123 / 142
ライム先輩との初めて
昼食
しおりを挟む
伯爵家の寮に着いたアーロンはがちがちに緊張していた。
制服のポケットの中の物を握り締める。領地に帰るアレックスが「これ使って」とくれたのは掌に握り込める小さな缶に入った唇に塗る軟膏。苺味でほんのり赤くぷるぷる艶々になるらしい。
それから服の上から胸ポケットも確認する。こちらは例の紙縒だ。結局自室で試さないままハンカチに包んで何本か持って来た。多分ライム先輩が用意してくれているだろうが、万一無かった時に備えて。
(だってどういう流れか分かんないし。兄上は何もしなくて良いって言ってたけど、ライム先輩にやって貰うのは恥ずかしいし。出来たら自分で。ちょっと時間を貰えるかな? ああ、でもいつやれば? なんて言えば良いんだろう? やっぱり寮でやって来るべきだった? でもこれから昼も夜も食べるしそしたら出る物もあるだろうし……、って考えると直前が良いよね)
アーロンの頭の中はぐちゃぐちゃだった。正直此処迄歩いて来た途中の記憶が無い。ライム先輩が寮に迎えに来てくれて一緒に歩いて来た筈なのに何を話したか覚えていないのだ。
入り口を入って直ぐに前回は使用人が沢山居たが生徒達が実家に帰った後だからか、寮の執事とマーリーしか居なかった。
「私の部屋は二階だよ」
とライム先輩に肩を抱かれる様にして階段を登る。寮は三階建てで、二階の部屋が一番天井が高くなる為最上級生が使用する、というのは男爵家の寮と同じらしい。廊下に並ぶ扉の数は男爵家の寮よりずっと少なく、それは恐らく一人一人の部屋が広いからだと予想された。マーリーが開けてくれた扉の前で「此処だよ」と先輩が教えてくれる。入ると、アーロンの部屋には無い玄関があった。勿論貴族の邸宅のそれよりは遥かに狭いがもうそこに入っただけで部屋の造りの違いが分かる。左右に扉があり、右が応接室、左がライム先輩の寝室だそうだ。
ーーライム先輩は特に説明しなかったが、正面がマーリーの部屋で入り口は玄関には繋がっておらず、言われなければそこに部屋がある事は分からない。そしてマーリーの部屋の右に簡易厨房、左の浴室(便所含む)に続く扉がある。つまり個室の奥側が使用人のマーリーの領分で、手前はライム先輩の生活の場であった。浴室は勿論ライム先輩が使用する為の物であったが、生徒によっては使用人に服の脱ぎ着から身体を洗う事迄お世話させる者もいるので、使用人の私室側からも入って来れるようになっていた。簡易厨房にはライム先輩が立ち入る事はない。簡易厨房では簡単な軽食も用意可能であったが、ライム先輩は食堂から食事を取り寄せる為、お茶やお菓子を用意するのにしか使われていなかった。ーー
アーロンは応接間へと案内された。
応接間は暖炉があってその前にゆったりと座れそうな一人掛けのソファが2脚あって寛げる様になっていた。また食堂から取り寄せた食事を食べる為の食卓もあった。広さは、もうこの応接間だけで、アーロンの部屋が丸ごとすっぽり入りそうだ。ライム先輩にすぐに昼食にしようと言われ、アーロンは食卓へついた。部屋の広さに気後れして余計にアーロンは緊張してしまう。
「そんなに硬くならないで、昼食は君が喜びそうな物を用意して貰ったから」
アーロンは部屋の広さに圧倒されていたのだが、ライム先輩は夜の事で緊張していると取った様だった。
「大丈夫、夕食の後に入浴して貰う事になるが、それ迄はいつもの通りだよ。君は何も心配しなくて良い」
「は、はい」
「私達だけだから、礼儀作法は気にせずに気楽にして欲しい」
そう言われても考えてしまうし、礼儀作法だって疎かに出来ないのだけれど、とアーロンはライム先輩を不安げに見たが、先輩は「本当に大丈夫だから」とにっこりして、マーリーに昼食の準備をする様言い付けた。
制服のポケットの中の物を握り締める。領地に帰るアレックスが「これ使って」とくれたのは掌に握り込める小さな缶に入った唇に塗る軟膏。苺味でほんのり赤くぷるぷる艶々になるらしい。
それから服の上から胸ポケットも確認する。こちらは例の紙縒だ。結局自室で試さないままハンカチに包んで何本か持って来た。多分ライム先輩が用意してくれているだろうが、万一無かった時に備えて。
(だってどういう流れか分かんないし。兄上は何もしなくて良いって言ってたけど、ライム先輩にやって貰うのは恥ずかしいし。出来たら自分で。ちょっと時間を貰えるかな? ああ、でもいつやれば? なんて言えば良いんだろう? やっぱり寮でやって来るべきだった? でもこれから昼も夜も食べるしそしたら出る物もあるだろうし……、って考えると直前が良いよね)
アーロンの頭の中はぐちゃぐちゃだった。正直此処迄歩いて来た途中の記憶が無い。ライム先輩が寮に迎えに来てくれて一緒に歩いて来た筈なのに何を話したか覚えていないのだ。
入り口を入って直ぐに前回は使用人が沢山居たが生徒達が実家に帰った後だからか、寮の執事とマーリーしか居なかった。
「私の部屋は二階だよ」
とライム先輩に肩を抱かれる様にして階段を登る。寮は三階建てで、二階の部屋が一番天井が高くなる為最上級生が使用する、というのは男爵家の寮と同じらしい。廊下に並ぶ扉の数は男爵家の寮よりずっと少なく、それは恐らく一人一人の部屋が広いからだと予想された。マーリーが開けてくれた扉の前で「此処だよ」と先輩が教えてくれる。入ると、アーロンの部屋には無い玄関があった。勿論貴族の邸宅のそれよりは遥かに狭いがもうそこに入っただけで部屋の造りの違いが分かる。左右に扉があり、右が応接室、左がライム先輩の寝室だそうだ。
ーーライム先輩は特に説明しなかったが、正面がマーリーの部屋で入り口は玄関には繋がっておらず、言われなければそこに部屋がある事は分からない。そしてマーリーの部屋の右に簡易厨房、左の浴室(便所含む)に続く扉がある。つまり個室の奥側が使用人のマーリーの領分で、手前はライム先輩の生活の場であった。浴室は勿論ライム先輩が使用する為の物であったが、生徒によっては使用人に服の脱ぎ着から身体を洗う事迄お世話させる者もいるので、使用人の私室側からも入って来れるようになっていた。簡易厨房にはライム先輩が立ち入る事はない。簡易厨房では簡単な軽食も用意可能であったが、ライム先輩は食堂から食事を取り寄せる為、お茶やお菓子を用意するのにしか使われていなかった。ーー
アーロンは応接間へと案内された。
応接間は暖炉があってその前にゆったりと座れそうな一人掛けのソファが2脚あって寛げる様になっていた。また食堂から取り寄せた食事を食べる為の食卓もあった。広さは、もうこの応接間だけで、アーロンの部屋が丸ごとすっぽり入りそうだ。ライム先輩にすぐに昼食にしようと言われ、アーロンは食卓へついた。部屋の広さに気後れして余計にアーロンは緊張してしまう。
「そんなに硬くならないで、昼食は君が喜びそうな物を用意して貰ったから」
アーロンは部屋の広さに圧倒されていたのだが、ライム先輩は夜の事で緊張していると取った様だった。
「大丈夫、夕食の後に入浴して貰う事になるが、それ迄はいつもの通りだよ。君は何も心配しなくて良い」
「は、はい」
「私達だけだから、礼儀作法は気にせずに気楽にして欲しい」
そう言われても考えてしまうし、礼儀作法だって疎かに出来ないのだけれど、とアーロンはライム先輩を不安げに見たが、先輩は「本当に大丈夫だから」とにっこりして、マーリーに昼食の準備をする様言い付けた。
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
おまけのカスミ草
ニノ
BL
僕には双子の弟がいる…。僕とは違い、明るく魅力的な弟…。
僕はそんな弟のオマケとして見られるのが嫌で弟を避けるように過ごしていた。
なのに弟の我が儘で一緒に全寮制の男子校に入学することになり…。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる