電車の男ー社会人編ー番外編

月世

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十一月十一日の二人

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〈倉知編〉

 あとは寝るだけ。
 明かりを消した静かな部屋。腕にしがみつく体温。穏やかな呼吸のリズム。
 幸福に包まれ、目を閉じる。
「ポッキー」
 突然加賀さんがつぶやいて、直後に股間をわしづかみにされた。
「違います」
 ポッキーと間違えられるのはさすがに切ない。咄嗟に否定すると、加賀さんが「うん」と言った。
「思い出した、帰りにポッキー買ったんだった」
 俺の股間を揉みながら、くそ、と毒づく。
「珍しいですね。そんなに食べたかったんですか?」
「別に?」
「ふふ、面白い加賀さん」
「ほら、今日ポッキーの日じゃん」
「ああ、十一月十一日ですね」
 クリスマスには無関心だし、なんとかの日みたいな記念日的なものにまったく興味がないのに、加賀さんはなぜかポッキーの日だけ敏感だ。
「まあいいけど。ポッキーにはこれっぱかしも興味がねえ」
「もう、言ってることめちゃくちゃじゃないですか」
 可愛くて、顔が自動的にニコニコになった。
「そんなことよりお前のこれがもう、めっちゃ愛しい。この頼りないふにゃふにゃ感」
「はあ、えっと、喜んでいいのかな」
「あれ、なんかでかくなってきた」
「当たり前です」
 暗闇の中で、加賀さんの頬に触れた。親指に唇の感触。そこにチュ、と軽く吸いついて、鼻先をすり合わせた。
「あー、なんか目ぇ覚めたな」
「俺もです」
「する?」
「ポッキーゲームですか?」
「なんでだよ」
 加賀さんが吹き出した。
「ポッキーよりこっちがいい」
 いたずらっぽい声で言って、布団に潜っていく。
 ポッキーの日、おめでとう。
 ポッキーの日、ありがとう。

〈おわり〉
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