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始まりのふたり
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※この話は、「父の葛藤」とリンクしたお話です。未読の方は先にどうぞ。
〈千葉編〉
「これ、千葉さんと私から。二人にお土産です」
ランチのオーダーを済ませると、六花さんが紙袋を差し出した。加賀さんが、「サンキュ。楽しかった?」と受け取ってから、俺を見て訊いた。
先日、六花さんに京都旅行に誘われた。二人きりの旅。初めての遠出。夢かと思った。いや、夢かもしれない。俺はまだ、夢の中にいる可能性がある。
「加賀さんは、俺の夢の中の住人ですか?」
「え、どうした。なんか怖い」
加賀さんが怯えている。夢であるもんか。頭を振って、否定する。
「夢じゃない、俺は六花さんと京都に行ったんだ」
「お、おう」
「夢じゃなかったかあ……」
両手で顔を覆い、大きく息を吐く。指の隙間から六花さんを見た。楽しかった思い出が、蘇る。
二人で新幹線に乗り、京都へ向かった。道中、話したのは加賀さんと倉知君のことばかりだったが、楽しかった。俺は六花さんが、弟のことを語るときの優しい表情が大好きだ。
清水寺に行って、写真をいっぱい撮った。二人の写真、ではなく、六花さんが漫画の資料に使う写真だ。ひたすら風景を撮っていた。
それから土産物の店を渡り歩き、模造刀を買った。これも、資料に使うらしい。
なんとなく今日という日の記念になればと、お揃いの刀を買い、細長い段ボールをそれぞれ抱え、二人仲良く帰路に着いた。そう、日帰りなのだ。清水寺に行って、模造刀を買っただけ。それでも充分満足の旅だった。
「楽しかった……、めちゃくちゃ」
つぶやくと、六花さんが「よかった」とホッとした声で言った。
「私の行きたいとこだけ連れまわしちゃって、ごめんね」
「いえっ、あっ、や、うん、大丈夫」
今回の旅で、俺たちには進展があった。同い年だと遅れて気づいた六花さんが、敬語をやめようと言い出した。嬉しかった。彼女のほうから、距離を縮めようと動いてくれているのが、とてつもなく、嬉しかった。
「なんだかんだで仲良くやってるみたいで俺は嬉しいよ」
加賀さんがニコニコして言った。この人には一生懸けてお礼をし続けたい。内臓が必要になれば、喜んで提供する。加賀さんの助けがなければ、俺は今ここにいない。
「まだ他人行儀に六花さん、千葉さんって呼んでんの?」
加賀さんが言った。
「そちらこそお互い名字呼びですよね。もう付き合って何年? 五年目? 長い。すごい。尊い。可愛い」
六花さんがペラペラとまくし立て、加賀さんが笑ってネクタイを緩めた。
「たまに七世って呼んでるよ?」
「そのたまにを詳しく知りたいですね。どういうときにっ……、うふっ、名前呼びをするのか、そしてそのときの七世の反応を百四十字でまとめてください」
「なんで百四十字? 全然足りないんだけど」
六花さんが手で口を覆い、ブフッとか、グフッみたいな音を出す。
「はー、可愛い。エロい。至高。目から汁が出そう」
「汁て」
二人が楽しげに会話を繰り広げるのを、羨望のまなざしで見つめた。俺はまだ、六花さんに対して緊張が抜けない。好きすぎて、綺麗すぎて、まともに見ることもできない。
「あ、そうだ。言おうと思ってたんだった。千葉さん」
「えっ、俺? はい、あ、うん、何?」
背筋を伸ばし、前髪を整えて、隣に座る六花さんに向き直った。
「父が一度、会いたいって言ってて」
ちちがいちどあいたいっていってて。
脳内で、全部ひらがなになってしまった。ひらがなを漢字に変換し直して、首を傾げる。
「父というのは」
訊くと、六花さんが「うちの父親」と真顔で答えた。馬鹿な質問だったと思いながら、再び馬鹿な質問を繰り出した。
「会いたいって、誰に?」
「千葉さんに」
ごくり、と唾を飲む。
「大丈夫だよ」
加賀さんがグラスを持ち上げて言った。
「お父さん、面白くて優しい人だし、それに」
グラスの水を一口飲んで、加賀さんが頼もしく笑う。
「俺と倉知君のこと、あっさり受け入れてくれたしね。だから千葉君も大丈夫」
そうか。どうやら俺は、大丈夫らしい。
「ごめんね、深く考えないでいいから」
六花さんが申し訳なさそうだ。だから深く考えないようにした。
そして迎えた当日。
人生で、これほど緊張した経験は他にない。
〈六花編〉
彼氏を家に呼んだことは、過去にない。だからだろうか。おそらく父は、千葉さんが私の初彼だと勘違いしている。恋愛に興味のない、オタクでお堅い娘に男ができた。黙っていられないのはなんとなく理解できる。
加賀さんが言った通り、父は「面白くて優しい人」だと思う。誰かに対して攻撃的になることはない。軽快で、まろやかな人物だ。そのはずだった。
ダイニングテーブルに並んだ母の手料理を、腕組みをして、険しい顔で睨んでいる。
頭の固い昭和の親父にクラスチェンジでもしたのだろうか。今日一日、このスタンスでいくつもりだったらどうしよう。お願いだからちゃぶ台返しだけはやらないで欲しい。
「千葉さん、駅に着いたって」
スマホを見ながら答えると、父が裏返った声を出した。
「そっ、そうか」
「なんで緊張してるの?」
「してないけど?」
ピーピピーと唐突に口笛を吹いてごまかす父を一瞥して、リビングのソファから腰を上げた。
「迎えに行ってくる」
父は返事をしない。知らん顔でよくわからないメロディを奏でている。明らかに挙動不審だ。千葉さんに変なことを言ったり、威圧的な態度をとったりしないだろうか、と少し気が重い。
突然だが、私は千葉さんをちゃんと好きだ。
モテキングを自称していた人物が、今では彼女の手も握れない奥手な純朴少年になった。
私の好みや理想の男像からは大きくかけ離れていたが、変貌ぶりが面白いし、何より、全力で私を好きでいてくれるのがありがたくもあった。
健気で辛抱強い彼を、可愛いと思うときもあり、私はようやく気づいた。潮時だと。
年単位で待たせてしまったが、恋愛に目を向けるときが、彼に向き合うときが、きた。
「千葉さん?」
スーツの、シュッとした若い男が前から歩いてくる、と思ったら、彼だった。呼び止めると、千葉さんがガバッと顔を上げ、「り、六花さん」とさっきの父と同じような、裏返った声を出した。
「スーツ?」
「変かな?」
「ううん、カッコイイ」
思ったままを言ったのだが、千葉さんは息を詰まらせ、顔を赤くして、ゲホゲホと咳き込んだ。
「さすが、モテキングだね。スタイルいいからなんでも似合う」
「あんまり褒めないで」
手のひらで顔を扇ぐ彼と、目が合った。ニッと笑うと、向こうも安心したように、笑う。
「行こう」
手を出した。千葉さんは、驚いたように私の手を見て、それからはスムーズだった。手が重なった。汗で湿った手。大きな男の人の手だ。頼りなさげに見えても、ちゃんと、男の人なのだ。
家に戻ると、父はいつもの父だった。陽気なおじさん丸出しで、よく来たね、いらっしゃいと快活に笑った。
「千葉さんって、なんか今風の男前だね」
父が、千葉さんのグラスにビールを注ぎ、まじまじと顔を見つめて言った。母も千葉さんを観察している。うんうんとうなずいた。
「加賀さんで慣れちゃってるけど、カッコイイよね。すごくモテそう」
「モテるよ。モテキングだもんね」
千葉さんの代名詞を出して、テンションを上げてやろうと思ったが、逆に体を小さくして「滅相もございません」と恐縮した。
「モテてもいいけど、娘を泣かせないでね」
父の声色が、ピリピリしている。顔は笑っている。でも、目が笑っていない。
突然、隣に座っていた千葉さんが、立ち上がった。
「確かに僕はモテます。モテました。生まれてからずっと、モテ続けてきました。モテキングと言われても否定はしません」
噴き出しそうになったが、笑いを取るための科白ではないらしい。真剣な顔だ。
やっぱりこの人は面白い。
「え、それ自分で言うの? 面白いな君は」
父が感心したようにうなり、ビールを一口飲んだ。母は「そんなにモテるんだ」とそっちに驚いている。手巻き寿司の海苔を手のひらに乗せ、酢飯を敷き詰めながら千葉さんの顔を見上げている。
「でも本当に好きな女性が現れた今、モテることはなんの意味も持ちません。僕はもう、六花さん以外、目に入らない。泣かせたりしません、絶対に」
しん、と静まり返る。静かすぎて、冷蔵庫のブーンというモーターの音が、やけにやかましく感じた。
「うん、わかった」
父が目を逸らして、頭を掻く。これは、照れている。父はベタな恋愛映画を真正面から見ることができない。こういうノリは、もっとも苦手とするジャンルなのだ。
「素敵」
対して母は、得意分野だ。乙女の顔で目を潤ませ、手巻き寿司にかぶりついている。
「言っておくけど」
箸を置いて、千葉さん見上げた。
「私は泣かされたりしないよ。泣かせるほうだから。いい?」
千葉さんが、うっ、と小さく仰け反ってから、小刻みに首を縦に振った。
「いい、勿論、はい、うん」
「うん。よろしくね」
座って、とうながすと、彼はちょこん、と腰かけた。この従順なところが可愛いのだ。
「千葉君」
父が神妙な声で彼を呼ぶ。
「はいっ」
張り切って返事をする千葉さんに、父が手を差し出した。
「頑張って」
父と彼が握手を交わす。
私はそれを見て、満足していた。
ビールを手酌で注いで、グラスを傾ける。美味い、とつぶやいて、安堵の息をつく。
〈おわり〉
〈千葉編〉
「これ、千葉さんと私から。二人にお土産です」
ランチのオーダーを済ませると、六花さんが紙袋を差し出した。加賀さんが、「サンキュ。楽しかった?」と受け取ってから、俺を見て訊いた。
先日、六花さんに京都旅行に誘われた。二人きりの旅。初めての遠出。夢かと思った。いや、夢かもしれない。俺はまだ、夢の中にいる可能性がある。
「加賀さんは、俺の夢の中の住人ですか?」
「え、どうした。なんか怖い」
加賀さんが怯えている。夢であるもんか。頭を振って、否定する。
「夢じゃない、俺は六花さんと京都に行ったんだ」
「お、おう」
「夢じゃなかったかあ……」
両手で顔を覆い、大きく息を吐く。指の隙間から六花さんを見た。楽しかった思い出が、蘇る。
二人で新幹線に乗り、京都へ向かった。道中、話したのは加賀さんと倉知君のことばかりだったが、楽しかった。俺は六花さんが、弟のことを語るときの優しい表情が大好きだ。
清水寺に行って、写真をいっぱい撮った。二人の写真、ではなく、六花さんが漫画の資料に使う写真だ。ひたすら風景を撮っていた。
それから土産物の店を渡り歩き、模造刀を買った。これも、資料に使うらしい。
なんとなく今日という日の記念になればと、お揃いの刀を買い、細長い段ボールをそれぞれ抱え、二人仲良く帰路に着いた。そう、日帰りなのだ。清水寺に行って、模造刀を買っただけ。それでも充分満足の旅だった。
「楽しかった……、めちゃくちゃ」
つぶやくと、六花さんが「よかった」とホッとした声で言った。
「私の行きたいとこだけ連れまわしちゃって、ごめんね」
「いえっ、あっ、や、うん、大丈夫」
今回の旅で、俺たちには進展があった。同い年だと遅れて気づいた六花さんが、敬語をやめようと言い出した。嬉しかった。彼女のほうから、距離を縮めようと動いてくれているのが、とてつもなく、嬉しかった。
「なんだかんだで仲良くやってるみたいで俺は嬉しいよ」
加賀さんがニコニコして言った。この人には一生懸けてお礼をし続けたい。内臓が必要になれば、喜んで提供する。加賀さんの助けがなければ、俺は今ここにいない。
「まだ他人行儀に六花さん、千葉さんって呼んでんの?」
加賀さんが言った。
「そちらこそお互い名字呼びですよね。もう付き合って何年? 五年目? 長い。すごい。尊い。可愛い」
六花さんがペラペラとまくし立て、加賀さんが笑ってネクタイを緩めた。
「たまに七世って呼んでるよ?」
「そのたまにを詳しく知りたいですね。どういうときにっ……、うふっ、名前呼びをするのか、そしてそのときの七世の反応を百四十字でまとめてください」
「なんで百四十字? 全然足りないんだけど」
六花さんが手で口を覆い、ブフッとか、グフッみたいな音を出す。
「はー、可愛い。エロい。至高。目から汁が出そう」
「汁て」
二人が楽しげに会話を繰り広げるのを、羨望のまなざしで見つめた。俺はまだ、六花さんに対して緊張が抜けない。好きすぎて、綺麗すぎて、まともに見ることもできない。
「あ、そうだ。言おうと思ってたんだった。千葉さん」
「えっ、俺? はい、あ、うん、何?」
背筋を伸ばし、前髪を整えて、隣に座る六花さんに向き直った。
「父が一度、会いたいって言ってて」
ちちがいちどあいたいっていってて。
脳内で、全部ひらがなになってしまった。ひらがなを漢字に変換し直して、首を傾げる。
「父というのは」
訊くと、六花さんが「うちの父親」と真顔で答えた。馬鹿な質問だったと思いながら、再び馬鹿な質問を繰り出した。
「会いたいって、誰に?」
「千葉さんに」
ごくり、と唾を飲む。
「大丈夫だよ」
加賀さんがグラスを持ち上げて言った。
「お父さん、面白くて優しい人だし、それに」
グラスの水を一口飲んで、加賀さんが頼もしく笑う。
「俺と倉知君のこと、あっさり受け入れてくれたしね。だから千葉君も大丈夫」
そうか。どうやら俺は、大丈夫らしい。
「ごめんね、深く考えないでいいから」
六花さんが申し訳なさそうだ。だから深く考えないようにした。
そして迎えた当日。
人生で、これほど緊張した経験は他にない。
〈六花編〉
彼氏を家に呼んだことは、過去にない。だからだろうか。おそらく父は、千葉さんが私の初彼だと勘違いしている。恋愛に興味のない、オタクでお堅い娘に男ができた。黙っていられないのはなんとなく理解できる。
加賀さんが言った通り、父は「面白くて優しい人」だと思う。誰かに対して攻撃的になることはない。軽快で、まろやかな人物だ。そのはずだった。
ダイニングテーブルに並んだ母の手料理を、腕組みをして、険しい顔で睨んでいる。
頭の固い昭和の親父にクラスチェンジでもしたのだろうか。今日一日、このスタンスでいくつもりだったらどうしよう。お願いだからちゃぶ台返しだけはやらないで欲しい。
「千葉さん、駅に着いたって」
スマホを見ながら答えると、父が裏返った声を出した。
「そっ、そうか」
「なんで緊張してるの?」
「してないけど?」
ピーピピーと唐突に口笛を吹いてごまかす父を一瞥して、リビングのソファから腰を上げた。
「迎えに行ってくる」
父は返事をしない。知らん顔でよくわからないメロディを奏でている。明らかに挙動不審だ。千葉さんに変なことを言ったり、威圧的な態度をとったりしないだろうか、と少し気が重い。
突然だが、私は千葉さんをちゃんと好きだ。
モテキングを自称していた人物が、今では彼女の手も握れない奥手な純朴少年になった。
私の好みや理想の男像からは大きくかけ離れていたが、変貌ぶりが面白いし、何より、全力で私を好きでいてくれるのがありがたくもあった。
健気で辛抱強い彼を、可愛いと思うときもあり、私はようやく気づいた。潮時だと。
年単位で待たせてしまったが、恋愛に目を向けるときが、彼に向き合うときが、きた。
「千葉さん?」
スーツの、シュッとした若い男が前から歩いてくる、と思ったら、彼だった。呼び止めると、千葉さんがガバッと顔を上げ、「り、六花さん」とさっきの父と同じような、裏返った声を出した。
「スーツ?」
「変かな?」
「ううん、カッコイイ」
思ったままを言ったのだが、千葉さんは息を詰まらせ、顔を赤くして、ゲホゲホと咳き込んだ。
「さすが、モテキングだね。スタイルいいからなんでも似合う」
「あんまり褒めないで」
手のひらで顔を扇ぐ彼と、目が合った。ニッと笑うと、向こうも安心したように、笑う。
「行こう」
手を出した。千葉さんは、驚いたように私の手を見て、それからはスムーズだった。手が重なった。汗で湿った手。大きな男の人の手だ。頼りなさげに見えても、ちゃんと、男の人なのだ。
家に戻ると、父はいつもの父だった。陽気なおじさん丸出しで、よく来たね、いらっしゃいと快活に笑った。
「千葉さんって、なんか今風の男前だね」
父が、千葉さんのグラスにビールを注ぎ、まじまじと顔を見つめて言った。母も千葉さんを観察している。うんうんとうなずいた。
「加賀さんで慣れちゃってるけど、カッコイイよね。すごくモテそう」
「モテるよ。モテキングだもんね」
千葉さんの代名詞を出して、テンションを上げてやろうと思ったが、逆に体を小さくして「滅相もございません」と恐縮した。
「モテてもいいけど、娘を泣かせないでね」
父の声色が、ピリピリしている。顔は笑っている。でも、目が笑っていない。
突然、隣に座っていた千葉さんが、立ち上がった。
「確かに僕はモテます。モテました。生まれてからずっと、モテ続けてきました。モテキングと言われても否定はしません」
噴き出しそうになったが、笑いを取るための科白ではないらしい。真剣な顔だ。
やっぱりこの人は面白い。
「え、それ自分で言うの? 面白いな君は」
父が感心したようにうなり、ビールを一口飲んだ。母は「そんなにモテるんだ」とそっちに驚いている。手巻き寿司の海苔を手のひらに乗せ、酢飯を敷き詰めながら千葉さんの顔を見上げている。
「でも本当に好きな女性が現れた今、モテることはなんの意味も持ちません。僕はもう、六花さん以外、目に入らない。泣かせたりしません、絶対に」
しん、と静まり返る。静かすぎて、冷蔵庫のブーンというモーターの音が、やけにやかましく感じた。
「うん、わかった」
父が目を逸らして、頭を掻く。これは、照れている。父はベタな恋愛映画を真正面から見ることができない。こういうノリは、もっとも苦手とするジャンルなのだ。
「素敵」
対して母は、得意分野だ。乙女の顔で目を潤ませ、手巻き寿司にかぶりついている。
「言っておくけど」
箸を置いて、千葉さん見上げた。
「私は泣かされたりしないよ。泣かせるほうだから。いい?」
千葉さんが、うっ、と小さく仰け反ってから、小刻みに首を縦に振った。
「いい、勿論、はい、うん」
「うん。よろしくね」
座って、とうながすと、彼はちょこん、と腰かけた。この従順なところが可愛いのだ。
「千葉君」
父が神妙な声で彼を呼ぶ。
「はいっ」
張り切って返事をする千葉さんに、父が手を差し出した。
「頑張って」
父と彼が握手を交わす。
私はそれを見て、満足していた。
ビールを手酌で注いで、グラスを傾ける。美味い、とつぶやいて、安堵の息をつく。
〈おわり〉
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