抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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授業

宿題

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 「って愚弟が言っているので、今晩の夕食はここで歓迎会な。一年生全員集合で!」

 二年生の寮長ルークは、弟イアンの頭の毛をぐしゃぐしゃと掻き回すように撫でながら立ち上がると、両手を広げて声を張り上げた。どうやらルークは大袈裟に芝居じみた動きをするのが癖らしい。手足も長いので耳目を集める。それに何故か男爵家の子息達が全員ルークの支配下にでもあるかの様に振る舞っても上級生は誰も文句は言わない。二年生は彼が寮長だから兎も角、三年生の生徒もなのは不思議だ。一年生は呆気に取られている。

 「歓迎会って何? そういうのって普通週末の前の晩とかだよね? 今日は違うじゃん。それに大体何で愚兄が仕切ってるの?」

 ぶすくれた顔で兄に乱された髪の毛を整えていたイアンが下から睨みつける。

 「ん? そろそろ、移動する時間だから? 遅刻しちゃうし。説明は後。取り敢えず、後。で、先輩からお前らに宿題を出すぞー! フランクは何で学院に苦情を言う必要があるのか、考えておけ。愚弟は、伯爵家の御子息様に頼る以外の方法を考えとけ、手柄独り占めされたく無いんだろう? 他の一年坊主もだ。だったら考えろ。今晩の所は、優しい男爵家の上級生達が助けてやる。歓迎会だから御子息様にはお断りしとけ! 昼だけ助けて貰え! いいか、お前ら全員に宿題な。考えろ、考えるんだ。それで正解が出なくても良い! 取り敢えず考えろ」
 「え、そんなの嫌だよ。正解を教えてよ」
 「やだね」

 とルークはまたイアンの頭に手を伸ばしたので、イアンは嫌そうに振り払うがルークも負けてはいない。振り払うイアンの腕を掴んでにやにやしている。それをイアンは振り解こうとするが、ルークの方が力が強い様で振り解けないでいる。二人とも手が長いので、何だか見ものだ。
 そんな喧嘩している様な、戯れている様なのっぽの兄弟の様子をぽかんと口を開けてアーロンは見ていた。

 「あ、忘れてた。銀妖精ちゃん」

 イアンの腕を掴んだまま、ルークがアーロンと目を合わせる。イアンは両腕が自由にならないのにじたばたと無駄な抵抗を続けている。

 「ぽかん顔も可愛いけど、お口閉じてね? お兄さん、なんか他の物突っ込みたくなるからさ」

 アーロンは慌てて口を閉じた。

 「うん。銀妖精ちゃんは、何でこんな事になったのか考える事。分かってないみたいだけど、一年坊主達、銀妖精ちゃんの為にやってるから。でもさ、自分の事なのに何にも分かんないで、頼んで無いけど皆が勝手にやってくれちゃうんですぅっていうのがお好みならお兄さんは何も言わない。銀妖精ちゃんはにこにこ可愛く学院生活を過ごしてくれればそれで良い」

 アーロンは慌てて首を横に振った。

 「そうなの? やっぱりあざとい系じゃ無いんだね。ちょっとがっかり。やっぱりキース大先輩みたいなお方は、そうそういらっしゃらないか」

 ルークはわざとらしく項垂れて見せる。何故か周りの上級生も数名項垂れているのが気になるが。
 だが、それで力が緩んだのか、イアンはルークの腕を振り解くと、ぽかぽかと兄を拳固で殴り始めた。

 「愚兄意地悪。愚兄むかつく」
 「痛、痛。ちょ、イアンやめてよ。お兄さん意地悪で言ってる訳じゃ無いから、これでも上の人に従ってるから。ちゃんと寮長の仕事してるから」
 「嘘。アーロン様に嫌らしい事言ったって、カリーヌ義姉様に言いつけてやるから」
 「やめて、よして、カリーヌに言わないでよ。大体嫌らしい事って何? お兄様変な事言ってないよね? 何で嫌らしい事言ったって思ったの? ねえ、ねえ、イアン君教えてよ。どこ?どの辺が嫌らしかった?」

 ルークは痛いと言っている割には痛そうな様子も無く、寧ろ楽しそうだ。やっぱり戯れてるみたい、とぽけっと見ていたアーロンはまた口が開いていて慌てて手で押さえた。そこに、

 「あの、自分達も参加してもよろしいでしょうか?」

 すっと手を挙げて割り込んできたのは、イチロウだった。

 「ん? 火の国の一年生達か、参加希望?」
 「はい」

 ルークは周りを見回す様にした、すると何人かが頷いた。

 「おおう。大丈夫みたいだから、二人追加しとくわ。じゃあ、君達にも宿題ね。来るならお客様扱いはしないけどいい?」
 「はい!」
 「正直、君達が何処迄調べてこの国に来てるか分かんないから困っちゃうんだけど、まあ適当に出すわ。えっと、そっちのしっかりしてそうな子はフランクと同じ宿題ね」
 「学院に苦情を言う理由ですね」

 とイチロウが頷いた。そして、ルークはタイスケを見る。

 「うん。で、そっちの銀妖精ちゃんみたいに口開けてる子」
 「え! あ、おいらの口には何も入れないで欲しいっす!」

 タイスケは慌てて自分の口を押さえた。

 「うん。君は……どうしようっかな?」
 「えええ、オイラも仲間に入れて欲しいっす」
 「うーん」

 何故かそこで、ルークは今迄の勢いが失速したみたいに考え込む。

 「愚兄、タイスケ様揶揄ってる。他の一年生と同じで良いでしょ」

 タイスケはその様子におろおろするが、イアンは今度は拳固では無く足でルークを蹴り始めた。

 「愚兄性格悪い。愚兄やな奴」
 「ちょ、イアン君愚兄連発するのやめてくれない? まるでそれが自分の名前みたいな気がして来るから。ちょ、蹴るのもやめて、お行儀悪いから、ね?」
 「愚兄むかつく。これからずうっと愚兄って呼ぶ事にする」

 ふんすと鼻息荒く、イアンが宣言するとルークはその言葉に衝撃を受けたかの様によろよろとして、寮長の上にのしかかる様に倒れ込んだ。やっぱり動作が芝居がかっている。寮長は嫌そうな顔で眼鏡をくいっとあげたが、何も言わない。

 「愚兄可愛い子は揶揄うの好き。やり過ぎていつも嫌われる。もてない」
 「がっ」

 ルークはイアンの言葉に心臓が痛むかの様に押さえた。

 「愚兄頭の良い子も好き。試し過ぎてやっぱり嫌われる。もてない」

 寮長はイアンの言葉に頷いているので、経験があるのだろう。

 「寮長のお姉さん、愚兄の婚約者、可愛くて頭が良い。だから愚兄嫌われてる」
 
 最後の言葉には、「あー」と一年生だけで無く、上級生達も頷いた。

 
 
 
 

 
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