引きこもりの受難

小桃沢ももみ

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7 雨ですか?

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 洋介は雨男だ。それも自信をもって言い切れる。それ程強力な雨男だ。楽しみにしていた行事ごとは大抵雨、旅行に行けばずっとじゃないが必ず降る、時には台風を呼び、地震も雷も呼ぶ。そんな強力な雨男だ。
 だから、動物公園に着いて少ししたら雨が降り始めてしまった……。

 「結構降って来ちゃいましたね」
 「ビニ傘買う?」

 取り敢えず風太君は見れたからいいかなと洋介は満足だ。寝ていたけど。風太くんも結構いい歳だし、それは仕方ないだろう。
 入ったばかりなのに勿体ないが、結構本降りっぽい勢いになってきた。流石俺。最強雨男だよと洋介は変な自画自賛をした。
 ま、雨も降ったし、お開きって事でもいいんじゃないかな、なんて思いながら、なんの鳥だか分からない鳥舎の軒先きで雨宿りしている最中である。

 「一本買って二人でじゃ、無理ですかね? 実は車に戻ったら、トランクに何本か入ってるんです。雨が降る度に買ってしまって、どんどん溜まってしまい……」
 「ああ分かります」

 けれど、男二人。それもデカイのが……。救いは、身長差が同じくらいって事だけ。相合傘は身長差があると結構疲れる。

 「ん~と」

 洋介がぐるっと周りを見回すと、売店に駆け寄って傘を買う人多数。家で天気予報でも調べて来たのか、カッパを出して子供に着せているお母さんもいる。偉い。でもいない、男二人で相合傘は。ああ高校生か中学生のグループがまさにそうしていた。だがあいつらは子供だ。それに二人っきりじゃなくて、何人かで来た上でのたまたまの相合傘だ。金が勿体ないとかいう理由だろう。いや、こっちも同じか。星はお金持ちっぽいのに、一本買って二人って言い出すとか、ちょっと庶民的なところがあるんだな。男同士の相合い傘になっちゃうのに。金あるならトランクに何本入ってても買っちゃえってなるのが普通だろう。そういう所には好感が持てた。
 隣の肩がぶるっと震えた。

 「寒い?」
 「あ、ちょっと。雨が降ったからでしょうか?」
 「着れば? ダウン持ってたでしょ?」
 「あ、はい」
 
 モゾモゾと隣でやっているが、やり難そうなのに洋介は気が付いた。あ、そうか、鞄持ってるから着にくいのかと声を掛ける。

 「鞄持っててあげるよ」

 手を出すと、すみませんと預けて来た。

 「岬さん、優しいですね」
 「そう?」
 
 そんな事、最近言われた事ない。会うのは家族だけだが、富士子は息子なんだからやって貰って当たり前という考え方だ。平介は何でも黙って自分でやってしまう人なので洋介の手は必要ない。ああ、でも弟の行介の子供、リンちゃん(三歳の女の子)は、結構言ってくれる。ニコッとして「洋おじちゃんやさしい、だいすき」と言われると洋介はメロメロになってしまうのだ。
 
 「着れた?」
 「はい」
 「ちょっと待ってて」

 キョトンとしてる星の腕に高級鞄を戻す。
 『お兄ちゃん』だからなのか、優しい、なんて言われると洋介は、いい気になって、女の人相手だと結構何でもやってあげたくなってしまう。それって、だいぶ年下の男の子にも同じだったみたいだなんて思いながら、ダッフルコートのフードを被って雨の中売店まで駆けて、ビニール傘を一本買って戻った。結構大きいのが売っていたので、広げたら男二人でも……、ま、ちょっとはみ出そうだけど入りそうだ。

 「濡れちゃいましたね」
 
 洋介が傘を持つ。何故なら星の高級鞄が濡れるとといけないからだ。皮製品は水濡れに弱い。
 ビニール傘を買って戻ると、ああと言いいながらすぐに綺麗にアイロンかけられたハンカチが高級鞄から出てきて、洋介のダッフルを拭き始めた。星さんのが優しいよ、って思いながら洋介はそれを止めた。

 「これ、前にクリーニング出した時に防水加工して貰ってるから。それに歩いたらまた濡れるから、拭くなら後で。俺よりも自分のが濡れないようにして」

 ほらって肩を見せると、雨が粒になって生地の上を流れ落ちていく。

 「ほんとうだ」
 「ね?」
 「あっ、でもそれなら僕のコートも撥水加工されてるんで濡れても……」
 「ああ! そう、それだ。防水じゃなくて、撥水加工だった。また間違えた」
 「うふふ。そうですね」
 
 最近言葉を間違えがちなのだ。言い間違いが多い。歳のせいだろうが、文系の洋介としては認めたくない衰え方だ。まあ、防水と撥水は似たようなものだし、笑いをとれたからヨシとしよう。
 歩いてる途中、星が仕切りに洋介の肩を気にする。手に傘を持っている方の反対側。

 「あの、もっと中に入って下さい。僕は平気なので。あ! そう言えば岬さんのコートのポケットに本入れてましたよね? 大丈夫ですか? 濡れてしまったら……」
 「大丈夫だよ。こっち側だから」

 洋介は顎で傘を持ってる方の側のポケットをさす。
 二人の間に挟まってるから、文庫本は無事だ。多分全く濡れてない。反対側の財布とスマホは少しやばいかもしれないが、文庫本は図書館の本だ。濡らしたらまずい。

 「それよか、星さんこそちゃんと入ってよ」

 女の子だったら肩をグッと抱き寄せる所だが、相手は男だ。

 「で、でも……」

 やはり星が近くに来ると良い匂いがする。それに、細い。首がすごく細くて長くて、Vネックから見える鎖骨がなんだかエロい。やけに色気がある。子供を産める男性だからだろうか? でも女性のそれとは違う。なんとも口では表現しがたい危うい色気がある。色が白いのも相まって。全体的に細そうだ。腰も……。
 洋介は離れて歩いていた時は分からなかった部分に目がいってしまい、そんな自分をお前、何考えてるんだと盛大につっこんだ。
 
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