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二人のデート ※
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※リバです。
〈加賀編〉
同棲して一年と数か月が経過した。
倉知は進級し、俺は階級が上がり、給料も増えたが仕事内容に特に変化はなく、平凡で平和な毎日を過ごしていた。
「デートしませんか?」
仕事から帰り、着替えている俺を眺めながら倉知が唐突に言った。
「どっか行きたいの?」
スーツの上着をハンガーに掛けて、振り返らずに訊いた。
「行きたいところがあるんじゃなくて、デートがしたいんです」
「なるほど」
倉知はたまに、こういうことになる。定期的に、恋人らしいことをしたくなるのだ。
「俺らってそんなデートしてなかったっけ?」
「ないです。少なくとも一年はしてないです」
「マジで。そうだっけ」
今年の初詣に、女装姿のままで連れ回されたあれはデートにカウントされないらしい。外食をしたり、映画館に行ったり、買い物をしたりすることもデートにはならないのだろうか。デートの定義がわからないが、倉知がそういうのならきっとそうなのだろう。
「加賀さんとデートしたい」
うずうずした声。振り向くと、倉知が「ダメですか?」と訊いた。
「いいよ。じゃあ明日? ちょうど土曜だし」
「はい!」
元気に答える倉知が、笑顔を弾けさせた。この笑顔を引き出すためならなんでもする。
「デートだ、デートだ」
倉知が小躍りしながら寝室を出て行った。
「なんだあれ、可愛いな」
着替えを終えてリビングに向かうと、倉知がスマホを見つめて立ち尽くしていた。
「どした」
「明日、曇りになってる」
「なんパー?」
「降水確率ですか? 二十パーセントです」
微妙な数字だ。降らないとは断言しにくい。倉知は肩を落としている。
「別の日にする?」
「いえ、明日がいいです」
一刻も早くデートがしたいのだろう。倉知は意志の強い目で俺を見て、「大丈夫です」と力強くうなずいた。
「てるてる坊主を作ります」
「うん、そっか。……え?」
ダイニングの椅子に腰を掛けて、反射的に聞き返した。
「てるてる坊主です」
「その単語聞いたの二十年ぶりくらいだぞ」
「ご飯食べたら一緒に作りましょう」
「お、おう」
今日の食卓は純和食だ。カレイの煮つけに筑前煮、ほうれんそうのお浸し、冷ややっこ。真っ白なご飯から立ち上る湯気と、みそ汁のいい香り。こういう和食が並ぶと、なぜだか妙にホッとする。自分は日本人だった、と思い出すことができる。
手を合わせ、いただきますと声を上げ、完璧な夕食を完食し、二人で後片付けを始めた。俺が洗う担当で、倉知は拭いて片付ける担当だ。
「明日、車にする?」
「はい。あと、あの、お願いが……」
倉知が濡れた皿を拭きながら、言いにくそうに俺を見る。
「何、運転したい?」
「いえ、運転してる加賀さんを隣で凝視したいです」
「凝視」
「観察?」
「俺は朝顔か」
ツッコミを入れると、倉知は楽しそうに声を上げて笑った。別にそんなに面白くもないのに妙にうけてくれた。ひとしきり笑ったあとで、「なんでしたっけ」と笑顔のまま首を傾げた。
「お願いって何?」
「ああ、えっと、明日、その、スーツ、着てくれませんか?」
「スーツでデートなんてホストじゃあるまいし。つーか、毎日見てんじゃん、スーツの俺」
「だって、朝と夜、ちょっとずつしか見れないし……」
そう言われれば、確かに。朝、着替えるとすぐに家を出るし、帰宅後はさっさと脱いでしまう。毎日見ているとはいえ、倉知にとっては物足りないのかもしれない。そんなにスーツがいいなら休みの日もスーツでいてやろうか、と言おうと思ったが、特別感が薄れそうだからやめた。
「わかった。明日はスーツにするか」
「ありがとうございます」
さっきからずっと嬉しそうにニコニコしていて可愛い。飛びかかって頭を撫でまわしてやりたいのを堪えるのが大変だ。
「で、どこ行って何する? この際だからリクエストをどうぞ」
「うーん、水族館は行ったし、動物園とか」
「動物見たいの? 何見たいの? ぞうさん? きりんさん?」
可愛いな、という思いだけで興奮して訊くと、倉知が恥ずかしそうに撤回した。
「やっぱりいいです。動物じゃなくて加賀さんばっかり見ちゃいそうだし」
「違いねえ」
それ以前に、スーツをリクエストしたことを忘れていないだろうか。倉知が茶碗を拭いていたタオルを肩にかけて、スマホを操作し始めた。水切りかごに食器や鍋が溜まっていくが、倉知はスマホから目を上げない。やがて顔を輝かせて「これだ」と言った。
「ドライブを兼ねつつ、ちょっと足を延ばして……、ここなんかどうですか?」
倉知がスマホを渡してきた。手が濡れていて受け取れない。水を止めて画面を見ると、観覧車が目に入った。
「まさかの遊園地」
「前に家族で行ったんですけど、楽しかったなあって」
「そりゃ倉知家で行けば墓場だってアトラクションになるだろ」
「ゾンビ的な?」
「ゾンビ的な」
ふふ、と笑みを漏らしてスマホをポケットに突っ込むと、「ここ、ゾンビはいないんですけどね」と当たり前なことを言った。
「前行ったの小学生のときだから、今行って楽しめるかはわからないんですけど」
「楽しいよ。お前となら。ただちょっと会話を巻き戻してくれ。俺はスーツだぞ」
「そうですよ」
当然、という顔で倉知がうなずいた。
「確認だけど、遊園地だよな?」
「はい」
「スーツで遊園地」
「変ですか?」
「変だよ? 想像してみろ。変だから」
倉知がふ、と意識をここじゃないどこかに飛ばした。妄想している。スーツで遊園地にいる俺を、妄想している。やがて、嬉しそうに微笑んだ。
「なんでにこっとした?」
「やっぱりスーツがいいです」
「そう? 言っとくけど目立つぞ? 男二人で遊園地なんてただでさえ目立つのに、絶対、めちゃくちゃ、注目される」
強調すると、倉知が頭を掻いた。
「ですよね」
「遊園地かスーツか、どっちか選べ」
険しい顔でうめく。迷っている。迷って悩んで考えて、苦しみながら吐き出した「スーツで」という言葉に俺は安堵した。
片づけを終えて二人でてるてる坊主をこさえて、風呂に入って就寝した。
翌日、見事な曇り空だった。もちろん、てるてる坊主には罪はない。
〈倉知編〉
空が白い。空全体が、雲で覆われている。隙間から青空が覗くとか、太陽の光が差し込むとかはなく、ただひたすらに白い。
「曇ってますね」
窓の外を確認して、報告した。
「んー」
加賀さんが素肌にワイシャツの袖を通しながら生返事をする。
「まあ、室内メインにすりゃいいんじゃない? ゲーセンがいい? カラオケにする?」
「ゲーセンかな?」
答えながら、知らずにため息が漏れた。
カジュアルシャツというのだろうか、ただの白いワイシャツじゃなく、襟や袖の部分のデザインが凝っている。ボタンも黒でフォーマル感はなく、砕けた感じがする。ワックスで毛先を遊ばせたいつもと違う髪型も、最高に男前だ。腕時計は、滅多に着けないロレックスのデイトナ。ただものじゃない感がすごい。
ただのジーンズにTシャツとパーカーという俺のファッションとは雲泥の差だが、共通項はちゃんとある。普段職場には絶対に着けて行けないペアリングを着けてくれている。
嬉しくて笑顔をやめられない。
「なんか嬉しそう」
「はい」
「お前、なんでそんなスーツ好きなの?」
「違います。加賀さんが好きなんです」
「へいへい」
適当に返事をする加賀さんを、じっと見つめた。加賀さんの手が、指が、爪が、髪が、肌が、もう、全部が大好きだ。多分、細胞レベルで好きなのだ。
「じゃあそろそろ出発するか」
フル装備のきらめいた加賀さんが手を差し出してくる。反射的にその手を取って、首を傾げた。
「この手は?」
「せめて家出るまで繋いでたいだろ。今からデート開始な」
カッコよく笑う加賀さんに、胸がときめいた。
「加賀さん、好き」
思わず抱きつこうとする俺の胸を押しとどめる。
「それはあとで。イチャつきだしたらキリないし、家から出られなくなるぞ」
その通りだ、と思った。
手を繋いで玄関で靴を履き、ドアを開けると手を離す。マンションの住人に見られると厄介だからだ。俺たちは一歩外に出ると、付き合っていないふりをしなければならない。
それでもデートをしたい、というのは傲慢だろうか。男同士で付き合っていることを誰にも知られないように、隠し続けるのは少しつらい。
「倉知君」
車に乗り込むと、加賀さんが俺の膝に手を置いた。
「なんか暗くなってない?」
「いえ……、えっと」
「デートの定義ってなんだと思う?」
加賀さんがエンジンをかけて、俺の膝から手をどけた。
「定義、ですか」
「俺ら普通に、遊びに出かけてるだろ。映画観に行ったり、カラオケ行ったり、買い物したり、そういうのがデートじゃないとしたら、デートってなんだろうな」
難しい質問だ。頭を悩ませていると、加賀さんが小さく笑った。車が発進して地下の駐車場から地上に出た。外はやはり、曇っている。
「他人から見て、あいつらデートしてんだなって思われるかどうか?」
加賀さんの科白に、何か、ハッとするものがあった。
「手ぇ繋いで、人前でイチャイチャして、他人にデートだって認識されるかどうかが重要だと思う?」
「……いえ、思いません」
うん、と加賀さんが面白そうに相づちを打つ。
「デートって、要するに付き合ってる二人が時間を共有することなんじゃない?」
加賀さんは、俺を励ますように明るい声で続けた。
「だから、スーパーで野菜買うのもデートだし、もっと言えば家でご飯食べるのもデート」
「すごい、じゃあ俺たち、毎日デートしてますね」
「はは、うん。でも俺ら、恋人っていうより家族化してるから、こういうわかりやすいお出かけデートも刺激になっていいよな」
加賀さんが前を見ながら、俺の頭を撫でた。
「とりあえずゲーセンでも行って馬鹿になるか」
「はい、馬鹿になります」
加賀さんは、すごい。ちょっとした引っ掛かりにすぐに気づいて、あっという間に拭い去ってくれる。悩みを解決するのが上手いのだと思う。だから、加賀さんは人に好かれるのだ。
横顔を見つめた。綺麗だな、としみじみと思う。加賀さんの優しさとか強さとかが内面からにじみ出て、多分こんなにも綺麗なのだ。濁りがない。光り輝いていて、チカチカと星が飛んでいる。
「観察開始?」
加賀さんが言った。
「すげえ視線感じる」
シフトチェンジをしながら、横目で俺をちら、と見る。
「面白い?」
「カッコイイです」
加賀さんが運転するのを見ていると、マニュアル車が異様にカッコよく思える。クラッチペダルを踏む動作も、シフトレバーを操作する手も、全部カッコイイ。ため息が出る。
「心の観察日記をつけてます」
「そんな見てても成長しないよ、俺」
「加賀さんの美しさは、毎秒進化してます」
「ないない、劣化摩耗してってるよ」
こんなふうにたまに卑下する加賀さんも、最近は愛しいと感じるようになった。否定も肯定もせずに、笑って見つめ続けた。
目的地のゲームセンターに到着し、車を降りると雨が降る前兆なのか、蒸していた。
「あっつ」
加賀さんがうめく。
「ネクタイ、しなくてもいいですよ」
「お、そう? そりゃ助かる」
ホッとした顔でネクタイを緩めた。せっかくのデートなのに堅苦しい恰好をさせて申し訳なくなった。というか、スーツでゲームセンターも十分目立つ。
「ジャケットも脱いでください。車の中で堪能したんで」
「ずっと見てたもんな」
ネクタイとジャケットを運転席のシートに投げ入れて、腕をまくる加賀さんの動向を、息を詰めて見つめた。腕まくりをした腕が、妙に男らしく見えてドキドキしてしまう。一番上のボタンを外したラフな感じも、色っぽくて、いい。
「まだ見てる」
「すいません、あの、聞き飽きたと思いますけど……」
顔がにやけてしまう。自分で自分の頬を叩いてから、言い足した。
「カッコイイです」
「はは、サンキュ。じゃあ行くか」
ゲームセンターに足を踏み入れると、俺たちは馬鹿になった。
レースゲームもエアホッケーもガンシューティングも格闘ゲームも、全力で対決をした。ほぼ加賀さんの全勝だったが、一つだけ、絶対負けられないバスケのフリースローで勝ちをもぎ取った。勝たせてくれたのか、と一瞬だけ勘ぐってしまったが、加賀さんはそんなことはしない。
「加賀さんてなんでこんなになんでもできるんですか?」
太鼓ゲームを並んでプレイしながら訊いた。
「うーん、親父のおかげかな」
軽快にバチを打って加賀さんが言った。
「物心つく前からなんでもかんでも手あたり次第やらされたし」
喋りながらもまったくミスはせず、コンボが続いている。
「あ、違う。やらされたって言うと語弊があるな。無理やりじゃなくて、好きなことだけ続けなさいって教育方針だったんだよ」
水泳やピアノのようなメジャーなものから、居合いのようなマニアックなものまでやってきたらしい。基礎が出来上がっているから何をやらせても習得が早いのかもしれない。加賀さんもすごいが、本当にすごいのは光太郎さんだ。子どもに取捨選択をさせ、押しつけない教育をできる親は少ないと思う。
「でも俺、ずば抜けてなんでも上手いとかじゃないよ。なんとなくできてるように見えるだけ。やることなすこと中途半端だからね。お、フルコンボ達成」
「言ってることとやってること違いますよね」
加賀さんは笑ってバチを片付けると、腕時計で時間を確認した。
「そろそろ昼だな。なんか食いにいくか」
「ですね。何にします?」
「あ、待って」
加賀さんがクレーンゲームのコーナーに吸い寄せられるように一直線に移動した。
「何か欲しいものでもありました?」
「ん、これ」
「ぬいぐるみ?」
やたら大きなサイズの、クマのぬいぐるみだ。
「ほ、欲しいんですか?」
「光がこれ好きなんだって。なんだよその顔、俺じゃねえぞ」
ニヤニヤしていると、ほっぺたをつねられた。
「こんなもん、部屋に飾ったら景観を損ねる」
「でもソファとかにこれくらい大きいぬいぐるみ置いてあったら可愛くないですか?」
「何それ。そういうこと言うお前が可愛いわ」
墓穴を掘ってしまった。加賀さんが財布から百円玉を出して、投入口に入れながら訊いた。
「ちょっとやっていい?」
「どうぞ」
顔が笑う。こうやって外で加賀さんと遊ぶのが、楽しくて仕方がない。触れたいとムラムラすることもなく、普通に、友人のように一緒にはしゃぐことだってできる。
加賀さんがクレーンゲームに興じているのを見守っていると、背後から声が聞こえた。
「めっちゃイケメンじゃない?」
いろんな音がガチャガチャとやかましい店内で、女性のそういう声だけは俺の耳にダイレクトに届く仕組みになっているらしい。
「なんか腰がエロイ」
「うん、やらしい。やらしい体だよね」
「ね、めちゃめちゃ触りたい」
「後ろから抱き着いて胸揉みまくりたい」
「あたしお尻、撫でまわす」
聞き捨てならない会話だ。女の人がこんな性的な、欲望全開の会話をするなんて、恐ろしい。怒りより恐怖が上回ってしまった。肩越しに視線を送ると、声の主らしき派手目の女性二人組が顔を寄せ合ってこっちを見ていた。俺と目が合うと、クレーンゲームをしているふりでごまかされた。彼女たちの視界を遮るように、クレーンゲームのガラス窓に肩をつけて寄りかかる。
「加賀さん」
「んー」
「取れそう?」
「うん、これ設定甘いから楽勝」
上から降りてきたアームがぬいぐるみの頭をしっかりとキャッチし、持ち上がる。アームが動くと、ぬいぐるみの重みですぐに落下したが、ひっくり返って転がった先が獲得口だった。
「えっ、すごい、本当に取れた」
「すごくないよ、三百円使ったし」
ぬいぐるみを取り出して抱きかかえると、「さて、行くか」と出口に向かって歩き出す。
「あのー」
ほら来た。来ると思った。振り返るまでもなく、さっきの二人組だ。
「二人ですか? うちらもなんですけど、よかったら一緒に」
「ごめんね、もう出るから」
加賀さんがにこやかに、丁寧に謝った。女性たちは諦めない。二人で腕を組んで、詰め寄ってくる。
「あっ、そうなんですねー。どこ行くんですか? お昼ご飯? 何食べるんですか?」
質問攻めだ。
「もしかして一緒に行きたい?」
加賀さんが訊いた。
「えっ、えーっ、行きたいです。ね、ねっ」
「うん、行きたい!」
女性たちのテンションが跳ね上がるのを感じて、自動的に眉間にシワが寄っていく。
「ごめんね」
加賀さんが俺の腕に手を絡ませて、言った。
「デートだから」
驚いた顔の二人を置いて、そのまま店を出た。駐車場に出ると手を放し、距離を取る。
「なんか」
俺が呟くと、加賀さんが「仕方ない」と先手を打つ。
「目立つから、お前」
「え、俺ですか? 俺じゃないでしょ」
「お前だよ。でかいもん。それに可愛いし、だからああいうのは仕方ない」
あっけらかんとして言って、持っていたぬいぐるみを放り投げてきた。キャッチして、頭を掻く。エロイとかやらしいとか触りたいとか、変な目で見られてましたよ、とは言えない。
「付き合いたての頃にもあんなふうに女の人が寄ってきて、デートだからごめんねって断ったことありましたね」
助手席のシートに滑り込むと、シートベルトをしながら言った。そうだっけ、と加賀さんが隣でとぼけた声を出す。
「あのときと状況は一緒なのに、心境が違うんです」
「ふうん? どう違うの?」
「前は俺、ひやひやしてました。今は気持ちいいです」
「はは」
加賀さんが、エンジンをかけて笑った。
「成長したってことで」
「はい」
フェアレディが走り出す。空は相変わらずどんよりと曇っていたが、俺の心は晴れ渡っていた。
〈加賀編〉
「せーの」
俺が合図を出し、同時に頭に描いたものを言葉にする。
「天丼」
倉知が言い、
「かつ丼」
俺が言った。どんぶり縛りでもないのに若干かぶったことが嬉しい。助手席の倉知に向かって親指を立てて見せると、同じように親指を立てて、くっつけてきた。クソ可愛い。
「じゃあ両方食べられるお店、探します」
「うん。なあ、ついでに写真撮りたい」
倉知がスマホをポケットから出すと、今だとばかりに声を上げた。
「え? 写真ってなんの?」
「お前だよ」
ゲーセンを出てからずっと、倉知が可愛い。クレーンゲームで取った巨大なぬいぐるみを膝に置いて、抱っこして座っているのがツボにはまった。可愛すぎてハンドル操作を誤るところだった。
「もうほんと可愛い。めっちゃ愛しい」
「あ、ぬいぐるみですか?」
「違う。お前が可愛いんだよ。どうなってんの? ぬいぐるみ抱っこして可愛い男子大学生ってお前くらいじゃない?」
「可愛くないですから」
ステアリングを握ったまま隣をチラ見した。狭い空間で巨大なぬいぐるみを持っているのだから抱っこせざるを得ない。置く場所がないのにどうしろというのだ、という拗ねたような顔だ。
「それ抱っこしたまま自撮りして」
「無理です」
抱きしめているクマの頭に顔をうずめてモゴモゴ言った。運転中じゃなかったら確実に襲っている。
「お願い。お願いします。愛してる。すっげえ愛してるから」
懇願すると、倉知が顔を上げた。まんざらでもない顔だ。不慣れな感じでスマホを掲げ、インカメラで自撮りしている。自分でやれと言っておきながら、女子高生か、という感想が出た。やばい。何をやらせても可愛いと思ってしまう。俺は病気かもしれない。
「撮りましたけど」
恥ずかしそうに倉知が言った。
「よし、見せなさい」
ちょうど信号が赤だ。倉知の手首をつかんで、画面を自分のほうに向けた。ぬいぐるみを膝に乗せた倉知が、はにかんでいる。
「可愛い。百点満点。ちゃんと保存した? 画像俺んとこに送っといて」
「俺、馬鹿みたいなんですけど、これ誰にも見せませんよね?」
「どうしよっかな」
意地悪く笑う。
「見せないって約束しないと消しますから」
「待て早まるな。わかった。見せない。消さないで」
「加賀さん、青です」
信号が青に変わっていた。
「こんな不気味な写真撮ってないで、お店検索しないと」
「おいおい、俺の天使だぞ。不気味って言うな」
「天使なんて言うの、……加賀さんだけです」
多分そうだろうと思う。お互いに、相手を本気で天使と表現する。その事実が嬉しくてこそばゆかったのか、口元を手で覆ってニヤニヤ笑いを隠している。
デートとはいえ人の目があるところでは手も繋げないし、見つめ合うことはおろか、愛を囁くわけにもいけない。明確にイチャつけるのは車内だけだった。終始こんな感じで可愛いだとか天使だとかひたすらのろけ合い、外でイチャつけない欲求を存分に満たすのだ。
昼食を終えて車に戻り、ぬいぐるみをトランクに放り込んで、さて次はどこへ行こう、となったときに、ドライブがいいと言って行先を指定しなかったのも、ただ二人きりでいたいからかもしれない。
「よし、海行くか、海」
「えっ、はい、海、見たいです、行きましょう」
海岸沿いを走るのは気持ちがよさそうだ、というただの思いつきだった。曇っていても、普段見ることのない海は、特別感がある。そしていざ海が見えると奇跡的に太陽が顔を出し、海面がキラキラと、光って見えた。
「海、綺麗ですね」
倉知が窓の外を眺めながら言った。
「なんか晴れてきたし、降りて砂浜歩いてみる?」
「靴とかズボン、汚れません?」
「濡れなきゃ大丈夫だよ」
倉知がうずうずとした顔で俺を見て、「歩きましょう」と嬉しそうに言った。
まだ夏は先で、泳ぐには早すぎる。それに朝から曇っていて、晴れ間が覗いたばかりだし、誰も波打ち際を歩こうなどとは思わない。海に来ているのは俺たちだけで、周囲に人はいない。
「革靴、歩きにくくないですか?」
砂を踏みしめて先に立って歩く倉知が俺を振り返って訊いた。
「おんぶしてくれる?」
「いいですよ」
「冗談だよ」
苦笑すると、倉知はきょろきょろと辺りを見回した。
「加賀さん、チャンスです」
そう言って、手を差し伸べてきた。
「誰もいません。手、繋げます」
ちら、と後ろを仰ぎ見る。海を見下ろす高さにある道路は、ガードレールがあるだけで浜辺が丸見えだ。車の通りは少なくない。海から離れているとはいえ、多分、見られてしまう。
でも。
葛藤したのは数秒だった。笑顔で倉知の手を握った。
砂浜を、手を繋いで歩く。
急にデートらしくなってきた。指をしっかりと握り合わせ、腕を触れ合わせ、体を寄せ合って、歩く。砂の上は歩きにくいし靴は汚れるし散々だが、波の音が心地よかった。
「すごい」
「うん」
「デートしてるっぽい」
「うん、ラブラブっぽい」
「ラブラブですよ」
「デートだよ」
砂に足を取られながら、二人で笑う。
「なあ、今ならキスできそうじゃない?」
「え、今? ここで?」
「誰も見てないし、しようよ」
「しましょう」
倉知が立ち止まり、繋いでいないほうの手で俺の顎に指を添えた。目を閉じる寸前で、頬に冷たい感触が。ポツリポツリと、次から次へと水滴が降りかかる。
「やべえ、雨だ」
「え、うわ、ちょ、何これ」
突然の土砂降りだ。大粒の雨が、容赦なく落ちてくる。
「走れ、車戻るぞ」
「はい」
手を繋いだまま、砂浜を全速力で走る。雨は一気に激しくなり、まるでバケツの水をぶっかけられているようだった。目を開けているのがしんどい。天然のシャワーだ。
なんだよこれ。急に腹の底から笑いが込み上がってきた。
大笑いする俺を、倉知が振り返る。
「何、どうしたんですか」
取り返しがつかないくらいずぶ濡れになった倉知が、目を細めて小さく叫んだ。
「わかんねえ。なんかツボった」
不思議そうに首を傾げる。足を止めた俺につられて、倉知も立ち止まる。
「倉知君、海」
海を指さした。海面に雨粒が落ちている。こんな光景は滅多に見ない。幻想的で綺麗だと思った。
「面白くない?」
濡れた髪を撫で上げて、同意を求めて倉知を見上げた。倉知は海を見ていない。俺を見ていた。
「何?」
倉知の喉仏が、大きく上下した。
「加賀さん、透けてる」
「え?」
「シャツ、濡れて、その……肌が……、肌っていうか、ち」
言葉を切って俺から目を背け、「う」とうめいて体を折り曲げた。視線を下に落とし、自分の体を確認した。濡れたシャツが肌に張りついて、乳首が透けて見える。なるほど、と小さく笑う。
「いやん、エッチ」
両手で胸を隠すと、倉知がぎらついた目で俺を見て、手を伸ばしてきた。ギク、として手の甲を叩く。
「こらこら、外だぞ」
「じゃあ、早く車に移動しましょう」
倉知が濡れた顔を腕で拭ってから、俺の手を引いた。いつの間にか雨は止んでいたが、濡れた砂のせいで足元がどろどろだ。苦労して砂浜を脱出し、コンクリートに足をつけるとホッとした。
「あーあ、駄目だこりゃ」
足を踏み鳴らし、泥を落とす俺の挙動を倉知が黙って見つめてくる。ねちっこい視線を受け流し、さらりと言った。
「帰るか」
「え」
「頭からびしょ濡れだし、もうどこにも行けないだろ」
「そう……、ですね」
「つーか、さすがにこれ着替えないと風邪引くかな」
「え、脱ぐんですか?」
「残念そうな声を出すな」
しょんぼりしながら、それでも俺の胸元から視線を外さない。倉知も全身濡れそぼっているが、黒のTシャツの上にパーカーを羽織っているから透けたり浮き出たりはしない。エロスの要素は皆無だった。でも、可愛い。濡れネズミな倉知が可愛い。
「お前、これかぶったらよかったのに」
笑いを堪えてパーカーのフードを頭にかぶせてやると、倉知がポカンと口を開けて頭上を見上げて言った。
「あ、ほんとだ。そのための帽子なのに」
吹き出して、「そうだな」と同意する。パーカーのフードが雨をしのぐためについていると思っている倉知が可愛い。にやける顔を軽くつねってから、咳払いをして言った。
「途中で適当に着替え買って、それから」
ズボンの裾の砂を叩き落として、頭を上げる。
「シャワーしたいし、ラブホ行く?」
倉知が目を見開いて、やっと俺の顔を見た。すぐに嬉しそうに大きくうなずいた。
「はいっ」
「はは、お前のこういうときの返事、すげえ好き」
俺を抱きたい一心だろう。期待で輝いた目を見て、心の中で舌を出す。
ごめんな。今日は抱かせていただきます。
〈倉知編〉
ホテルの部屋に入ると、ドアに加賀さんを押しつけてキスをした。歯をこじ開けて、強引に舌を割り込ませ、口の中を荒々しく犯した。
下半身が痛い。疼いている。触れただけで達してしまいそうだ。
唇を離すと、加賀さんが薄く目を開けて俺を見ていた。
「加賀さん」
「ん」
「好きです」
「うん、俺も」
加賀さんが優しく笑う。息苦しさを感じるくらいに俺はこの人が大好きで、欲しくて欲しくてたまらない。
濡れたシャツの上から胸を撫でた。透けて見える肌が、この世の物とは思えないほど、美しい。
指を滑らせ胸の突起を親指の腹で弾くと、加賀さんが小さく声を上げ、俺の手首をつかんだ。
「もう脱いでいい?」
「ダメです。もっと見たいし、触りたい」
右の乳首を指でいじりながら、反対の胸に顔を寄せる。湿ったシャツに、舌を這わせた。
「ん……っ」
吸ったり噛んだりしていると、加賀さんの膝が揺れた。弱々しい力で、俺にしがみついてくる。
「すごい、加賀さん、エロい。乳首立ってます」
「馬鹿、いじくられてんだからそりゃ立つよ」
「はあ、脱がしたくない」
ため息をついてシャツの上から手のひらで胸筋をなぞり、人差し指で両方の乳首をつまんだ。加賀さんの体がビクッと反応する。可愛い。
調子に乗ってこねくり回していると、唐突に下半身を触られて、快感がせり上がってくる。視線を下に向けると、加賀さんの手が、俺の股間を鷲掴みにしていた。
「すげえ、これラブホ仕様?」
「あ、ちょ、待っ……」
根本から先端に絶妙な刺激を与えてくる。限界まで張りつめていた股間が、あっけなく爆ぜた。
「……加賀さん」
「はは、瞬殺」
「う、パンツが……、ひどいことに」
隙間から中を覗いて肩を落とす。
「よし、じゃあ風呂入る?」
「……はい」
仕方なくうなずいた。加賀さんがにこっと笑って俺の頬に軽くキスをしてから、耳元で「トイレ行ってくるから先行ってて」と言った。言われた通り服を脱いでシャワーを浴びていると、加賀さんが俺を呼ぶ声がした。
「倉知くーん、ちょっとおいで」
「なんですか?」
濡れた体でのこのこと部屋に戻ると、加賀さんがシャツを脱ぎながら無邪気な笑顔で壁のほうを指さした。
「ほら、これこれ」
あんっ、やだっ、イクっ、あっ、あっ。
テレビの画面に身悶える女の人が映っていた。
「えっ、なっ、なんでこんなの観てるんですか」
うろたえる俺の手を、加賀さんが引っ張った。ベッドに引きずり上げられると、加賀さんが俺の背中にくっついて、言った。
「一緒に観ようよ」
「えっ」
俺の顔を後ろから両手でつかんで無理やり固定すると、「どう?」と頭の上で訊いた。
「ど、どうって」
「興奮する?」
「え、……えっと」
四つん這いになった女の人の後ろから、男の人が腰を打ちつける映像。乳房の揺れが、激しさを物語っている。見てはいけないものを見てしまった気分だった。性行為をしているこの二人に愛はなく、人に見せるための映像だとわかっていても、見ていられない。体が火照って、汗がにじむ。
「は、恥ずかしいです、ちょっと、離して」
顔が熱い。顔を背けたいのに、加賀さんが許してくれない。後ろから俺の首に抱きついて、背中に体重を乗せてくる。
加賀さんの肌の感触が気持ちいい。雨に濡れたせいで少し冷やっこくて、それでも最高の質感だ。加賀さんの、極上の肌の感触。
「倉知君」
耳に息がかかって、体が震える。
「タイプの女優だった?」
「え?」
「勃ってる」
指摘されて自分の股間を見た。確かに勃起しているが、これは加賀さんのせいだ。
「違います」
「じゃあどんなのが」
「タイプはないです」
「えー?」
笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。真顔で見つめた。加賀さんの笑顔が固まった。
「俺は加賀さん以外興味ないんです」
ベッドの上に転がっているリモコンを手に取ると、テレビの電源を切った。耳障りな音が消えて、静寂に包まれる。
「うん」
加賀さんが納得したような声を出した。
「そうだった」
はあ、と首の後ろで大きく息を吐かれ、身を震わせた。
「他人のセックスなんてどうでもいいよな」
「はい。少なくとも、加賀さんがそばにいるのにそっちのけで興奮するのは無理です」
「はは、うん」
わかってくれたらしい。加賀さんが俺の膝の上に、向かい合う形で座った。
「ごめんね」
まっすぐ俺を見て、加賀さんが言った。何に対する謝罪かは、聞かなくてもわかる。背中に腕を回してすぐ目の前にある加賀さんの顔を確認しながら、おそるおそる口を開く。
「加賀さんは、こういうの観て、その、お、オナ……ニーしたいって思うかもしれないけど」
言いづらい単語を苦労して口にする俺に、加賀さんは何も言わずに、おかしそうに笑うだけ。
「あんまりして欲しくないんです」
これは束縛かもしれない。重い、うざい、と思われるのは怖かったが、本音を知っておいてもらいたかった。加賀さんの目を真正面から見据え、唾を飲み込んでから言った。
「俺で気持ちよくなってください」
「え」
加賀さんがキョトンとした。
「他の人で加賀さんが性欲あおられるの、見たくない。俺が気持ちよくさせます。だから、俺だけで気持ちよく」
喋っている途中で加賀さんが勢いよく抱きついてきた。タックルされる形で真後ろに倒れ込む。
「お前、エロいこと言ってる自覚ある?」
加賀さんが俺の腹の上で言った。
「え? えっと」
自分の科白を反芻して、顔が熱くなった。
「大丈夫だよ。もうとっくにAV観たいなんて思わなくなったし、お前がいるからオナニーも必要ない」
加賀さんが俺にまたがって、ベルトを外しながら言った。ファスナーを下し、下着とズボンをずり下げると、ペニスが元気よく跳ね上がり、顔を出す。
「ほら、倉知君で勃ったよ」
「は、はい」
「気持ちよくさせて」
加賀さんが俺の口元に下半身を近づけた。口を開けて舌を出すと、押し込んできた。俺の顔の上で、腰を揺する。口の中を出入りするたびに、唾液が絡む音が響いた。加賀さんが恍惚の表情で俺を見下ろしている。
「はあっ……、なんかイキそ……」
口の中で硬度を増していくペニスに舌を絡ませ、強く吸った。
「あっ、ちょ、待って、それやばい」
加賀さんが小さく声を上げて俺の中から出ていった。
「イクとこだった」
「加賀さん」
早く、繋がりたい。上半身を起こして加賀さんの足首をつかむ。
「ちょっと待ってな」
ベッドの枕元に備えつけられたローションとコンドームを手に取って、俺の体を押し倒すと、おもむろに股を大きく割り開かれた。
「え? あれ?」
自分の尻にたっぷりのローションが降り注がれたところでハッとなった。
「加賀さん、待って」
加賀さんは止まらない。サディスティックな顔で笑って、俺の中に指を二本、差し込んできた。
「うあっ……、やっ、やめて、ちょっと待って、あれ? なんで?」
今の流れで俺が抱かれる側になるのは納得がいかなかった。当然のような顔で、なんの相談もなく普段と逆になったのは、なぜだ。
「急に、なんで……、あ、や、やめ……、広げないで」
二本の指が奥へと侵入し、グイグイと押し広げてくる。下腹部を襲う圧迫感に耐えながら、助けを求めるように加賀さんを見上げた。加賀さんは、すごく、楽しそうだった。
「だってお前、何しててもすげえ可愛いから、俺はもう限界です。抱かせてよ」
指が抜けて、代わりに押し当てられた硬いものがゆっくりと入ってくる。
「ああっ、あっ……、か、かがさ……っ、う」
口を押えて、声を押し殺す。挿れられただけで、気持ちよくなっている。こんな淫乱な自分を、知られたくない。目を固く閉じて、歯を食いしばる。
小刻みに腰を進めて、俺の中にすべてを収めた加賀さんが、ふう、と息を吐いた。
「七世」
びく、と体が震えた。
「俺の、七世」
「……っ、んっ」
名前を呼ばれると、ダメになる。腰が砕けそうなほど、心地よい快感が這い上がってくる。腰が勝手に揺れて、加賀さんと繋がっている部分が、きゅう、と収縮した。
「感じてる? すげ……、締まる」
加賀さんが囁くように言葉を吐いて、腰を振る。結合部分でローションが卑猥な音を立てている。確信犯的に何度もいいところを擦られて、悲鳴が出た。気持ち良すぎて涙がにじむ。必死で、加賀さんの体にしがみつく。
「ここ、いい?」
わかっているくせに、律儀に訊いてくる。何度もうなずいて、泣き声でわめいた。
「加賀さん、いい、……きもち、いい……っ」
どっちでもいい。挿れられるのも、挿れるのも、どっちでも、なんでもいい。とにかく加賀さんと一つになれるのなら、どうだっていい。
加賀さんが動くたびに、声が出た。恥ずかしさより、快感がはるかに上回り、もう何も考えられない。
激しく腰を打ちつけられ、思考能力がゼロになる。
もっと、もっと、と言いながら、浅ましく腰を動かし、加賀さんが俺の中に精を放つのを感じて、俺も絶頂を迎えた。
「……加賀さん」
俺の上で屍状態になっている加賀さんの汗ばんだ背中を、静かに撫でた。
「ゴム、つけてませんね?」
「あー……、ほんとだ。ごめんね。中出ししちゃった」
掠れた声で加賀さんが謝った。
「可愛いなあ、って気を取られてたんだよ」
可愛くないです、という反論の代わりに、加賀さんの細い体をきつく抱きしめた。
「ぐえ、中身出る、中身」
「加賀さん、お風呂は?」
「うん、入りたい。なあ、もういっそのこと泊まってかない?」
「賛成です」
加賀さんが俺の上で眠たそうにあくびをした。
「寝かせませんよ」
「え」
「次は俺のターンです」
夜はまだ始まってすらいない。俺たちのデートも、まだまだ終わりそうにない。
〈おわり〉
〈加賀編〉
同棲して一年と数か月が経過した。
倉知は進級し、俺は階級が上がり、給料も増えたが仕事内容に特に変化はなく、平凡で平和な毎日を過ごしていた。
「デートしませんか?」
仕事から帰り、着替えている俺を眺めながら倉知が唐突に言った。
「どっか行きたいの?」
スーツの上着をハンガーに掛けて、振り返らずに訊いた。
「行きたいところがあるんじゃなくて、デートがしたいんです」
「なるほど」
倉知はたまに、こういうことになる。定期的に、恋人らしいことをしたくなるのだ。
「俺らってそんなデートしてなかったっけ?」
「ないです。少なくとも一年はしてないです」
「マジで。そうだっけ」
今年の初詣に、女装姿のままで連れ回されたあれはデートにカウントされないらしい。外食をしたり、映画館に行ったり、買い物をしたりすることもデートにはならないのだろうか。デートの定義がわからないが、倉知がそういうのならきっとそうなのだろう。
「加賀さんとデートしたい」
うずうずした声。振り向くと、倉知が「ダメですか?」と訊いた。
「いいよ。じゃあ明日? ちょうど土曜だし」
「はい!」
元気に答える倉知が、笑顔を弾けさせた。この笑顔を引き出すためならなんでもする。
「デートだ、デートだ」
倉知が小躍りしながら寝室を出て行った。
「なんだあれ、可愛いな」
着替えを終えてリビングに向かうと、倉知がスマホを見つめて立ち尽くしていた。
「どした」
「明日、曇りになってる」
「なんパー?」
「降水確率ですか? 二十パーセントです」
微妙な数字だ。降らないとは断言しにくい。倉知は肩を落としている。
「別の日にする?」
「いえ、明日がいいです」
一刻も早くデートがしたいのだろう。倉知は意志の強い目で俺を見て、「大丈夫です」と力強くうなずいた。
「てるてる坊主を作ります」
「うん、そっか。……え?」
ダイニングの椅子に腰を掛けて、反射的に聞き返した。
「てるてる坊主です」
「その単語聞いたの二十年ぶりくらいだぞ」
「ご飯食べたら一緒に作りましょう」
「お、おう」
今日の食卓は純和食だ。カレイの煮つけに筑前煮、ほうれんそうのお浸し、冷ややっこ。真っ白なご飯から立ち上る湯気と、みそ汁のいい香り。こういう和食が並ぶと、なぜだか妙にホッとする。自分は日本人だった、と思い出すことができる。
手を合わせ、いただきますと声を上げ、完璧な夕食を完食し、二人で後片付けを始めた。俺が洗う担当で、倉知は拭いて片付ける担当だ。
「明日、車にする?」
「はい。あと、あの、お願いが……」
倉知が濡れた皿を拭きながら、言いにくそうに俺を見る。
「何、運転したい?」
「いえ、運転してる加賀さんを隣で凝視したいです」
「凝視」
「観察?」
「俺は朝顔か」
ツッコミを入れると、倉知は楽しそうに声を上げて笑った。別にそんなに面白くもないのに妙にうけてくれた。ひとしきり笑ったあとで、「なんでしたっけ」と笑顔のまま首を傾げた。
「お願いって何?」
「ああ、えっと、明日、その、スーツ、着てくれませんか?」
「スーツでデートなんてホストじゃあるまいし。つーか、毎日見てんじゃん、スーツの俺」
「だって、朝と夜、ちょっとずつしか見れないし……」
そう言われれば、確かに。朝、着替えるとすぐに家を出るし、帰宅後はさっさと脱いでしまう。毎日見ているとはいえ、倉知にとっては物足りないのかもしれない。そんなにスーツがいいなら休みの日もスーツでいてやろうか、と言おうと思ったが、特別感が薄れそうだからやめた。
「わかった。明日はスーツにするか」
「ありがとうございます」
さっきからずっと嬉しそうにニコニコしていて可愛い。飛びかかって頭を撫でまわしてやりたいのを堪えるのが大変だ。
「で、どこ行って何する? この際だからリクエストをどうぞ」
「うーん、水族館は行ったし、動物園とか」
「動物見たいの? 何見たいの? ぞうさん? きりんさん?」
可愛いな、という思いだけで興奮して訊くと、倉知が恥ずかしそうに撤回した。
「やっぱりいいです。動物じゃなくて加賀さんばっかり見ちゃいそうだし」
「違いねえ」
それ以前に、スーツをリクエストしたことを忘れていないだろうか。倉知が茶碗を拭いていたタオルを肩にかけて、スマホを操作し始めた。水切りかごに食器や鍋が溜まっていくが、倉知はスマホから目を上げない。やがて顔を輝かせて「これだ」と言った。
「ドライブを兼ねつつ、ちょっと足を延ばして……、ここなんかどうですか?」
倉知がスマホを渡してきた。手が濡れていて受け取れない。水を止めて画面を見ると、観覧車が目に入った。
「まさかの遊園地」
「前に家族で行ったんですけど、楽しかったなあって」
「そりゃ倉知家で行けば墓場だってアトラクションになるだろ」
「ゾンビ的な?」
「ゾンビ的な」
ふふ、と笑みを漏らしてスマホをポケットに突っ込むと、「ここ、ゾンビはいないんですけどね」と当たり前なことを言った。
「前行ったの小学生のときだから、今行って楽しめるかはわからないんですけど」
「楽しいよ。お前となら。ただちょっと会話を巻き戻してくれ。俺はスーツだぞ」
「そうですよ」
当然、という顔で倉知がうなずいた。
「確認だけど、遊園地だよな?」
「はい」
「スーツで遊園地」
「変ですか?」
「変だよ? 想像してみろ。変だから」
倉知がふ、と意識をここじゃないどこかに飛ばした。妄想している。スーツで遊園地にいる俺を、妄想している。やがて、嬉しそうに微笑んだ。
「なんでにこっとした?」
「やっぱりスーツがいいです」
「そう? 言っとくけど目立つぞ? 男二人で遊園地なんてただでさえ目立つのに、絶対、めちゃくちゃ、注目される」
強調すると、倉知が頭を掻いた。
「ですよね」
「遊園地かスーツか、どっちか選べ」
険しい顔でうめく。迷っている。迷って悩んで考えて、苦しみながら吐き出した「スーツで」という言葉に俺は安堵した。
片づけを終えて二人でてるてる坊主をこさえて、風呂に入って就寝した。
翌日、見事な曇り空だった。もちろん、てるてる坊主には罪はない。
〈倉知編〉
空が白い。空全体が、雲で覆われている。隙間から青空が覗くとか、太陽の光が差し込むとかはなく、ただひたすらに白い。
「曇ってますね」
窓の外を確認して、報告した。
「んー」
加賀さんが素肌にワイシャツの袖を通しながら生返事をする。
「まあ、室内メインにすりゃいいんじゃない? ゲーセンがいい? カラオケにする?」
「ゲーセンかな?」
答えながら、知らずにため息が漏れた。
カジュアルシャツというのだろうか、ただの白いワイシャツじゃなく、襟や袖の部分のデザインが凝っている。ボタンも黒でフォーマル感はなく、砕けた感じがする。ワックスで毛先を遊ばせたいつもと違う髪型も、最高に男前だ。腕時計は、滅多に着けないロレックスのデイトナ。ただものじゃない感がすごい。
ただのジーンズにTシャツとパーカーという俺のファッションとは雲泥の差だが、共通項はちゃんとある。普段職場には絶対に着けて行けないペアリングを着けてくれている。
嬉しくて笑顔をやめられない。
「なんか嬉しそう」
「はい」
「お前、なんでそんなスーツ好きなの?」
「違います。加賀さんが好きなんです」
「へいへい」
適当に返事をする加賀さんを、じっと見つめた。加賀さんの手が、指が、爪が、髪が、肌が、もう、全部が大好きだ。多分、細胞レベルで好きなのだ。
「じゃあそろそろ出発するか」
フル装備のきらめいた加賀さんが手を差し出してくる。反射的にその手を取って、首を傾げた。
「この手は?」
「せめて家出るまで繋いでたいだろ。今からデート開始な」
カッコよく笑う加賀さんに、胸がときめいた。
「加賀さん、好き」
思わず抱きつこうとする俺の胸を押しとどめる。
「それはあとで。イチャつきだしたらキリないし、家から出られなくなるぞ」
その通りだ、と思った。
手を繋いで玄関で靴を履き、ドアを開けると手を離す。マンションの住人に見られると厄介だからだ。俺たちは一歩外に出ると、付き合っていないふりをしなければならない。
それでもデートをしたい、というのは傲慢だろうか。男同士で付き合っていることを誰にも知られないように、隠し続けるのは少しつらい。
「倉知君」
車に乗り込むと、加賀さんが俺の膝に手を置いた。
「なんか暗くなってない?」
「いえ……、えっと」
「デートの定義ってなんだと思う?」
加賀さんがエンジンをかけて、俺の膝から手をどけた。
「定義、ですか」
「俺ら普通に、遊びに出かけてるだろ。映画観に行ったり、カラオケ行ったり、買い物したり、そういうのがデートじゃないとしたら、デートってなんだろうな」
難しい質問だ。頭を悩ませていると、加賀さんが小さく笑った。車が発進して地下の駐車場から地上に出た。外はやはり、曇っている。
「他人から見て、あいつらデートしてんだなって思われるかどうか?」
加賀さんの科白に、何か、ハッとするものがあった。
「手ぇ繋いで、人前でイチャイチャして、他人にデートだって認識されるかどうかが重要だと思う?」
「……いえ、思いません」
うん、と加賀さんが面白そうに相づちを打つ。
「デートって、要するに付き合ってる二人が時間を共有することなんじゃない?」
加賀さんは、俺を励ますように明るい声で続けた。
「だから、スーパーで野菜買うのもデートだし、もっと言えば家でご飯食べるのもデート」
「すごい、じゃあ俺たち、毎日デートしてますね」
「はは、うん。でも俺ら、恋人っていうより家族化してるから、こういうわかりやすいお出かけデートも刺激になっていいよな」
加賀さんが前を見ながら、俺の頭を撫でた。
「とりあえずゲーセンでも行って馬鹿になるか」
「はい、馬鹿になります」
加賀さんは、すごい。ちょっとした引っ掛かりにすぐに気づいて、あっという間に拭い去ってくれる。悩みを解決するのが上手いのだと思う。だから、加賀さんは人に好かれるのだ。
横顔を見つめた。綺麗だな、としみじみと思う。加賀さんの優しさとか強さとかが内面からにじみ出て、多分こんなにも綺麗なのだ。濁りがない。光り輝いていて、チカチカと星が飛んでいる。
「観察開始?」
加賀さんが言った。
「すげえ視線感じる」
シフトチェンジをしながら、横目で俺をちら、と見る。
「面白い?」
「カッコイイです」
加賀さんが運転するのを見ていると、マニュアル車が異様にカッコよく思える。クラッチペダルを踏む動作も、シフトレバーを操作する手も、全部カッコイイ。ため息が出る。
「心の観察日記をつけてます」
「そんな見てても成長しないよ、俺」
「加賀さんの美しさは、毎秒進化してます」
「ないない、劣化摩耗してってるよ」
こんなふうにたまに卑下する加賀さんも、最近は愛しいと感じるようになった。否定も肯定もせずに、笑って見つめ続けた。
目的地のゲームセンターに到着し、車を降りると雨が降る前兆なのか、蒸していた。
「あっつ」
加賀さんがうめく。
「ネクタイ、しなくてもいいですよ」
「お、そう? そりゃ助かる」
ホッとした顔でネクタイを緩めた。せっかくのデートなのに堅苦しい恰好をさせて申し訳なくなった。というか、スーツでゲームセンターも十分目立つ。
「ジャケットも脱いでください。車の中で堪能したんで」
「ずっと見てたもんな」
ネクタイとジャケットを運転席のシートに投げ入れて、腕をまくる加賀さんの動向を、息を詰めて見つめた。腕まくりをした腕が、妙に男らしく見えてドキドキしてしまう。一番上のボタンを外したラフな感じも、色っぽくて、いい。
「まだ見てる」
「すいません、あの、聞き飽きたと思いますけど……」
顔がにやけてしまう。自分で自分の頬を叩いてから、言い足した。
「カッコイイです」
「はは、サンキュ。じゃあ行くか」
ゲームセンターに足を踏み入れると、俺たちは馬鹿になった。
レースゲームもエアホッケーもガンシューティングも格闘ゲームも、全力で対決をした。ほぼ加賀さんの全勝だったが、一つだけ、絶対負けられないバスケのフリースローで勝ちをもぎ取った。勝たせてくれたのか、と一瞬だけ勘ぐってしまったが、加賀さんはそんなことはしない。
「加賀さんてなんでこんなになんでもできるんですか?」
太鼓ゲームを並んでプレイしながら訊いた。
「うーん、親父のおかげかな」
軽快にバチを打って加賀さんが言った。
「物心つく前からなんでもかんでも手あたり次第やらされたし」
喋りながらもまったくミスはせず、コンボが続いている。
「あ、違う。やらされたって言うと語弊があるな。無理やりじゃなくて、好きなことだけ続けなさいって教育方針だったんだよ」
水泳やピアノのようなメジャーなものから、居合いのようなマニアックなものまでやってきたらしい。基礎が出来上がっているから何をやらせても習得が早いのかもしれない。加賀さんもすごいが、本当にすごいのは光太郎さんだ。子どもに取捨選択をさせ、押しつけない教育をできる親は少ないと思う。
「でも俺、ずば抜けてなんでも上手いとかじゃないよ。なんとなくできてるように見えるだけ。やることなすこと中途半端だからね。お、フルコンボ達成」
「言ってることとやってること違いますよね」
加賀さんは笑ってバチを片付けると、腕時計で時間を確認した。
「そろそろ昼だな。なんか食いにいくか」
「ですね。何にします?」
「あ、待って」
加賀さんがクレーンゲームのコーナーに吸い寄せられるように一直線に移動した。
「何か欲しいものでもありました?」
「ん、これ」
「ぬいぐるみ?」
やたら大きなサイズの、クマのぬいぐるみだ。
「ほ、欲しいんですか?」
「光がこれ好きなんだって。なんだよその顔、俺じゃねえぞ」
ニヤニヤしていると、ほっぺたをつねられた。
「こんなもん、部屋に飾ったら景観を損ねる」
「でもソファとかにこれくらい大きいぬいぐるみ置いてあったら可愛くないですか?」
「何それ。そういうこと言うお前が可愛いわ」
墓穴を掘ってしまった。加賀さんが財布から百円玉を出して、投入口に入れながら訊いた。
「ちょっとやっていい?」
「どうぞ」
顔が笑う。こうやって外で加賀さんと遊ぶのが、楽しくて仕方がない。触れたいとムラムラすることもなく、普通に、友人のように一緒にはしゃぐことだってできる。
加賀さんがクレーンゲームに興じているのを見守っていると、背後から声が聞こえた。
「めっちゃイケメンじゃない?」
いろんな音がガチャガチャとやかましい店内で、女性のそういう声だけは俺の耳にダイレクトに届く仕組みになっているらしい。
「なんか腰がエロイ」
「うん、やらしい。やらしい体だよね」
「ね、めちゃめちゃ触りたい」
「後ろから抱き着いて胸揉みまくりたい」
「あたしお尻、撫でまわす」
聞き捨てならない会話だ。女の人がこんな性的な、欲望全開の会話をするなんて、恐ろしい。怒りより恐怖が上回ってしまった。肩越しに視線を送ると、声の主らしき派手目の女性二人組が顔を寄せ合ってこっちを見ていた。俺と目が合うと、クレーンゲームをしているふりでごまかされた。彼女たちの視界を遮るように、クレーンゲームのガラス窓に肩をつけて寄りかかる。
「加賀さん」
「んー」
「取れそう?」
「うん、これ設定甘いから楽勝」
上から降りてきたアームがぬいぐるみの頭をしっかりとキャッチし、持ち上がる。アームが動くと、ぬいぐるみの重みですぐに落下したが、ひっくり返って転がった先が獲得口だった。
「えっ、すごい、本当に取れた」
「すごくないよ、三百円使ったし」
ぬいぐるみを取り出して抱きかかえると、「さて、行くか」と出口に向かって歩き出す。
「あのー」
ほら来た。来ると思った。振り返るまでもなく、さっきの二人組だ。
「二人ですか? うちらもなんですけど、よかったら一緒に」
「ごめんね、もう出るから」
加賀さんがにこやかに、丁寧に謝った。女性たちは諦めない。二人で腕を組んで、詰め寄ってくる。
「あっ、そうなんですねー。どこ行くんですか? お昼ご飯? 何食べるんですか?」
質問攻めだ。
「もしかして一緒に行きたい?」
加賀さんが訊いた。
「えっ、えーっ、行きたいです。ね、ねっ」
「うん、行きたい!」
女性たちのテンションが跳ね上がるのを感じて、自動的に眉間にシワが寄っていく。
「ごめんね」
加賀さんが俺の腕に手を絡ませて、言った。
「デートだから」
驚いた顔の二人を置いて、そのまま店を出た。駐車場に出ると手を放し、距離を取る。
「なんか」
俺が呟くと、加賀さんが「仕方ない」と先手を打つ。
「目立つから、お前」
「え、俺ですか? 俺じゃないでしょ」
「お前だよ。でかいもん。それに可愛いし、だからああいうのは仕方ない」
あっけらかんとして言って、持っていたぬいぐるみを放り投げてきた。キャッチして、頭を掻く。エロイとかやらしいとか触りたいとか、変な目で見られてましたよ、とは言えない。
「付き合いたての頃にもあんなふうに女の人が寄ってきて、デートだからごめんねって断ったことありましたね」
助手席のシートに滑り込むと、シートベルトをしながら言った。そうだっけ、と加賀さんが隣でとぼけた声を出す。
「あのときと状況は一緒なのに、心境が違うんです」
「ふうん? どう違うの?」
「前は俺、ひやひやしてました。今は気持ちいいです」
「はは」
加賀さんが、エンジンをかけて笑った。
「成長したってことで」
「はい」
フェアレディが走り出す。空は相変わらずどんよりと曇っていたが、俺の心は晴れ渡っていた。
〈加賀編〉
「せーの」
俺が合図を出し、同時に頭に描いたものを言葉にする。
「天丼」
倉知が言い、
「かつ丼」
俺が言った。どんぶり縛りでもないのに若干かぶったことが嬉しい。助手席の倉知に向かって親指を立てて見せると、同じように親指を立てて、くっつけてきた。クソ可愛い。
「じゃあ両方食べられるお店、探します」
「うん。なあ、ついでに写真撮りたい」
倉知がスマホをポケットから出すと、今だとばかりに声を上げた。
「え? 写真ってなんの?」
「お前だよ」
ゲーセンを出てからずっと、倉知が可愛い。クレーンゲームで取った巨大なぬいぐるみを膝に置いて、抱っこして座っているのがツボにはまった。可愛すぎてハンドル操作を誤るところだった。
「もうほんと可愛い。めっちゃ愛しい」
「あ、ぬいぐるみですか?」
「違う。お前が可愛いんだよ。どうなってんの? ぬいぐるみ抱っこして可愛い男子大学生ってお前くらいじゃない?」
「可愛くないですから」
ステアリングを握ったまま隣をチラ見した。狭い空間で巨大なぬいぐるみを持っているのだから抱っこせざるを得ない。置く場所がないのにどうしろというのだ、という拗ねたような顔だ。
「それ抱っこしたまま自撮りして」
「無理です」
抱きしめているクマの頭に顔をうずめてモゴモゴ言った。運転中じゃなかったら確実に襲っている。
「お願い。お願いします。愛してる。すっげえ愛してるから」
懇願すると、倉知が顔を上げた。まんざらでもない顔だ。不慣れな感じでスマホを掲げ、インカメラで自撮りしている。自分でやれと言っておきながら、女子高生か、という感想が出た。やばい。何をやらせても可愛いと思ってしまう。俺は病気かもしれない。
「撮りましたけど」
恥ずかしそうに倉知が言った。
「よし、見せなさい」
ちょうど信号が赤だ。倉知の手首をつかんで、画面を自分のほうに向けた。ぬいぐるみを膝に乗せた倉知が、はにかんでいる。
「可愛い。百点満点。ちゃんと保存した? 画像俺んとこに送っといて」
「俺、馬鹿みたいなんですけど、これ誰にも見せませんよね?」
「どうしよっかな」
意地悪く笑う。
「見せないって約束しないと消しますから」
「待て早まるな。わかった。見せない。消さないで」
「加賀さん、青です」
信号が青に変わっていた。
「こんな不気味な写真撮ってないで、お店検索しないと」
「おいおい、俺の天使だぞ。不気味って言うな」
「天使なんて言うの、……加賀さんだけです」
多分そうだろうと思う。お互いに、相手を本気で天使と表現する。その事実が嬉しくてこそばゆかったのか、口元を手で覆ってニヤニヤ笑いを隠している。
デートとはいえ人の目があるところでは手も繋げないし、見つめ合うことはおろか、愛を囁くわけにもいけない。明確にイチャつけるのは車内だけだった。終始こんな感じで可愛いだとか天使だとかひたすらのろけ合い、外でイチャつけない欲求を存分に満たすのだ。
昼食を終えて車に戻り、ぬいぐるみをトランクに放り込んで、さて次はどこへ行こう、となったときに、ドライブがいいと言って行先を指定しなかったのも、ただ二人きりでいたいからかもしれない。
「よし、海行くか、海」
「えっ、はい、海、見たいです、行きましょう」
海岸沿いを走るのは気持ちがよさそうだ、というただの思いつきだった。曇っていても、普段見ることのない海は、特別感がある。そしていざ海が見えると奇跡的に太陽が顔を出し、海面がキラキラと、光って見えた。
「海、綺麗ですね」
倉知が窓の外を眺めながら言った。
「なんか晴れてきたし、降りて砂浜歩いてみる?」
「靴とかズボン、汚れません?」
「濡れなきゃ大丈夫だよ」
倉知がうずうずとした顔で俺を見て、「歩きましょう」と嬉しそうに言った。
まだ夏は先で、泳ぐには早すぎる。それに朝から曇っていて、晴れ間が覗いたばかりだし、誰も波打ち際を歩こうなどとは思わない。海に来ているのは俺たちだけで、周囲に人はいない。
「革靴、歩きにくくないですか?」
砂を踏みしめて先に立って歩く倉知が俺を振り返って訊いた。
「おんぶしてくれる?」
「いいですよ」
「冗談だよ」
苦笑すると、倉知はきょろきょろと辺りを見回した。
「加賀さん、チャンスです」
そう言って、手を差し伸べてきた。
「誰もいません。手、繋げます」
ちら、と後ろを仰ぎ見る。海を見下ろす高さにある道路は、ガードレールがあるだけで浜辺が丸見えだ。車の通りは少なくない。海から離れているとはいえ、多分、見られてしまう。
でも。
葛藤したのは数秒だった。笑顔で倉知の手を握った。
砂浜を、手を繋いで歩く。
急にデートらしくなってきた。指をしっかりと握り合わせ、腕を触れ合わせ、体を寄せ合って、歩く。砂の上は歩きにくいし靴は汚れるし散々だが、波の音が心地よかった。
「すごい」
「うん」
「デートしてるっぽい」
「うん、ラブラブっぽい」
「ラブラブですよ」
「デートだよ」
砂に足を取られながら、二人で笑う。
「なあ、今ならキスできそうじゃない?」
「え、今? ここで?」
「誰も見てないし、しようよ」
「しましょう」
倉知が立ち止まり、繋いでいないほうの手で俺の顎に指を添えた。目を閉じる寸前で、頬に冷たい感触が。ポツリポツリと、次から次へと水滴が降りかかる。
「やべえ、雨だ」
「え、うわ、ちょ、何これ」
突然の土砂降りだ。大粒の雨が、容赦なく落ちてくる。
「走れ、車戻るぞ」
「はい」
手を繋いだまま、砂浜を全速力で走る。雨は一気に激しくなり、まるでバケツの水をぶっかけられているようだった。目を開けているのがしんどい。天然のシャワーだ。
なんだよこれ。急に腹の底から笑いが込み上がってきた。
大笑いする俺を、倉知が振り返る。
「何、どうしたんですか」
取り返しがつかないくらいずぶ濡れになった倉知が、目を細めて小さく叫んだ。
「わかんねえ。なんかツボった」
不思議そうに首を傾げる。足を止めた俺につられて、倉知も立ち止まる。
「倉知君、海」
海を指さした。海面に雨粒が落ちている。こんな光景は滅多に見ない。幻想的で綺麗だと思った。
「面白くない?」
濡れた髪を撫で上げて、同意を求めて倉知を見上げた。倉知は海を見ていない。俺を見ていた。
「何?」
倉知の喉仏が、大きく上下した。
「加賀さん、透けてる」
「え?」
「シャツ、濡れて、その……肌が……、肌っていうか、ち」
言葉を切って俺から目を背け、「う」とうめいて体を折り曲げた。視線を下に落とし、自分の体を確認した。濡れたシャツが肌に張りついて、乳首が透けて見える。なるほど、と小さく笑う。
「いやん、エッチ」
両手で胸を隠すと、倉知がぎらついた目で俺を見て、手を伸ばしてきた。ギク、として手の甲を叩く。
「こらこら、外だぞ」
「じゃあ、早く車に移動しましょう」
倉知が濡れた顔を腕で拭ってから、俺の手を引いた。いつの間にか雨は止んでいたが、濡れた砂のせいで足元がどろどろだ。苦労して砂浜を脱出し、コンクリートに足をつけるとホッとした。
「あーあ、駄目だこりゃ」
足を踏み鳴らし、泥を落とす俺の挙動を倉知が黙って見つめてくる。ねちっこい視線を受け流し、さらりと言った。
「帰るか」
「え」
「頭からびしょ濡れだし、もうどこにも行けないだろ」
「そう……、ですね」
「つーか、さすがにこれ着替えないと風邪引くかな」
「え、脱ぐんですか?」
「残念そうな声を出すな」
しょんぼりしながら、それでも俺の胸元から視線を外さない。倉知も全身濡れそぼっているが、黒のTシャツの上にパーカーを羽織っているから透けたり浮き出たりはしない。エロスの要素は皆無だった。でも、可愛い。濡れネズミな倉知が可愛い。
「お前、これかぶったらよかったのに」
笑いを堪えてパーカーのフードを頭にかぶせてやると、倉知がポカンと口を開けて頭上を見上げて言った。
「あ、ほんとだ。そのための帽子なのに」
吹き出して、「そうだな」と同意する。パーカーのフードが雨をしのぐためについていると思っている倉知が可愛い。にやける顔を軽くつねってから、咳払いをして言った。
「途中で適当に着替え買って、それから」
ズボンの裾の砂を叩き落として、頭を上げる。
「シャワーしたいし、ラブホ行く?」
倉知が目を見開いて、やっと俺の顔を見た。すぐに嬉しそうに大きくうなずいた。
「はいっ」
「はは、お前のこういうときの返事、すげえ好き」
俺を抱きたい一心だろう。期待で輝いた目を見て、心の中で舌を出す。
ごめんな。今日は抱かせていただきます。
〈倉知編〉
ホテルの部屋に入ると、ドアに加賀さんを押しつけてキスをした。歯をこじ開けて、強引に舌を割り込ませ、口の中を荒々しく犯した。
下半身が痛い。疼いている。触れただけで達してしまいそうだ。
唇を離すと、加賀さんが薄く目を開けて俺を見ていた。
「加賀さん」
「ん」
「好きです」
「うん、俺も」
加賀さんが優しく笑う。息苦しさを感じるくらいに俺はこの人が大好きで、欲しくて欲しくてたまらない。
濡れたシャツの上から胸を撫でた。透けて見える肌が、この世の物とは思えないほど、美しい。
指を滑らせ胸の突起を親指の腹で弾くと、加賀さんが小さく声を上げ、俺の手首をつかんだ。
「もう脱いでいい?」
「ダメです。もっと見たいし、触りたい」
右の乳首を指でいじりながら、反対の胸に顔を寄せる。湿ったシャツに、舌を這わせた。
「ん……っ」
吸ったり噛んだりしていると、加賀さんの膝が揺れた。弱々しい力で、俺にしがみついてくる。
「すごい、加賀さん、エロい。乳首立ってます」
「馬鹿、いじくられてんだからそりゃ立つよ」
「はあ、脱がしたくない」
ため息をついてシャツの上から手のひらで胸筋をなぞり、人差し指で両方の乳首をつまんだ。加賀さんの体がビクッと反応する。可愛い。
調子に乗ってこねくり回していると、唐突に下半身を触られて、快感がせり上がってくる。視線を下に向けると、加賀さんの手が、俺の股間を鷲掴みにしていた。
「すげえ、これラブホ仕様?」
「あ、ちょ、待っ……」
根本から先端に絶妙な刺激を与えてくる。限界まで張りつめていた股間が、あっけなく爆ぜた。
「……加賀さん」
「はは、瞬殺」
「う、パンツが……、ひどいことに」
隙間から中を覗いて肩を落とす。
「よし、じゃあ風呂入る?」
「……はい」
仕方なくうなずいた。加賀さんがにこっと笑って俺の頬に軽くキスをしてから、耳元で「トイレ行ってくるから先行ってて」と言った。言われた通り服を脱いでシャワーを浴びていると、加賀さんが俺を呼ぶ声がした。
「倉知くーん、ちょっとおいで」
「なんですか?」
濡れた体でのこのこと部屋に戻ると、加賀さんがシャツを脱ぎながら無邪気な笑顔で壁のほうを指さした。
「ほら、これこれ」
あんっ、やだっ、イクっ、あっ、あっ。
テレビの画面に身悶える女の人が映っていた。
「えっ、なっ、なんでこんなの観てるんですか」
うろたえる俺の手を、加賀さんが引っ張った。ベッドに引きずり上げられると、加賀さんが俺の背中にくっついて、言った。
「一緒に観ようよ」
「えっ」
俺の顔を後ろから両手でつかんで無理やり固定すると、「どう?」と頭の上で訊いた。
「ど、どうって」
「興奮する?」
「え、……えっと」
四つん這いになった女の人の後ろから、男の人が腰を打ちつける映像。乳房の揺れが、激しさを物語っている。見てはいけないものを見てしまった気分だった。性行為をしているこの二人に愛はなく、人に見せるための映像だとわかっていても、見ていられない。体が火照って、汗がにじむ。
「は、恥ずかしいです、ちょっと、離して」
顔が熱い。顔を背けたいのに、加賀さんが許してくれない。後ろから俺の首に抱きついて、背中に体重を乗せてくる。
加賀さんの肌の感触が気持ちいい。雨に濡れたせいで少し冷やっこくて、それでも最高の質感だ。加賀さんの、極上の肌の感触。
「倉知君」
耳に息がかかって、体が震える。
「タイプの女優だった?」
「え?」
「勃ってる」
指摘されて自分の股間を見た。確かに勃起しているが、これは加賀さんのせいだ。
「違います」
「じゃあどんなのが」
「タイプはないです」
「えー?」
笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。真顔で見つめた。加賀さんの笑顔が固まった。
「俺は加賀さん以外興味ないんです」
ベッドの上に転がっているリモコンを手に取ると、テレビの電源を切った。耳障りな音が消えて、静寂に包まれる。
「うん」
加賀さんが納得したような声を出した。
「そうだった」
はあ、と首の後ろで大きく息を吐かれ、身を震わせた。
「他人のセックスなんてどうでもいいよな」
「はい。少なくとも、加賀さんがそばにいるのにそっちのけで興奮するのは無理です」
「はは、うん」
わかってくれたらしい。加賀さんが俺の膝の上に、向かい合う形で座った。
「ごめんね」
まっすぐ俺を見て、加賀さんが言った。何に対する謝罪かは、聞かなくてもわかる。背中に腕を回してすぐ目の前にある加賀さんの顔を確認しながら、おそるおそる口を開く。
「加賀さんは、こういうの観て、その、お、オナ……ニーしたいって思うかもしれないけど」
言いづらい単語を苦労して口にする俺に、加賀さんは何も言わずに、おかしそうに笑うだけ。
「あんまりして欲しくないんです」
これは束縛かもしれない。重い、うざい、と思われるのは怖かったが、本音を知っておいてもらいたかった。加賀さんの目を真正面から見据え、唾を飲み込んでから言った。
「俺で気持ちよくなってください」
「え」
加賀さんがキョトンとした。
「他の人で加賀さんが性欲あおられるの、見たくない。俺が気持ちよくさせます。だから、俺だけで気持ちよく」
喋っている途中で加賀さんが勢いよく抱きついてきた。タックルされる形で真後ろに倒れ込む。
「お前、エロいこと言ってる自覚ある?」
加賀さんが俺の腹の上で言った。
「え? えっと」
自分の科白を反芻して、顔が熱くなった。
「大丈夫だよ。もうとっくにAV観たいなんて思わなくなったし、お前がいるからオナニーも必要ない」
加賀さんが俺にまたがって、ベルトを外しながら言った。ファスナーを下し、下着とズボンをずり下げると、ペニスが元気よく跳ね上がり、顔を出す。
「ほら、倉知君で勃ったよ」
「は、はい」
「気持ちよくさせて」
加賀さんが俺の口元に下半身を近づけた。口を開けて舌を出すと、押し込んできた。俺の顔の上で、腰を揺する。口の中を出入りするたびに、唾液が絡む音が響いた。加賀さんが恍惚の表情で俺を見下ろしている。
「はあっ……、なんかイキそ……」
口の中で硬度を増していくペニスに舌を絡ませ、強く吸った。
「あっ、ちょ、待って、それやばい」
加賀さんが小さく声を上げて俺の中から出ていった。
「イクとこだった」
「加賀さん」
早く、繋がりたい。上半身を起こして加賀さんの足首をつかむ。
「ちょっと待ってな」
ベッドの枕元に備えつけられたローションとコンドームを手に取って、俺の体を押し倒すと、おもむろに股を大きく割り開かれた。
「え? あれ?」
自分の尻にたっぷりのローションが降り注がれたところでハッとなった。
「加賀さん、待って」
加賀さんは止まらない。サディスティックな顔で笑って、俺の中に指を二本、差し込んできた。
「うあっ……、やっ、やめて、ちょっと待って、あれ? なんで?」
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「急に、なんで……、あ、や、やめ……、広げないで」
二本の指が奥へと侵入し、グイグイと押し広げてくる。下腹部を襲う圧迫感に耐えながら、助けを求めるように加賀さんを見上げた。加賀さんは、すごく、楽しそうだった。
「だってお前、何しててもすげえ可愛いから、俺はもう限界です。抱かせてよ」
指が抜けて、代わりに押し当てられた硬いものがゆっくりと入ってくる。
「ああっ、あっ……、か、かがさ……っ、う」
口を押えて、声を押し殺す。挿れられただけで、気持ちよくなっている。こんな淫乱な自分を、知られたくない。目を固く閉じて、歯を食いしばる。
小刻みに腰を進めて、俺の中にすべてを収めた加賀さんが、ふう、と息を吐いた。
「七世」
びく、と体が震えた。
「俺の、七世」
「……っ、んっ」
名前を呼ばれると、ダメになる。腰が砕けそうなほど、心地よい快感が這い上がってくる。腰が勝手に揺れて、加賀さんと繋がっている部分が、きゅう、と収縮した。
「感じてる? すげ……、締まる」
加賀さんが囁くように言葉を吐いて、腰を振る。結合部分でローションが卑猥な音を立てている。確信犯的に何度もいいところを擦られて、悲鳴が出た。気持ち良すぎて涙がにじむ。必死で、加賀さんの体にしがみつく。
「ここ、いい?」
わかっているくせに、律儀に訊いてくる。何度もうなずいて、泣き声でわめいた。
「加賀さん、いい、……きもち、いい……っ」
どっちでもいい。挿れられるのも、挿れるのも、どっちでも、なんでもいい。とにかく加賀さんと一つになれるのなら、どうだっていい。
加賀さんが動くたびに、声が出た。恥ずかしさより、快感がはるかに上回り、もう何も考えられない。
激しく腰を打ちつけられ、思考能力がゼロになる。
もっと、もっと、と言いながら、浅ましく腰を動かし、加賀さんが俺の中に精を放つのを感じて、俺も絶頂を迎えた。
「……加賀さん」
俺の上で屍状態になっている加賀さんの汗ばんだ背中を、静かに撫でた。
「ゴム、つけてませんね?」
「あー……、ほんとだ。ごめんね。中出ししちゃった」
掠れた声で加賀さんが謝った。
「可愛いなあ、って気を取られてたんだよ」
可愛くないです、という反論の代わりに、加賀さんの細い体をきつく抱きしめた。
「ぐえ、中身出る、中身」
「加賀さん、お風呂は?」
「うん、入りたい。なあ、もういっそのこと泊まってかない?」
「賛成です」
加賀さんが俺の上で眠たそうにあくびをした。
「寝かせませんよ」
「え」
「次は俺のターンです」
夜はまだ始まってすらいない。俺たちのデートも、まだまだ終わりそうにない。
〈おわり〉
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