抱かれてみたい

小桃沢ももみ

文字の大きさ
上 下
121 / 142
ライム先輩との冬

お手入れとマクマ

しおりを挟む
 アーロンは湯船に湯を張ると、母から届いた入浴剤を入れた。ラベンダーの香りで髪も肌もしっとりする。
 アーロンはお手入れに関しては面倒臭がり屋なので、難しい事はしたくない。まずは全身に使える液体石鹸で髪も顔も身体も洗う。泡を流したら湯船に入って、顔にも入浴剤の溶けたお湯をばしゃばしゃとかけてから、頭迄潜って髪にも入浴剤を行き渡させる。最後に上がる前に頭から掛け湯をして終わり。そのままタオルで全身を拭いて、髪も拭いて乾かさずに寝てしまう。それがいつものやり方だった。
 しかし、兄の手紙にあった様にちゃんとお手入れをするとなるといつもと同じではいけない。流石にアーロンも貴族子息として普段が手抜きなのは分かっている。
 掛け湯をして出てタオルで拭くとこ迄はいつもと同じ。ただ拭き方は丁寧に。いつもみたいにばさばさっと拭いてそれで終わりではなく、身体は擦らずにタオルを軽く押し当てる様に、髪の毛は優しく地肌を揉む様にして水分をき取った後は毛先に溜まった水分をタオルで挟む様にして拭く。その後は瓶から椿油を一滴、それを両掌で温めて掌に広げてから、顔に軽く押し付ける様にして少しずつ全体に伸ばす。それが終わったらまた一滴、今度は髪の毛に少しずつ馴染ませる。

 「ふう」

 アーロンは鏡の前で息を吐いた。やっとちょっと終わった。面倒臭い。だが残りもやらねば。明日はライム先輩に肌を晒す事になるのだろうし。
 自分の身体を見てみる。痩せっぽちで、肋骨が出っ張ってその下が妙な感じにへっこんでいて変な感じだ、そのずっと上に付いている顔はとっても情けない表情をしている。凄く自分の身体に自信が無い。変じゃ無いだろうか? お腹は平らだけど筋肉は全く付いていない。子供みたいな身体付き。ライム先輩の様に見るからに大人に近づいて来ている部分は一つも無い。手足もただ細く白い。それに白いと言っても青い血管が透けて見えているのとか不気味で、ちょっとかさついている部分とかもあり、やっぱり毎日ちゃんとお手入れしないと駄目なんだなあとため息が出る。
 まあ仕方がない、今からでもやらないよりまし、やるかとバスタオルを裸の肩にかけて風呂場から出ると、目の前に居る物に驚いた。

 「は!?」

 寝台の上、火の国の文箱の上にどーんと偉そうに両手足を下向きに広げた格好でマクマが乗っていたのだ。

 「え? え?」

 アーロンは慌てて、肩のバスタオルを腰に巻き直すと部屋中を見回した。マクマの他、不審者は居ない。
 部屋の入り口の扉は中からちゃんと内鍵が掛かって居る。まあ、リバー先生が来たなら鍵は持っているからまた掛けて出て行ったのだろうけれど、お風呂に居ても音はしただろう。

 「誰も入って来てないよな。お前、何処から来たの?」

 アーロンは今度は窓を確認する。上半身は裸なので、外からは自分が見えない様に壁際に立ってそっとカーテンを摘んで開けて見る。窓は閉まっていた。カーテンと窓の間の冷たい空気に肌が触れ、アーロンは思わずぶるっと震える。

 「おかしいなあ」

 マクマは首を捻っているアーロンを笑う様に両手を口に当ててぴょんぴょん跳ねている。文箱の蓋が揺れてかたかた音を立てだしたので、アーロンは慌てて止めた。

 「しーっ」

 自分は素っ裸だ。この状況で寮の生徒が集まって来たら困る。
 流石にマクマもそれは分かっていた様で素直に文箱の上から下りた。

 「お前何処から来たの?」

 また同じ事を聞くと、マクマはアーロンの後ろ、壁を手で指した。振り返るが、マクマが入って来れるような隙間は無い。

 「くしゅん」

 あちこち探していたらくしゃみが出た。室内は暖かだが、裸でうろうろしていたら流石にちょっと冷えた。マクマが飛んで来て肩に乗り、アーロンの濡れた髪をぽんぽんと叩く。

 「うん、分かった。乾かすよ」

 その前に身体に乳液を塗らなくては。下着だけ身に付けてから、乳液が入った瓶を持って、寝台に乗る。リンパというのの流れに沿って揉む様にしながら塗るやり方はケビンに習った。「美形はその美を一生保つ義務があるんだ。おっさんになったら手を抜いてただの人になるなんて努力して来たモブに対して失礼!」と訳の分からない事を言いながら教えられたのだ。本当はお風呂から出たら直ぐにやらないといけなかったのだが、ちょっと時間が空いてしまった。
 終わると銀鼠のふわふわの室内着を着る。これでもう寒く無い。髪を乾かそうと思って、あ!っと思い出した。一番やらねばならない事を忘れていたのだった。風呂場に取りに戻ろうと思って、寝台に座って自分を見上げているマクマと目が合った。

 「あー、付いて来るなよ」

 風呂場に忘れた紙縒を見に行くと、アーロンは絶句した。
 いつの間に落としたのか、床に落ちていたそれは水分を含んで膨らんでいたのだった。

 (何これ、凄く大きくて太い)

 立ち竦んでいると、小さな紺色の熊がとことこと歩いて行って手でそれを突っついた。

 「うわー! なんでお前入って来てる!?」

 アーロンは慌ててマクマを摘み上げると、風呂場の扉を開けて外へ放り投げた。直様中から鍵を掛ける。

 「はあ」

 恐る恐る紅色の部分を摘む様に持って持ち上げた。自分のそれが勃っているのをちゃんと見た事も無いのに。ライム先輩の大きさだというそれは、とても立体的で最初の紙縒の姿が嘘みたいだった。

 「えー」

 (こんなの絶対入んないよ)

 アーロンは、寝巻きの下を下着毎引っ張って自分の下半身を上から覗いてみた。ちょっと近づけて比べて見る。どう考えても倍以上の太さがあった。
 こんなの……、考えるだけで怖い。どう考えてみてもこれが入って気持ち良くなるとは思えなかった。明日は大分演技と努力を求められそうだ。そもそもお尻が切れるのではとぞっとした。

 「はあ」

 これを何処に捨てよう。乾いたら元の紙縒に戻るのだろうか? とりあえず何かに包んで捨てたい、そうだお手洗いの紙に、と思って風呂場の扉を開けると腕を組んで怒った様な格好をしたマクマが待ち構えていた。アーロンは慌ててぶつを背後に隠す。

 「お前が悪いんだぞ、付いて来るなって言っただろ?」

 そのままマクマに見えない様にアーロンは背後を隠し、横歩きしてお手洗いに入った。直ぐに鍵を閉めてマクマが入って来ていないのを確認してから、紙でぐるぐる巻きにする。そのまま洗面所の塵箱に捨てに行った。別のを取って来ないとでもマクマが居るなと思いながら洗面所を出るとマクマが肩に飛び乗って来て、アーロンの頭をぽんぽん叩く。髪を乾かせと言っているのだ。

 (もうだいぶ乾いて来てるけど……)

 面倒くさいなと思ったのがばれたのかマクマが片手でなく、両手でぽかぽか叩き出したので、「分かった、分かった」とアーロンは従う事にした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

妹が破滅フラグしか無い悪役令嬢だったので、破滅フラグを折りまくったらBL展開になってしまった!

古紫汐桜
BL
5歳のある日、双子の妹を助けた拍子に前世の記憶を取り戻したアルト・フィルナート。 アルトは前世で、アラフィフのペンネームが七緒夢というBL作家だったのを思い出す。 そして今、自分の居る世界が、自分が作家として大ブレイクするきっかけになった作品。 「月の巫女と7人の騎士」略して月七(つきなな)に転生した事を知る。 しかも、自分が転生したのはモブにさえなれなかった、破滅フラグしかない悪役令嬢「アリアナ」が、悪役令嬢になるきっかけとなった双子の兄、アルトであると気付く。 アルトは5歳の春、アルトの真似をして木登りをしまアリアナを助けようとして死んでしまう。 アルトは作中、懺悔に苦しむアリアナが見つめた先に描かれた絵画にしか登場しない。 そう、モブにさえなれなかったザコ。 言わば、モブ界の中でさえモブというKING of モブに転生したのだ。 本来なら死んでいる筈のアルトが生きていて、目の前に居る素直で可愛い妹が、破滅エンドしかない悪役令嬢アリアナならば、悪役令嬢になるきっかけの自分が生きているならば、作者の利点を生かして破滅フラグを折って折って折りまくってやろうと考えていた。 しかし、何故か攻略対象達から熱い視線を向けられているのが自分だと気付く。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

おまけのカスミ草

ニノ
BL
 僕には双子の弟がいる…。僕とは違い、明るく魅力的な弟…。  僕はそんな弟のオマケとして見られるのが嫌で弟を避けるように過ごしていた。  なのに弟の我が儘で一緒に全寮制の男子校に入学することになり…。

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

処理中です...