抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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授業

二時間目

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 二時間目の鐘が鳴り出すと同時に、担任や副担任等が教室に入って来た。廊下の人だかりは相変わらずの様で、皆一様に首を傾げ不思議そうな顔をしている。

 「あれー、僕の班の子達が居無い!」

 その中で際立って大きな声が響いた。

 「こっちっす!」

 タイスケが手を挙げると、「あー、そんな所にー!」と元気いっぱいにアーロン達の班の補佐の上級生が駆け寄って来た。

 「席替えしたの?」
 「違うっす。ちょっと」

 タイスケは彼に近付くと耳に口を寄せて説明し始めた。タイスケの声をしっかり聞き取ろうとしているのか、彼は耳を貸すだけでなく、ぎゅうっとタイスケの肩を抱いてより密着してタイスケの口元に自ら耳を近付けようとする。タイスケは一瞬それに嫌そうな顔を見せたが、堪える様な顔で説明を続けている。
 彼はタイスケの言葉に一々頷く。神経を耳に集中している様な目の動き、わざとらしい位に相槌を打つ。如何にも内緒話聞いてますという態度なので、何だか見ていてこっちが恥ずかしい。体があちこちむず痒い気がする。
 アーロンの事を聞いたのだろう、顔がこちらを向き、細めの彼の目が段々と大きく丸く開かれてきらきら輝いていく。それだけでなく、口も「えー」という形に開いていく。表情が彼の興奮を如実に表していて、その動きを見ている分には面白い様な気もするけれど、自分の事でと思うとアーロンは気まずい事この上無いし、その大袈裟な動作は一体誰に見せる為なんだと疑問に思う位には諄い。

 「うわー! アーロンちゃん凄いねえ!」
 「しーっ、声が大きい」
 「あ、ごめんごめん」

 タイスケに注意されて声を顰めるが、もう既に周りの生徒達に振り向かれてしまった。今更謝られても遅い。

 「目立たない様に伝えたかったから耳打ちしたのに、台無しっす」

 タイスケもぶつぶつと零す。その気持ち、凄く分かると残り三人は頷いた。

 「ごめんごめん。ほんとごめん。ごめんねえー」

 これ程、謝罪の気持ちの軽いごめんは聞いた事が無いと思う位に連呼されるが、上級生相手に許さない訳にもいかなくて四人は渋々「はい」と受け入れた。
 そして、そこ迄のやり取りを待っていた様に、話が途切れた所で担任が話し始めたのも恥ずかしい。

 「はい、では二時間目の説明をします。二時間目は課外活動の説明です。Bクラスも同時に行いますので、移動先で一緒になるかも知れません。必ず自分の班の職員又は補佐の上級生と共に行動して、離れない様に注意して下さい」

 もうその言葉だけでアーロン達四人は何だか不安だ。だって、その離れてはいけない人が一番信用出来ないのだもの。担任が話している間も、アーロンの班の補佐の上級生は、誰よりも真剣な顔で大きくうんうんと頷いていて、一々聞いてますという体裁を見せつけているけれど、一体誰にと思ってしまう。
 イアンの兄ルークの話し方を芝居がかっていると思ったが、あれは二年生の寮長として寮生達の注目を集める為だったと考えられるので意味はあると思うが、目の前の上級生のわざとらしい動きに意味があるとは思えない。だって誰も見ていない。否見ているか、時々ちらちらと生徒が、面白い物を見る目付きで。でも、それが彼の意図する所とは思えない。だって何処に珍しい動物を見る様な目付きで見て欲しいと思う人間が居るのだろう。
 このわざとらしさは彼の元々の性格とかなのだろうが、そんな人に今迄出会った事が無かったので、アーロンはもう二時間目が始まってからずっと顔が引き攣りっぱなしだった。

 「はい、じゃあ課外活動の説明を始めるねえ」

 いつの間にか担任の説明は終わり、班毎の時間になっていた。

 「取り敢えず移動は説明が終わってからにしよ」

 直ぐに教室から出て行く班もあるが、彼は違うらしい。アーロンとしては、教室から出ない方が安心出来る気がする、何だか外に行ったら道に迷って帰って来られない様な気がするので、最後迄このままでも良い気がした。

 「一時間目に使った資料を出して欲して下さーい。えっと、ぷにちゃん二号が剣術だっけ?」

 と補佐の上級生は自分の資料を見ながら、タイスケの方を向く。

 「おいら、変なあだ名付けられてるっす」
 「えー、嫌なの? 可愛いじゃない」

 にやにやしながらタイスケの首に腕を回し体重を掛けるので、タイスケの身体は斜めに傾ぐ。

 「もう何でもいいっす。早く説明して欲しいので、おいら受け入れるっす」

 タイスケは諦めた表情で、補佐の上級生にされるままになっている。

 「えー、つまんないの。まあ、いいや。じゃあ説明するけど、一時間目にちょっと話したと思うけど、選択科目で四時間目になってるやつがあったと思う。例えば、ぷにちゃん二号の剣術だと、この古武道概論とか。基本的に、四時間目に講義がある先生は外部講師なんです」
 「なるほど?」
 「毎年優秀な講師を招聘しているので、楽しみにしておいてね!」

 アーロンがとろうと思っていた火の国語入門が四時間目になっていたのはそういう事か、と理解した。まだ空欄になっていて、名前の分からない講師が楽しみだとも。

 「それから、課外活動ですが、同好会って聞いた事あるかな? 学院には様々な同好会があって、それに入って活動する事が出来ます。運動から、文化系迄、分野も色々あるので自分に合った物を選べるよ。入らなくても構わないし、入りたい物が無ければ作っても構わない」
 「それは、何の為にあるんすか?」
 「え? そうだね、気の合う仲間を見つけたり、人脈を広げられるよ」
 「成績には関係無いんすね?」
 「うん。そうだね。え、若しや成績に関係無いなら入らない、とか思ってたりする?」

 まるでそんな事は許さない、とでも言いたげに顔を近づけられてタイスケはたじたじとして、身を引いた。それで体勢が崩れてよろけた補佐の上級生が、酷いいと大袈裟に泣き真似をする。タイスケは途方に暮れた顔だ。

 「いや、おいら何も言ってないっすよ。ただ聞いただけっす。確認だけっす……」

 もうその頃には、何か言うと倍になって返ってくる様な気がして来たので、アーロンはどうしても聞きたい事が無い限り黙っていようと思い始めていた。一々ちゃんと相手をしてあげているタイスケは凄いなと逆に尊敬してしまう。

 「楽しいよー、具体的にはこの後、移動して説明するね! で、最後にもう一つ大事な事。毎週木曜日に、特別講義があります。これは、毎週企画が変わって、色々な所へ行けるので出来るだけ参加した方が良い! 早い者勝ちだけどね。この後、外に出たら説明するけれど、掲示板に二週間前に企画が貼り出されるので、参加したいと思ったら学生課に申込みして下さい。締切は一週間後。前日に待ち合わせ場所と、参加者名が貼り出されるので、それを確認して集合場所に行くと参加出来る! 僕が行って楽しかったのは、水道施設の見学と地下墓地、あと美術品収集で有名なポレッチェ家のタウンハウス見学とか」
 「へええ」
 
 タイスケは感心しているが、アーロンはお墓の何処が楽しいんだろう、やっぱり変わってるなと思っていた。
 
 
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