88 / 142
ライム先輩との冬
図書館からの移動
しおりを挟む
話が終わると、イアンも本を探しに立ったので、アーロンも室内の本の背を辿ってみた。
王様の日記とか、誰かが描いた王様についての伝記とか、ちょっとアーロンには興味の無い内容ばかりだ。アーロンは室内の様子を見てタイスケを誘った。
「タイスケ様、部屋の外の本を見に行かない?」
「あー行くっす」
政の本に飽き飽きしていたのか、二つ返事でついて来る。
「余り遠くへ行かない様に」
本に顔を向けたままの寮長に、遊びに行く子供に母親がかける声みたいな事を言われて部屋から出る。
扉を開けて出ると直ぐ、回廊になっている。図書館の中央が吹き抜けで、一階迄繋がっているので真下にある貸し出し窓口がよく見えた。アーロン達がいる所は三階だ。
「さっきの受付とは別なんすよね?」
タイスケの質問にアーロンは口の前に人差し指を立てた。タイスケはかなり声を潜めて、
「おいらの声ってそんなにおっきいですか?」
と拗ねた素振りを見せる。アーロンは頷いた。
「うん、それもあるし、声がお腹から出てるのかな? かなり遠く迄通るんだよね」
「うう。さっきの部屋に戻る迄あんま喋んないようにします」
「それがいいと思う」
何度も皆に指摘されて可哀想な気もするけれど、確かに大きいので自重して欲しい。
アーロンは下を見て答えた。
「多分あそこで本を借りたり、借りたい本を探して貰ったりするんだと思う」
「人一杯居ますね」
「うん」
アーロンは下を覗くのを止めて、周りを見回した。
「取り敢えず、この階で本を探そうか。あんま遠くへ行くなって寮長に言われたし。タイスケ様離れない様にしよ。行きたい方向あったら、声を出さずに僕の肩を叩いて指差すようにして。僕もそうする」
「分かったっす」
「あとその時に、人を指差さない様に注意して。変に難癖つけられたく無いから。今からお互いに無言、いい?」
タイスケは黙って頷いた。
他の階も同じなのかは不明だが、三階の造りは回廊沿いに距離を置いて個室が設置されている。個室と個室の間が、共有の本棚になっている。簡単に言うと凸凹した組み合わせの繰り返しだ。個室、へっこんでいる所に書架、個室、へっこんでいる所に書架…、という順に延々と続いて行く。
アーロン達の部屋の入り口上部には『政の間』と部屋名が書かれていたので、それを目印に時計回りに回って行こうとアーロンは進行方向を指さした。取り敢えず政の部屋の隣にあるへっこんでいる所を彷徨ってみた。
☆
リバー先生に聞くなら夕食前が良いと寮長が言うので、図書館の後アーロン達は男爵家の寮へ戻った。それに火の国の二人もついてくる。と言っても、先頭を歩いているのは、本好き三人でその後ろをアーロンとタイスケでついて行く。
「イアン様もあそこの仲間とは思いませんでした」
「そうだねー。僕、僕のせいであの二人に我慢させちゃってたと申し訳無いよ」
「んー、それは気にしなくていいと思うっす。行きたきゃ一人で行けば良かっただけっす。特にイアン様なんて、寮からこんなに近いんすから。二人ともアーロン様と一緒に行きたかっただけなんで、だいじょぶっすよ」
「そうだといいなあ」
図書館から男爵家の寮迄は徒歩十五分位だ。売店に行くのと同じなので確かにタイスケの言う通りではある。
「しっかし、借りれる本と借りれない本があるんすねえ」
「そうみたいだねえー」
そろそろ出ようと言う寮長にイチロウとイアンが今読んでいる本を借りたいと言い出したのだが、寮長が「この部屋から持ち出せるかやってみたら借りれるか分かりますよ」と言うので試したら持ち出せなかったのだ。本を持ったまま扉から出ようとすると、一瞬で本が手元から消えた。本棚に戻っている筈だと寮長が言うのでタイスケが確かめたら確かにイチロウとイアンが読んでいた本が棚に戻っていた。「いっぱい本があって戻すのが面倒な時に便利っす」とタイスケは感心していたがそれはちょっと違うとアーロンは思った。
「ねえ、タイスケ様も次の試験でAクラスを狙うんだよね?」
「あー、そいつは無理なら仕方ないと若に言われました」
「え、そうなの?」
タイスケは頷く。タイスケの福々としたほっぺたを見つめながらアーロンはライム先輩から渡された契約書の事を考えていた。魔道具師として採用する場合は、在学中の魔道具関連の教科は全てA判定である事と教師による推薦が必要と条件が書かれていたのだ。
アーロンが今年取った講義で魔道具に関係しそうなのは、三つ。月曜日の古語入門と、火曜日の四時間目のおじいちゃん先生が勝手に喋ってるだけの魔道具の講義と、水曜日四時間目の西の国についての講義。
「アーロン様はどうなさるおつもりなんです?」
「僕は、Bクラスを目標にするつもり」
「あ、Cからは上がるつもりなんすね?」
「うん」
ライム先輩の契約書では、秘書の場合はBクラス以上となっていた。だからどちらにしろ今のクラスでは駄目なのだ。それに、一般教養の歴史の講義の時間をずらした結果、今はBクラスと一緒に受けているのだが、アーロンのクラスにいる子爵家の三人の様な嫌な感じの生徒が居なくて居心地が良さそうだった。
試験の入れ替わりでどれだけ顔ぶれが変わるのかは分からないが、前を行く三人程自分は図書館の本には興味がないなと思ったので、次からは試験勉強をしようと思っている。
「アーロン様がBならおいらも同じクラスにするっす」
「ふふふ、一緒だったらいいねえ」
「頑張るっす」
「頑張ろう!」
取り敢えず、前向きに、今出来る事をやってみようとアーロンは考えていた。
王様の日記とか、誰かが描いた王様についての伝記とか、ちょっとアーロンには興味の無い内容ばかりだ。アーロンは室内の様子を見てタイスケを誘った。
「タイスケ様、部屋の外の本を見に行かない?」
「あー行くっす」
政の本に飽き飽きしていたのか、二つ返事でついて来る。
「余り遠くへ行かない様に」
本に顔を向けたままの寮長に、遊びに行く子供に母親がかける声みたいな事を言われて部屋から出る。
扉を開けて出ると直ぐ、回廊になっている。図書館の中央が吹き抜けで、一階迄繋がっているので真下にある貸し出し窓口がよく見えた。アーロン達がいる所は三階だ。
「さっきの受付とは別なんすよね?」
タイスケの質問にアーロンは口の前に人差し指を立てた。タイスケはかなり声を潜めて、
「おいらの声ってそんなにおっきいですか?」
と拗ねた素振りを見せる。アーロンは頷いた。
「うん、それもあるし、声がお腹から出てるのかな? かなり遠く迄通るんだよね」
「うう。さっきの部屋に戻る迄あんま喋んないようにします」
「それがいいと思う」
何度も皆に指摘されて可哀想な気もするけれど、確かに大きいので自重して欲しい。
アーロンは下を見て答えた。
「多分あそこで本を借りたり、借りたい本を探して貰ったりするんだと思う」
「人一杯居ますね」
「うん」
アーロンは下を覗くのを止めて、周りを見回した。
「取り敢えず、この階で本を探そうか。あんま遠くへ行くなって寮長に言われたし。タイスケ様離れない様にしよ。行きたい方向あったら、声を出さずに僕の肩を叩いて指差すようにして。僕もそうする」
「分かったっす」
「あとその時に、人を指差さない様に注意して。変に難癖つけられたく無いから。今からお互いに無言、いい?」
タイスケは黙って頷いた。
他の階も同じなのかは不明だが、三階の造りは回廊沿いに距離を置いて個室が設置されている。個室と個室の間が、共有の本棚になっている。簡単に言うと凸凹した組み合わせの繰り返しだ。個室、へっこんでいる所に書架、個室、へっこんでいる所に書架…、という順に延々と続いて行く。
アーロン達の部屋の入り口上部には『政の間』と部屋名が書かれていたので、それを目印に時計回りに回って行こうとアーロンは進行方向を指さした。取り敢えず政の部屋の隣にあるへっこんでいる所を彷徨ってみた。
☆
リバー先生に聞くなら夕食前が良いと寮長が言うので、図書館の後アーロン達は男爵家の寮へ戻った。それに火の国の二人もついてくる。と言っても、先頭を歩いているのは、本好き三人でその後ろをアーロンとタイスケでついて行く。
「イアン様もあそこの仲間とは思いませんでした」
「そうだねー。僕、僕のせいであの二人に我慢させちゃってたと申し訳無いよ」
「んー、それは気にしなくていいと思うっす。行きたきゃ一人で行けば良かっただけっす。特にイアン様なんて、寮からこんなに近いんすから。二人ともアーロン様と一緒に行きたかっただけなんで、だいじょぶっすよ」
「そうだといいなあ」
図書館から男爵家の寮迄は徒歩十五分位だ。売店に行くのと同じなので確かにタイスケの言う通りではある。
「しっかし、借りれる本と借りれない本があるんすねえ」
「そうみたいだねえー」
そろそろ出ようと言う寮長にイチロウとイアンが今読んでいる本を借りたいと言い出したのだが、寮長が「この部屋から持ち出せるかやってみたら借りれるか分かりますよ」と言うので試したら持ち出せなかったのだ。本を持ったまま扉から出ようとすると、一瞬で本が手元から消えた。本棚に戻っている筈だと寮長が言うのでタイスケが確かめたら確かにイチロウとイアンが読んでいた本が棚に戻っていた。「いっぱい本があって戻すのが面倒な時に便利っす」とタイスケは感心していたがそれはちょっと違うとアーロンは思った。
「ねえ、タイスケ様も次の試験でAクラスを狙うんだよね?」
「あー、そいつは無理なら仕方ないと若に言われました」
「え、そうなの?」
タイスケは頷く。タイスケの福々としたほっぺたを見つめながらアーロンはライム先輩から渡された契約書の事を考えていた。魔道具師として採用する場合は、在学中の魔道具関連の教科は全てA判定である事と教師による推薦が必要と条件が書かれていたのだ。
アーロンが今年取った講義で魔道具に関係しそうなのは、三つ。月曜日の古語入門と、火曜日の四時間目のおじいちゃん先生が勝手に喋ってるだけの魔道具の講義と、水曜日四時間目の西の国についての講義。
「アーロン様はどうなさるおつもりなんです?」
「僕は、Bクラスを目標にするつもり」
「あ、Cからは上がるつもりなんすね?」
「うん」
ライム先輩の契約書では、秘書の場合はBクラス以上となっていた。だからどちらにしろ今のクラスでは駄目なのだ。それに、一般教養の歴史の講義の時間をずらした結果、今はBクラスと一緒に受けているのだが、アーロンのクラスにいる子爵家の三人の様な嫌な感じの生徒が居なくて居心地が良さそうだった。
試験の入れ替わりでどれだけ顔ぶれが変わるのかは分からないが、前を行く三人程自分は図書館の本には興味がないなと思ったので、次からは試験勉強をしようと思っている。
「アーロン様がBならおいらも同じクラスにするっす」
「ふふふ、一緒だったらいいねえ」
「頑張るっす」
「頑張ろう!」
取り敢えず、前向きに、今出来る事をやってみようとアーロンは考えていた。
0
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
おまけのカスミ草
ニノ
BL
僕には双子の弟がいる…。僕とは違い、明るく魅力的な弟…。
僕はそんな弟のオマケとして見られるのが嫌で弟を避けるように過ごしていた。
なのに弟の我が儘で一緒に全寮制の男子校に入学することになり…。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
妹が破滅フラグしか無い悪役令嬢だったので、破滅フラグを折りまくったらBL展開になってしまった!
古紫汐桜
BL
5歳のある日、双子の妹を助けた拍子に前世の記憶を取り戻したアルト・フィルナート。
アルトは前世で、アラフィフのペンネームが七緒夢というBL作家だったのを思い出す。
そして今、自分の居る世界が、自分が作家として大ブレイクするきっかけになった作品。
「月の巫女と7人の騎士」略して月七(つきなな)に転生した事を知る。
しかも、自分が転生したのはモブにさえなれなかった、破滅フラグしかない悪役令嬢「アリアナ」が、悪役令嬢になるきっかけとなった双子の兄、アルトであると気付く。
アルトは5歳の春、アルトの真似をして木登りをしまアリアナを助けようとして死んでしまう。
アルトは作中、懺悔に苦しむアリアナが見つめた先に描かれた絵画にしか登場しない。
そう、モブにさえなれなかったザコ。
言わば、モブ界の中でさえモブというKING of モブに転生したのだ。
本来なら死んでいる筈のアルトが生きていて、目の前に居る素直で可愛い妹が、破滅エンドしかない悪役令嬢アリアナならば、悪役令嬢になるきっかけの自分が生きているならば、作者の利点を生かして破滅フラグを折って折って折りまくってやろうと考えていた。
しかし、何故か攻略対象達から熱い視線を向けられているのが自分だと気付く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる