89 / 162
加賀さんがカッコイイ
しおりを挟む
〈倉知編〉
今日は久しぶりの外食だった。
イタリアンで夕食を終え、店を出ると、外国人らしき二人の男女がガイドブックを覗き込みながらきょろきょろしていた。明らかに困っている。
いつか、こういうシチュエーションになったら、助けたいと思っていた。
勇気を振り絞り、よし、と気合を入れる。自分の英語力を試すときが来た。
「倉知君? おーい、乗らないの?」
運転席のドアを開けて、加賀さんが訊いた。
「ちょっと待っててください」
言い置いて、二人の元に駆け寄った。
「May I help you?」
二人が顔を上げ、俺を見ると、早口でまくしたて始めた。
ん? と首をかしげる。
おかしい。何を言っているのかまったくわからない。まるで宇宙語だ。
「え、あれ、え? ちょ、待って、Do you speak English?」
首を横に振って肩をすくめる二人。困惑していると、すっと隣に現れた加賀さんが何食わぬ顔で宇宙語を口にした。
二人の外国人の顔が瞬時にほころんだ。
加賀さんがガイドブックを覗き込んで、遠くを指さし、何か喋っている。二人が加賀さんと同じ方向を指さし、やがて納得した様子で何度もうなずいた。握手を交わし、「グラシアス」と笑顔で去っていく。
「帰るか」
二人の背中を見届けて、加賀さんが言った。
「グラシアスって、なんでしたっけ、スペイン語? え、なんで話せるんですか? すごい、加賀さん、すごい」
加賀さんが頭を掻いて苦笑する。
「大学で選択してただけ。日常会話程度しかわかんねえし、全然すごくない」
「すごいです、だって、通じてましたよ」
「あんなのは適当にジェスチャー交えりゃ通じるよ」
「加賀さん、あの」
フェアレディのドアを開け、加賀さんが振り返る。
「カッコイイです」
はは、と笑い華麗にお辞儀をする。
「グラシアス」
〈おわり〉
今日は久しぶりの外食だった。
イタリアンで夕食を終え、店を出ると、外国人らしき二人の男女がガイドブックを覗き込みながらきょろきょろしていた。明らかに困っている。
いつか、こういうシチュエーションになったら、助けたいと思っていた。
勇気を振り絞り、よし、と気合を入れる。自分の英語力を試すときが来た。
「倉知君? おーい、乗らないの?」
運転席のドアを開けて、加賀さんが訊いた。
「ちょっと待っててください」
言い置いて、二人の元に駆け寄った。
「May I help you?」
二人が顔を上げ、俺を見ると、早口でまくしたて始めた。
ん? と首をかしげる。
おかしい。何を言っているのかまったくわからない。まるで宇宙語だ。
「え、あれ、え? ちょ、待って、Do you speak English?」
首を横に振って肩をすくめる二人。困惑していると、すっと隣に現れた加賀さんが何食わぬ顔で宇宙語を口にした。
二人の外国人の顔が瞬時にほころんだ。
加賀さんがガイドブックを覗き込んで、遠くを指さし、何か喋っている。二人が加賀さんと同じ方向を指さし、やがて納得した様子で何度もうなずいた。握手を交わし、「グラシアス」と笑顔で去っていく。
「帰るか」
二人の背中を見届けて、加賀さんが言った。
「グラシアスって、なんでしたっけ、スペイン語? え、なんで話せるんですか? すごい、加賀さん、すごい」
加賀さんが頭を掻いて苦笑する。
「大学で選択してただけ。日常会話程度しかわかんねえし、全然すごくない」
「すごいです、だって、通じてましたよ」
「あんなのは適当にジェスチャー交えりゃ通じるよ」
「加賀さん、あの」
フェアレディのドアを開け、加賀さんが振り返る。
「カッコイイです」
はは、と笑い華麗にお辞儀をする。
「グラシアス」
〈おわり〉
51
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる