抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

お手入れとマクマ

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 アーロンは湯船に湯を張ると、母から届いた入浴剤を入れた。ラベンダーの香りで髪も肌もしっとりする。
 アーロンはお手入れに関しては面倒臭がり屋なので、難しい事はしたくない。まずは全身に使える液体石鹸で髪も顔も身体も洗う。泡を流したら湯船に入って、顔にも入浴剤の溶けたお湯をばしゃばしゃとかけてから、頭迄潜って髪にも入浴剤を行き渡させる。最後に上がる前に頭から掛け湯をして終わり。そのままタオルで全身を拭いて、髪も拭いて乾かさずに寝てしまう。それがいつものやり方だった。
 しかし、兄の手紙にあった様にちゃんとお手入れをするとなるといつもと同じではいけない。流石にアーロンも貴族子息として普段が手抜きなのは分かっている。
 掛け湯をして出てタオルで拭くとこ迄はいつもと同じ。ただ拭き方は丁寧に。いつもみたいにばさばさっと拭いてそれで終わりではなく、身体は擦らずにタオルを軽く押し当てる様に、髪の毛は優しく地肌を揉む様にして水分をき取った後は毛先に溜まった水分をタオルで挟む様にして拭く。その後は瓶から椿油を一滴、それを両掌で温めて掌に広げてから、顔に軽く押し付ける様にして少しずつ全体に伸ばす。それが終わったらまた一滴、今度は髪の毛に少しずつ馴染ませる。

 「ふう」

 アーロンは鏡の前で息を吐いた。やっとちょっと終わった。面倒臭い。だが残りもやらねば。明日はライム先輩に肌を晒す事になるのだろうし。
 自分の身体を見てみる。痩せっぽちで、肋骨が出っ張ってその下が妙な感じにへっこんでいて変な感じだ、そのずっと上に付いている顔はとっても情けない表情をしている。凄く自分の身体に自信が無い。変じゃ無いだろうか? お腹は平らだけど筋肉は全く付いていない。子供みたいな身体付き。ライム先輩の様に見るからに大人に近づいて来ている部分は一つも無い。手足もただ細く白い。それに白いと言っても青い血管が透けて見えているのとか不気味で、ちょっとかさついている部分とかもあり、やっぱり毎日ちゃんとお手入れしないと駄目なんだなあとため息が出る。
 まあ仕方がない、今からでもやらないよりまし、やるかとバスタオルを裸の肩にかけて風呂場から出ると、目の前に居る物に驚いた。

 「は!?」

 寝台の上、火の国の文箱の上にどーんと偉そうに両手足を下向きに広げた格好でマクマが乗っていたのだ。

 「え? え?」

 アーロンは慌てて、肩のバスタオルを腰に巻き直すと部屋中を見回した。マクマの他、不審者は居ない。
 部屋の入り口の扉は中からちゃんと内鍵が掛かって居る。まあ、リバー先生が来たなら鍵は持っているからまた掛けて出て行ったのだろうけれど、お風呂に居ても音はしただろう。

 「誰も入って来てないよな。お前、何処から来たの?」

 アーロンは今度は窓を確認する。上半身は裸なので、外からは自分が見えない様に壁際に立ってそっとカーテンを摘んで開けて見る。窓は閉まっていた。カーテンと窓の間の冷たい空気に肌が触れ、アーロンは思わずぶるっと震える。

 「おかしいなあ」

 マクマは首を捻っているアーロンを笑う様に両手を口に当ててぴょんぴょん跳ねている。文箱の蓋が揺れてかたかた音を立てだしたので、アーロンは慌てて止めた。

 「しーっ」

 自分は素っ裸だ。この状況で寮の生徒が集まって来たら困る。
 流石にマクマもそれは分かっていた様で素直に文箱の上から下りた。

 「お前何処から来たの?」

 また同じ事を聞くと、マクマはアーロンの後ろ、壁を手で指した。振り返るが、マクマが入って来れるような隙間は無い。

 「くしゅん」

 あちこち探していたらくしゃみが出た。室内は暖かだが、裸でうろうろしていたら流石にちょっと冷えた。マクマが飛んで来て肩に乗り、アーロンの濡れた髪をぽんぽんと叩く。

 「うん、分かった。乾かすよ」

 その前に身体に乳液を塗らなくては。下着だけ身に付けてから、乳液が入った瓶を持って、寝台に乗る。リンパというのの流れに沿って揉む様にしながら塗るやり方はケビンに習った。「美形はその美を一生保つ義務があるんだ。おっさんになったら手を抜いてただの人になるなんて努力して来たモブに対して失礼!」と訳の分からない事を言いながら教えられたのだ。本当はお風呂から出たら直ぐにやらないといけなかったのだが、ちょっと時間が空いてしまった。
 終わると銀鼠のふわふわの室内着を着る。これでもう寒く無い。髪を乾かそうと思って、あ!っと思い出した。一番やらねばならない事を忘れていたのだった。風呂場に取りに戻ろうと思って、寝台に座って自分を見上げているマクマと目が合った。

 「あー、付いて来るなよ」

 風呂場に忘れた紙縒を見に行くと、アーロンは絶句した。
 いつの間に落としたのか、床に落ちていたそれは水分を含んで膨らんでいたのだった。

 (何これ、凄く大きくて太い)

 立ち竦んでいると、小さな紺色の熊がとことこと歩いて行って手でそれを突っついた。

 「うわー! なんでお前入って来てる!?」

 アーロンは慌ててマクマを摘み上げると、風呂場の扉を開けて外へ放り投げた。直様中から鍵を掛ける。

 「はあ」

 恐る恐る紅色の部分を摘む様に持って持ち上げた。自分のそれが勃っているのをちゃんと見た事も無いのに。ライム先輩の大きさだというそれは、とても立体的で最初の紙縒の姿が嘘みたいだった。

 「えー」

 (こんなの絶対入んないよ)

 アーロンは、寝巻きの下を下着毎引っ張って自分の下半身を上から覗いてみた。ちょっと近づけて比べて見る。どう考えても倍以上の太さがあった。
 こんなの……、考えるだけで怖い。どう考えてみてもこれが入って気持ち良くなるとは思えなかった。明日は大分演技と努力を求められそうだ。そもそもお尻が切れるのではとぞっとした。

 「はあ」

 これを何処に捨てよう。乾いたら元の紙縒に戻るのだろうか? とりあえず何かに包んで捨てたい、そうだお手洗いの紙に、と思って風呂場の扉を開けると腕を組んで怒った様な格好をしたマクマが待ち構えていた。アーロンは慌ててぶつを背後に隠す。

 「お前が悪いんだぞ、付いて来るなって言っただろ?」

 そのままマクマに見えない様にアーロンは背後を隠し、横歩きしてお手洗いに入った。直ぐに鍵を閉めてマクマが入って来ていないのを確認してから、紙でぐるぐる巻きにする。そのまま洗面所の塵箱に捨てに行った。別のを取って来ないとでもマクマが居るなと思いながら洗面所を出るとマクマが肩に飛び乗って来て、アーロンの頭をぽんぽん叩く。髪を乾かせと言っているのだ。

 (もうだいぶ乾いて来てるけど……)

 面倒くさいなと思ったのがばれたのかマクマが片手でなく、両手でぽかぽか叩き出したので、「分かった、分かった」とアーロンは従う事にした。
 
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