電車の男ー同棲編ー番外編

月世

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加賀さんがカッコイイ

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〈倉知編〉

 今日は久しぶりの外食だった。
 イタリアンで夕食を終え、店を出ると、外国人らしき二人の男女がガイドブックを覗き込みながらきょろきょろしていた。明らかに困っている。
 いつか、こういうシチュエーションになったら、助けたいと思っていた。
 勇気を振り絞り、よし、と気合を入れる。自分の英語力を試すときが来た。
「倉知君? おーい、乗らないの?」
 運転席のドアを開けて、加賀さんが訊いた。
「ちょっと待っててください」
 言い置いて、二人の元に駆け寄った。
「May I help you?」
 二人が顔を上げ、俺を見ると、早口でまくしたて始めた。
 ん? と首をかしげる。
 おかしい。何を言っているのかまったくわからない。まるで宇宙語だ。
「え、あれ、え? ちょ、待って、Do you speak English?」
 首を横に振って肩をすくめる二人。困惑していると、すっと隣に現れた加賀さんが何食わぬ顔で宇宙語を口にした。
 二人の外国人の顔が瞬時にほころんだ。
 加賀さんがガイドブックを覗き込んで、遠くを指さし、何か喋っている。二人が加賀さんと同じ方向を指さし、やがて納得した様子で何度もうなずいた。握手を交わし、「グラシアス」と笑顔で去っていく。
「帰るか」
 二人の背中を見届けて、加賀さんが言った。
「グラシアスって、なんでしたっけ、スペイン語? え、なんで話せるんですか? すごい、加賀さん、すごい」
 加賀さんが頭を掻いて苦笑する。
「大学で選択してただけ。日常会話程度しかわかんねえし、全然すごくない」
「すごいです、だって、通じてましたよ」
「あんなのは適当にジェスチャー交えりゃ通じるよ」
「加賀さん、あの」
 フェアレディのドアを開け、加賀さんが振り返る。
「カッコイイです」
 はは、と笑い華麗にお辞儀をする。
「グラシアス」

〈おわり〉
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