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ライム先輩とのお出掛け
本屋
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歩いていると良い匂いがして来た。
アーロンが匂いの方向を見ると、焼き栗の屋台だった。
「おや、もうそういう季節か。食べるかい?」
とライム先輩に聞かれる。栗は好きだ。さっきも食べたけれどああやって売られていると興味を惹かれる。けれど、買っても食べながら歩く事になる。自分は良いけど、立ち食いなんてライム先輩は大丈夫なのかと気になったアーロンは「いいえ」と首を振る。するとライム先輩が振り返った。直ぐに護衛が一人出て行って、小袋を一つ買って帰って来た。ライム先輩に渡す前に、片眼鏡の様な物を目に当てて、一旦確認しているので、アーロンが不思議そうにその様子を見ていると、
「ああ、鑑定の魔道具だよ。毒味の為にね」
とライム先輩が教えてくれた。護衛はハンカチで包んでから先輩に渡す。熱いのかもしれない。それを更に先輩からアーロンに渡される。
「ありがとうございます」
温かい。今日はそんなに寒く無いが、物凄く熱かったらどうしようと思ったらハンカチで包んでくれたからか丁度良い熱さだった。ライム先輩に渡されるとただの焼き栗も特別な物の様に思える。アーロンが両手で持って見つめていると、くすりと笑い声がしてライム先輩が一つ取った。その白い指先の動きを追っていると、驚いた事にその場で皮を剥き出した。
「先輩もこういう物、召し上がられるんですか?」
「うん。といっても滅多にはしないがね」
ライム先輩はそのままぽいと口の中に入れ、もぐもぐと味わってから、
「当たりだ」
と悪戯な笑みを浮かべた。滅多にしないという行為を一緒にしてくれているからだろうか、何だかいつもよりもずっと距離が近くなった様な気がする。先輩がこちら側に降りて来てくれたような。見惚れているとふふふと笑われた。そして、
「ほら、君も食べてみて」
とアーロンから袋を取り上げ、一つ取って渡される。ほらと催促されたので、剥いて口に入れる。
「どうだい?」
「今年初めての焼き栗です」
「味は?」
「美味しいです」
「そう? 良かった。私にも剥いてくれないかい?」
「え? は、はい」
袋の口を向けられたので、一つ取って皮を剥く。どうすれば良いのだろうと考えていると、先輩は腰を屈め、美しい唇がアーロンの手元に近付いて来た。強請るように見上げられて、
「どうぞ」
とアーロンはライム先輩の口にそっと剥いた栗を差し入れた。少し指先が唇に触れてどきりとする。ライム先輩は姿勢を戻すと気にしない様にもぐもぐと食べたが、何故か顔を顰めた。そして食べ終わって、はあと息を吐く。
「外れだ」
「えっ? 外れもあるんですか?」
「うん。せっかく君が剥いてくれたのに。私はもうよしておこう。次もまた外れそうな気がする」
くすくすと笑うと、拗ねた様に、
「酷いな」
とおでこを軽く小突かれた。
「私を笑った罰だよ。残りは全部君が食べて」
「え、は、はい」
向けられた袋から栗を取り出して剥いて口に放り込む。次もちゃんと甘い栗だった。
「当たりです」
ライム先輩を見上げて報告する。
「そう」
とちょっと悔しそうな顔をされたので楽しくなる。
「全部食べられるかい?」
「食べられますけど、今ですか?」
ライム先輩が食べないのに自分一人だけ食べているのは気まずい。
「お腹一杯だったら無理に食べなくても良いよ。本屋も行きたいし、これはもう終いにしよう」
とライム先輩は、残りの焼き栗が入った袋を護衛に渡してしまった。そしてハンカチを受け取って手を拭いている。アーロンは慌てて言い募った。残った栗の行方が気になる。
「あ、待って下さい」
「うん?」
「寮に帰ってから食べます」
「無理に食べなくても大丈夫だよ?」
「でも、僕、夜寝る時にお腹空いて眠れなくなる時あるから」
と言うとくすくすと笑われた。良かった。貧乏臭いと思われないか不安だったのだ。
「そうかい? じゃあ帰る迄彼に持っておかせよう」
「はい、すみません」
とアーロンはライム先輩と護衛の人に頭を下げた。
☆
ライム先輩が連れて行ってくれた本屋は大型店で幅広い種類の本があった。魔道具の本もあるという話だったが、アーロンはそこへ行く前に見つけた子供用の本売り場に惹き付けられた。
「ああ、凄い。こんなに沢山」
子供用の本だけで一店舗作れそうな位ある。
「図鑑、良いなあ」
魔獣や、植物、昆虫等の図鑑を見つけて手に取って広げる。
「領地の子供達、というのは一番上のお兄様のお子達の為かい?」
「はい。あと、領民の子等もです。家にあった物は大分古くて、絵もこんなに鮮やかでは無かったです。凄いなあ。さすが王都だ」
「アーロン君の家では子供の教育に力を入れているのだね」
「どうでしょう? これ欲しいです。全種類領地に送りたい」
「注文して帰るかい?」
「あ、そういう事も出来るのですか? 今日何冊か買って帰るとかではなく」
「うん。この店から直接アーロン君の領地に送る事も可能な筈だ」
「そうですか。でもそうすると今日全部お金を払わないといけないですよね」
「お金は後払いも可能だと思うが」
「うーん。取り敢えず一冊買って、三番目の兄に見せて全部買って良いか聞きます」
「そうかい?」
「はい、自分が読みたいので、取り敢えず魔獣の図鑑を」
他のは戻そう、と広げた本を元に戻しているとライム先輩が手伝ってくれる。そしてアーロンが買おうと思った魔獣の図鑑を護衛に渡した。
「あ」
「他の本を見るのに邪魔だろう。本は重い。彼に持たせておく」
「すみません。ありがとうございます」
「気にしないで」
別に邪魔でも重くも無いんだけど、と思ったけれど雰囲気を壊したくなくてライム先輩の心遣いに甘えておく事にした。
アーロンが匂いの方向を見ると、焼き栗の屋台だった。
「おや、もうそういう季節か。食べるかい?」
とライム先輩に聞かれる。栗は好きだ。さっきも食べたけれどああやって売られていると興味を惹かれる。けれど、買っても食べながら歩く事になる。自分は良いけど、立ち食いなんてライム先輩は大丈夫なのかと気になったアーロンは「いいえ」と首を振る。するとライム先輩が振り返った。直ぐに護衛が一人出て行って、小袋を一つ買って帰って来た。ライム先輩に渡す前に、片眼鏡の様な物を目に当てて、一旦確認しているので、アーロンが不思議そうにその様子を見ていると、
「ああ、鑑定の魔道具だよ。毒味の為にね」
とライム先輩が教えてくれた。護衛はハンカチで包んでから先輩に渡す。熱いのかもしれない。それを更に先輩からアーロンに渡される。
「ありがとうございます」
温かい。今日はそんなに寒く無いが、物凄く熱かったらどうしようと思ったらハンカチで包んでくれたからか丁度良い熱さだった。ライム先輩に渡されるとただの焼き栗も特別な物の様に思える。アーロンが両手で持って見つめていると、くすりと笑い声がしてライム先輩が一つ取った。その白い指先の動きを追っていると、驚いた事にその場で皮を剥き出した。
「先輩もこういう物、召し上がられるんですか?」
「うん。といっても滅多にはしないがね」
ライム先輩はそのままぽいと口の中に入れ、もぐもぐと味わってから、
「当たりだ」
と悪戯な笑みを浮かべた。滅多にしないという行為を一緒にしてくれているからだろうか、何だかいつもよりもずっと距離が近くなった様な気がする。先輩がこちら側に降りて来てくれたような。見惚れているとふふふと笑われた。そして、
「ほら、君も食べてみて」
とアーロンから袋を取り上げ、一つ取って渡される。ほらと催促されたので、剥いて口に入れる。
「どうだい?」
「今年初めての焼き栗です」
「味は?」
「美味しいです」
「そう? 良かった。私にも剥いてくれないかい?」
「え? は、はい」
袋の口を向けられたので、一つ取って皮を剥く。どうすれば良いのだろうと考えていると、先輩は腰を屈め、美しい唇がアーロンの手元に近付いて来た。強請るように見上げられて、
「どうぞ」
とアーロンはライム先輩の口にそっと剥いた栗を差し入れた。少し指先が唇に触れてどきりとする。ライム先輩は姿勢を戻すと気にしない様にもぐもぐと食べたが、何故か顔を顰めた。そして食べ終わって、はあと息を吐く。
「外れだ」
「えっ? 外れもあるんですか?」
「うん。せっかく君が剥いてくれたのに。私はもうよしておこう。次もまた外れそうな気がする」
くすくすと笑うと、拗ねた様に、
「酷いな」
とおでこを軽く小突かれた。
「私を笑った罰だよ。残りは全部君が食べて」
「え、は、はい」
向けられた袋から栗を取り出して剥いて口に放り込む。次もちゃんと甘い栗だった。
「当たりです」
ライム先輩を見上げて報告する。
「そう」
とちょっと悔しそうな顔をされたので楽しくなる。
「全部食べられるかい?」
「食べられますけど、今ですか?」
ライム先輩が食べないのに自分一人だけ食べているのは気まずい。
「お腹一杯だったら無理に食べなくても良いよ。本屋も行きたいし、これはもう終いにしよう」
とライム先輩は、残りの焼き栗が入った袋を護衛に渡してしまった。そしてハンカチを受け取って手を拭いている。アーロンは慌てて言い募った。残った栗の行方が気になる。
「あ、待って下さい」
「うん?」
「寮に帰ってから食べます」
「無理に食べなくても大丈夫だよ?」
「でも、僕、夜寝る時にお腹空いて眠れなくなる時あるから」
と言うとくすくすと笑われた。良かった。貧乏臭いと思われないか不安だったのだ。
「そうかい? じゃあ帰る迄彼に持っておかせよう」
「はい、すみません」
とアーロンはライム先輩と護衛の人に頭を下げた。
☆
ライム先輩が連れて行ってくれた本屋は大型店で幅広い種類の本があった。魔道具の本もあるという話だったが、アーロンはそこへ行く前に見つけた子供用の本売り場に惹き付けられた。
「ああ、凄い。こんなに沢山」
子供用の本だけで一店舗作れそうな位ある。
「図鑑、良いなあ」
魔獣や、植物、昆虫等の図鑑を見つけて手に取って広げる。
「領地の子供達、というのは一番上のお兄様のお子達の為かい?」
「はい。あと、領民の子等もです。家にあった物は大分古くて、絵もこんなに鮮やかでは無かったです。凄いなあ。さすが王都だ」
「アーロン君の家では子供の教育に力を入れているのだね」
「どうでしょう? これ欲しいです。全種類領地に送りたい」
「注文して帰るかい?」
「あ、そういう事も出来るのですか? 今日何冊か買って帰るとかではなく」
「うん。この店から直接アーロン君の領地に送る事も可能な筈だ」
「そうですか。でもそうすると今日全部お金を払わないといけないですよね」
「お金は後払いも可能だと思うが」
「うーん。取り敢えず一冊買って、三番目の兄に見せて全部買って良いか聞きます」
「そうかい?」
「はい、自分が読みたいので、取り敢えず魔獣の図鑑を」
他のは戻そう、と広げた本を元に戻しているとライム先輩が手伝ってくれる。そしてアーロンが買おうと思った魔獣の図鑑を護衛に渡した。
「あ」
「他の本を見るのに邪魔だろう。本は重い。彼に持たせておく」
「すみません。ありがとうございます」
「気にしないで」
別に邪魔でも重くも無いんだけど、と思ったけれど雰囲気を壊したくなくてライム先輩の心遣いに甘えておく事にした。
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