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極上の休日 ※
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※リバです
〈加賀編〉
休日の朝。鏡の前で並んで歯磨きをしていた。
鏡の中で目が合って、手を動かしながら倉知が笑って、体を寄せてきた。それだけならまだしも、首をかしげるようにして、俺の頭上に頭を載せてきたのだ。
これは可愛すぎた。
咄嗟に手が出て、わりとガッツリと尻を揉みしだく。俺の暴挙に戸惑った倉知が、恥ずかしそうに目を伏せて、照れ笑いをする。
可愛い。最高に、可愛い。
無言で歯磨きを終わらせて、倉知の背中によじ登り、しがみつく。
「何してるんですか」
「コアラ」
「落っこちないように、ちゃんとしがみついててくださいね」
両手を肩に、両足を腰に回してしがみつく。
歯ブラシを片付け、うがいをして、顔を洗う倉知を背中から見守った。これは新しい。初めての視点。
倉知は、タオルで濡れた顔を拭うと、俺を負ぶった状態で、脈絡なく屈伸を始めた。
「おお、アトラクション」
「今から遊園地でも行きます?」
「やだ」
「今日はおうちの日?」
「そう、おうちの日」
めちゃくちゃイチャイチャしてやる。誰の目も気にせずに、二人だけの空間で、好きなようにイチャつく日だ。
「あ、洗濯機止まってる。干さないと」
俺を担いだまま、倉知が洗濯機からテキパキと洗濯物を取り出して、かごに入れていく。俺を背中に乗せていても、まったく負担になっていないのがすごい。重そうな気配が一切ない。淀みなく歩いて、一緒にベランダに出た。
「はい、加賀さんも手伝って」
靴下を手渡された。背負われたままで、ピンチハンガーに靴下を吊るす。
「加賀さんのパンツ」
「うい」
受け取って、洗濯ばさみで挟む。非常に非効率だが、これはこれで楽しい。
「次、俺のパンツです」
「きたー、倉知君のおパンツ」
濡れたパンツに顔を寄せ、匂いを嗅いだ。
「柔軟剤の香り」
「ふふ、はい」
「変態っ、とか罵らないの?」
「俺もやったことあるんで」
「先を越された」
洗濯物を干すという、面倒な家事の一つが、二人でやればこんなにも楽しい。無駄な流れ作業だが、楽しければなんでもいい。
「最後です。これは俺が干しますね」
俺のワイシャツだ。折りたたんで軽く叩き、ハンガーに掛けて、肩の位置を丁寧に調整して、襟や袖、ポケットの部分の皺を伸ばしている。めちゃくちゃ愛を感じる。
「いつもお仕事お疲れ様です」
ワイシャツを労う倉知に涙腺が緩む。横顔にキスをして、首にしがみつく。
「いい子、大好き、愛してる」
「しーっ、一応ここ、外です」
倉知が声を潜めた。確かに、隣や上下の階の住人がベランダに出ていたら聞かれるかもしれない。腰の辺りがゾクっとした。誰かに聞かれるかも、見られるかも、という状況は、悪くない。青姦の醍醐味はそこにある。
「ここでする?」
フッと耳に息を吹きかけて訊いた。
「え……、え? するって、え? こ、ここで?」
倉知の背中で悶絶する。期待が透けてんだよ、と後ろ頭にひたすらスリスリしてやった。
可愛い。
俺はいつでも倉知を可愛いと思う。
そこに存在しているだけで、可愛い。
この「可愛い」という感情は必ずしもイコール抱きたいにはならない。なんなら、抱かれている最中でも、可愛いと思う。一生懸命腰を振っている様子が可愛いし、気持ちよさそうなのが可愛いし、声を上げて果てるのが可愛い。
可愛いから抱きたい、ということはないのだが、唐突に抱きたくなることはある。
今がまさに、それだ。
別に欲求不満とは違う。欲求が沸く暇もなく、セックスをしている。それなのに、ムラムラするのは、そういうバイオリズムなのだ。
俄然、抱きたくなってきた。
喘がせたい。
羞恥に震えさせたい。
この筋肉質な体を組み敷いて、入れたり出したり繰り返して、汗ばんでいく肌を、撫でまわしたい。いろいろしたい。抜き差ししながら乳首を摘まむと、喜ぶんだよなあ、とうっとりと想像する。
それに、抱いているときの倉知の声は、はっきり言って可愛すぎる。声だけで抜ける自信がある。
はあ。
可愛い。
愛しい。
「加賀さん、あの……」
「ん?」
「えっと……、か、硬くなってます」
倉知の腰に押しつけていた俺の股間は、無事に勃起を果たしたようだ。
「これはもう、使うしかない」
「つ、使う……って」
「うん、使わせて?」
シャツの上から肩を甘噛みして言った。倉知の体は硬直している。
「中、入らないの? それとも本当にここでヤる?」
「……寝室に行きましょう」
よっしゃ! と心の中でガッツポーズをした。思いがけず、抱けることになるとは。
誕生日でもないし、酔ってもいないのに、抱ける。
しかも、こんな朝っぱらから。時間はある。もう、とことん、じっくり、楽しめる。なんという幸運。
「いいの?」
寝室のカーテンを閉める倉知の背中に訊いた。
「使うって、意味わかってる?」
「わかってます」
こっちを見ないでそう言うと、カーテンを握り締めて、はあ、と息を吐いた。わかりやすく緊張している。
笑みが零れた。いつまでも処女の恥じらいを持ち続けている倉知が愛しい。
「おいで」
ベッドに座って、呼んだ。倉知が肩越しに振り返り、深呼吸のあとで、ロボットのような動きでギシギシとこっちにきた。
口元が緩んでいる自覚があった。倉知が終始うつむいているおかげで、この締まりのない顔を見られずに済む。
「ちょっと舐めてみる?」
下着とズボンを引っ張って、股間をチラ見せして言った。倉知が弾かれたように目を上げて、俺の股間を上から覗き込む。下唇を噛んでから、小さな声で答えた。
「舐めます」
「うん」
別に、逆であろうとなかろうと、フェラはいつもやっている。倉知は俺のを舐めるのが好きだ。
でも、今から「使う」ものを、自分の中に入るものを、舐めるとなると、ちょっとばかり意味合いが違ってくる。倉知の押し殺した興奮が伝わってくる。
カーテンを閉め、電気を消した部屋。外は太陽が燦々と輝いていて、遮り切れなかった光が透けて、絶妙な視野を提供してくれる。
暗すぎず、明るすぎない。適度に、見える。抱かれる側の羞恥も薄れやすく、大胆になれるというわけだ。
倉知の吐く息が、熱い。根元からゆっくりと先端に移動する舌が、熱い。
伏せた目。睫毛が細かく震えている。
「可愛い」
手を伸ばし、頭を撫でる。倉知が俺を見た。目が潤んでいるのがわかる。
「もっと」
要求すると、倉知が頬を染め、ペニスの根元をつかんで、口の中に含んだ。唾液たっぷりの口内を、進んでいく。音を立てて吸いついて、顔を小さく上下に振りながら、飲み込んでいく。喉の奥に到達する。倉知の眉間が苦しそうに皺を寄せる。
くぐもった声。
目の端に浮かぶ、珠の涙。
口の中で硬く、大きく張り詰める俺の欲望を、倉知はとても愛おしそうに、しゃぶっている。
まとわりつく舌の感触。先端を小刻みに往復する粘膜のぬくもり。右手は根元を擦っている。リズミカルな動作で、明確に、快感を与えてくる。
気持ちいいし、健気で可愛いし、紅潮した頬がエロいし、ずっと見ていても飽きない。でもそろそろ止めなければ。
「倉知君」
咥えたまま、動きを止めずに目だけを動かして、俺を見る。
「もういいよ。そんなにされたら出そう」
上手だね、と語尾に付け加えると、倉知が俺を解放し、体を起こす。何か言いたそうにおずおずと俺を見て、シーツの上で正座をした。両手で股間を隠しているが、勃起していることはわかっている。
膝に手を置いた。
「あっ」
倉知が肩を震わせて、声を上げた。触れただけでめちゃくちゃ感じている。膝から太ももに指を這わせ、下から覗き込むようにして、キスをした。舌は入れない。唇を舐めたり吸ったり、角度を変えて、優しく攻めた。
目を開けて、倉知が溶けていくのを観察していた。息が荒い。時々、耐え切れずに喉から可愛い喘ぎが漏れ、それを恥ずかしそうにしている様子が堪らない。
「可愛い」
強張っていた倉知の体から、力が徐々に抜けていく。
全身を、くまなく撫でて、キスをして。倉知の体がシーツの上でくたくたになるのはそう時間がかからなかった。
「加賀さん、加賀さん……っ」
泣きながら俺を呼ぶ。
「もう、お願い」
倉知の体が波打っている。もどかしそうに腰が浮いて、ペニスがびくびくと跳ねている。
「挿れて欲しい?」
欲しくて限界なのはわかっていて、さっきからわざと挿れてやらない。
ローションで濡らした秘所をペニスの先端でくすぐっている。かすめるたびに、きゅ、と物欲しげに締まるのが可愛くて、やめられなくなった。
「めっちゃひくひくしてる。すげえエロい」
「あっ、はあっ、う、あ、変に、変になる……っ」
早く、と訴える倉知の太ももを撫でながら、亀頭を埋めて、抜く。穴の周りをぐりぐりと突いたり、指で揉んだりして、散々焦らしてやった。
悶える姿が可愛いなあとほのぼのしていると、唐突に手首をつかまれた。ぎく、となるほどの、すごい力だ。ペニスを握った俺の右手を強引に調整して、自分の穴に狙いを定め、腰を落としてくる。
「んっ、入った……」
恍惚とした表情で言うと、俺を見た。目が合う。倉知の腰が揺れる。薄く開いた唇から、なまめかしい吐息が漏れる。
処女の恥じらいはどこへやら。
でもこういう、小悪魔的な攻めの姿勢も悪くない。
とりあえず、可愛い。
「動いて、加賀さん、あっ、あっ」
腰を揺すりながら、倉知が懇願する。自分のペニスを自分で擦り、腰を振っている。なんというエロさだ。
加賀さん、加賀さんと一心不乱に俺のペニスを蹂躙している。
なぜだろう、抱かれている気分になってきた。これが尻で抱くというやつか、と感心しながら痴態を見下ろしていると、倉知が動きを止め、掠れた声で「加賀さん」と呼んだ。
「俺、激しいのがいい」
「え」
「犯して」
確かにそう言った。これは、焦らし作戦が功を奏したと思っていいのだろうか。倉知の口からこんな科白を引き出す日がくるとは。
一日中、ふわふわとしたスローセックスを楽しむつもりだった。
倉知を手中に落とし、エロいことしか考えられなくしてやろうと思っていた。
ある意味では成功だ。
倉知の体を折り曲げて、上から覗き込み、軽くキスをしてから、耳元に唇をつけて囁いた。
「犯してやる」
望み通り、激しくした。腰をぶつけるたびに倉知のペニスがぐらぐらと揺れた。
「んーっ、んぅ、あっ、か、加賀さ、ん、きもちい、きもちい……っ」
「う、やべ、イキそ……」
酔ってるんじゃないかというくらい、倉知の性欲が迸っている。中がうねって、ギュウギュウに締めつけてくる。
目が眩む。
どうしてこうなった。
もしかすると、倉知は常日頃、俺に抱かれたくて仕方がなくて、我慢しているのでは。久しぶりに抱かれて、たがが外れている。
と都合のいい妄想をして、にっこり笑顔になってしまった。
「倉知君、めっちゃエロい」
「やっ、ちが、う」
首を左右に振って、息を弾ませて、俺の腕に爪を立てる。
「ちゃんと、呼んで」
「え? 何?」
倉知が喘ぎの合間に「名前」と言い置いた。ああ、と気づいた。さっき、何か言いたそうにしていたのはそういうことか。
思わず微笑んだ。肉を打つ音を響かせながら、「七世」と呼ぶ。
「七世、いい子」
「はあっ、あっ、うん、うん……っ」
「満足? 七世」
声にならない声を上げ、倉知が何度もうなずいた。
「はは。どうしよ、めっちゃ可愛い」
硬く尖った乳首を強く摘まむと、倉知が首を仰け反らせた。イク、と悲鳴を上げ、自身の分身を握り締め、体を痙攣させ、吐精する。跳ねるペニスから飛び出した精液を見ながら、中に、射精した。腰を押しつけ一番奥に潜り込み、最後の一滴まで倉知の中に、絞り出す。目を閉じた。大きく上下する倉知の胸の上に、落ちた。
「あの」
「……ん?」
乱れた息が元に戻ると、倉知が口を開いた。
「……なんか、すいません」
「え、何が?」
「がっつきすぎて、その、は、恥ずかしい」
「えー、はは」
いいんだよ。
己の迸る性欲に従順になる様は、かなりそそった、素晴らしい、という手放しの絶賛と、お前はどうやら俺に抱かれたいという内に秘めたる欲求を抑え込んでいる、という的確な指摘は、心の中で留めておいた。
「七世」
「はっ、はい」
汗で濡れた肌に頬をすり寄せ、心臓の音を聞きながら、目を閉じたままでつぶやいた。
「今日という日は、始まったばかりだ」
「……もう、なんですか、そのモノローグ」
理解した、という声色で、倉知が笑った。
とろけるような、極上の休日を、堪能しよう。
〈おわり〉
〈加賀編〉
休日の朝。鏡の前で並んで歯磨きをしていた。
鏡の中で目が合って、手を動かしながら倉知が笑って、体を寄せてきた。それだけならまだしも、首をかしげるようにして、俺の頭上に頭を載せてきたのだ。
これは可愛すぎた。
咄嗟に手が出て、わりとガッツリと尻を揉みしだく。俺の暴挙に戸惑った倉知が、恥ずかしそうに目を伏せて、照れ笑いをする。
可愛い。最高に、可愛い。
無言で歯磨きを終わらせて、倉知の背中によじ登り、しがみつく。
「何してるんですか」
「コアラ」
「落っこちないように、ちゃんとしがみついててくださいね」
両手を肩に、両足を腰に回してしがみつく。
歯ブラシを片付け、うがいをして、顔を洗う倉知を背中から見守った。これは新しい。初めての視点。
倉知は、タオルで濡れた顔を拭うと、俺を負ぶった状態で、脈絡なく屈伸を始めた。
「おお、アトラクション」
「今から遊園地でも行きます?」
「やだ」
「今日はおうちの日?」
「そう、おうちの日」
めちゃくちゃイチャイチャしてやる。誰の目も気にせずに、二人だけの空間で、好きなようにイチャつく日だ。
「あ、洗濯機止まってる。干さないと」
俺を担いだまま、倉知が洗濯機からテキパキと洗濯物を取り出して、かごに入れていく。俺を背中に乗せていても、まったく負担になっていないのがすごい。重そうな気配が一切ない。淀みなく歩いて、一緒にベランダに出た。
「はい、加賀さんも手伝って」
靴下を手渡された。背負われたままで、ピンチハンガーに靴下を吊るす。
「加賀さんのパンツ」
「うい」
受け取って、洗濯ばさみで挟む。非常に非効率だが、これはこれで楽しい。
「次、俺のパンツです」
「きたー、倉知君のおパンツ」
濡れたパンツに顔を寄せ、匂いを嗅いだ。
「柔軟剤の香り」
「ふふ、はい」
「変態っ、とか罵らないの?」
「俺もやったことあるんで」
「先を越された」
洗濯物を干すという、面倒な家事の一つが、二人でやればこんなにも楽しい。無駄な流れ作業だが、楽しければなんでもいい。
「最後です。これは俺が干しますね」
俺のワイシャツだ。折りたたんで軽く叩き、ハンガーに掛けて、肩の位置を丁寧に調整して、襟や袖、ポケットの部分の皺を伸ばしている。めちゃくちゃ愛を感じる。
「いつもお仕事お疲れ様です」
ワイシャツを労う倉知に涙腺が緩む。横顔にキスをして、首にしがみつく。
「いい子、大好き、愛してる」
「しーっ、一応ここ、外です」
倉知が声を潜めた。確かに、隣や上下の階の住人がベランダに出ていたら聞かれるかもしれない。腰の辺りがゾクっとした。誰かに聞かれるかも、見られるかも、という状況は、悪くない。青姦の醍醐味はそこにある。
「ここでする?」
フッと耳に息を吹きかけて訊いた。
「え……、え? するって、え? こ、ここで?」
倉知の背中で悶絶する。期待が透けてんだよ、と後ろ頭にひたすらスリスリしてやった。
可愛い。
俺はいつでも倉知を可愛いと思う。
そこに存在しているだけで、可愛い。
この「可愛い」という感情は必ずしもイコール抱きたいにはならない。なんなら、抱かれている最中でも、可愛いと思う。一生懸命腰を振っている様子が可愛いし、気持ちよさそうなのが可愛いし、声を上げて果てるのが可愛い。
可愛いから抱きたい、ということはないのだが、唐突に抱きたくなることはある。
今がまさに、それだ。
別に欲求不満とは違う。欲求が沸く暇もなく、セックスをしている。それなのに、ムラムラするのは、そういうバイオリズムなのだ。
俄然、抱きたくなってきた。
喘がせたい。
羞恥に震えさせたい。
この筋肉質な体を組み敷いて、入れたり出したり繰り返して、汗ばんでいく肌を、撫でまわしたい。いろいろしたい。抜き差ししながら乳首を摘まむと、喜ぶんだよなあ、とうっとりと想像する。
それに、抱いているときの倉知の声は、はっきり言って可愛すぎる。声だけで抜ける自信がある。
はあ。
可愛い。
愛しい。
「加賀さん、あの……」
「ん?」
「えっと……、か、硬くなってます」
倉知の腰に押しつけていた俺の股間は、無事に勃起を果たしたようだ。
「これはもう、使うしかない」
「つ、使う……って」
「うん、使わせて?」
シャツの上から肩を甘噛みして言った。倉知の体は硬直している。
「中、入らないの? それとも本当にここでヤる?」
「……寝室に行きましょう」
よっしゃ! と心の中でガッツポーズをした。思いがけず、抱けることになるとは。
誕生日でもないし、酔ってもいないのに、抱ける。
しかも、こんな朝っぱらから。時間はある。もう、とことん、じっくり、楽しめる。なんという幸運。
「いいの?」
寝室のカーテンを閉める倉知の背中に訊いた。
「使うって、意味わかってる?」
「わかってます」
こっちを見ないでそう言うと、カーテンを握り締めて、はあ、と息を吐いた。わかりやすく緊張している。
笑みが零れた。いつまでも処女の恥じらいを持ち続けている倉知が愛しい。
「おいで」
ベッドに座って、呼んだ。倉知が肩越しに振り返り、深呼吸のあとで、ロボットのような動きでギシギシとこっちにきた。
口元が緩んでいる自覚があった。倉知が終始うつむいているおかげで、この締まりのない顔を見られずに済む。
「ちょっと舐めてみる?」
下着とズボンを引っ張って、股間をチラ見せして言った。倉知が弾かれたように目を上げて、俺の股間を上から覗き込む。下唇を噛んでから、小さな声で答えた。
「舐めます」
「うん」
別に、逆であろうとなかろうと、フェラはいつもやっている。倉知は俺のを舐めるのが好きだ。
でも、今から「使う」ものを、自分の中に入るものを、舐めるとなると、ちょっとばかり意味合いが違ってくる。倉知の押し殺した興奮が伝わってくる。
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伏せた目。睫毛が細かく震えている。
「可愛い」
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「もっと」
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くぐもった声。
目の端に浮かぶ、珠の涙。
口の中で硬く、大きく張り詰める俺の欲望を、倉知はとても愛おしそうに、しゃぶっている。
まとわりつく舌の感触。先端を小刻みに往復する粘膜のぬくもり。右手は根元を擦っている。リズミカルな動作で、明確に、快感を与えてくる。
気持ちいいし、健気で可愛いし、紅潮した頬がエロいし、ずっと見ていても飽きない。でもそろそろ止めなければ。
「倉知君」
咥えたまま、動きを止めずに目だけを動かして、俺を見る。
「もういいよ。そんなにされたら出そう」
上手だね、と語尾に付け加えると、倉知が俺を解放し、体を起こす。何か言いたそうにおずおずと俺を見て、シーツの上で正座をした。両手で股間を隠しているが、勃起していることはわかっている。
膝に手を置いた。
「あっ」
倉知が肩を震わせて、声を上げた。触れただけでめちゃくちゃ感じている。膝から太ももに指を這わせ、下から覗き込むようにして、キスをした。舌は入れない。唇を舐めたり吸ったり、角度を変えて、優しく攻めた。
目を開けて、倉知が溶けていくのを観察していた。息が荒い。時々、耐え切れずに喉から可愛い喘ぎが漏れ、それを恥ずかしそうにしている様子が堪らない。
「可愛い」
強張っていた倉知の体から、力が徐々に抜けていく。
全身を、くまなく撫でて、キスをして。倉知の体がシーツの上でくたくたになるのはそう時間がかからなかった。
「加賀さん、加賀さん……っ」
泣きながら俺を呼ぶ。
「もう、お願い」
倉知の体が波打っている。もどかしそうに腰が浮いて、ペニスがびくびくと跳ねている。
「挿れて欲しい?」
欲しくて限界なのはわかっていて、さっきからわざと挿れてやらない。
ローションで濡らした秘所をペニスの先端でくすぐっている。かすめるたびに、きゅ、と物欲しげに締まるのが可愛くて、やめられなくなった。
「めっちゃひくひくしてる。すげえエロい」
「あっ、はあっ、う、あ、変に、変になる……っ」
早く、と訴える倉知の太ももを撫でながら、亀頭を埋めて、抜く。穴の周りをぐりぐりと突いたり、指で揉んだりして、散々焦らしてやった。
悶える姿が可愛いなあとほのぼのしていると、唐突に手首をつかまれた。ぎく、となるほどの、すごい力だ。ペニスを握った俺の右手を強引に調整して、自分の穴に狙いを定め、腰を落としてくる。
「んっ、入った……」
恍惚とした表情で言うと、俺を見た。目が合う。倉知の腰が揺れる。薄く開いた唇から、なまめかしい吐息が漏れる。
処女の恥じらいはどこへやら。
でもこういう、小悪魔的な攻めの姿勢も悪くない。
とりあえず、可愛い。
「動いて、加賀さん、あっ、あっ」
腰を揺すりながら、倉知が懇願する。自分のペニスを自分で擦り、腰を振っている。なんというエロさだ。
加賀さん、加賀さんと一心不乱に俺のペニスを蹂躙している。
なぜだろう、抱かれている気分になってきた。これが尻で抱くというやつか、と感心しながら痴態を見下ろしていると、倉知が動きを止め、掠れた声で「加賀さん」と呼んだ。
「俺、激しいのがいい」
「え」
「犯して」
確かにそう言った。これは、焦らし作戦が功を奏したと思っていいのだろうか。倉知の口からこんな科白を引き出す日がくるとは。
一日中、ふわふわとしたスローセックスを楽しむつもりだった。
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ある意味では成功だ。
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「犯してやる」
望み通り、激しくした。腰をぶつけるたびに倉知のペニスがぐらぐらと揺れた。
「んーっ、んぅ、あっ、か、加賀さ、ん、きもちい、きもちい……っ」
「う、やべ、イキそ……」
酔ってるんじゃないかというくらい、倉知の性欲が迸っている。中がうねって、ギュウギュウに締めつけてくる。
目が眩む。
どうしてこうなった。
もしかすると、倉知は常日頃、俺に抱かれたくて仕方がなくて、我慢しているのでは。久しぶりに抱かれて、たがが外れている。
と都合のいい妄想をして、にっこり笑顔になってしまった。
「倉知君、めっちゃエロい」
「やっ、ちが、う」
首を左右に振って、息を弾ませて、俺の腕に爪を立てる。
「ちゃんと、呼んで」
「え? 何?」
倉知が喘ぎの合間に「名前」と言い置いた。ああ、と気づいた。さっき、何か言いたそうにしていたのはそういうことか。
思わず微笑んだ。肉を打つ音を響かせながら、「七世」と呼ぶ。
「七世、いい子」
「はあっ、あっ、うん、うん……っ」
「満足? 七世」
声にならない声を上げ、倉知が何度もうなずいた。
「はは。どうしよ、めっちゃ可愛い」
硬く尖った乳首を強く摘まむと、倉知が首を仰け反らせた。イク、と悲鳴を上げ、自身の分身を握り締め、体を痙攣させ、吐精する。跳ねるペニスから飛び出した精液を見ながら、中に、射精した。腰を押しつけ一番奥に潜り込み、最後の一滴まで倉知の中に、絞り出す。目を閉じた。大きく上下する倉知の胸の上に、落ちた。
「あの」
「……ん?」
乱れた息が元に戻ると、倉知が口を開いた。
「……なんか、すいません」
「え、何が?」
「がっつきすぎて、その、は、恥ずかしい」
「えー、はは」
いいんだよ。
己の迸る性欲に従順になる様は、かなりそそった、素晴らしい、という手放しの絶賛と、お前はどうやら俺に抱かれたいという内に秘めたる欲求を抑え込んでいる、という的確な指摘は、心の中で留めておいた。
「七世」
「はっ、はい」
汗で濡れた肌に頬をすり寄せ、心臓の音を聞きながら、目を閉じたままでつぶやいた。
「今日という日は、始まったばかりだ」
「……もう、なんですか、そのモノローグ」
理解した、という声色で、倉知が笑った。
とろけるような、極上の休日を、堪能しよう。
〈おわり〉
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