抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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愛し子

発表会

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 「よし、じゃあ言いたい奴から発表だー!」
 
 隅っこでキースの問題発言に驚いているアーロン達を置いて、談話室の真ん中ではイアンの兄であり二年生の寮長でもあるルークがどんどん歓迎会を取り仕切っていく。

 「先に発表した方が得だぞ、人と同じ意見は減点だ」
 
 不満そうな声が一年生から起こる。

 「はい、じゃあ手を挙げて!」

 すぐにはいと手を挙げたのは、イアンと一緒に居るのを見た事がある生徒だ。

 「おし、じゃあお前、こっちに来い。来て名前と宿題の内容と、答えを言え」
 
 ルークに招かれて、生徒はアップルソーダのジョッキを握り締めたまま、真ん中迄行く。

 「えー、ヒューズ家のジョンです! 僕の宿題は、アーロン様をライム様から如何やって守るかです!」

 笑い声が上がり「違う!」と野次が飛ぶ。「子爵家から守るんだろ」と声が上がる。

 「答えは簡単! アーロン様、僕とお付き合いしよ」

 アーロンに向かってジョンが片手を差し出すので、皆に注目されてしまったアーロンは戸惑うが、答えは決まっている。

 「ごめんなさい」
 「うわー。駆け付け一杯!」

 頭を抱えて悲壮な顔をしたジョンは、一気にアップルソーダを呷ってしまった。

 「あー、こらこら。先輩が良いって言ってから飲めよー」

 ルークは呆れているが、笑いながらジョンの背中をどんと叩き、一年生の居る方へ戻した。ジョンが戻って行く。

 「まあ、答えは碌でも無いが一番に手を挙げたって事で許してやる。よし戻れ。次!」

 ジョンの軽口に調子を得た一年生達がはいはいと手を挙げる。

 「おし、じゃあお前!」
 「マカリスター家のセドリックです。僕の宿題は、アーロン様を如何やってジョンと子爵家から守るかです!」
 「えええー、何で僕も?」

 ジョンがセドリックに抗議の声を上げるが、ジョンの時と同じ位の笑いが起きる。

 「答えは簡単! 筋肉を付けます! 筋肉は裏切らなーい!」

 セドリックは腕の力瘤を出そうとしたり、胸筋を見せつけるような体の構えをするが、がりがりに痩せているので何も分からない。

 「それじゃあ、二年経たないと無理だろ。没収」

 やんややんやと歓声が起こるが、ルークにジョッキを取り上げられてしまった。「えええ」と衝撃を受けたようにふらつきながらセドリックがジョンの所へ下がって行く。ジョッキを取り上げられて項垂れているセドリックをジョンが慰める様に肩を叩いている。お調子者同士仲が良いらしい。二人のお陰で談話室の空気は盛り上がったがルークはそれでは不満そうだ。

 「お前等なあ、そろそろちゃんとした意見も俺は聞きたいぞ」
 
 はいはいと一年生達が手をあげる。

 「じゃあ、次はお前」
 「リンツ家のアレックスです。僕の宿題はアーロン様を如何やって子爵家から守るかで、答えは子爵家より偉くなれば良いと思います!」
 「確かにそうだな」

 ルークに認められてアレックスはうんうんと満足げに頷く。

 「でもさあ、如何やって?」

 そこまでは考えていなかったらしくアレックスは首を傾げる。

 「えっとー、伯爵家に婿入りするとか?」

 生徒達から小さく笑いが起こる。

 「それだと結果が出るのは三年後だな。まあ最初の二人よりは真面目に考えていたので、合格としよう」
 「やったー」

 アレックスは小躍りしてからジョッキに口を付けた。

 「それって贔屓じゃ無いですか?」
 「アレックスがちょっと可愛いからって」
 
 ジョンとセドリックから抗議の声が上がる。それに便乗して他の生徒達も「好みのタイプなんだろ」と野次を飛ばす。

 「お前等なー、アレックスを俺が認めたのは、明らかに巫山戯ようとした最初の二人と違って、アレックスなりに真面目に考えて来たからだぞー」
 
 腰に手を置き、ルークが呆れた様に一年生達を見回す。するとはいとイチロウが手を挙げた。

 「共同で発表しても宜しいでしょうか?」
 「おお火の国のお方、構わないぞ!」
 「ではフランク様とクリフ様と三人で考えましたので、代表して自分が発表します。火の国のイチロウです」

 イチロウと共に、寮長と見た事の無い生徒が前に出て行った。寮長と一緒に居るということは多分、Aクラスにもう一人居ると言っていた男爵家の生徒なのだろう。

 「自分達の課題は、何故子爵家の生徒が男爵家の寮に来た事について学院に抗議する必要があるかという事でした」

 それに対するイチロウ達の答えは、アーロンが導き出したのとほぼ同じ、ここが男爵家の寮にとっての安息の地であるからという事だった。

 「そしてその件を解決する為に、自分達が提案したいのは、『爵位毎の寮ではなく全員一緒の寮にする』事です」

 イチロウの言葉に上級生達が騒めく。口々に「無理だろ」とか、「今のままが良い」とか思った事を話し出す。

 「静粛に!」

 注目を集めるようにルークが頭上で手を叩く。まだ騒めきは残っているが、煩くは無くなった。

 「解決策迄出すのはさすがだな。だが周りに受け入れられてないぞ」
 「そうですね。もう少し詳しく説明しましょう」

 眼鏡をくいっと上げながら寮長が参戦した。

 「まず、経緯ですがイチロウ様からの『何故爵位毎に寮が分かれているのか』という疑問がきっかけでした」
 「火の国では修練の場では等しく同じ状況で行われます。何故に身分で寮を分けているのかと」
 「成る程、他国出身者ならではの疑問という訳か」
 「はい」
 「そして指摘されたのが、高位貴族の寮は人数が少ない年もあるのに無駄では無いかという点です。例えば王族の寮は今年になって王太子殿下が使われる迄、凡そ二十年使われずに維持されていました。公爵家、侯爵家の寮もそこ迄の年月ではありませんが、使用されないで維持だけされている期間があります」

 寮長の話を聞きアーロンはどきどきした。自分の事から、何故こんな大事の話になるのか。王族の寮の使われない期間とか。そもそも、ルークの宿題とかいうのだって巫山戯ていると思っていたのに。
 

 

 
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