142 / 142
一年生の冬休み
恋愛小説同好会
しおりを挟む
同好会の建物に着いた。恋愛小説同好会の会室は二階の端で、ジョンの案内で中に入ると、二人の生徒が話をしていた。恐らく、彼等が会長と副会長だろう。
角部屋だからだろうか、前にキース先輩に連れられて行った彼の入っている同好会の会室よりもずっと広い。部屋は入り口から見て左側は書き物をしたり本を読んだりする為に使っているのだろう、机や椅子が置かれている。対して右側は本棚がずらっと並んでいた。ただ、右側だけでは入り切らないのか左側の机と椅子の空間にも本棚が侵食し始めている様に見受けられる。
兎に角本の多い部屋だった。その為、角部屋で他の会室よりも窓が多いにも関わらずどこか薄暗い、と言っても気が滅入る暗さではなく、どちらかと言うと落ち着く暗さのある部屋だった。雰囲気としては図書館に近い。ただ図書館と違って読書家ではないアーロンでも圧倒されない、どこか雑然とした居心地の良さがあった。
「やっぱりあれだと思うんだよね」
「ううん、そうかあ?」
「そうそう。前のがあれだったし」
「けど、俺はそれが好きだったけどな」
「え? そうなの?」
「うん。あれが良かった」
「ああ、でも、それだとさ」
あれとかそればかりで第三者には意味の分からない会話だが、お互いには通じているらしく熱心に話し込んでいる。
一人は書き物机に向かっていた。机上には原稿用紙、手には羽ペンを構えているから何か書いている途中だったのかもしれない。長い銀髪を頭の上で銀の髪飾りで一括りに纏めている。彼が使っている書き物机は部屋の角に置かれていて入り口には背を向ける格好になるが、話し掛けられた方向に身を捩った姿勢のままなのだろう、そのお陰で顔や机の上がよく見えた。その顔が学院一と言われているライム先輩に負けない位の美形なのにアーロンは目を見張る。ただライム先輩と違うのは彼には何処か女性的なたおやかさが感じられた。髪型のせいでも、華奢な訳でもない。座っていてもライム先輩と同じ位の身長があると分かる程体格は良い。なのに女性的に見えるという、何処か不思議な雰囲気を持つ生徒だった。アーロンが学院内で自分と同じ銀髪の生徒に出会うは初めてだ。濃淡には個人差があるが茶色の髪が主流のこの国では、違う髪色は目立つ。王族の黒髪は別口として、それ以外の色は目立つ。金髪は少ないが銀髪の方がぐっと少ない。アーロンも母と自分以外知らない。自分と同じ髪色に好感を持ったせいか、はたまた彼の華やかな外見かその不思議な雰囲気のせいか、彼の周りがきらきらと輝いている様に見えた。
もう一人は書き物机の横に立っていて、黒縁の大きな眼鏡を掛けた痩せぎすな生徒だった。髪色は暗めだがこの国では一般的な茶色で、顔立ちも一般的、普通にしていたら相棒とは違って目立たない平凡な生徒だろう。ただ、特筆すべきはその髪型で、まるで鳥の巣の様に膨らんでぼさぼさに乱れていた。ただ違和感を感じるのは、首から下はきちんとしている事だ。彼の髪型は魔獣学のムッツ先生の様に身だしなみに気を遣わないだらしが無い部類に見えるのに、制服のブレザー迄着込んでネクタイをし、シャツのボタンも一番上迄きっちりとめている。首から下だけなら、寧ろ相棒の方がだらしが無いと言えよう、制服の上にざっくりとした白いセーターを着ているが、中のシャツの釦が一番上だけでなく、二番目も開いていて大分緩い印象だ。同じ鳥の巣頭でも桃色髪の生徒の様な鬘では無く地毛にしか見えないから、そのぼさぼさな髪型に何かこだわりがあるのかもしれない。彼も不思議な雰囲気を持つ生徒だった。
貴族学院なので、生徒達は美を尊び、野暮ったさや不潔さを嫌う傾向にある。その点で、二人はどちらも生徒達の噂話の種にされそうな生徒だった。銀髪の生徒は美しさで人目を惹き、鳥の巣頭の生徒は不快さに目を逸させるという意味で。
(こんな目立つ二人なのに、初めて見た。上級生だからかな?)
アーロン達が部屋に入っても会話に夢中でこちらを気にも掛けない二人だったが、慣れているのかジョンは、「こんにちは」と掛けた声に返事が無くても本棚の方へすたすたと歩いて行く。セドリックも黙ってそれに付いて行くので、アーロンも従った。だが、銀髪の先輩の方が一年生達に気が付いてどうぞと言いたげな優しい目をしたので、アーロンは会釈した。するとアーロンと目が合った銀髪の先輩が、少し驚いた様に目を見開いた。それがちょっと気になったが、ジョンとセドリックに置いて行かれたく無かったし、もう一人の鳥の巣頭の先輩は一年生達が入っても全く気付かずに話し続けているので、アーロンは直ぐに目を逸らして友人二人を追った。
しかし小骨の様に心に引っ掛かったので、ジョンが目当てらしい本棚の前で立ち止まるやアーロンは小声で尋ねた。
「いいの?」
「大丈夫ですよ。会長達いつもあんな感じなんで」
「そうなんだ」
「うちの会、上下関係厳しく無いんです。でないと小説について自由に語り合えないんで、挨拶とかちゃんとしなくても何にも言われません。今だって挨拶しても反応が無かったでしょう? いっつもあんな感じです。他の人も皆そうですよ。自分達の話に夢中になってる時、周りなんて気にしてる人誰も居ません。返って、邪魔するなって反応をされます」
「凄いね」
「この部屋の中では身分差も年齢差も問わないって事になっています。その代わり此処で話すのは恋愛小説の事だけ、それ以外の話題は禁止です。後、揉めても部屋を出たらきっぱり忘れるって決まりです。喧嘩になっても言葉で語り合う、拳は無しです」
「へえ」
「勿論、この部屋に入るなら会員以外もこの決まりに従わないといけません」
「成る程」
アーロンとジョンが話していると、偉そうに腕を組んだセドリックが混ぜっ返す。
「そうそうだから此処は僕には合わないんだよなあ、やっぱり男と男の喧嘩は拳で語らわないと」
「何言ってるんだよ、君の筋肉は口先だけだろ」
「え? 君こそ何言ってるんだよ、僕のこのむきむきが見えないとは」
ジョンのつっこみに、セドリックが腕と腰を捻る様にして無い筋肉を見せ付けのをくすくすと笑いながら、アーロンは早速本棚を物色してみる事にした。
角部屋だからだろうか、前にキース先輩に連れられて行った彼の入っている同好会の会室よりもずっと広い。部屋は入り口から見て左側は書き物をしたり本を読んだりする為に使っているのだろう、机や椅子が置かれている。対して右側は本棚がずらっと並んでいた。ただ、右側だけでは入り切らないのか左側の机と椅子の空間にも本棚が侵食し始めている様に見受けられる。
兎に角本の多い部屋だった。その為、角部屋で他の会室よりも窓が多いにも関わらずどこか薄暗い、と言っても気が滅入る暗さではなく、どちらかと言うと落ち着く暗さのある部屋だった。雰囲気としては図書館に近い。ただ図書館と違って読書家ではないアーロンでも圧倒されない、どこか雑然とした居心地の良さがあった。
「やっぱりあれだと思うんだよね」
「ううん、そうかあ?」
「そうそう。前のがあれだったし」
「けど、俺はそれが好きだったけどな」
「え? そうなの?」
「うん。あれが良かった」
「ああ、でも、それだとさ」
あれとかそればかりで第三者には意味の分からない会話だが、お互いには通じているらしく熱心に話し込んでいる。
一人は書き物机に向かっていた。机上には原稿用紙、手には羽ペンを構えているから何か書いている途中だったのかもしれない。長い銀髪を頭の上で銀の髪飾りで一括りに纏めている。彼が使っている書き物机は部屋の角に置かれていて入り口には背を向ける格好になるが、話し掛けられた方向に身を捩った姿勢のままなのだろう、そのお陰で顔や机の上がよく見えた。その顔が学院一と言われているライム先輩に負けない位の美形なのにアーロンは目を見張る。ただライム先輩と違うのは彼には何処か女性的なたおやかさが感じられた。髪型のせいでも、華奢な訳でもない。座っていてもライム先輩と同じ位の身長があると分かる程体格は良い。なのに女性的に見えるという、何処か不思議な雰囲気を持つ生徒だった。アーロンが学院内で自分と同じ銀髪の生徒に出会うは初めてだ。濃淡には個人差があるが茶色の髪が主流のこの国では、違う髪色は目立つ。王族の黒髪は別口として、それ以外の色は目立つ。金髪は少ないが銀髪の方がぐっと少ない。アーロンも母と自分以外知らない。自分と同じ髪色に好感を持ったせいか、はたまた彼の華やかな外見かその不思議な雰囲気のせいか、彼の周りがきらきらと輝いている様に見えた。
もう一人は書き物机の横に立っていて、黒縁の大きな眼鏡を掛けた痩せぎすな生徒だった。髪色は暗めだがこの国では一般的な茶色で、顔立ちも一般的、普通にしていたら相棒とは違って目立たない平凡な生徒だろう。ただ、特筆すべきはその髪型で、まるで鳥の巣の様に膨らんでぼさぼさに乱れていた。ただ違和感を感じるのは、首から下はきちんとしている事だ。彼の髪型は魔獣学のムッツ先生の様に身だしなみに気を遣わないだらしが無い部類に見えるのに、制服のブレザー迄着込んでネクタイをし、シャツのボタンも一番上迄きっちりとめている。首から下だけなら、寧ろ相棒の方がだらしが無いと言えよう、制服の上にざっくりとした白いセーターを着ているが、中のシャツの釦が一番上だけでなく、二番目も開いていて大分緩い印象だ。同じ鳥の巣頭でも桃色髪の生徒の様な鬘では無く地毛にしか見えないから、そのぼさぼさな髪型に何かこだわりがあるのかもしれない。彼も不思議な雰囲気を持つ生徒だった。
貴族学院なので、生徒達は美を尊び、野暮ったさや不潔さを嫌う傾向にある。その点で、二人はどちらも生徒達の噂話の種にされそうな生徒だった。銀髪の生徒は美しさで人目を惹き、鳥の巣頭の生徒は不快さに目を逸させるという意味で。
(こんな目立つ二人なのに、初めて見た。上級生だからかな?)
アーロン達が部屋に入っても会話に夢中でこちらを気にも掛けない二人だったが、慣れているのかジョンは、「こんにちは」と掛けた声に返事が無くても本棚の方へすたすたと歩いて行く。セドリックも黙ってそれに付いて行くので、アーロンも従った。だが、銀髪の先輩の方が一年生達に気が付いてどうぞと言いたげな優しい目をしたので、アーロンは会釈した。するとアーロンと目が合った銀髪の先輩が、少し驚いた様に目を見開いた。それがちょっと気になったが、ジョンとセドリックに置いて行かれたく無かったし、もう一人の鳥の巣頭の先輩は一年生達が入っても全く気付かずに話し続けているので、アーロンは直ぐに目を逸らして友人二人を追った。
しかし小骨の様に心に引っ掛かったので、ジョンが目当てらしい本棚の前で立ち止まるやアーロンは小声で尋ねた。
「いいの?」
「大丈夫ですよ。会長達いつもあんな感じなんで」
「そうなんだ」
「うちの会、上下関係厳しく無いんです。でないと小説について自由に語り合えないんで、挨拶とかちゃんとしなくても何にも言われません。今だって挨拶しても反応が無かったでしょう? いっつもあんな感じです。他の人も皆そうですよ。自分達の話に夢中になってる時、周りなんて気にしてる人誰も居ません。返って、邪魔するなって反応をされます」
「凄いね」
「この部屋の中では身分差も年齢差も問わないって事になっています。その代わり此処で話すのは恋愛小説の事だけ、それ以外の話題は禁止です。後、揉めても部屋を出たらきっぱり忘れるって決まりです。喧嘩になっても言葉で語り合う、拳は無しです」
「へえ」
「勿論、この部屋に入るなら会員以外もこの決まりに従わないといけません」
「成る程」
アーロンとジョンが話していると、偉そうに腕を組んだセドリックが混ぜっ返す。
「そうそうだから此処は僕には合わないんだよなあ、やっぱり男と男の喧嘩は拳で語らわないと」
「何言ってるんだよ、君の筋肉は口先だけだろ」
「え? 君こそ何言ってるんだよ、僕のこのむきむきが見えないとは」
ジョンのつっこみに、セドリックが腕と腰を捻る様にして無い筋肉を見せ付けのをくすくすと笑いながら、アーロンは早速本棚を物色してみる事にした。
0
お気に入りに追加
147
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
副会長様は平凡を望む
慎
BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』
…は?
「え、無理です」
丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。
妹が破滅フラグしか無い悪役令嬢だったので、破滅フラグを折りまくったらBL展開になってしまった!
古紫汐桜
BL
5歳のある日、双子の妹を助けた拍子に前世の記憶を取り戻したアルト・フィルナート。
アルトは前世で、アラフィフのペンネームが七緒夢というBL作家だったのを思い出す。
そして今、自分の居る世界が、自分が作家として大ブレイクするきっかけになった作品。
「月の巫女と7人の騎士」略して月七(つきなな)に転生した事を知る。
しかも、自分が転生したのはモブにさえなれなかった、破滅フラグしかない悪役令嬢「アリアナ」が、悪役令嬢になるきっかけとなった双子の兄、アルトであると気付く。
アルトは5歳の春、アルトの真似をして木登りをしまアリアナを助けようとして死んでしまう。
アルトは作中、懺悔に苦しむアリアナが見つめた先に描かれた絵画にしか登場しない。
そう、モブにさえなれなかったザコ。
言わば、モブ界の中でさえモブというKING of モブに転生したのだ。
本来なら死んでいる筈のアルトが生きていて、目の前に居る素直で可愛い妹が、破滅エンドしかない悪役令嬢アリアナならば、悪役令嬢になるきっかけの自分が生きているならば、作者の利点を生かして破滅フラグを折って折って折りまくってやろうと考えていた。
しかし、何故か攻略対象達から熱い視線を向けられているのが自分だと気付く。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
おまけのカスミ草
ニノ
BL
僕には双子の弟がいる…。僕とは違い、明るく魅力的な弟…。
僕はそんな弟のオマケとして見られるのが嫌で弟を避けるように過ごしていた。
なのに弟の我が儘で一緒に全寮制の男子校に入学することになり…。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる