抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との初めて

昼食

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 伯爵家の寮に着いたアーロンはがちがちに緊張していた。
 制服のポケットの中の物を握り締める。領地に帰るアレックスが「これ使って」とくれたのは掌に握り込める小さな缶に入った唇に塗る軟膏。苺味でほんのり赤くぷるぷる艶々になるらしい。
 それから服の上から胸ポケットも確認する。こちらは例の紙縒だ。結局自室で試さないままハンカチに包んで何本か持って来た。多分ライム先輩が用意してくれているだろうが、万一無かった時に備えて。

 (だってどういう流れか分かんないし。兄上は何もしなくて良いって言ってたけど、ライム先輩にやって貰うのは恥ずかしいし。出来たら自分で。ちょっと時間を貰えるかな? ああ、でもいつやれば? なんて言えば良いんだろう? やっぱり寮でやって来るべきだった? でもこれから昼も夜も食べるしそしたら出る物もあるだろうし……、って考えると直前が良いよね)

 アーロンの頭の中はぐちゃぐちゃだった。正直此処迄歩いて来た途中の記憶が無い。ライム先輩が寮に迎えに来てくれて一緒に歩いて来た筈なのに何を話したか覚えていないのだ。
 入り口を入って直ぐに前回は使用人が沢山居たが生徒達が実家に帰った後だからか、寮の執事とマーリーしか居なかった。

 「私の部屋は二階だよ」

 とライム先輩に肩を抱かれる様にして階段を登る。寮は三階建てで、二階の部屋が一番天井が高くなる為最上級生が使用する、というのは男爵家の寮と同じらしい。廊下に並ぶ扉の数は男爵家の寮よりずっと少なく、それは恐らく一人一人の部屋が広いからだと予想された。マーリーが開けてくれた扉の前で「此処だよ」と先輩が教えてくれる。入ると、アーロンの部屋には無い玄関があった。勿論貴族の邸宅のそれよりは遥かに狭いがもうそこに入っただけで部屋の造りの違いが分かる。左右に扉があり、右が応接室、左がライム先輩の寝室だそうだ。
 
 ーーライム先輩は特に説明しなかったが、正面がマーリーの部屋で入り口は玄関には繋がっておらず、言われなければそこに部屋がある事は分からない。そしてマーリーの部屋の右に簡易厨房、左の浴室(便所含む)に続く扉がある。つまり個室の奥側が使用人のマーリーの領分で、手前はライム先輩の生活の場であった。浴室は勿論ライム先輩が使用する為の物であったが、生徒によっては使用人に服の脱ぎ着から身体を洗う事迄お世話させる者もいるので、使用人の私室側からも入って来れるようになっていた。簡易厨房にはライム先輩が立ち入る事はない。簡易厨房では簡単な軽食も用意可能であったが、ライム先輩は食堂から食事を取り寄せる為、お茶やお菓子を用意するのにしか使われていなかった。ーー

 アーロンは応接間へと案内された。
 応接間は暖炉があってその前にゆったりと座れそうな一人掛けのソファが2脚あって寛げる様になっていた。また食堂から取り寄せた食事を食べる為の食卓もあった。広さは、もうこの応接間だけで、アーロンの部屋が丸ごとすっぽり入りそうだ。ライム先輩にすぐに昼食にしようと言われ、アーロンは食卓へついた。部屋の広さに気後れして余計にアーロンは緊張してしまう。

 「そんなに硬くならないで、昼食は君が喜びそうな物を用意して貰ったから」

 アーロンは部屋の広さに圧倒されていたのだが、ライム先輩は夜の事で緊張していると取った様だった。

 「大丈夫、夕食の後に入浴して貰う事になるが、それ迄はいつもの通りだよ。君は何も心配しなくて良い」
 「は、はい」
 「私達だけだから、礼儀作法は気にせずに気楽にして欲しい」
 
 そう言われても考えてしまうし、礼儀作法だって疎かに出来ないのだけれど、とアーロンはライム先輩を不安げに見たが、先輩は「本当に大丈夫だから」とにっこりして、マーリーに昼食の準備をする様言い付けた。
 
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