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第一章
天の原と戦の原に舞う紅の花 《八》
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過去の投稿分、確認して投稿しているつもりなのですが誤字や脱字なんかが多いですね(>_<)
気がついた所からぼちぼち修正していきたいと思いますm(__)m
皇達の出番もあと一話。その後は三蔵一行に戻ります(^o^)
********
「申し訳…ございません、皇子…様。この…孫が……、何か…しでかしました…でしょうか」
年老い痩せ細った男が、剥き出しの地面の上の使いふるされた布の上で地面に額を擦り付け、細々とした声で皇に言った。起き上がるのがやっであろうに、謝ることになれているのかもしれない。
こんな天都の外れに暮らしていようとも、天華の花の衣の意味は知っている。天帝一族に無礼をはたらいたとあっては、この斑の住む場所などあっという間に消え去ってしまう。
「心配されるなご老人。何もしていないとは言えぬが、私が無理についてきたのだ」
「ほら、深里もじいちゃんも食え。甘くて美味しい果物だぞ!」
柔らかいその果物を汚れた手で半分にして、子供深永が妹深里と老人に差し出した。
「深…永、お前…こんな上等な果物を…どこから……!」
「じいちゃん、心配いらないよ。そこの兄ちゃんがくれたんだ」
老人は、驚きに目を見開く。
「教えてくれ、此処に住む斑のことを。何故、天人が此処にいるのかを」
それは遥か昔のこと、斑達が暮らす家も食べる物もなく、天都の外れの岩場で野晒しの生活をしていた時、天都の街中にある大店の夫人が赤ん坊を連れてやってきた。
その赤ん坊は生まれながらに目が不自由で、自分達の子供として育てることができない。だが、此処でこの子の面倒を見てくれるなら、我が家がひっそりとではあるが斑を支援しよう、と。
それは、今も変わらない真実。上界で作られる食べ物はたくさんの霊気を受けて育つため、それを口にするだけで天人の身体は健康になりその寿命は伸びるはずだった。
それは、この上界で生まれでる赤子も同じこと。だが、ごく稀にそうではない赤子も生まれでた。それを不吉の現れ呪いだといい、天人達はひどく嫌った。そのような赤子が生まれた場合、天人達は自分達の立場を守るため赤子を下界に落とす。だが、下界に落とされた赤子が生きて行けるはずがない。
大店の夫人は、出来ればどんな赤ん坊でも自分の手で育てたいと思っていた。しかし、夫や家族はそれを許さなかったのだ。夫人は、どんなことがあっても生きて行くことが出来ないと思われる下界には落としたくなかった。
だからこそ、こっそりとでもその成長を見守ることができる此処、斑の住む地に連れてきたのだ。斑達は赤ん坊を受け入れた、自分達が生きて行くために。だが、それだけが斑達の本意ではなかった。この天都の街中から捨てられた赤子に、上界に連れてこられながら捨て置かれた自分達の姿を重ね合わせたからだ。
赤ん坊はこの斑の地で、皆から可愛がられて育てられた。そしてそれに合わせるように、何もない岩場の間に雨風をしのげる特殊な布が配られ、柔らかな敷物、新しい衣服、食べ物などがひっそりと差し入れられることになる。
だが、所詮は斑の住む地。その赤ん坊は大人になり子をなしはしたが、天人のように長くは生きられなかった。それでも、夫人は孫や曾孫と、自らが見続けられるまで支援し続けた。そして息絶える直前に、斑の地に僅かなりの支援を忘れぬようにと言い残し、その一生を終えたのだった。
それからも僅かな支援と引き換えに赤ん坊をこの地に捨てて行く者達が現れては消えて行ったが、いつしか支援はなくなり斑の暮らしは困窮を極めることになる。最後まで僅かなりの支援をしてくれていたのは、あの一番最初に赤子を連れてきた大店の一族だった。だが、前当主が隠居し息子に代替わりしたのをきに、支援の手は打ち切られた。
斑達には、自らの命と引き換えに下界との激しい闘いに身を投じ、先陣を切って働くことで僅かばかりの報酬をもらうしか生きて行くすべがない。しかしそれも、闘いがある間だけのこと。この大平の世では、盗みを働くくらいしか品物を手に入れる方法がないのだ。
「私ら…は、何の…ために…、此処にいる…ので…しょう…か」
年老いた男が、ポツリと呟く。天上界の脅威になるかもしれないと言うだけで無理やり此処に連れてこられ捨て置かれた。捨て置くくらいなら、下界に置いておいてくれればよいものを。そうすれば、下界の人間達に混じって何の力もない人として働き普通の生活ができたはずなのに。
上界では、自分達は何処まで行ってもはみ出し者の斑でしかない。斑の血を引く者は黒がでる。兵器として造られた正真正銘の斑なら、身体の何処かに斑がでる。だが、失敗作として捨てられた者、下界で人間に混じって生きてきた者達には斑はない。彼らはたくさんの血が混ざっているが、一番濃い色の黒が出るため見た目は人間とかわらない。血が薄まれば薄まるほど、人間と同じになる。
だが、此処上界の天人達の髪や睛眸は群青色から薄くても菫色だ。そこに僅かばかりでも黒が混ざれば、それは斑であると宣言しているのと同じことだった。
稀に、ナタのように先祖返りをして天人の色を持つ者もいるが、その場合多くは身体に斑を持つ。ナタも、その睛眸は菫色だが、奥深くには様々な色が見え隠れしている。
「深永、何をしたーっ!!」
その時、一組の男女が飛び込んできた。それこそが、後に皇の忠臣となる妾季と花梨だった。
********
野晒し→野外で風雨にさらすこと。また、さらされているもの
大店→規模の大きな商店
本意→本来の意図や気持ち。本当の考え。真意
所詮→あれこれ努力してみたが、結局のところ。あれこれ考えたりした結論として。結局
困窮→困り果てること。困り苦しむこと。貧しいため生活に苦しむこと
隠居→勤め、事業などの公の仕事を退いてのんびり暮らすこと
大平の世→政治により秩序が得られた世の中
脅威→強い力や勢いでおびやかすこと。また、おびやかされて感じる恐ろしさ
正真正銘→うそ偽りの全くないこと。本物であること
斑(まだら)→違った色が所々にまじっていたり、色に濃淡があったりすること。また、そのものやさま。ぶち
斑(ぶち)→地色と異なった色がまだらになって入っていること
稀→めったにない。実現・存在することが非常に少ないさま
先祖返り→直接の両親ではなく、それより遠い祖先の形質が子孫に突然現れること
忠臣→忠義な臣下。忠義を尽くす家来
次回投稿は13日か14日が目標です。
気がついた所からぼちぼち修正していきたいと思いますm(__)m
皇達の出番もあと一話。その後は三蔵一行に戻ります(^o^)
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「申し訳…ございません、皇子…様。この…孫が……、何か…しでかしました…でしょうか」
年老い痩せ細った男が、剥き出しの地面の上の使いふるされた布の上で地面に額を擦り付け、細々とした声で皇に言った。起き上がるのがやっであろうに、謝ることになれているのかもしれない。
こんな天都の外れに暮らしていようとも、天華の花の衣の意味は知っている。天帝一族に無礼をはたらいたとあっては、この斑の住む場所などあっという間に消え去ってしまう。
「心配されるなご老人。何もしていないとは言えぬが、私が無理についてきたのだ」
「ほら、深里もじいちゃんも食え。甘くて美味しい果物だぞ!」
柔らかいその果物を汚れた手で半分にして、子供深永が妹深里と老人に差し出した。
「深…永、お前…こんな上等な果物を…どこから……!」
「じいちゃん、心配いらないよ。そこの兄ちゃんがくれたんだ」
老人は、驚きに目を見開く。
「教えてくれ、此処に住む斑のことを。何故、天人が此処にいるのかを」
それは遥か昔のこと、斑達が暮らす家も食べる物もなく、天都の外れの岩場で野晒しの生活をしていた時、天都の街中にある大店の夫人が赤ん坊を連れてやってきた。
その赤ん坊は生まれながらに目が不自由で、自分達の子供として育てることができない。だが、此処でこの子の面倒を見てくれるなら、我が家がひっそりとではあるが斑を支援しよう、と。
それは、今も変わらない真実。上界で作られる食べ物はたくさんの霊気を受けて育つため、それを口にするだけで天人の身体は健康になりその寿命は伸びるはずだった。
それは、この上界で生まれでる赤子も同じこと。だが、ごく稀にそうではない赤子も生まれでた。それを不吉の現れ呪いだといい、天人達はひどく嫌った。そのような赤子が生まれた場合、天人達は自分達の立場を守るため赤子を下界に落とす。だが、下界に落とされた赤子が生きて行けるはずがない。
大店の夫人は、出来ればどんな赤ん坊でも自分の手で育てたいと思っていた。しかし、夫や家族はそれを許さなかったのだ。夫人は、どんなことがあっても生きて行くことが出来ないと思われる下界には落としたくなかった。
だからこそ、こっそりとでもその成長を見守ることができる此処、斑の住む地に連れてきたのだ。斑達は赤ん坊を受け入れた、自分達が生きて行くために。だが、それだけが斑達の本意ではなかった。この天都の街中から捨てられた赤子に、上界に連れてこられながら捨て置かれた自分達の姿を重ね合わせたからだ。
赤ん坊はこの斑の地で、皆から可愛がられて育てられた。そしてそれに合わせるように、何もない岩場の間に雨風をしのげる特殊な布が配られ、柔らかな敷物、新しい衣服、食べ物などがひっそりと差し入れられることになる。
だが、所詮は斑の住む地。その赤ん坊は大人になり子をなしはしたが、天人のように長くは生きられなかった。それでも、夫人は孫や曾孫と、自らが見続けられるまで支援し続けた。そして息絶える直前に、斑の地に僅かなりの支援を忘れぬようにと言い残し、その一生を終えたのだった。
それからも僅かな支援と引き換えに赤ん坊をこの地に捨てて行く者達が現れては消えて行ったが、いつしか支援はなくなり斑の暮らしは困窮を極めることになる。最後まで僅かなりの支援をしてくれていたのは、あの一番最初に赤子を連れてきた大店の一族だった。だが、前当主が隠居し息子に代替わりしたのをきに、支援の手は打ち切られた。
斑達には、自らの命と引き換えに下界との激しい闘いに身を投じ、先陣を切って働くことで僅かばかりの報酬をもらうしか生きて行くすべがない。しかしそれも、闘いがある間だけのこと。この大平の世では、盗みを働くくらいしか品物を手に入れる方法がないのだ。
「私ら…は、何の…ために…、此処にいる…ので…しょう…か」
年老いた男が、ポツリと呟く。天上界の脅威になるかもしれないと言うだけで無理やり此処に連れてこられ捨て置かれた。捨て置くくらいなら、下界に置いておいてくれればよいものを。そうすれば、下界の人間達に混じって何の力もない人として働き普通の生活ができたはずなのに。
上界では、自分達は何処まで行ってもはみ出し者の斑でしかない。斑の血を引く者は黒がでる。兵器として造られた正真正銘の斑なら、身体の何処かに斑がでる。だが、失敗作として捨てられた者、下界で人間に混じって生きてきた者達には斑はない。彼らはたくさんの血が混ざっているが、一番濃い色の黒が出るため見た目は人間とかわらない。血が薄まれば薄まるほど、人間と同じになる。
だが、此処上界の天人達の髪や睛眸は群青色から薄くても菫色だ。そこに僅かばかりでも黒が混ざれば、それは斑であると宣言しているのと同じことだった。
稀に、ナタのように先祖返りをして天人の色を持つ者もいるが、その場合多くは身体に斑を持つ。ナタも、その睛眸は菫色だが、奥深くには様々な色が見え隠れしている。
「深永、何をしたーっ!!」
その時、一組の男女が飛び込んできた。それこそが、後に皇の忠臣となる妾季と花梨だった。
********
野晒し→野外で風雨にさらすこと。また、さらされているもの
大店→規模の大きな商店
本意→本来の意図や気持ち。本当の考え。真意
所詮→あれこれ努力してみたが、結局のところ。あれこれ考えたりした結論として。結局
困窮→困り果てること。困り苦しむこと。貧しいため生活に苦しむこと
隠居→勤め、事業などの公の仕事を退いてのんびり暮らすこと
大平の世→政治により秩序が得られた世の中
脅威→強い力や勢いでおびやかすこと。また、おびやかされて感じる恐ろしさ
正真正銘→うそ偽りの全くないこと。本物であること
斑(まだら)→違った色が所々にまじっていたり、色に濃淡があったりすること。また、そのものやさま。ぶち
斑(ぶち)→地色と異なった色がまだらになって入っていること
稀→めったにない。実現・存在することが非常に少ないさま
先祖返り→直接の両親ではなく、それより遠い祖先の形質が子孫に突然現れること
忠臣→忠義な臣下。忠義を尽くす家来
次回投稿は13日か14日が目標です。
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