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愛し子
発表会の行方
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「確かにそれは無駄だよなー。けどその間維持する為に働いている人間がいる事を忘れるなよ。そいつ等の仕事は如何すんだ?」
「全員一緒の寮にすれば常に生徒がいる訳ですから、その生徒達の寮の維持をして貰います」
寮長とルークの会話は続いていく。生徒達は真剣に聞いている。
「そうする事によって今迄以上に人員が増える訳ですから、出来る仕事も増えます。例えば現在、男爵家の寮の掃除は週に一回ですが、それを毎日にする等も可能かと」
「それいい」とアーロンの横でイアンが同意する。同じ様な呟きがそこかしこで上がる。
しかし寮長の答えにルークは首を捻った。
「果たしてそう上手くいくかな? だってさ、考えてみろよ。王族の寮で働いているって事は王宮でも働けるだけの技能を持ってるって事だぞ。そういう奴等が果たして喜んで男爵家の生徒の部屋を掃除するか?」
「うっ」と寮長が返事に詰まる。ルークは寮長の話に同意していた生徒達に問い掛ける。
「お前等もさ、掃除して貰える日が増えるの嬉しいって単純に同意しただろうけど、よく考えてみろよ。王宮に勤める様な使用人って言ったら、お前等の兄とか親戚とかだぞ。先輩とかもいるだろうな。お前等より上の爵位の出も居るだろうよ。そんなのが大人しくお前等の部屋を掃除すると思うか?」
「うわー、そう言えば〇〇先輩王宮に就職したよな」等という騒めきが起こる。
「下手したらさ、顎で使われるかもな。『将来の練習の為に、自分でやれって』。ははは、今より待遇悪くなってやんの。さあ、この問題は如何する?」
「そうですね」
と寮長が考え込むのにイチロウが手を挙げた。
「火の国の場合ですが、王族とその親族は城に教師が来ます。それ以外の身分の学生は同じ学舎に通います。ですので、この国でしたら王族と公爵と侯爵家の学院と、伯爵家と子爵家と男爵家の学院に分けるとか」
「うーん、それは難しい問題だな。王族の婚姻って、公爵家と侯爵家に年頃の相手がいない時は、伯爵家から探す時もあるから伯爵家をこっちに入れられないな。そうすると子爵家と男爵家だけの学院になるぜ」
「それはやだ」という声があちこちから上がる。
「成る程」
「あと、学院在学中に王太子の側近選びもしてるから、イチロウ殿の案だと有能な人物がいても学院で出会う機会が無くなってしまう。火の国だと側近選びはどうしてるんだ?」
「側近は生まれた時から決まっていますね。家で代々引き継ぐ仕事ですから」
「そいつが無能だった場合はどうなるんだ?」
「余程の事が起きない限りはそのまま務めていますね」
「ふーん。けど、我が国のやり方だと、学院在学中に無能と分かれば側近候補から外せるぜ」
「成る程」
(何だかどんどん話が難しくなっていってる気がするんだけど……。そもそもこんな風に僕達が学院の在り方について考える意味があるの? 一番学院で身分が低い、男爵家の生徒如きが、学院の寮の在り方や学院そのものの在り方について話し合ってるけど、僕等が考えたって何も変わらないのに)
アーロンは泡が消えていくジョッキを見つめた。ご飯もフィッシュ&チップスしか食べていない。食べ足りないからもっと他のを取りに行きたい。
だが談話室は奇妙な熱気に包まれたようになっていて、生徒達は会話の行方に集中している。ルークの切り返しの鋭さは恐い位でイチロウ達が何を言っても反論して来る。討論を楽しんでいる、この熱気の熱源は明らかにルークだった。ルークの目はぎらぎらとしていて何処か仄暗い不穏な空気を孕んでいた、このまま討論を続けるのは危ういようにアーロンには思えた。
するとその空気をぶった斬る者が現れた。
「ねえ、そろそろこの話止めない?」
キースだ。ずんずんと談話室の真ん中へ進んで行くと、ルークからジョッキを取り上げる。キースだからこそ出来る、場の雰囲気とか、会話の流れなんてお構い無しの行動だ。
「うえっ?」
ルークはキースの行動に驚きはしたが逆らいはしなかった。
「もうなんかさー、楽しくないんだけどー」
キースは思い通りにいかなかった時に親に抗議する子供のように地団駄を踏む。
「ええ? でも今いいとこなんですけど」
ルークはよろよろと衝撃を受けたように下がり、生徒達の笑いをとる。一気に今迄の仄暗さが消えて普段の芝居がかった物言いに戻った。
「キース先輩に任されたから俺張り切って仕切ってたんですけど!」
と大袈裟に身振り手振りをしながら主張する。それにキースはぷくっと頬を膨らませた。可愛くないが可愛い振る舞いだ。
「僕はさー、銀妖精を守る為に騎士達が頑張る所を見たかったの。もっとわいわい楽しい集まりにしたかった訳。それを学院改革を夢見る地下組織の集まりみたいにしちゃってさー。しかもなんかルークの討論会になってるしい」
「ええでも。俺に任せてくれるってキース先輩言いましたよね?」
「でも僕が求めてたのと違うもん! それにルークが楽しんでるだけじゃん! 減点、ルークが減点だよ」
とキースはルークを指差して怒った。
それに「えー」とルークが大袈裟に嘆いて倒れる真似をする。
「ぷにちゃん一号と眼鏡君と、Aクラス君は飲んでも良いよ。ルークの分もどうぞ」
キースはルークのジョッキをイチロウに押し付けると、アーロンを手招いた。
「アーロンちゃんこっち来て」
「え?」
「いいから、早く!」
アーロンがとことこと真ん中へ行くと、キースにおでこを剥き出しにされた。
「見てよ、アーロンちゃんの可愛い顔に皺がよっちゃってるの。ルークのせいだよ」
「いや、つるつる」とルークが指摘するがキースはそんなのお構い無しだ。怒られているのはルークで、その原因を作った発表をした三人は肩身が狭そうだ。
さっきまでの重苦しい雰囲気が一気に霧散してしまった。ただキースはまだ怒り足りないようで、ルークをぽかぽかと叩いている。キースに叩かれているルークは何だか楽しそうで戯れているようだ。あの危うさが消えたのはキースのお陰なのだろうか。
(だからって、僕のおでこを引き合いに出さなくてもいいじゃん)
「うん、じゃあ。ここで歓談。まだ食い足りない奴もいるだろうし。な」
ぱんぱんと手を叩きながら寮監のリバーが現れた。
「残すなよ!」
「わー」と生徒達が料理に向かい。談話室はまたいつもの騒がしい男爵家の寮に戻った。
「全員一緒の寮にすれば常に生徒がいる訳ですから、その生徒達の寮の維持をして貰います」
寮長とルークの会話は続いていく。生徒達は真剣に聞いている。
「そうする事によって今迄以上に人員が増える訳ですから、出来る仕事も増えます。例えば現在、男爵家の寮の掃除は週に一回ですが、それを毎日にする等も可能かと」
「それいい」とアーロンの横でイアンが同意する。同じ様な呟きがそこかしこで上がる。
しかし寮長の答えにルークは首を捻った。
「果たしてそう上手くいくかな? だってさ、考えてみろよ。王族の寮で働いているって事は王宮でも働けるだけの技能を持ってるって事だぞ。そういう奴等が果たして喜んで男爵家の生徒の部屋を掃除するか?」
「うっ」と寮長が返事に詰まる。ルークは寮長の話に同意していた生徒達に問い掛ける。
「お前等もさ、掃除して貰える日が増えるの嬉しいって単純に同意しただろうけど、よく考えてみろよ。王宮に勤める様な使用人って言ったら、お前等の兄とか親戚とかだぞ。先輩とかもいるだろうな。お前等より上の爵位の出も居るだろうよ。そんなのが大人しくお前等の部屋を掃除すると思うか?」
「うわー、そう言えば〇〇先輩王宮に就職したよな」等という騒めきが起こる。
「下手したらさ、顎で使われるかもな。『将来の練習の為に、自分でやれって』。ははは、今より待遇悪くなってやんの。さあ、この問題は如何する?」
「そうですね」
と寮長が考え込むのにイチロウが手を挙げた。
「火の国の場合ですが、王族とその親族は城に教師が来ます。それ以外の身分の学生は同じ学舎に通います。ですので、この国でしたら王族と公爵と侯爵家の学院と、伯爵家と子爵家と男爵家の学院に分けるとか」
「うーん、それは難しい問題だな。王族の婚姻って、公爵家と侯爵家に年頃の相手がいない時は、伯爵家から探す時もあるから伯爵家をこっちに入れられないな。そうすると子爵家と男爵家だけの学院になるぜ」
「それはやだ」という声があちこちから上がる。
「成る程」
「あと、学院在学中に王太子の側近選びもしてるから、イチロウ殿の案だと有能な人物がいても学院で出会う機会が無くなってしまう。火の国だと側近選びはどうしてるんだ?」
「側近は生まれた時から決まっていますね。家で代々引き継ぐ仕事ですから」
「そいつが無能だった場合はどうなるんだ?」
「余程の事が起きない限りはそのまま務めていますね」
「ふーん。けど、我が国のやり方だと、学院在学中に無能と分かれば側近候補から外せるぜ」
「成る程」
(何だかどんどん話が難しくなっていってる気がするんだけど……。そもそもこんな風に僕達が学院の在り方について考える意味があるの? 一番学院で身分が低い、男爵家の生徒如きが、学院の寮の在り方や学院そのものの在り方について話し合ってるけど、僕等が考えたって何も変わらないのに)
アーロンは泡が消えていくジョッキを見つめた。ご飯もフィッシュ&チップスしか食べていない。食べ足りないからもっと他のを取りに行きたい。
だが談話室は奇妙な熱気に包まれたようになっていて、生徒達は会話の行方に集中している。ルークの切り返しの鋭さは恐い位でイチロウ達が何を言っても反論して来る。討論を楽しんでいる、この熱気の熱源は明らかにルークだった。ルークの目はぎらぎらとしていて何処か仄暗い不穏な空気を孕んでいた、このまま討論を続けるのは危ういようにアーロンには思えた。
するとその空気をぶった斬る者が現れた。
「ねえ、そろそろこの話止めない?」
キースだ。ずんずんと談話室の真ん中へ進んで行くと、ルークからジョッキを取り上げる。キースだからこそ出来る、場の雰囲気とか、会話の流れなんてお構い無しの行動だ。
「うえっ?」
ルークはキースの行動に驚きはしたが逆らいはしなかった。
「もうなんかさー、楽しくないんだけどー」
キースは思い通りにいかなかった時に親に抗議する子供のように地団駄を踏む。
「ええ? でも今いいとこなんですけど」
ルークはよろよろと衝撃を受けたように下がり、生徒達の笑いをとる。一気に今迄の仄暗さが消えて普段の芝居がかった物言いに戻った。
「キース先輩に任されたから俺張り切って仕切ってたんですけど!」
と大袈裟に身振り手振りをしながら主張する。それにキースはぷくっと頬を膨らませた。可愛くないが可愛い振る舞いだ。
「僕はさー、銀妖精を守る為に騎士達が頑張る所を見たかったの。もっとわいわい楽しい集まりにしたかった訳。それを学院改革を夢見る地下組織の集まりみたいにしちゃってさー。しかもなんかルークの討論会になってるしい」
「ええでも。俺に任せてくれるってキース先輩言いましたよね?」
「でも僕が求めてたのと違うもん! それにルークが楽しんでるだけじゃん! 減点、ルークが減点だよ」
とキースはルークを指差して怒った。
それに「えー」とルークが大袈裟に嘆いて倒れる真似をする。
「ぷにちゃん一号と眼鏡君と、Aクラス君は飲んでも良いよ。ルークの分もどうぞ」
キースはルークのジョッキをイチロウに押し付けると、アーロンを手招いた。
「アーロンちゃんこっち来て」
「え?」
「いいから、早く!」
アーロンがとことこと真ん中へ行くと、キースにおでこを剥き出しにされた。
「見てよ、アーロンちゃんの可愛い顔に皺がよっちゃってるの。ルークのせいだよ」
「いや、つるつる」とルークが指摘するがキースはそんなのお構い無しだ。怒られているのはルークで、その原因を作った発表をした三人は肩身が狭そうだ。
さっきまでの重苦しい雰囲気が一気に霧散してしまった。ただキースはまだ怒り足りないようで、ルークをぽかぽかと叩いている。キースに叩かれているルークは何だか楽しそうで戯れているようだ。あの危うさが消えたのはキースのお陰なのだろうか。
(だからって、僕のおでこを引き合いに出さなくてもいいじゃん)
「うん、じゃあ。ここで歓談。まだ食い足りない奴もいるだろうし。な」
ぱんぱんと手を叩きながら寮監のリバーが現れた。
「残すなよ!」
「わー」と生徒達が料理に向かい。談話室はまたいつもの騒がしい男爵家の寮に戻った。
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