抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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授業

今日の定食

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 食堂の二階が個室になっていたのをアーロンは今日知った。昨日来た時は気が付かなかった。
 言われて見れば天井が高い。生徒達が食事をとっている上が吹き抜けになっていて、奥の螺旋階段で二階に上がれた。上は回廊になっていて飴色をした木製の手摺がぐるりと吹き抜けを囲む様に続いている。個室は回廊から直ぐに入れる様になっているが、それらの部屋には扉は無い半個室だ。中で食事して居る生徒の様子が下からも見える。そういう半個室が幾つも回廊沿いに並んでいた。

 「こんな所があったんすね!」

 部屋に通されたタイスケは物珍しそうにきらきらと目を輝かせている。
 窓からは昼食時で生徒が姿を消した校舎や街路樹等の静寂を、回廊の方からは楽しそうに会話しながら食事する生徒達の賑やかさを感じられる。下から聞こえる声は決して煩くはなく、心地良い背景音楽の様に部屋に馴染んでいた。
 アーロン達が通されたのは、円卓を置いて四人で囲むと一杯になる様な部屋だった。純粋に食事を楽しむだけの場所。ライム先輩の隣にイチロウとアーロン、正面にタイスケが座った。

 「うん、私もたまに利用しているよ。私は少人数で話したい時や、食事の時間がずれた時等に使わせて貰っているね」
 「なるほど」
 「一階の奥には此処とは違って完全に中が見えない様になっている個室もある。私は家族が来た時に利用するが、他の生徒とは一緒に食べたくない人も使っている。恐らく王太子殿下も其方を利用されているのではないかな? 下にはいらっしゃられない様だから」
 「はあ、そんな所もあるんすか」
 「うん。さあ、注文を済ませようか。此処は下と違って給仕が運んで来てくれる様になっているのでね」

 直ぐに給仕が飛んで来て、今日の定食を教えてくれる。
 肉料理は豚肉と白いんげん豆のカスレ、魚料理は鯖のフライ、サラダプレートはゆで卵とマッシュルームと馬鈴薯のマヨネーズ和え。アーロンは揚げ物にも心惹かれたがカスレにした。イチロウは何故かサラダで、足りるのか心配になる。残り二人は鯖のフライ。タイスケだけがライスで、他はパン。そして二階の場合は、食後にデザートと飲み物も付くそうで、ライム先輩は紅茶しか頼まなかったが、一年生三人はデザートのモンブランも頼んだ。
 
 「こう見えて、アーロン様は沢山食べるんすよ。おいら達は体型からお分かりでしょうけれど」
 「へえ、そうなのかい?」

 ライム先輩が悪戯な顔になった。

 「そうしたら、大盛りで来るかもしれないね」
 「え、そうなんすか?」
 「うん、学院の食堂の給仕は優秀でね、個々の生徒の食べる量や苦手な物は把握されている」
 「へえ」
 「斯くいう私もピーマンが苦手でね、私の料理はいつもピーマン抜きにしてくれているよ」
 
 その言葉にタイスケが楽しそうな声を上げる。
 キースの時と同様、此処でも殆どタイスケが一人話している。ただキースの時とは違って楽しそうで自ら進んで話している感じがする。合間にイチロウも会話に参加している。アーロンだけが、先程のライム先輩の言葉が気になってだんまり中だ。

 (さっきのあれ、気のせいじゃ無いよね)

 ライム先輩は嘘みたいに普通にしているから、アーロンの聞き違いだったかもしれない。
 愛し子の話は三番目のケビンに聞いていたけれど、自分がそうなるつもりは無かった。六番目の兄は母より年上の未亡人の愛人になったけれど、他の兄達は何か仕事を見つけて家から出て行った。だから自分も同じ様に仕事をしようと考えていたのだ。

 (確かに子爵家の生徒達はちょっと怖いけど、だからってライム先輩の愛し子になるのは。っていうか、なったら……)

 俯いて考え込んでいたら、ぽんぽんと膝を叩かれて飛び上がった。

 「ひゃ?」

 その驚き様に、イチロウとタイスケに笑われてしまう。

 「そんなに吃驚したかい? 呼んでも気が付かない様だったから」

 膝を叩いたのはライム先輩の手だった。

 
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