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21の朝 おまけのおまけ
しおりを挟む〈倉知編〉
覚悟しとけよ。
最後の一文を見て、まずい、と思った。完全にスイッチが入っている。これはまずい。どう考えてもまずい。確実にまずい。
スマホを置いて頭を抱える。
抱かれる。
また、抱かれる。
昨日、あんなにもやったのに。
腰の辺りがゾクっとした。俺をからかいたくて、こんな文章を送ってきた?
いや、本気だ。加賀さんは、やる。だって加賀さんだ。
オロオロしている場合じゃない。
煮込んでいたロールキャベツの火を止めた。今から帰る、とある。多分あと三十分後には帰ってくる。
時間がない。風呂場に飛び込んだ。
手早く体を綺麗にして、後ろの準備を整える。
きっちり三十分後に帰宅した加賀さんが「シャワーした?」と笑いを堪えた顔で言った。
「なんかうちの中、かすかにボディソープの匂いが」
「別に、あの、今日暑くて、汗かいたからシャワーしただけであって、深い意味はありません」
「うん、じゃあご飯食べよっか。腹減った」
「え」
「お、ロールキャベツ? 昼抜いたからご飯大盛りで」
「……はい」
鍋を覗き込んでいた加賀さんが、俺を横目で見て、口の端を持ち上げた。
「めっちゃ抱いて欲しそう。期待してた? 玄関開けたら押し倒されるとか?」
返答に詰まってしまった。恥ずかしさがこみ上げて、顔が熱くなる。うつむいた視界に、加賀さんの手が現れた。頬を撫でて、唇に触れる指。目を上げた。加賀さんが、優しく微笑んでいる。
「安心しろ。ちゃんと抱く」
「う、は、はい、でも」
「でも?」
唇をなぞる人差し指が気持ちよくて、呼吸が速くなる。加賀さんが俺を覗き込む瞳が蠱惑的で、直視できない。逸らして、羞恥に耐えながら言い訳を開始した。
「あっ、あの、俺、昨日も……、その、二日連続だし、お尻が」
「お尻」
「はい、お尻事情が心配で」
「お尻事情」
「はい」
「お尻壊れちゃう?」
「はい、え?」
思わず加賀さんの顔を確認してしまった。ものすごく、いやらしい目つきと、嬉しそうに微笑む口許。
「お尻壊れちゃうって言って」
人差し指が、上唇、下唇と順番に徘徊している。獲物を狙うような目を見返して、か細い声で復唱した。
「お尻壊れちゃう……」
「可愛い。たまんねえ」
「加賀さん、変態すぎます」
「くっそ、チンコ壊れてもいいからめっちゃ抱く」
飛びついてくる加賀さんを抱きとめて、頬の火照りを見られまいと、髪に顔をうずめて言った。
「めっちゃ抱いてください」
「ちょ、離して、顔見たい」
「見ないで、恥ずかしい」
耳まで赤くなってきた。加賀さんの頭をホールドして、見られないように抵抗していると、背中に回っていた両手が、尻へと移動した。触るというより揉んでいる。きわどい位置に添えられた指が食い込んで、気持ちいい。声が出そうになるのをごまかすために、「あのっ」と小さく叫んだ。
「お、お尻、すでに、違和感が」
「え、痛い?」
「痛いとかじゃなくて」
口ごもると、加賀さんが「あー」と察してくれた。痛みはないものの、少しジンジンする感じが残っていて、正直今また挿入されると思うと、不安がある。
「大丈夫。二日連続がなんだよ。お前何日連続で人の尻に突っ込んでると思ってんの? 平気だよ。なんなら明日も抱く」
「いやいやいや」
「いやいやいや?」
「お尻壊れちゃいます。許してください」
真剣な声で言うと、加賀さんが「はは」と腕の中で笑った。
「七世」
「あっ、はいっ?」
突然、名前で呼ばれて声が裏返ってしまった。
「たくさんお尻って言ってくれてありがとう」
しんみりとした口調で何を言うのかと思えば。
腹の底から笑いがぐぐっとせり上がってきて、吹き出してしまった。大笑いする俺に釣られて、加賀さんも笑う。
二人で笑い合いながら、笑みの形の唇を、重ね合わせた。
〈おわり〉
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