた。こんな山奥の小さな村に、いったい何がいると言うのか。たいして人も多くはなく、たいした産業があるとは思えない小さい村。
 でも、この村に入った時から感じる何者かの気配。それは、宿屋に近づくたびに強くなった。この宿屋に何かいるのは間違いだろう。そしてこの村に入る時に見た、小さいお墓の多さ。
 確かに、山奥の村では医者もおらず子供が育たぬこともある。だがこの小さな村では、それが多すぎる気がするのだ。“さて、どうするか?” まぁ、しばらくは沙麼蘿は様子見だ。玄奘達がなんとかするだろう。








「うわ~、うまそう!」

 悟空の前に出されたのはこの村のジビエ料理と、今日美友ビユウが山で採ってきた山菜の料理だった。いかにも山奥の小さな村の地産地消の料理。その素朴な料理に舌鼓を打ちつつ

「この村に入る時、お墓がたくさんありましたよね。気になって聞いてみたんですが、この村では出産時に亡くなる女性が多いらしく、女性とその赤ちゃんのお墓らしいですよ」
「まぁ。田舎じゃあるちゃ、あることだな」
「でも、多すぎると思いませんか悟浄」

 八戒と悟浄がに気が付き、話をしている。その話を聞いていた玄奘は

「お前達、産鬼さんきを知っているか」

 と、言った。産鬼とは、元は人間であった女のなれの果て。難産で死んだ女が “産鬼” と言う妖怪になってしまうのだ。“産鬼”は、生きている妊婦にとりついて出産を妨げる。
 “産鬼”はふつう、人間の女性と見分けがつかない。ただ一つ違うのは、喉のところに血餌けつじと呼ばれる紅い一筋の線があり、これにすがって妊婦の腹に入り込む。そして、この血餌を胎胞たいほうに結びつけて、出産できないようにしてしまうのだ。
 また、これを何度も引っ張って激痛を与える。どんなに丈夫な女性でも、三度、四度と引っ張られると、必ず死んでしまうのだ。  

「産鬼がいる村は、難産で死ぬ妊婦と赤ん坊が多い」
「では、この村には産鬼がいると」

 玄奘の話に八戒が聞けば “さぁな” と言葉をにごしつつ美友を見た。美友のお腹も大きい。

「それって、あの姉ちゃんが危ないんじゃ」

 そう、悟空の言う通り、美友はまもなく出産予定日なのだ。その “産鬼” がいれば、美友はどうなるのか。

「ぴゅ」

 “そうだよー、あのお姉さんあぶないよね” と玉龍が鳴く。やっぱり危ないのかと、八戒と悟浄が顔を見合せた。

「どうしたものでしょうか」

 と呟く八戒に、

「産鬼ならば、その時にならなければ何もできることはない」

 と、玄奘は言いきった。そう、“産鬼” とは、出産の時にしか人間の前には姿を表さないのだ。その時にならなければ、日常に何の危険も支障もない。
 の気配を感じなから、玄奘一行の夜は更けて行った。





********

次回投稿は13日か14日が目標です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...