電車の男ー同棲編ー番外編

月世

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ディナーのあとで ※

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※32のつづきです。もろもろ大丈夫な方のみどぞ。

〈加賀編〉

 酔うと、性欲が倍増するのはよくあることだ。
 誰しもが、ありうる現象だ。かく言う俺もそういう傾向があり、自覚もしている。
 普通のこと。
 でも倉知は、まさにセックスマシーンの名にふさわしく、マシーン化するのだ。普段の倉知から「羞恥心」という要素を抜いて、積極性を五倍、性欲を十倍くらいにした感じだ。
 あり余る体力と鋼の肉体が、俺を捕まえて離さない。
「加賀さん、もっと、もっと突いて」
 言われるまでもなく、後ろから突きまくった。うつ伏せの倉知の体は途中何度も痙攣して、シーツはびしょ濡れだし、明らかに潮まで噴いている。
 満足させたことを見届けて、安心して中で果てた直後にこの要求だ。
「すまん、今イッた……、もう無理」
「そんな」
 悲しそうな声で、ぐいぐいと尻を突き上げ、自分で快感を得ようとしている。
「う、わ、動かすなって」
「あと一回、イケそうなんです」
「この……、絶倫め」
 倉知の尻を平手で打って中から抜け出ると、その刺激がよかったのか、倉知が「はあっ」と息を漏らす。
「加賀さん、加賀さん……、挿れて……」
 これだけやっても、まだ持て余す性欲があるというのが恐ろしい。シーツの上で、体をよじっている。そそる光景ではあるが、今日はもう俺は勃たない。
 息をつき、ベッドの端に転がるローションを拾って、中身を手のひらに出した。
 尻に、塗り込む。自分の、尻にだ。
 倉知が背を向けてハアハア言っている隙に、挿入の準備を済ませ、「こっち向け」と足の裏をつついた。
「え?」
「キッチンからフライ返し持ってこようか?」
 裏返って、と急かすと、倉知が体を素早く反転させ、仰向けになった。
「まったく、お前の体はどうなってんだ」
 勃起したペニスが腹についている。裏筋をスーッと指先でなぞると、倉知が太ももをびくつかせた。反応が可愛い。笑って先端を口に含む。根元に向かって、咥え込む。頭を振る。倉知が俺の、髪を撫でた。
「加賀さん」
「ん」
「あの」
「んん」
「口の中に、出しても、いいですか?」
 頭を上げてペニスを口から解放し、手の甲で唇を拭う。
「駄目」
「でも、イキそう……、出る、出ます」
「まだ出すなよ」
 倉知の体を跨いで、ペニスをつかむ。
「え、あっ、加賀さん……っ」
 尻にあてがい、腰を下ろす。入ってくる。ぞくぞくした。声が出る。
 たった一週間、ご無沙汰だったものが、恋しかったのだと気づく。
 体内に全部収め、倉知の顔を上から見下ろし、微笑んだ。
「いいよ、動いて」
 俺は倉知を抱くのが大好きだ。
 でも、同じくらい、倉知に抱かれるのが大好きだ。
 下から突き上げられ、歯を食いしばる。腰をつかんだ大きな両手が、前後に揺さぶってくる。
 ふらつく体を、倉知が力強く抱きとめる。
 動きを止めて、すっぽり腕に収め、抱きしめてくる。
 離さないし、動かなくなった。
 俺の中の倉知はまだ硬くて、終わった気配はないのに、うんともすんとも言わない。セックスマシーンもいよいよ電池切れか、と胸板の上で、笑う。
「寝た?」
「起きてます。幸せに浸ってました」
 随分理性的な感想が出て、驚いた。
「加賀さんと繋がって、抱きしめていられるのが幸せだなって。裸が気持ちいいです」
「うん。あれ? もしかして酔ってなくない?」
 倉知は答えない。黙って俺を抱きしめている。
 結構飲ませたし、欲情した目で自ら体を開いたから、てっきり酔っ払ったのかと思っていた。
「よ、酔ってます、よ?」
「え、酔ってないよね? 待って、もしかしてシラフでこんなエロくなっちゃってんの?」
 倉知が黙った。心臓の音が、伝わってくる。焦っているのか、駆け足だ。
「こら、ちょっと、顔見せろ」
「嫌です」
 ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、身動きが取れない。
 笑えてきた。
 もう、なんというか、倉知は本当に、可愛い奴だ。
 やることなすこと可愛くて、楽しくて、面白くて、大好きだ。
 ディナーのあとで、尊くて大切で、幸せな一日が、緩やかに過ぎていく。

〈おわり〉
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