49 / 142
愛し子
発表会
しおりを挟む
「よし、じゃあ言いたい奴から発表だー!」
隅っこでキースの問題発言に驚いているアーロン達を置いて、談話室の真ん中ではイアンの兄であり二年生の寮長でもあるルークがどんどん歓迎会を取り仕切っていく。
「先に発表した方が得だぞ、人と同じ意見は減点だ」
不満そうな声が一年生から起こる。
「はい、じゃあ手を挙げて!」
すぐにはいと手を挙げたのは、イアンと一緒に居るのを見た事がある生徒だ。
「おし、じゃあお前、こっちに来い。来て名前と宿題の内容と、答えを言え」
ルークに招かれて、生徒はアップルソーダのジョッキを握り締めたまま、真ん中迄行く。
「えー、ヒューズ家のジョンです! 僕の宿題は、アーロン様をライム様から如何やって守るかです!」
笑い声が上がり「違う!」と野次が飛ぶ。「子爵家から守るんだろ」と声が上がる。
「答えは簡単! アーロン様、僕とお付き合いしよ」
アーロンに向かってジョンが片手を差し出すので、皆に注目されてしまったアーロンは戸惑うが、答えは決まっている。
「ごめんなさい」
「うわー。駆け付け一杯!」
頭を抱えて悲壮な顔をしたジョンは、一気にアップルソーダを呷ってしまった。
「あー、こらこら。先輩が良いって言ってから飲めよー」
ルークは呆れているが、笑いながらジョンの背中をどんと叩き、一年生の居る方へ戻した。ジョンが戻って行く。
「まあ、答えは碌でも無いが一番に手を挙げたって事で許してやる。よし戻れ。次!」
ジョンの軽口に調子を得た一年生達がはいはいと手を挙げる。
「おし、じゃあお前!」
「マカリスター家のセドリックです。僕の宿題は、アーロン様を如何やってジョンと子爵家から守るかです!」
「えええー、何で僕も?」
ジョンがセドリックに抗議の声を上げるが、ジョンの時と同じ位の笑いが起きる。
「答えは簡単! 筋肉を付けます! 筋肉は裏切らなーい!」
セドリックは腕の力瘤を出そうとしたり、胸筋を見せつけるような体の構えをするが、がりがりに痩せているので何も分からない。
「それじゃあ、二年経たないと無理だろ。没収」
やんややんやと歓声が起こるが、ルークにジョッキを取り上げられてしまった。「えええ」と衝撃を受けたようにふらつきながらセドリックがジョンの所へ下がって行く。ジョッキを取り上げられて項垂れているセドリックをジョンが慰める様に肩を叩いている。お調子者同士仲が良いらしい。二人のお陰で談話室の空気は盛り上がったがルークはそれでは不満そうだ。
「お前等なあ、そろそろちゃんとした意見も俺は聞きたいぞ」
はいはいと一年生達が手をあげる。
「じゃあ、次はお前」
「リンツ家のアレックスです。僕の宿題はアーロン様を如何やって子爵家から守るかで、答えは子爵家より偉くなれば良いと思います!」
「確かにそうだな」
ルークに認められてアレックスはうんうんと満足げに頷く。
「でもさあ、如何やって?」
そこまでは考えていなかったらしくアレックスは首を傾げる。
「えっとー、伯爵家に婿入りするとか?」
生徒達から小さく笑いが起こる。
「それだと結果が出るのは三年後だな。まあ最初の二人よりは真面目に考えていたので、合格としよう」
「やったー」
アレックスは小躍りしてからジョッキに口を付けた。
「それって贔屓じゃ無いですか?」
「アレックスがちょっと可愛いからって」
ジョンとセドリックから抗議の声が上がる。それに便乗して他の生徒達も「好みのタイプなんだろ」と野次を飛ばす。
「お前等なー、アレックスを俺が認めたのは、明らかに巫山戯ようとした最初の二人と違って、アレックスなりに真面目に考えて来たからだぞー」
腰に手を置き、ルークが呆れた様に一年生達を見回す。するとはいとイチロウが手を挙げた。
「共同で発表しても宜しいでしょうか?」
「おお火の国のお方、構わないぞ!」
「ではフランク様とクリフ様と三人で考えましたので、代表して自分が発表します。火の国のイチロウです」
イチロウと共に、寮長と見た事の無い生徒が前に出て行った。寮長と一緒に居るということは多分、Aクラスにもう一人居ると言っていた男爵家の生徒なのだろう。
「自分達の課題は、何故子爵家の生徒が男爵家の寮に来た事について学院に抗議する必要があるかという事でした」
それに対するイチロウ達の答えは、アーロンが導き出したのとほぼ同じ、ここが男爵家の寮にとっての安息の地であるからという事だった。
「そしてその件を解決する為に、自分達が提案したいのは、『爵位毎の寮ではなく全員一緒の寮にする』事です」
イチロウの言葉に上級生達が騒めく。口々に「無理だろ」とか、「今のままが良い」とか思った事を話し出す。
「静粛に!」
注目を集めるようにルークが頭上で手を叩く。まだ騒めきは残っているが、煩くは無くなった。
「解決策迄出すのはさすがだな。だが周りに受け入れられてないぞ」
「そうですね。もう少し詳しく説明しましょう」
眼鏡をくいっと上げながら寮長が参戦した。
「まず、経緯ですがイチロウ様からの『何故爵位毎に寮が分かれているのか』という疑問がきっかけでした」
「火の国では修練の場では等しく同じ状況で行われます。何故に身分で寮を分けているのかと」
「成る程、他国出身者ならではの疑問という訳か」
「はい」
「そして指摘されたのが、高位貴族の寮は人数が少ない年もあるのに無駄では無いかという点です。例えば王族の寮は今年になって王太子殿下が使われる迄、凡そ二十年使われずに維持されていました。公爵家、侯爵家の寮もそこ迄の年月ではありませんが、使用されないで維持だけされている期間があります」
寮長の話を聞きアーロンはどきどきした。自分の事から、何故こんな大事の話になるのか。王族の寮の使われない期間とか。そもそも、ルークの宿題とかいうのだって巫山戯ていると思っていたのに。
隅っこでキースの問題発言に驚いているアーロン達を置いて、談話室の真ん中ではイアンの兄であり二年生の寮長でもあるルークがどんどん歓迎会を取り仕切っていく。
「先に発表した方が得だぞ、人と同じ意見は減点だ」
不満そうな声が一年生から起こる。
「はい、じゃあ手を挙げて!」
すぐにはいと手を挙げたのは、イアンと一緒に居るのを見た事がある生徒だ。
「おし、じゃあお前、こっちに来い。来て名前と宿題の内容と、答えを言え」
ルークに招かれて、生徒はアップルソーダのジョッキを握り締めたまま、真ん中迄行く。
「えー、ヒューズ家のジョンです! 僕の宿題は、アーロン様をライム様から如何やって守るかです!」
笑い声が上がり「違う!」と野次が飛ぶ。「子爵家から守るんだろ」と声が上がる。
「答えは簡単! アーロン様、僕とお付き合いしよ」
アーロンに向かってジョンが片手を差し出すので、皆に注目されてしまったアーロンは戸惑うが、答えは決まっている。
「ごめんなさい」
「うわー。駆け付け一杯!」
頭を抱えて悲壮な顔をしたジョンは、一気にアップルソーダを呷ってしまった。
「あー、こらこら。先輩が良いって言ってから飲めよー」
ルークは呆れているが、笑いながらジョンの背中をどんと叩き、一年生の居る方へ戻した。ジョンが戻って行く。
「まあ、答えは碌でも無いが一番に手を挙げたって事で許してやる。よし戻れ。次!」
ジョンの軽口に調子を得た一年生達がはいはいと手を挙げる。
「おし、じゃあお前!」
「マカリスター家のセドリックです。僕の宿題は、アーロン様を如何やってジョンと子爵家から守るかです!」
「えええー、何で僕も?」
ジョンがセドリックに抗議の声を上げるが、ジョンの時と同じ位の笑いが起きる。
「答えは簡単! 筋肉を付けます! 筋肉は裏切らなーい!」
セドリックは腕の力瘤を出そうとしたり、胸筋を見せつけるような体の構えをするが、がりがりに痩せているので何も分からない。
「それじゃあ、二年経たないと無理だろ。没収」
やんややんやと歓声が起こるが、ルークにジョッキを取り上げられてしまった。「えええ」と衝撃を受けたようにふらつきながらセドリックがジョンの所へ下がって行く。ジョッキを取り上げられて項垂れているセドリックをジョンが慰める様に肩を叩いている。お調子者同士仲が良いらしい。二人のお陰で談話室の空気は盛り上がったがルークはそれでは不満そうだ。
「お前等なあ、そろそろちゃんとした意見も俺は聞きたいぞ」
はいはいと一年生達が手をあげる。
「じゃあ、次はお前」
「リンツ家のアレックスです。僕の宿題はアーロン様を如何やって子爵家から守るかで、答えは子爵家より偉くなれば良いと思います!」
「確かにそうだな」
ルークに認められてアレックスはうんうんと満足げに頷く。
「でもさあ、如何やって?」
そこまでは考えていなかったらしくアレックスは首を傾げる。
「えっとー、伯爵家に婿入りするとか?」
生徒達から小さく笑いが起こる。
「それだと結果が出るのは三年後だな。まあ最初の二人よりは真面目に考えていたので、合格としよう」
「やったー」
アレックスは小躍りしてからジョッキに口を付けた。
「それって贔屓じゃ無いですか?」
「アレックスがちょっと可愛いからって」
ジョンとセドリックから抗議の声が上がる。それに便乗して他の生徒達も「好みのタイプなんだろ」と野次を飛ばす。
「お前等なー、アレックスを俺が認めたのは、明らかに巫山戯ようとした最初の二人と違って、アレックスなりに真面目に考えて来たからだぞー」
腰に手を置き、ルークが呆れた様に一年生達を見回す。するとはいとイチロウが手を挙げた。
「共同で発表しても宜しいでしょうか?」
「おお火の国のお方、構わないぞ!」
「ではフランク様とクリフ様と三人で考えましたので、代表して自分が発表します。火の国のイチロウです」
イチロウと共に、寮長と見た事の無い生徒が前に出て行った。寮長と一緒に居るということは多分、Aクラスにもう一人居ると言っていた男爵家の生徒なのだろう。
「自分達の課題は、何故子爵家の生徒が男爵家の寮に来た事について学院に抗議する必要があるかという事でした」
それに対するイチロウ達の答えは、アーロンが導き出したのとほぼ同じ、ここが男爵家の寮にとっての安息の地であるからという事だった。
「そしてその件を解決する為に、自分達が提案したいのは、『爵位毎の寮ではなく全員一緒の寮にする』事です」
イチロウの言葉に上級生達が騒めく。口々に「無理だろ」とか、「今のままが良い」とか思った事を話し出す。
「静粛に!」
注目を集めるようにルークが頭上で手を叩く。まだ騒めきは残っているが、煩くは無くなった。
「解決策迄出すのはさすがだな。だが周りに受け入れられてないぞ」
「そうですね。もう少し詳しく説明しましょう」
眼鏡をくいっと上げながら寮長が参戦した。
「まず、経緯ですがイチロウ様からの『何故爵位毎に寮が分かれているのか』という疑問がきっかけでした」
「火の国では修練の場では等しく同じ状況で行われます。何故に身分で寮を分けているのかと」
「成る程、他国出身者ならではの疑問という訳か」
「はい」
「そして指摘されたのが、高位貴族の寮は人数が少ない年もあるのに無駄では無いかという点です。例えば王族の寮は今年になって王太子殿下が使われる迄、凡そ二十年使われずに維持されていました。公爵家、侯爵家の寮もそこ迄の年月ではありませんが、使用されないで維持だけされている期間があります」
寮長の話を聞きアーロンはどきどきした。自分の事から、何故こんな大事の話になるのか。王族の寮の使われない期間とか。そもそも、ルークの宿題とかいうのだって巫山戯ていると思っていたのに。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
僕は、些細な喧嘩で事故にあい、恋人を失ってしまった。
後を追うことも許されない中、偶然女の子を助け僕もこの世を去った。
目を覚ますとそこは、ファンタジーの物語に出てくるような部屋だった。
気付いたら僕は、前世の記憶を持ったまま、双子の兄に転生していた。
街で迷子になった僕たちは、とある少年に助けられた。
僕は、初めて会ったのに、初めてではない不思議な感覚に包まれていた。
そこから交流が始まり、前世の恋人に思いを馳せつつも、少年に心惹かれていく自分に戸惑う。
それでも、前世では味わえなかった平和な日々に、幸せを感じていた。
けれど、その幸せは長くは続かなかった。
前世でオメガだった僕は、転生後の世界でも、オメガだと判明した。
そこから、僕の人生は大きく変化していく。
オメガという性に振り回されながらも、前を向いて懸命に人生を歩んでいく。転生後も、再会を信じる僕たちの物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
金土日は1日3回更新。
11/23(土)19:30に完結します。
第12回BL大賞 参加作品です。
よろしくお願いします。
わかんない
こじらせた処女
BL
運動も勉強も人並み以上にできる、保田穂志(やすだほし)は、小学校でも優等生扱いを受けていた。しかし、彼は気づいてしまう。先生は、真面目にやっている生徒よりも、問題のある生徒につきっきりであるという事実に。
同じクラスの与田は、頭も運動神経も悪く、おまけに人ともまともに喋れない。家庭環境の悪さのせいだと噂になっているが、穂志の家庭も人ごとに出来ないくらいには悪かった。経済的には困窮していない。父親も母親もいる。しかし、父親は単身赴任中で、それを良いことに母親は不倫三昧。そこに穂志の話を聞いてもらえる環境はない。まだ10歳の子供には寂しすぎたのである。
ある日の放課後、与田と先生の補習を見て羨ましいと思ってしまう。自分も与田のようにバカになったら、もっと先生は構ってくれるだろうか。そんな考えのもと、次の日の授業で当てられた際、分からないと連呼したが…?
悪役令息に転生したので、断罪後の生活のために研究を頑張ったら、旦那様に溺愛されました
犬派だんぜん
BL
【完結】
私は、7歳の時に前世の理系女子として生きた記憶を取り戻した。その時気付いたのだ。ここが姉が好きだったBLゲーム『きみこい』の舞台で、自分が主人公をいじめたと断罪される悪役令息だということに。
話の内容を知らないので、断罪を回避する方法が分からない。ならば、断罪後に平穏な生活が送れるように、追放された時に誰か領地にこっそり住まわせてくれるように、得意分野で領に貢献しよう。
そしてストーリーの通り、卒業パーティーで王子から「婚約を破棄する!」と宣言された。さあ、ここからが勝負だ。
元理系が理屈っぽく頑張ります。ハッピーエンドです。(※全26話。視点が入れ代わります)
他サイトにも掲載。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
せっかくBLゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる!
左側
BL
New プロローグよりも前。名簿・用語メモの次ページに【閑話】を載せました。
つい、発作的に載せちゃいました。
ハーレムワンダーパラダイス。
何度もやったBLゲームの世界に転生したのにモブキャラだった、隠れゲイで腐男子の元・日本人。
モブだからどうせハーレムなんかに関われないから、せめて周りのイチャイチャを見て妄想を膨らませようとするが……。
実際の世界は、知ってるゲーム情報とちょっとだけ違ってて。
※簡単なメモ程度にキャラ一覧などを載せてみました。
※主人公の下半身緩め。ネコはチョロめでお送りします。ご注意を。
※タグ付けのセンスが無いので、付けるべきタグがあればお知らせください。
※R指定は保険です。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる