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最後の女、最後の男
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※加賀さんの元カノが出ます。若干の波乱、修羅場的な要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。
〈加賀編〉
受話器を置いて内線電話を切ると、怖さのあまり身震いが起きた。受付から来客の名前を聞いた瞬間、思考回路が止まった。居留守を使ってやり過ごす、という手もあったのに、馬鹿正直に「今行きます」と答えていた。
営業のフロアを出て階段を下りる。一段下りるたびに恐怖感が増幅する。
どんなホラーより怖い。橋場を超える、歴代一位の恐ろしい来客だ。
俺はどうなってしまうのだろう。
一階のロビーに着くと、数脚ある来客用のテーブルの一つに人影が見えた。はあ、とため息が出た。同姓同名の他人、という望みは消えた。見覚えのある後姿は、以前の彼女、紗千香(さちか)に間違いない。
足音で気づいたのか、紗千香が振り返った。
「加賀君……っ」
椅子を鳴らして立ち上がると、顔を輝かせて駆け寄ってきた。抱きつかれる気がして急いで手のひらを向け、制止した。
「ちょっと待って。怖いんだけど」
挨拶を省いて率直な感想を述べた。別れてから何年経っているだろう。とにかく、怖いしか出てこない。
「怖い? 何が?」
「職場だよ? 何? あれ? 仕事の話? 純粋にお客様?」
疑問符ばかりが出てくる。紗千香は気まずそうに「ごめんね」と謝った。
「だって、郵便物も届かないし、引っ越しちゃったみたいだし、携帯の番号もメアドも消されちゃったし、連絡取れないんだもん」
「消されちゃったってお前」
視線を感じて言葉を切った。受付の窓ガラスの向こうは総務室になっていて、数人の社員がこっちを見ていた。
紗千香の腕を引いて一番奥のテーブルに移動する。紗千香一人を座らせて、向かい側で仁王立ちし、腕を組んで「で?」と急かした。
「久しぶり、だね」
改まった様子で紗千香がはにかんだ。
「加賀君、変わってないね。やっぱりかっこいいなあ。なんかキラキラしてる」
「どうもありがとう。で、何? なんでここにいるの?」
俺の質問を無視して、紗千香が続けた。
「ねえ私は? 老けた? 綺麗になった?」
そうだった。こういう奴だった。自分のことが第一で、人の都合は考えない。やんわりとオブラートに包んだ表現をすれば、マイペースな性格だ。
「もうすぐお互い三十路だもんね」
「ごめん、仕事中だし、もう出ないといけないから」
腕時計に視線を落として早口で言うと、紗千香が「あっ」と声を上げた。
「それ、新しい時計? 見せて」
「あのな」
恐怖心が消えると、一気に疲れが出た。
「そんなのいいからなんの用なの? 別れて五年? 六年? わかんねえけど、ずいぶん経ってんのにわざわざ職場にまで来て、なんなんだよ?」
苛ついて語気が荒くなる俺を、紗千香は悲しそうに眉を下げて見上げた。
「違うよ」
「何が」
「七年だよ。別れて七年も経っちゃった」
「はは」
笑うしかない。紗千香はのんびりとしたしゃべり方で、本題に入ろうとしない。
「はあ、加賀君かっこいいなあ。別れたくなかったのになあ」
「わかった」
小さくうなずく俺に、紗千香が驚いた様子で目を丸くする。
「えっ?」
「特に用がないならもう行くわ。じゃあね」
背を見せて歩き出すと、「待って」と切羽詰まった声が呼び止めた。
「あのね、私結婚するの」
足を止めて振り返る。
「それで、結婚式の招待状、送ったんだけどね。戻ってきちゃって……」
紗千香はバッグの中を探っている。いよいよわけがわからない。
「はいこれ。まだ先だけど、来てくれるよね?」
席を立ち、俺の顔の前に白い封筒を突きつけてくる。封筒と紗千香の顔を見比べてから、両腕をさすった。理解の範疇を超えている。
「いやいやいや、おかしいよね」
「え? 何が?」
「なんで俺が招待されんの?」
「だって、元カレじゃん」
「ダッテ、モトカレジャン?」
混乱して、片言の中国人のような発音で返してしまった。おかしい。付き合っていた頃からどこかぶっ飛んだ発言は多かったが、ここまでとは思わなかった。
「彼ね、元カノ三人も呼ぶんだよ。私だって負けてられないじゃん」
「怖い、何それ怖い」
「怖いって、何が?」
「あっ、主任、見つけたぁ。おーい」
高橋の声がロビーに響く。間抜け面の高橋が遠くで手を振っている。接客中でも構わないのが高橋だ。普段なら呆れるところだが、紗千香のせいで可愛く思える。
「もう出る時間ですよー」
今行く、と返事をして紗千香に向き直る。
「というわけで、もう行くわ」
肩に手を置いて、「元気でね」と告げて踵を返す。
「加賀君、招待状、忘れてる!」
紗千香の声が追いかけてくる。
「行かない、ごめん」
その返事で事足りる、と思ったのが間違いだった。
もう二度と会うことはないと思っていたが、その後紗千香は、ストーカーへと変貌した。
〈倉知編〉
「あの、すいません」
マンションの前で、女性に声をかけられた。学校帰りに買い物を終え、帰宅したところだった。外は暗く、街灯はあるが、こんな時間にこんな場所で話しかけられることは初めてで、驚いて声が出てしまった。
「ちょっといいですか?」
三月になったばかりで、まだ外は寒い。いつからそこにいたのか、女性の鼻の頭は真っ赤で、寒そうに身をすくめていた。
「なんですか?」
「えっと、お聞きしたいんですけど、加賀君の家族の方ですか?」
「え」
突然加賀さんの名前が出て、警戒心が膨れ上がった。二十代だろうか。髪が長く、身綺麗だったが、いやに短いスカートが季節感を無視している。
「私、見たんですよ」
「な、何を、ですか?」
わけがわからなくて身構える俺には構わずに、女性が言った。
「加賀君と一緒に、このマンションに出入りしてるの、見たんです。もしかして、一緒に住んでたりします? 弟さん?」
この人は一体、誰だろう。加賀さんのことを知っているようだが、何を、どこまで話していいのかわからない。
何も言えないでいると、女性が「あ」と声を漏らした。
「怪しいものじゃないですよ」
十分怪しいし、その科白は信ぴょう性がない。女性は口元にうっすら笑みを浮かべていた。その笑みが意味するものがなんなのか、次の一言で気づいてしまった。
「私、加賀君の元カノなんです」
加賀さんと付き合ったことがある、という自負が、彼女に微笑みを浮かべさせている。
「本当ですよ」
俺が無言なのを疑っているからだと思ったのか、思いついたように付け足した。
「あ、二人で撮った写真、携帯に入ってますけど、見ます?」
手に持っていたスマホを操作し始める彼女に「いいです」と首を振る。
「あの、確かに俺は加賀さんの知人ですけど……」
元カノ、なんていう存在にはなるべく会いたくなかった。俺の前に付き合っていた彼女が六人いることは知っている。そのうちの一人とは以前顔を合わせたことがあるが、気持ちのいいものじゃないし、どうしたって嫉妬してしまう。する必要がないのはわかっていても、考えてしまう。
過去の加賀さんがこの人と時間を共有し、ツーショットで写真を撮って、手をつないでデートしたり、キスしたり、この人に触れて、想像したくないようなことも。
「もしもし?」
落ち込む俺の目の前に、女性の顔が割り込んできた。
「これ、加賀君に渡してください」
我に返った俺の顎の先に、何かを差し出して言った。厚みのある、白い封筒だ。
「なんですか?」
受け取っていいものか迷っていると、買い物をした袋の中に無理やり封筒をねじ込んできた。
「じゃあお願いしますね。ちゃんと渡してくださいね」
「え、ちょっと」
寒くて限界、というふうに震え上がったあとで、女性が小走りで駆けていった。姿が見えなくなると、腹の底から深く、ため息をついた。
重い足を引きずってマンションに入り、部屋にたどり着くと荷物を置いて、反芻する。
綺麗な人だった。
髪が長くて柔らかそうで、短いスカートから伸びる足は細かった。加賀さんと並んでいたら、きっとお似合いだ。
ちり、と胸が痛んだ。服の上から皮膚をつかみ、堪える。
なんでこんなことで。
泣きそうになっている自分が、情けなくて仕方がない。にじんだ涙をぬぐって、息を吸って、吐く。夕飯の用意をしなければ。
買い物袋の中の封筒が目についた。慎重に手に取って、振ってみる。別に、中に刃物が入っているとかではなさそうだ。それにこれは、どうやら結婚式の招待状だ。あの人が、結婚するのだろうか。まさかとは思うが、加賀さんにきてほしい? いや、そんなはずない。前に付き合っていた人を結婚式に招待するはずがない。
テーブルに、招待状を置いた。
もう考えるのはやめた。
気持ちを切り替えて、料理に取り掛かった。考えるな、考えるな、と念じながら包丁を動かしていると、指先に小さな痛みが走った。
「つっ……」
包丁を取り落とす。人差し指から血が出ていた。口に咥え、吸ってみたが、血は止まらない。こんな小さな傷のくせに、痛みは立派だ。
絆創膏を巻いて、再びキッチンに立つ。たったこれだけの傷だが、俺を現実に引き戻し、目を覚まさせるには十分だった。
無心で作り終えると、余計なことを考えないために勉強を始めた。そのうち、頭の中がクリアになり、気分も晴れた。
時間を忘れて没頭していると、唐突に視界が奪われた。目を、手で覆われている、と気づく。
「だーれだ」
「おかえりなさい」
「ただいま。すげえ集中力だな。えらいえらい」
加賀さんが後ろから俺を抱きしめる。首に鼻先をくっつけて、すり寄せられる感触が気持ちいい。背中に、体温を感じる。それだけで幸せだと思った。加賀さんの手に自分の手を重ね合わせ、撫でさする。
「あれ、どうしたのこれ」
加賀さんが人差し指の絆創膏に気づいた。
「包丁で、ちょっと」
「珍しいな。痛い?」
「もう平気です」
俺の左手を持ち上げて絆創膏の上からキスをした。こういう優しい行為を、彼女にもしてあげたのだろうか。
「ご飯、食べましょう」
加賀さんの腕をどかして、立ち上がる。暗い顔を見せたくない。笑顔を作って振り向くと、加賀さんの体を回れ右させる。
「着替えてきてください」
妙な間が空いた。加賀さんが肩越しに振り仰ぎ、見上げてくる。
「なんかあった?」
「何も」
笑って答えて、キスをしてから、背中を軽く押す。加賀さんは怪訝そうに首をかしげて、ネクタイを緩めながら寝室に入っていった。
料理を温め直し、盛りつけが完成した頃に、着替え終えた加賀さんが戻ってきた。ダイニングの椅子を引きながら、何気ない動作でテーブルの上の封筒を手に取ると、すぐに顔色が変化する。
「うっわ……っ!」
まるでお化けでも見たようなリアクションだった。封筒を放り投げて、飛びのいた。腰が完全に引けている。こんなに怯えた加賀さんは見たことがない。
「これ……、なんでここに?」
床に落ちた封筒を拾うこともせず、距離を取って言った。まるで危険物扱いだ。
「ちょ、待って、何? こ、こわっ、何これ、世にも奇妙な物語?」
蒼白な顔で封筒を遠巻きに見ている。
「なんでですか」
笑いながら味噌汁をテーブルに置くと、床に落ちた封筒を拾おうと身をかがめて手を伸ばす。
「待て、それ、絶対危ない。呪われてるから、触るな」
真剣な表情で俺を止める加賀さんを、「大丈夫です」と笑ってなだめた。
「さっき、マンションの前で渡されたんです」
「え」
「元カノだって言ってました」
封筒を拾い上げ、加賀さんに差し出した。加賀さんは正気に戻った様子で、口を押えて大きく息をついたが、混乱は収まらない。
「え? わけわかんねえ。なんで? いろいろ謎なんだけど」
封筒を受け取らずに凝視している。
「あいつ、なんでマンション知ってんだ? それに、なんで倉知君に」
がばっと顔を上げて、俺を見た。
「なんか言われた?」
「加賀さんの家族かって訊かれました。二人でマンション出入りしてるとこ見たらしいです。一緒に住んでるのかって訊かれて、答えられなくて」
難しい顔で黙り込んだ。俺の手から封筒を受け取ると、裏返して確認してから、ものすごく雑に開封した。中身を取り出して、目を落とす。
「くそ、住所しかねえな」
吐き捨てて、前髪を搔き乱した。
「倉知君」
「はい」
「ごめんな」
「え?」
「指切ったの、これのせいだろ」
「いえ、別にそういうわけじゃ」
加賀さんが目を細めて俺を見る。この人にごまかしは効かない。俺を理解しきっている。
「ごめん」
俺の指先を握って、小さな声で謝った。
「あの」
「ん?」
「その人、六人目の彼女ですか?」
こんな質問になんの意味が、と思ったが、つい口から出てしまった。加賀さんが顎の先を掻いて「そうだね」と認めた。
「最後の彼女」
短く言って、優しい顔で俺の肩をポンポンと叩く。
「よし、冷める前に食おう」
多分加賀さんは、この件に俺を巻き込みたくないのだ。元カノが絡むと暗くなる俺の性質も知っている。俺に、気を遣っている。
「大丈夫だから」
それだけ言って、もうこの話題は口に出さなくなった。
目を見ればわかる。一人で、決着をつけるつもりだ。
〈加賀編〉
無視することも考えた。でもそれは、おそらく正しい選択じゃない。
どうやって調べたのか紗千香はマンションを知っている。返事を出さないと催促にやってくる可能性が高い。返信しても欠席で出せばきっとまたやってくる。
もう二度と、倉知に接触させるわけにはいかない。
倉知は、一緒にマンションを出入りしているところを見たらしいと言っていた。一緒にいるのは休日くらいだ。ということは、どうにかしてマンションを突き止めたあと、数日間張り込んでいたのではないか。そう考えるのがしっくりくる。
本当に、終始一貫して、怖い。エスカレートする前に、きちんと関りを断たなければならない。
連絡先は、別れたときに消去した。共通の知人でもいればよかったが、あいにくいない。紗千香が一人暮らしをしていたアパートは、取り壊されて代わりにコンビニができている。
SNSをやっていないか一通り検索したが、本名では見つからなかった。紗千香は転職回数が多く、一つのところで長く勤められない。別れた当時働いていた雑貨店も、とっくに辞めているだろう。
頼れるのは招待状にあった返信先の住所のみ。なりふり構っていられない。
次の日。仕事を早く切り上げて、返信用はがきに記載のあった住所へ向かった。二階建ての普通のアパートだった。表札には、「松田」とある。紗千香の名字ではなく、結婚相手のものだ。男の部屋かもしれないし、一緒に住んでいるかもしれない。どっちでもよかった。こっちに非はないし、疚しいこともない。
玄関チャイムを押すと、ピンポーンと音が聞こえた。奥から「はーい」と紗千香の声がした。
「はーい」
もう一度同じテンションで答え、来訪者を確認した様子もなくドアが開いた。
「わっ、加賀君!」
「こんばんは」
「えっ、何、どうして、なんでうちわかったの?」
それはこっちの科白だ。
スーツのポケットから返信用のはがきを取り出すと、顔面に叩きつけたい欲求を堪えてそっと差し出した。
「ここに書いてあるからね、住所。驚くことじゃないだろ」
「あ、出欠のはがき? わざわざ持ってきてくれたの?」
手に取って裏返すと「あれ?」と眉をひそめた。
「欠席になってるじゃん」
「うん。それより、俺のマンションなんでわかった? すげえ恐怖なんだけど」
「えー、それは……、えっと、会社帰りの車を尾行して」
「はあ?」
「だってタクシーの運転手さんが、すごいノリノリで」
「そんなことはどうでもいい。お前、それストーカーじゃねえか」
「ち、違うよ。ストーカーとか、やめてよ。あ、上がってく? 彼、まだ帰ってないし」
部屋の中を指さして言った。
「入らない」
紗千香がたじろいだ。そして、上目遣いで俺を見た。目が潤んでいる。完全に被害者面だ。
「で? マンション突き止めたあとは? アンパンと牛乳持って張り込んでたとか?」
「あはは、加賀君、面白い」
否定しないということは張り込んでいたのは図星らしい。
「面白くない」
腹を抱えて笑う紗千香が笑顔を凍りつかせ、再び上目遣い攻撃を始めた。
「久しぶりに会ったら、ますますかっこよくなってて、だから、加賀君が悪いんだよ。加賀君のせい」
「意味わかんねえ」
「あとになって、彼女いるのかなとか、結婚したのかなとか気になりだしちゃって、だから」
「だからストーカーしました?」
「ストーカーじゃないもん。だって私、結婚するんだよ?」
「結婚するからストーカーじゃないって? 意味わかんねえ」
紗千香の、自分は悪くない、という態度に心底腹が立つ。論破しないと気が済まなくなった。
「尾行してマンションの前で監視する行為は、客観的に見てどう思う?」
紗千香は言葉に詰まった様子でもじもじし始めた。
「認めろ。お前はストーカーだ」
「ひどいよ、違うもん」
「ひどくないし違わない。二度とすんなよ。次は許さないから覚悟しろ」
「許さないって……、どうするの?」
「弁護士に相談する」
「それもしかして、お、お父さん?」
紗千香を父に会わせたことはなかったが、どんな人間かは知っている。ごくり、と大げさに唾を飲み込むと、怯えた目で俺を見て、「もうしません」と沈んだ声で言った。
「加賀君怖い」
ぼそりと呟いて、少しだけ身を引いた。
「怒った加賀君、初めて見た」
「あのな、俺が怒ってるのは、ストーカー行為に対してじゃないからな」
「じゃあ何?」
「お前、なんで俺じゃなくてあいつに渡したんだよ」
「あいつって、背ぇ高い男の子? あれ誰?」
「俺の男」
「え」
「俺一人なら、ストーカーされたところで怖いで終わったんだよ。でもあいつを巻き込むのは許せない。お前のせいで指切ったんだぞ、どうしてくれる」
「嘘」
「何が」
「あの子と付き合ってるの? あ、まさか同棲してる? してるんでしょ」
驚いた、というより怒っている。
「もう一年だな」
そうだ、一緒に暮らして一年経つ。月日が経つのは早い。
「信じられない」
紗千香のつま先が俺のすねを蹴った。
「いて、なんでだよ」
「私が同棲したいって言ったとき、加賀君絶対イヤって、他人と共同生活できないって言ってたじゃん」
今更過去を蒸し返されても困る。紗千香と暮らすのは無理だが、倉知にはこっちから打診した。一緒にいたかったからだ。
「むかつく」
仕方ないだろ。すげえ愛してんだから。と言いたかったが、やめた。
「もうおっさんだからね。介護が必要なんだよ」
「うける」
そのわりに顔は笑っていない。
「ねえ、遊び? 本気? あの子若そうだったけど、高校生じゃないよね?」
「大学生。本気だよ。もう一生離れたくないから、一緒に暮らしてる」
「やだあ、幸せそうに言わないで」
紗千香が泣き顔で地団太を踏む。
「幸せだよ。お前も結婚すんだろ」
「結婚式、絶対無理?」
まだ言うか。苦笑して肩をすくめる。
「行かないよ。場違いだし」
一般的には元カレ元カノが集結する場じゃない。よほど仲がよくて、別れたあとも友人関係にあるなら出席してもいいかもしれない。でも俺たちはそうじゃない。
「紗千香」
頬をふくらませて不機嫌な紗千香が顔を上げる。
「おめでとう。幸せになれよ」
結婚式に元カノを三人呼ぶ男に、引くどころか負けられないと対抗できるのなら、多分大丈夫だろう。価値観が似ているのだと思う。非常識をなじりあい、険悪にならないのならやっていける。
紗千香のアパートを出て、そのままマンションに向かった。早退をしたから外はまだ明るい。こんな時間に帰ったら、倉知は驚くだろう。
マンションのドアを開けると、テレビの音がした。珍しい。倉知は滅多に自分からテレビをつけない。
よくわからないデザインの緑色の着ぐるみが歌って踊っている。明らかにEテレだ。
「何見てんのかと思ったら、面白いの?」
ソファに座ってぼんやりながめている倉知の後ろから声をかけると、ビクッとして、大慌てでテレビを消した。
「えっ、何時? おっ、おかえりなさい、早いですね」
素早く立ち上がり、照れ笑いをしている。顔が赤い。
「AV観てんの見つかったみたいなリアクションだな」
「えっ、そ、そういうのじゃないです、え、えっと、あっ、ご飯、作りますね」
何がこいつをそうさせているのかはわからないが、ひたすら恥ずかしそうにしている。そそくさとキッチンに逃げ込もうとする倉知の腰に抱きついた。
「ごめんな」
「え? 何がですか?」
「昨日のこと」
「別に、何も……、謝らないでください」
無理に笑おうとしたり、うわの空で子ども向け番組を眺めたり、気にしていないわけがない。
「退治してきたから」
「退治?」
「昨日のあいつ」
「ど、え? どういうことですか? 退治って」
「もう来ないよ」
倉知が黙る。沈黙が、落ちた。抱きついたままの背中に顔をうずめて息をついてから言った。
「気にすんなって言っても無理だろうけど、気にすんな。いや、気にしないで……ください。ごめんなさい」
思わず敬語になる俺に、倉知が少し笑った。
「加賀さんは何も悪くないです」
腰にしがみつく俺の手をゆっくりとどけると振り向いた。
「俺が勝手にいろいろ考えちゃうだけですから」
本当にいろいろ考えたんだろうな、というのが、顔を見ただけでもわかる。
「吐き出せよ」
倉知の頬を撫でて言った。
「どんなこと考えた? 全部、俺に聞かせて」
「いえ、……その、ただのネガティブなんで、大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。いいから言ってみて」
倉知は俺から目を逸らして下唇を噛んだ。そして、小さく息を吐くと同時につぶやいた。
「加賀さんとあの人が付き合ってるとこ、想像したんです。考えたくないのに……、馬鹿ですよね」
「うん」
同意する俺を横目で見て、また逸らす。
「お前のその想像、多分ほとんど間違ってるよ」
俺は、優しい彼氏じゃなかったと思う。誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントはせがまれたものを渋々買っていただけだし、デートは毎回受け身だった。働き出したら会う回数も減って、ないがしろにしていると散々なじられた。仕事が楽しくて没頭した結果、「仕事と私とどっちが大事なの?」と謎の二択を迫られ、仕事です、と正直に告げて別れることになった。
紗千香は、ストレスの元凶だった。愛せるはずもない。
倉知は俺に幻想を抱いていて、誰にでも優しいと思っているようだがそれは違う。好きだとか愛してるとか恥ずかしげもなく口にして、毎日キスをして、抱きついて、甘えて、体のどこかに触れていないと気が済まないのは、倉知が可愛くて仕方がないからで、過去の誰も、そういう扱いをしたことがない。
自分を女に置き換えて、俺が同等に扱っているところを想像しても意味がない、と説明すると、倉知は悟りを開いた菩薩のような柔和な笑みを浮かべた。
「違います」
「え、何が?」
「俺はもっとあさましくて、性的な想像をして、嫉妬してるんです」
「性的」
復唱する俺の頬に手を添えると、倉知の親指が唇に触れた。
「加賀さんが女の人を抱いてるところ、想像して、落ち着かなくなったんです」
想像しないわけがないよな、と理解はできた。吐き出せと言っておいて、倉知がそれを口にするとは思わなかった。意表を突かれ、戸惑った。
「すいません、気持ち悪い真似して。ずっと自己嫌悪で、もやもやしてて」
「気持ち悪くないけど、あー……、童貞じゃなくてごめんね」
気の利いた言葉が見つからずに、妙な謝罪をしてしまった。
「そこを責める気はないし、加賀さんの歴史を否定しません。そんなこと、謝らないで」
歴史って、と笑いたかったが、俺の唇をなぞっていた指を口の中に突っ込まれ、声を失った。この指はなんなんだよ、と言いたくても言えない。
「こんなにカッコイイのにモテないはずない。俺と出会うまで童貞だったら、逆に心配です。舐めてください」
「ふぇ?」
「指、舐めて」
親指を押し込んでくる。仕方なく、言われた通りに舐めてみた。よくわからないが、欲望に火がついたらしい。
倉知の目をじっと見つめて、指に舌を這わせた。舐めて、吸ってから、軽く歯を立てると、ぴくっと反応して、飢えたような目で俺を見る。完全に、欲情している。
唐突に、スーツのままの俺を抱きかかえると、寝室に飛び込んだ。手際よく裸になると、俺の下半身だけをはぎ取って半裸にしたあと、駆け足で挿入し、せっせと腰を動かし、あっという間に終わった。
「すいませんでした」
最中、珍しくずっと無言だった倉知が、やっと喋ったと思ったら恥ずかしそうに謝った。
「加賀さんを抱けるのは、後にも先にも俺だけだって思ったら、なんか、誇らしい気持ちになって」
俺の上着を脱がせながら、倉知が言った。
「で、ここも誇らしくなった、と」
まだ大きいままの倉知の股間を、無造作に握った。うっ、とうめいて身を固くしたが、すぐに気を取り直して口を開いた。
「質問してもいいですか?」
「何?」
「加賀さんが童貞卒業したのって、何歳のときですか?」
「え」
「高校生? 中学生?」
「本当に知りたいの?」
「知りたいです」
倉知の表情は晴れやかだ。思いつめた感じは一切ない。どうしたっていうんだ。
「そういうの、知らないほうがいいんじゃない?」
「気になるのに見て見ぬふりっていうか、ぎくしゃくしたくないし、ごまかしたくないんです。こうなったら、加賀さんのことならなんでも知りたい」
考えすぎて血迷っている気がしないでもないが、変に落ち込まれるよりはマシかもしれない。
「お前とそんな変わんねえよ。中三のとき」
「高二と中三はだいぶ違いますけど。でも意外です」
俺のネクタイを解く倉知の口元には、笑みがある。
「下手したら小学生のときかと思った」
「俺別に、ヤリチンじゃないからな?」
「加賀さん」
「ん」
「こすらないで」
握っていたのを忘れていた。ほとんど無意識にしごいていた。
「はは、ごめん」
謝りつつ、でも、手を止めない。倉知は自分の股間を見下ろしてから、俺のシャツのボタンを外し始めた。上から順番に外して、三番目のボタンに手をかけたとき、上ずった声で言った。
「過去は」
切なそうに短い息を吐きながら、そこで言葉を切って、「あっ」と声を漏らした。一旦手を離し、倉知の顔を覗き込む。
「何?」
「過去はもういいんです。これからは俺の、俺だけの加賀さんで、いてください」
倉知の目は赤くなっていた。そんなことは当たり前なのに、口に出さずにはいられないほど、不安にさせた。俺が過去を綺麗に清算できていれば、倉知を追いつめたりしなかったのに。
「うん、絶対、約束するよ」
優しく言って、倉知の頭を胸に抱きしめた。
もし、立場が逆だったら。倉知の過去の女が接触してきたら。想像だけでかなり複雑な気持ちになる。存在しない女に対する、苛立ち。倉知はこの何倍も、苦しんだ。
ごめんな、とつぶやいて、髪に頬をすり寄せる。
倉知は紛れもなく、俺の、最後の男だ。
〈おわり〉
〈加賀編〉
受話器を置いて内線電話を切ると、怖さのあまり身震いが起きた。受付から来客の名前を聞いた瞬間、思考回路が止まった。居留守を使ってやり過ごす、という手もあったのに、馬鹿正直に「今行きます」と答えていた。
営業のフロアを出て階段を下りる。一段下りるたびに恐怖感が増幅する。
どんなホラーより怖い。橋場を超える、歴代一位の恐ろしい来客だ。
俺はどうなってしまうのだろう。
一階のロビーに着くと、数脚ある来客用のテーブルの一つに人影が見えた。はあ、とため息が出た。同姓同名の他人、という望みは消えた。見覚えのある後姿は、以前の彼女、紗千香(さちか)に間違いない。
足音で気づいたのか、紗千香が振り返った。
「加賀君……っ」
椅子を鳴らして立ち上がると、顔を輝かせて駆け寄ってきた。抱きつかれる気がして急いで手のひらを向け、制止した。
「ちょっと待って。怖いんだけど」
挨拶を省いて率直な感想を述べた。別れてから何年経っているだろう。とにかく、怖いしか出てこない。
「怖い? 何が?」
「職場だよ? 何? あれ? 仕事の話? 純粋にお客様?」
疑問符ばかりが出てくる。紗千香は気まずそうに「ごめんね」と謝った。
「だって、郵便物も届かないし、引っ越しちゃったみたいだし、携帯の番号もメアドも消されちゃったし、連絡取れないんだもん」
「消されちゃったってお前」
視線を感じて言葉を切った。受付の窓ガラスの向こうは総務室になっていて、数人の社員がこっちを見ていた。
紗千香の腕を引いて一番奥のテーブルに移動する。紗千香一人を座らせて、向かい側で仁王立ちし、腕を組んで「で?」と急かした。
「久しぶり、だね」
改まった様子で紗千香がはにかんだ。
「加賀君、変わってないね。やっぱりかっこいいなあ。なんかキラキラしてる」
「どうもありがとう。で、何? なんでここにいるの?」
俺の質問を無視して、紗千香が続けた。
「ねえ私は? 老けた? 綺麗になった?」
そうだった。こういう奴だった。自分のことが第一で、人の都合は考えない。やんわりとオブラートに包んだ表現をすれば、マイペースな性格だ。
「もうすぐお互い三十路だもんね」
「ごめん、仕事中だし、もう出ないといけないから」
腕時計に視線を落として早口で言うと、紗千香が「あっ」と声を上げた。
「それ、新しい時計? 見せて」
「あのな」
恐怖心が消えると、一気に疲れが出た。
「そんなのいいからなんの用なの? 別れて五年? 六年? わかんねえけど、ずいぶん経ってんのにわざわざ職場にまで来て、なんなんだよ?」
苛ついて語気が荒くなる俺を、紗千香は悲しそうに眉を下げて見上げた。
「違うよ」
「何が」
「七年だよ。別れて七年も経っちゃった」
「はは」
笑うしかない。紗千香はのんびりとしたしゃべり方で、本題に入ろうとしない。
「はあ、加賀君かっこいいなあ。別れたくなかったのになあ」
「わかった」
小さくうなずく俺に、紗千香が驚いた様子で目を丸くする。
「えっ?」
「特に用がないならもう行くわ。じゃあね」
背を見せて歩き出すと、「待って」と切羽詰まった声が呼び止めた。
「あのね、私結婚するの」
足を止めて振り返る。
「それで、結婚式の招待状、送ったんだけどね。戻ってきちゃって……」
紗千香はバッグの中を探っている。いよいよわけがわからない。
「はいこれ。まだ先だけど、来てくれるよね?」
席を立ち、俺の顔の前に白い封筒を突きつけてくる。封筒と紗千香の顔を見比べてから、両腕をさすった。理解の範疇を超えている。
「いやいやいや、おかしいよね」
「え? 何が?」
「なんで俺が招待されんの?」
「だって、元カレじゃん」
「ダッテ、モトカレジャン?」
混乱して、片言の中国人のような発音で返してしまった。おかしい。付き合っていた頃からどこかぶっ飛んだ発言は多かったが、ここまでとは思わなかった。
「彼ね、元カノ三人も呼ぶんだよ。私だって負けてられないじゃん」
「怖い、何それ怖い」
「怖いって、何が?」
「あっ、主任、見つけたぁ。おーい」
高橋の声がロビーに響く。間抜け面の高橋が遠くで手を振っている。接客中でも構わないのが高橋だ。普段なら呆れるところだが、紗千香のせいで可愛く思える。
「もう出る時間ですよー」
今行く、と返事をして紗千香に向き直る。
「というわけで、もう行くわ」
肩に手を置いて、「元気でね」と告げて踵を返す。
「加賀君、招待状、忘れてる!」
紗千香の声が追いかけてくる。
「行かない、ごめん」
その返事で事足りる、と思ったのが間違いだった。
もう二度と会うことはないと思っていたが、その後紗千香は、ストーカーへと変貌した。
〈倉知編〉
「あの、すいません」
マンションの前で、女性に声をかけられた。学校帰りに買い物を終え、帰宅したところだった。外は暗く、街灯はあるが、こんな時間にこんな場所で話しかけられることは初めてで、驚いて声が出てしまった。
「ちょっといいですか?」
三月になったばかりで、まだ外は寒い。いつからそこにいたのか、女性の鼻の頭は真っ赤で、寒そうに身をすくめていた。
「なんですか?」
「えっと、お聞きしたいんですけど、加賀君の家族の方ですか?」
「え」
突然加賀さんの名前が出て、警戒心が膨れ上がった。二十代だろうか。髪が長く、身綺麗だったが、いやに短いスカートが季節感を無視している。
「私、見たんですよ」
「な、何を、ですか?」
わけがわからなくて身構える俺には構わずに、女性が言った。
「加賀君と一緒に、このマンションに出入りしてるの、見たんです。もしかして、一緒に住んでたりします? 弟さん?」
この人は一体、誰だろう。加賀さんのことを知っているようだが、何を、どこまで話していいのかわからない。
何も言えないでいると、女性が「あ」と声を漏らした。
「怪しいものじゃないですよ」
十分怪しいし、その科白は信ぴょう性がない。女性は口元にうっすら笑みを浮かべていた。その笑みが意味するものがなんなのか、次の一言で気づいてしまった。
「私、加賀君の元カノなんです」
加賀さんと付き合ったことがある、という自負が、彼女に微笑みを浮かべさせている。
「本当ですよ」
俺が無言なのを疑っているからだと思ったのか、思いついたように付け足した。
「あ、二人で撮った写真、携帯に入ってますけど、見ます?」
手に持っていたスマホを操作し始める彼女に「いいです」と首を振る。
「あの、確かに俺は加賀さんの知人ですけど……」
元カノ、なんていう存在にはなるべく会いたくなかった。俺の前に付き合っていた彼女が六人いることは知っている。そのうちの一人とは以前顔を合わせたことがあるが、気持ちのいいものじゃないし、どうしたって嫉妬してしまう。する必要がないのはわかっていても、考えてしまう。
過去の加賀さんがこの人と時間を共有し、ツーショットで写真を撮って、手をつないでデートしたり、キスしたり、この人に触れて、想像したくないようなことも。
「もしもし?」
落ち込む俺の目の前に、女性の顔が割り込んできた。
「これ、加賀君に渡してください」
我に返った俺の顎の先に、何かを差し出して言った。厚みのある、白い封筒だ。
「なんですか?」
受け取っていいものか迷っていると、買い物をした袋の中に無理やり封筒をねじ込んできた。
「じゃあお願いしますね。ちゃんと渡してくださいね」
「え、ちょっと」
寒くて限界、というふうに震え上がったあとで、女性が小走りで駆けていった。姿が見えなくなると、腹の底から深く、ため息をついた。
重い足を引きずってマンションに入り、部屋にたどり着くと荷物を置いて、反芻する。
綺麗な人だった。
髪が長くて柔らかそうで、短いスカートから伸びる足は細かった。加賀さんと並んでいたら、きっとお似合いだ。
ちり、と胸が痛んだ。服の上から皮膚をつかみ、堪える。
なんでこんなことで。
泣きそうになっている自分が、情けなくて仕方がない。にじんだ涙をぬぐって、息を吸って、吐く。夕飯の用意をしなければ。
買い物袋の中の封筒が目についた。慎重に手に取って、振ってみる。別に、中に刃物が入っているとかではなさそうだ。それにこれは、どうやら結婚式の招待状だ。あの人が、結婚するのだろうか。まさかとは思うが、加賀さんにきてほしい? いや、そんなはずない。前に付き合っていた人を結婚式に招待するはずがない。
テーブルに、招待状を置いた。
もう考えるのはやめた。
気持ちを切り替えて、料理に取り掛かった。考えるな、考えるな、と念じながら包丁を動かしていると、指先に小さな痛みが走った。
「つっ……」
包丁を取り落とす。人差し指から血が出ていた。口に咥え、吸ってみたが、血は止まらない。こんな小さな傷のくせに、痛みは立派だ。
絆創膏を巻いて、再びキッチンに立つ。たったこれだけの傷だが、俺を現実に引き戻し、目を覚まさせるには十分だった。
無心で作り終えると、余計なことを考えないために勉強を始めた。そのうち、頭の中がクリアになり、気分も晴れた。
時間を忘れて没頭していると、唐突に視界が奪われた。目を、手で覆われている、と気づく。
「だーれだ」
「おかえりなさい」
「ただいま。すげえ集中力だな。えらいえらい」
加賀さんが後ろから俺を抱きしめる。首に鼻先をくっつけて、すり寄せられる感触が気持ちいい。背中に、体温を感じる。それだけで幸せだと思った。加賀さんの手に自分の手を重ね合わせ、撫でさする。
「あれ、どうしたのこれ」
加賀さんが人差し指の絆創膏に気づいた。
「包丁で、ちょっと」
「珍しいな。痛い?」
「もう平気です」
俺の左手を持ち上げて絆創膏の上からキスをした。こういう優しい行為を、彼女にもしてあげたのだろうか。
「ご飯、食べましょう」
加賀さんの腕をどかして、立ち上がる。暗い顔を見せたくない。笑顔を作って振り向くと、加賀さんの体を回れ右させる。
「着替えてきてください」
妙な間が空いた。加賀さんが肩越しに振り仰ぎ、見上げてくる。
「なんかあった?」
「何も」
笑って答えて、キスをしてから、背中を軽く押す。加賀さんは怪訝そうに首をかしげて、ネクタイを緩めながら寝室に入っていった。
料理を温め直し、盛りつけが完成した頃に、着替え終えた加賀さんが戻ってきた。ダイニングの椅子を引きながら、何気ない動作でテーブルの上の封筒を手に取ると、すぐに顔色が変化する。
「うっわ……っ!」
まるでお化けでも見たようなリアクションだった。封筒を放り投げて、飛びのいた。腰が完全に引けている。こんなに怯えた加賀さんは見たことがない。
「これ……、なんでここに?」
床に落ちた封筒を拾うこともせず、距離を取って言った。まるで危険物扱いだ。
「ちょ、待って、何? こ、こわっ、何これ、世にも奇妙な物語?」
蒼白な顔で封筒を遠巻きに見ている。
「なんでですか」
笑いながら味噌汁をテーブルに置くと、床に落ちた封筒を拾おうと身をかがめて手を伸ばす。
「待て、それ、絶対危ない。呪われてるから、触るな」
真剣な表情で俺を止める加賀さんを、「大丈夫です」と笑ってなだめた。
「さっき、マンションの前で渡されたんです」
「え」
「元カノだって言ってました」
封筒を拾い上げ、加賀さんに差し出した。加賀さんは正気に戻った様子で、口を押えて大きく息をついたが、混乱は収まらない。
「え? わけわかんねえ。なんで? いろいろ謎なんだけど」
封筒を受け取らずに凝視している。
「あいつ、なんでマンション知ってんだ? それに、なんで倉知君に」
がばっと顔を上げて、俺を見た。
「なんか言われた?」
「加賀さんの家族かって訊かれました。二人でマンション出入りしてるとこ見たらしいです。一緒に住んでるのかって訊かれて、答えられなくて」
難しい顔で黙り込んだ。俺の手から封筒を受け取ると、裏返して確認してから、ものすごく雑に開封した。中身を取り出して、目を落とす。
「くそ、住所しかねえな」
吐き捨てて、前髪を搔き乱した。
「倉知君」
「はい」
「ごめんな」
「え?」
「指切ったの、これのせいだろ」
「いえ、別にそういうわけじゃ」
加賀さんが目を細めて俺を見る。この人にごまかしは効かない。俺を理解しきっている。
「ごめん」
俺の指先を握って、小さな声で謝った。
「あの」
「ん?」
「その人、六人目の彼女ですか?」
こんな質問になんの意味が、と思ったが、つい口から出てしまった。加賀さんが顎の先を掻いて「そうだね」と認めた。
「最後の彼女」
短く言って、優しい顔で俺の肩をポンポンと叩く。
「よし、冷める前に食おう」
多分加賀さんは、この件に俺を巻き込みたくないのだ。元カノが絡むと暗くなる俺の性質も知っている。俺に、気を遣っている。
「大丈夫だから」
それだけ言って、もうこの話題は口に出さなくなった。
目を見ればわかる。一人で、決着をつけるつもりだ。
〈加賀編〉
無視することも考えた。でもそれは、おそらく正しい選択じゃない。
どうやって調べたのか紗千香はマンションを知っている。返事を出さないと催促にやってくる可能性が高い。返信しても欠席で出せばきっとまたやってくる。
もう二度と、倉知に接触させるわけにはいかない。
倉知は、一緒にマンションを出入りしているところを見たらしいと言っていた。一緒にいるのは休日くらいだ。ということは、どうにかしてマンションを突き止めたあと、数日間張り込んでいたのではないか。そう考えるのがしっくりくる。
本当に、終始一貫して、怖い。エスカレートする前に、きちんと関りを断たなければならない。
連絡先は、別れたときに消去した。共通の知人でもいればよかったが、あいにくいない。紗千香が一人暮らしをしていたアパートは、取り壊されて代わりにコンビニができている。
SNSをやっていないか一通り検索したが、本名では見つからなかった。紗千香は転職回数が多く、一つのところで長く勤められない。別れた当時働いていた雑貨店も、とっくに辞めているだろう。
頼れるのは招待状にあった返信先の住所のみ。なりふり構っていられない。
次の日。仕事を早く切り上げて、返信用はがきに記載のあった住所へ向かった。二階建ての普通のアパートだった。表札には、「松田」とある。紗千香の名字ではなく、結婚相手のものだ。男の部屋かもしれないし、一緒に住んでいるかもしれない。どっちでもよかった。こっちに非はないし、疚しいこともない。
玄関チャイムを押すと、ピンポーンと音が聞こえた。奥から「はーい」と紗千香の声がした。
「はーい」
もう一度同じテンションで答え、来訪者を確認した様子もなくドアが開いた。
「わっ、加賀君!」
「こんばんは」
「えっ、何、どうして、なんでうちわかったの?」
それはこっちの科白だ。
スーツのポケットから返信用のはがきを取り出すと、顔面に叩きつけたい欲求を堪えてそっと差し出した。
「ここに書いてあるからね、住所。驚くことじゃないだろ」
「あ、出欠のはがき? わざわざ持ってきてくれたの?」
手に取って裏返すと「あれ?」と眉をひそめた。
「欠席になってるじゃん」
「うん。それより、俺のマンションなんでわかった? すげえ恐怖なんだけど」
「えー、それは……、えっと、会社帰りの車を尾行して」
「はあ?」
「だってタクシーの運転手さんが、すごいノリノリで」
「そんなことはどうでもいい。お前、それストーカーじゃねえか」
「ち、違うよ。ストーカーとか、やめてよ。あ、上がってく? 彼、まだ帰ってないし」
部屋の中を指さして言った。
「入らない」
紗千香がたじろいだ。そして、上目遣いで俺を見た。目が潤んでいる。完全に被害者面だ。
「で? マンション突き止めたあとは? アンパンと牛乳持って張り込んでたとか?」
「あはは、加賀君、面白い」
否定しないということは張り込んでいたのは図星らしい。
「面白くない」
腹を抱えて笑う紗千香が笑顔を凍りつかせ、再び上目遣い攻撃を始めた。
「久しぶりに会ったら、ますますかっこよくなってて、だから、加賀君が悪いんだよ。加賀君のせい」
「意味わかんねえ」
「あとになって、彼女いるのかなとか、結婚したのかなとか気になりだしちゃって、だから」
「だからストーカーしました?」
「ストーカーじゃないもん。だって私、結婚するんだよ?」
「結婚するからストーカーじゃないって? 意味わかんねえ」
紗千香の、自分は悪くない、という態度に心底腹が立つ。論破しないと気が済まなくなった。
「尾行してマンションの前で監視する行為は、客観的に見てどう思う?」
紗千香は言葉に詰まった様子でもじもじし始めた。
「認めろ。お前はストーカーだ」
「ひどいよ、違うもん」
「ひどくないし違わない。二度とすんなよ。次は許さないから覚悟しろ」
「許さないって……、どうするの?」
「弁護士に相談する」
「それもしかして、お、お父さん?」
紗千香を父に会わせたことはなかったが、どんな人間かは知っている。ごくり、と大げさに唾を飲み込むと、怯えた目で俺を見て、「もうしません」と沈んだ声で言った。
「加賀君怖い」
ぼそりと呟いて、少しだけ身を引いた。
「怒った加賀君、初めて見た」
「あのな、俺が怒ってるのは、ストーカー行為に対してじゃないからな」
「じゃあ何?」
「お前、なんで俺じゃなくてあいつに渡したんだよ」
「あいつって、背ぇ高い男の子? あれ誰?」
「俺の男」
「え」
「俺一人なら、ストーカーされたところで怖いで終わったんだよ。でもあいつを巻き込むのは許せない。お前のせいで指切ったんだぞ、どうしてくれる」
「嘘」
「何が」
「あの子と付き合ってるの? あ、まさか同棲してる? してるんでしょ」
驚いた、というより怒っている。
「もう一年だな」
そうだ、一緒に暮らして一年経つ。月日が経つのは早い。
「信じられない」
紗千香のつま先が俺のすねを蹴った。
「いて、なんでだよ」
「私が同棲したいって言ったとき、加賀君絶対イヤって、他人と共同生活できないって言ってたじゃん」
今更過去を蒸し返されても困る。紗千香と暮らすのは無理だが、倉知にはこっちから打診した。一緒にいたかったからだ。
「むかつく」
仕方ないだろ。すげえ愛してんだから。と言いたかったが、やめた。
「もうおっさんだからね。介護が必要なんだよ」
「うける」
そのわりに顔は笑っていない。
「ねえ、遊び? 本気? あの子若そうだったけど、高校生じゃないよね?」
「大学生。本気だよ。もう一生離れたくないから、一緒に暮らしてる」
「やだあ、幸せそうに言わないで」
紗千香が泣き顔で地団太を踏む。
「幸せだよ。お前も結婚すんだろ」
「結婚式、絶対無理?」
まだ言うか。苦笑して肩をすくめる。
「行かないよ。場違いだし」
一般的には元カレ元カノが集結する場じゃない。よほど仲がよくて、別れたあとも友人関係にあるなら出席してもいいかもしれない。でも俺たちはそうじゃない。
「紗千香」
頬をふくらませて不機嫌な紗千香が顔を上げる。
「おめでとう。幸せになれよ」
結婚式に元カノを三人呼ぶ男に、引くどころか負けられないと対抗できるのなら、多分大丈夫だろう。価値観が似ているのだと思う。非常識をなじりあい、険悪にならないのならやっていける。
紗千香のアパートを出て、そのままマンションに向かった。早退をしたから外はまだ明るい。こんな時間に帰ったら、倉知は驚くだろう。
マンションのドアを開けると、テレビの音がした。珍しい。倉知は滅多に自分からテレビをつけない。
よくわからないデザインの緑色の着ぐるみが歌って踊っている。明らかにEテレだ。
「何見てんのかと思ったら、面白いの?」
ソファに座ってぼんやりながめている倉知の後ろから声をかけると、ビクッとして、大慌てでテレビを消した。
「えっ、何時? おっ、おかえりなさい、早いですね」
素早く立ち上がり、照れ笑いをしている。顔が赤い。
「AV観てんの見つかったみたいなリアクションだな」
「えっ、そ、そういうのじゃないです、え、えっと、あっ、ご飯、作りますね」
何がこいつをそうさせているのかはわからないが、ひたすら恥ずかしそうにしている。そそくさとキッチンに逃げ込もうとする倉知の腰に抱きついた。
「ごめんな」
「え? 何がですか?」
「昨日のこと」
「別に、何も……、謝らないでください」
無理に笑おうとしたり、うわの空で子ども向け番組を眺めたり、気にしていないわけがない。
「退治してきたから」
「退治?」
「昨日のあいつ」
「ど、え? どういうことですか? 退治って」
「もう来ないよ」
倉知が黙る。沈黙が、落ちた。抱きついたままの背中に顔をうずめて息をついてから言った。
「気にすんなって言っても無理だろうけど、気にすんな。いや、気にしないで……ください。ごめんなさい」
思わず敬語になる俺に、倉知が少し笑った。
「加賀さんは何も悪くないです」
腰にしがみつく俺の手をゆっくりとどけると振り向いた。
「俺が勝手にいろいろ考えちゃうだけですから」
本当にいろいろ考えたんだろうな、というのが、顔を見ただけでもわかる。
「吐き出せよ」
倉知の頬を撫でて言った。
「どんなこと考えた? 全部、俺に聞かせて」
「いえ、……その、ただのネガティブなんで、大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ。いいから言ってみて」
倉知は俺から目を逸らして下唇を噛んだ。そして、小さく息を吐くと同時につぶやいた。
「加賀さんとあの人が付き合ってるとこ、想像したんです。考えたくないのに……、馬鹿ですよね」
「うん」
同意する俺を横目で見て、また逸らす。
「お前のその想像、多分ほとんど間違ってるよ」
俺は、優しい彼氏じゃなかったと思う。誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントはせがまれたものを渋々買っていただけだし、デートは毎回受け身だった。働き出したら会う回数も減って、ないがしろにしていると散々なじられた。仕事が楽しくて没頭した結果、「仕事と私とどっちが大事なの?」と謎の二択を迫られ、仕事です、と正直に告げて別れることになった。
紗千香は、ストレスの元凶だった。愛せるはずもない。
倉知は俺に幻想を抱いていて、誰にでも優しいと思っているようだがそれは違う。好きだとか愛してるとか恥ずかしげもなく口にして、毎日キスをして、抱きついて、甘えて、体のどこかに触れていないと気が済まないのは、倉知が可愛くて仕方がないからで、過去の誰も、そういう扱いをしたことがない。
自分を女に置き換えて、俺が同等に扱っているところを想像しても意味がない、と説明すると、倉知は悟りを開いた菩薩のような柔和な笑みを浮かべた。
「違います」
「え、何が?」
「俺はもっとあさましくて、性的な想像をして、嫉妬してるんです」
「性的」
復唱する俺の頬に手を添えると、倉知の親指が唇に触れた。
「加賀さんが女の人を抱いてるところ、想像して、落ち着かなくなったんです」
想像しないわけがないよな、と理解はできた。吐き出せと言っておいて、倉知がそれを口にするとは思わなかった。意表を突かれ、戸惑った。
「すいません、気持ち悪い真似して。ずっと自己嫌悪で、もやもやしてて」
「気持ち悪くないけど、あー……、童貞じゃなくてごめんね」
気の利いた言葉が見つからずに、妙な謝罪をしてしまった。
「そこを責める気はないし、加賀さんの歴史を否定しません。そんなこと、謝らないで」
歴史って、と笑いたかったが、俺の唇をなぞっていた指を口の中に突っ込まれ、声を失った。この指はなんなんだよ、と言いたくても言えない。
「こんなにカッコイイのにモテないはずない。俺と出会うまで童貞だったら、逆に心配です。舐めてください」
「ふぇ?」
「指、舐めて」
親指を押し込んでくる。仕方なく、言われた通りに舐めてみた。よくわからないが、欲望に火がついたらしい。
倉知の目をじっと見つめて、指に舌を這わせた。舐めて、吸ってから、軽く歯を立てると、ぴくっと反応して、飢えたような目で俺を見る。完全に、欲情している。
唐突に、スーツのままの俺を抱きかかえると、寝室に飛び込んだ。手際よく裸になると、俺の下半身だけをはぎ取って半裸にしたあと、駆け足で挿入し、せっせと腰を動かし、あっという間に終わった。
「すいませんでした」
最中、珍しくずっと無言だった倉知が、やっと喋ったと思ったら恥ずかしそうに謝った。
「加賀さんを抱けるのは、後にも先にも俺だけだって思ったら、なんか、誇らしい気持ちになって」
俺の上着を脱がせながら、倉知が言った。
「で、ここも誇らしくなった、と」
まだ大きいままの倉知の股間を、無造作に握った。うっ、とうめいて身を固くしたが、すぐに気を取り直して口を開いた。
「質問してもいいですか?」
「何?」
「加賀さんが童貞卒業したのって、何歳のときですか?」
「え」
「高校生? 中学生?」
「本当に知りたいの?」
「知りたいです」
倉知の表情は晴れやかだ。思いつめた感じは一切ない。どうしたっていうんだ。
「そういうの、知らないほうがいいんじゃない?」
「気になるのに見て見ぬふりっていうか、ぎくしゃくしたくないし、ごまかしたくないんです。こうなったら、加賀さんのことならなんでも知りたい」
考えすぎて血迷っている気がしないでもないが、変に落ち込まれるよりはマシかもしれない。
「お前とそんな変わんねえよ。中三のとき」
「高二と中三はだいぶ違いますけど。でも意外です」
俺のネクタイを解く倉知の口元には、笑みがある。
「下手したら小学生のときかと思った」
「俺別に、ヤリチンじゃないからな?」
「加賀さん」
「ん」
「こすらないで」
握っていたのを忘れていた。ほとんど無意識にしごいていた。
「はは、ごめん」
謝りつつ、でも、手を止めない。倉知は自分の股間を見下ろしてから、俺のシャツのボタンを外し始めた。上から順番に外して、三番目のボタンに手をかけたとき、上ずった声で言った。
「過去は」
切なそうに短い息を吐きながら、そこで言葉を切って、「あっ」と声を漏らした。一旦手を離し、倉知の顔を覗き込む。
「何?」
「過去はもういいんです。これからは俺の、俺だけの加賀さんで、いてください」
倉知の目は赤くなっていた。そんなことは当たり前なのに、口に出さずにはいられないほど、不安にさせた。俺が過去を綺麗に清算できていれば、倉知を追いつめたりしなかったのに。
「うん、絶対、約束するよ」
優しく言って、倉知の頭を胸に抱きしめた。
もし、立場が逆だったら。倉知の過去の女が接触してきたら。想像だけでかなり複雑な気持ちになる。存在しない女に対する、苛立ち。倉知はこの何倍も、苦しんだ。
ごめんな、とつぶやいて、髪に頬をすり寄せる。
倉知は紛れもなく、俺の、最後の男だ。
〈おわり〉
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