電車の男ー同棲編ー番外編

月世

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可愛いやつ ※

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※リバです。前の話のつづき。


〈加賀編〉

「加賀さん」
「ん」
「その、俺」
 倉知が何を言いたいのか、わかる。俺に挿れたままで、まだ硬い。さっき先に一回出したせいで、二回目が長持ちしたのだ。
「イキたい?」
 少し腰を揺すると、俺の下で倉知がキュッと目を閉じて「はい」と答えた。バスタブの中で抱き合いながら体を動かしていると、俺のほうも復活してきた。
「勃ってきた」
 倉知が薄目を開けて俺を見る。風呂に浸かっているせいか、照れているからか、頬がピンク色だ。そのピンクの頬を指先でくすぐると、まるで猫のように目を細めて気持ちよさそうに委ねてくる。
 可愛い。
「なあ」
「はい?」
「挿れていい?」
「……はい?」
「なんかお前の顔見てたら、やりたくなってきた」
 体を起こして、腰を浮かす。俺の中から、倉知が抜け落ちる。抜くときに倉知が出した声がエロくて、首の裏がゾク、と粟立った。
「えっと、でも、俺、その、心の準備と体の準備が」
 言い訳を始める倉知を残して、バスタブを出た。シャワーで体を流し、中の物を掻き出した。倉知が俺の動きを不安そうに見ている。
「あの、今ですか? どうしても? ここで?」
「今、どうしても、ここでしたい」
 はああ、と長いため息を吐いて、倉知が顔面を両手で覆う。
「無理です、難易度高いです」
「そう? どの辺が?」
「声、響くし、明るいし……」
「うん、なんか余計エロく感じるよね」
「うう、はず、かしい」
 顔を覆ったまま、ぶくぶくと浸水していく。頭を全部沈めたあとで、すぐに浮上してきた。前髪を掻き上げて、顔をぬぐってから、困った様子で俺を見る。
「せめて、ベッド行きませんか」
「行きません」
 力強く断言すると、倉知がたじろいだ。
「さっきまであんなに可愛かったのに」
「オスモードのスイッチ入ったんだよ、ごめんね」
 倉知に手のひらを差し出した。怖がりながら、俺の手を握る。怯える感じが逆にそそる。バスタブから引き上げると、すぐに乳首に噛みついた。
「いっ……痛い」
「ごめん、可愛くてつい」
「可愛くないです」
 可愛い顔で言われても。視線を泳がせて、勃起した股間を恥ずかしそうに隠している。だから、そういうのが可愛いんだよ、と言いたい。
 抱かれるのが不満なわけじゃない。でも、俺も男だ。たまには抱きたくなる。
「ここ座って」
 バスタブの隅に腰を下ろさせると、コンディショナーの容器を手に取った。
「何、するんですか?」
「ローション替わり」
「え、まさかそれ」
「大丈夫だよ、痛くない」
 手のひらに落ちた液体を、倉知が唾を飲み込んで見下ろしている。
「手、どかして、脚広げて」
 膝頭を叩いて急かす。素直に手をどかし、おずおずと脚を広げた。股間の前に膝をついて、じっと観察する。
「絶景」
 口笛を吹いてそう言うと、倉知が「変態みたいです」とぼやいた。
「変態だよ。それではちょっとほぐしますので」
 倉知の股を割り開いて、コンディショナーを塗り込んだ。歯を食いしばって耐える顔を見上げて、指を動かした。
「う、……んん」
 俺から顔を背け、くぐもった声を漏らす。指でかき混ぜていると、勃起したペニスが勢いよく跳ねて、腹につきそうなほどに頭をもたげた。
「ここが気持ちいいんだろ」
 指の腹でこすると、体を震わせて首をのけ反らせた。
「あっ、だめ、か、加賀さん、もう、抜いて!」
「挿れて、だろ?」
 指を引き抜くと、倉知が俺にしがみついてきた。肩で息をして「うう、怖い」と体を小さくする。
「倉知君、ここ掴んで、四つん這いになって」
「加賀さん」
 助けを求めるような目で見てくる。何度か逆でやっているが、よく怖い、と口にする。良すぎるから怖いのは、わかっている。本気で嫌がることはしない。
 バスタブの淵に掴まらせて、腰を持ち上げる。
「挿れるよ。力抜いて」
 宣言して、ゆっくりと、倉知の中に入る。奥まで全部埋め込んで、息をつく。相変わらずきつくて狭い。尻を揉むようにして撫でながら、腰を引いて、突き上げる。
「あっ……」
 倉知が声を上げる。
「痛い?」
 訊くと、首を横に振った。バックだと顔が見えないから言葉で確認するほかない。首を横に振り続ける倉知の腰を引き寄せて、浅く、抜き差しをした。泣き声のような、鼻から抜ける声を出して、必死で堪えている。一度動きを止めて、背中にキスをした。音を立てて吸いついて、軽く噛む。薄い歯形がついたのを確認して、そこを舐めた。汗の味がする。
 倉知は、声を殺して呼吸を荒げ、快感と戦っている。俺の一挙一動に敏感に反応する恋人が、可愛くて仕方がない。
 倉知が身をよじり、ちら、とこっちを振り返った。
「……かが、さん」
「ん?」
「あ、あの……、その、う、……ごいてください」
 最後は聞き取れないほど小さな声だった。
「動いてって言った?」
 赤く染まった耳が肯定している。
「何それ、可愛いな」
 ぐ、と腰を押しつけると、繋がっている部分がきつく締まる。
「気持ちいい?」
 無言で、かすかに首を縦に振る。
「可愛いな」
 今度は横に振る。
「可愛いんだよ」
 ニャー、と猫の声が、ドアの向こうから賛同する。
「な、猫も可愛いって言ってる」
「い、言ってません」
「なあ、ちょっと、ニャーって言って」
「……え?」
「さっき猫の鳴き真似しただろ。あれ、めっちゃ可愛かった」
 ごまかせるはずがないのに、自然にああいうことをしてしまう子どもっぽさが可愛い。
「鳴いてよ、猫みたいに」
 鳴かせようと腰を揺する。
「あっ、う、ん、ん……」
「ニャーは?」
「うう、やだ、なんですかこれ、やだ……」
「バックだと動物になった気持ちにならない?」
「なりません」
 かたくなだ。
「ニャーっていうまでイカせない」
 動きを止めて胸に手を回し、乳首をつまむ。
「いっ……た」
「ニャーは?」
「なんで……、犬派なんでしょ?」
 倉知が反撃に出た。確かにその通り。
「じゃあワンでもいいよ」
「……言いません」
「ワンよりニャーのが倉知君ぽいな」
「もう、意味がわかりません」
「鳴いてよ、ニャーって」
 軽く腰を振ると、油断していたのか、可愛く「あんっ」と声を上げた。
 なんだ今のは。もう、ニャーとかワンとかどうでもいい。
 自分で自分の出した声に照れまくっている感じも、可愛い。
 可愛い可愛い可愛い、と呪文のように繰り返す。
 強張った体を抱いて、腰を打ちつける。二回、三回、と肉を打つ音が響き、そのたびにバスタブを掴む倉知の手が震えるのがわかった。
 長い悲鳴を上げて、倉知の全身が痙攣した。同時に、俺も中で果てる。脈打つ下腹部が、精を全部吐き出すまで、腰を揺らし続け、大きく息を吐いてから、外に出る。
 抜いた途端に、倉知が浴室の床にうずくまった。
「大丈夫?」
「……はい、もう、なんか力が入らなくて」
 後ろから倉知の丸まった背中に乗っかるようにして抱きしめる。
「倉知君、すげえ可愛かった」
「……可愛いのは加賀さんですから」
「倉知君だよ」
「加賀さんです」
 ニャー、とドアの向こうで猫が鳴く。
「ほら」
「何がほら?」
「通訳してやろう。倉知君、可愛いニャー」
 ああもう、と丸まったまま、倉知がうめく。
「可愛いのは加賀さんです。これだけは譲れません」
 譲れないのはお互い様のようだ。
 
〈おわり〉
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