DROP DEAD!MOTHERFUCKER

月世

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「家には入らない」
 玄関の前で、立ち止まった。入ったら絶対に何かされる。
「逆らえないって言ったよね?」
 そう言い残し、ドアを開け放したまま俺を置いて中に入る。十秒くらいその場で立ち尽くしたあと、結局中に入った。ドアが閉まる重い音が、不吉に響く。
「早く携帯返せ」
「うん、返すよ。終わってから」
 織田が俺の手首をつかんだ。ぐい、と引かれて胸の中に抱きすくめられる。俺のほうがでかいのに、無理矢理胸に頭を埋めさせられて息苦しい。
「やめろ」
 胸を押し返し、抵抗する。すぐ鼻先で織田が不敵な笑みを浮かべている。
「ママに言うよ? いいの?」
「あんた最低だよ、それでも父親か?」
 弱みを握られている。もう情に訴えるしか手段が浮かばない。織田はうっとりしたような表情で「勿論」と言った。
「父親だよ。さあ、可愛い息子、ベッドに行こう」
 マジかよ、と漏らした。こいつは鬼畜だ。本物の、鬼だ。人の心がないのか。
 強引に引いてくる腕を振りほどき、腹の底から切実に、訴えた。
「絶対に、嫌だ」
「痛くしないから大丈夫」
 すでに痛い、と言いたくても言えない。負けたようで言いたくない。
「一騎だって気持ち良かったでしょ?」
 歯を食いしばり、目を逸らした。確かに俺は、男に掘られてよがり声を上げて、達した。それが自分でも許せない。女を抱けなかったくせに、性行為が怖かったくせに。強姦されて、体は悦んでいた。織田が体を突き刺すのを、受け容れた。
 ものすごく、気持ち良かった。
「うるせー、強姦野郎」
「体が疼くんじゃない?」
 織田が笑って言った。
「授業中に思い出したかな?」
「携帯返せ」
「二人でママのところに行く? それとも、ベッドに行く? どっちがいい?」
 こんな奴が。こんな奴の血が、自分に流れている。
 歯ぎしりをして、「クソ野郎」と罵った。
「おいで」
 織田が手を差し伸べた。払いのけ、肩を乱暴に押して、自分から寝室のドアを開けた。
 服を脱ぐ。全裸になって、振り返る。織田は微笑んでいた。
「いい子だね」
「とっととやれよ」
 ベッドに腰かけて、顔を背け、投げやりに言った。
 両肩に、手が載った。ゆっくりと押されて、シーツの上で、体が跳ねる。顔面をつかまれた。織田の顔が近づいてくる。唇を、吸われた。目を閉じる。耐えた。吸って、舐めて、口の中を蹂躙される。
 何も考えない。無だ。頭を空っぽにして、耐えた。
 そのうち唇が離れていった。目を開ける。織田が、覗き込んでくる。視線を外すと、俺の首筋に顔をうずめ、唇を押しつけ、音を立てて、吸った。
「い……ってぇ」
「うん、痕ついた」
「やめろ、気味ワリイ」
「マーキングしておかなきゃ。一騎は男女問わずモテるもんね。翼君、とかね」
 唐突に飛び出した翼の名前にゾッとして、顔が引きつった。織田は俺の反応を見て、満足げに口の端を片方だけ持ち上げて笑う。
「携帯に熱烈なラブメールがたくさん届いてるよ。彼、一騎のことが大好きだね」
「何勝手に読んでんだよ」
 イラついたが、それくらいはしているだろうと半ば諦めてはいた。強姦に比べれば、携帯を盗み見られるくらい、痛くもかゆくもない。
「翼君に、抱いてって言われたら、どうする?」
「どうもしない」
 織田はフフと冷たく笑った。
「抱けないよ。もう君は、他の誰ともセックスができない」
 まるで呪いだ。顔をしかめる俺の頭を優しく撫でながら、織田は呪いの言葉を続けた。
「だから私が、抱いてあげる。君を気持ちよくさせてあげられるのは、私だけだよ」
 なんだよそれは、と笑い飛ばしたかったのに、できなかった。根拠のない傲慢な科白が、未来を予測しているかのように思えてしまった。
 俺はもう、誰とも。
「一騎」
 俺の腹に座って、ベルトを外しながら織田が言った。
「今日は口でしてみようか」
「は?」
 ペニスの先端が、口に迫ってくる。悲鳴すら上がらなかった。
「ステップアップだよ。口開けて、あーん」
 反射的に顔を背けた。織田は「駄目じゃないか」と溜息をつく。
「拒否権はないよ?」
 畜生。クソッタレ。ゲス野郎。
 腹の中で散々罵った。嬉しそうに口に男根を押しつけてくる。本当に、こいつは鬼畜で変態だ。
「口を開けなさい」
 唇に押しつけられ、渋々口を開いた途端、喜々として突っ込んできた。
「ぐっ……」
 喉から濁音が出た。仰向けにされて、上から突っ込まれている今の異常な状態が夢であって欲しかった。口から零れ出さんばかりに育っていく織田の欲望がゆっくりと奥へと進んでいく。喉の奥を突かれて、吐き気がした。
「舌使って」
 無茶なことを言う。涙目で睨みつけた。織田は表情をまったく変えない。早く、と目で訴えてくる。吐き気と闘いながら、俺はそろそろと舌を動かした。
「あ、そうそう。上手だよ。もっと吸いついて」
 織田が嬉しそうな声で命令する。恥辱で俺の精神は今にも崩れ去りそうだ。織田が俺の髪に指を絡ませて、腰を上下に振った。口を裂く勢いで出たり入ったり繰り返している。そのたびに喉をつかれて、嘔吐感が酷くなってきた。目尻から涙が流れる。
「大丈夫?」
 全然大丈夫じゃない。必死に織田を見上げて目で助けを求めた。
 吐く。
「しょうがないなあ」
 織田は心底残念そうに顔を顰めると、ずるずると口から抜け出ていった。解放されて何度も咳き込んだ。胃が収縮して中のものがせり上がってくるのを堪えた。織田の手が俺の背中を撫でた。
「初めてだししんどかったね。また今度ゆっくり慣らしていこうね」
 また今度? こいつは一体何を言ってんだ?
 目の端ににじんだ涙を拭い、織田を睨む。織田はベルトをぶら下げて俺を見下ろしていた。
「縛ろうかな」
「なん……、なんで、やめろ、別に、逃げない」
 起き上がろうとする俺の腕をとって、手首にベルトを縛りつけてくる。
「縛っておかないと、殴られちゃうから」
 殴らないから、とは言えなかった。もうすでに、殴りたい。
「さ、じゃあやろうか」
 人の胸を揉みながら、織田が嬉々として宣言する。
「やめろ、もう充分だろ」
「何を言ってるのかな?」
 織田はかくん、と首を傾げた。
「これを見なさい」
 目の前に、股間を押しつけくる。ギンギンに反り返ったブツを鼻先に押しつけられて、おぞましさのあまり、顔を背けた。
「さあ、入れようか」
 足首をつかむと、腰を高々と抱え上げられた。織田の顔の前に俺の尻がある。見られていると思うと羞恥で死にそうだった。でもそうだ、こいつは医者で、これは診察だと思えばなんてことはない。
「うん、大丈夫そうだね」
 医者のお墨付きが出た。すぐに冷たい何かが尻に触れた。何か、ヌルヌルするものを塗られている。
「体に入っても害がないものだから安心して。滑りをよくするためだから」
 ぬめりを帯びた織田の指が、奥に侵入してきた。全力で目を閉じて、できる限り顔を背けた。屈辱的な行為が早く終わるように必死で祈る。
「一騎、力抜いて。リラックスリラックス」
「できるわけねーだろ」
 吐き捨てると織田の指が反撃した。グリグリと、内部をノックされ、俺は体を痙攣させて悲鳴を上げた。
「うあっ……!」
 震えがくるほどの快感で目が眩む。
「なん、なんだよ、これ」
「ね、気持ちいいでしょ」
「や、やめ」
 薄眼を開けて、自分のペニスを見て、絶句した。露骨に反応している。こんなことをされて、体が、喜んでいる。
 織田が「フフ」と小さく笑ったのが聞こえた。目が合った。愉悦が広がる、不気味な表情。
「すごいね」
 ペニスをつかみ、ゆるゆると擦ってくる。
「あっ……くっ」
 悲鳴をかろうじて呑み込んだ。織田は面白がるように笑っている。
「声を出してもいいんだよ。誰にも聞かれないから」
「う、ん……、あっ、ああっ、う、んっ、はっ、はあ……っ」
 情けない喘ぎが、止まらない。後ろと前を激しく責められて、脳味噌が溶けるほどの快感が全身を覆っている。織田は、的確にポイントを攻めてくる。攻撃の手を休めない。俺は恥も外聞も捨てて、織田の首に両脚を絡ませた。
「はっ、はあっ、うぅっ……」
「一騎、イキそう?」
 薄っすらと開いた視界に、織田の顔が見えた。涙のせいでゆらゆらと揺れている。限界だ、イク、という寸前で、後ろから指が抜け、前の動きも止んだ。
「気持ち良かった?」
 わかりきったことを訊く。俺は無言で荒々しく呼吸した。
「じゃあ次は一騎が私を喜ばせる番だね」
 剥き出しになった自分のモノに、何か液体を塗りたくっている。
 早く。
 早く、欲しい。
 挿れて欲しい。
 あれを全部俺の中にぶち込んで、奥をガンガンに突いて欲しい。
 浅ましい欲求が沸いて出る。
 それを恥だとか屈辱だとか情けないとか思う隙もない。
 俺は、尻に、ぶち込まれたくて仕方がない。
 早く、と脳内で訴えた。
 蛇のような織田の目が、俺を見ている。
 にや、と笑い、俺の脚を両肩に載せ、ゆっくりと先端を呑み込ませると、腰を前後に揺すりながら、入ってくる。全部、入った。見届けて、目をつむる。
「すごいな、一騎」
 何がすごいのか、織田はしきりに感心している。
 早く、と声に出るところだった。電子音が鳴り、我に返る。
 聞き覚えのあるその音は、携帯の着信音だ。俺の、携帯だ。音は、織田が脱いだスーツの上着から聞こえている。
「いいところなのに、誰かな」
 繋がったまま上着を手繰り寄せ、携帯を取り出すと、織田がディスプレイを見下ろした。顔色に変化はない。
「誰だよ」
 訊くと、織田はにこっと笑い、目の前に携帯のディスプレイをかざした。着信の主は、翼だ。
 さっきのことで電話してきたに決まっている。泣きながら謝ってくる声が簡単に想像できた。
「切れよ」
「可哀相じゃない」
「いい、めんどくせー」
 もし俺が一人のときにかかっていたとしても、切っていた。織田はニヤニヤ笑いながら携帯を操作した。着信音が止み、ホッとしたのも束の間、織田が携帯を耳に当てた。
「おい」
 シー、と唇に指を当て、「もしもし?」と言った。
 織田は口角を吊り上げたまま無言で携帯を耳につけている。早く切れ、と睨んだが、織田は涼しい顔で肩をすくめ、携帯を操作したあとシーツの上に置いた。
『あの、……瀬野先輩?』
 翼の声が聞こえる。どうやらスピーカーにしたらしい。
『さっきのこと、怒ってます?』
 さっきのこと? と織田は俺を見た。
『瀬野先輩? なんとか言ってくださいよぉ』
 翼は泣いていた。舌打ちをしたくなる。どうでもいいから早く切れ。
「一騎と何があったの? 喧嘩でもした?」
 織田が携帯に話しかける。ゲッと声が出た。
『だ、誰?』
「さあ、誰かな?」
 血の気が引いた。織田は心底楽しそうに笑って、俺の脇腹を撫でさすっている。
『先輩のこと呼び捨てて……、誰ですか?』
「私が誰でも君には関係ないよ」
 翼が黙った。面倒だ。また明日根掘り葉掘り訊かれることになりそうだ。
「諦めたほうがいいよ、一騎のことは」
『誰なんですか?』
「さあ、誰だと思う?」
 完全に楽しんでいる。会話が前に進まない。人に突っ込んだままで、なんなんだよ、と怒りが沸いた。
『もしかして、今朝の車の人?』
「ああ、見てたの? そうだよ、青いBMWの人だよ」
『瀬野先輩のなんなんですか?』
「もうやめろ。早く切れ」
『瀬野先輩? そこにいるんですか? もしもし?』
 織田がちら、と俺に目をくれた。
『知りたいです、僕、瀬野先輩のこと、なんでも知りたいです』
「ふうん、なんでも、ねえ?」
 唐突に腰を突き上げてきた。
「あっ……」
 気を抜いていたせいで、間抜けな声が出た。慌てて唇を噛む。織田が腰を大きく揺すってくる。ズチュ、ズチュ、という卑猥な音が響く。歯を食いしばった。ガクガクと体が震えた。携帯から「先輩?」と不安げな声が聞こえる。
「ほら、一騎。聞かせてあげなよ、可愛い声を」
 織田は「はははっ」と軽快に笑いながら、腰をガンガンに打ちつけてきた。
「う……っ、はっ、あっ、やっ、やめろっ……!」
 耐えられずに叫ぶ。
『せ、瀬野先輩?』
「やめ、動くな、あっ、あっ、ん、切れっ……、携帯、切れよ……っ」
 途切れ途切れに喚いた。織田は楽しそうだった。満面の笑顔で、俺の体を揺さぶっている。
 喘ぎ声と、乱れる吐息と、ベッドの軋む音。
 聞かれている。翼に。そう思うと、腹が立った。ヤッている声を、なんでよりによってあいつに聴かせなきゃいけないんだ。
「一騎、ほら、もっと声出して」
 可愛いね、いい子だね、と言いながら、織田は抜き差しを繰り返し、体のあちこちを舐めてくる。
「う、あっ、やめっ、あっ、あっ、んっ……んんっ」
 音を立てて腰を打ちつける織田が、俺のモノをきつく握り、ついでに口まで塞がれた。唾液のぴちゃぴちゃという音。
「一騎、可愛いよ」
 唇を離し、織田が囁いた。
「愛してる」
 嘘だ。愛してるなら、こんな酷い仕打ちをできるはずがない。
 じわ、と涙が浮かぶ。
「可愛いなあ、君はすぐに泣くね」
 涙を舌で舐めとって、織田がふう、と息をつく。
「そろそろ一緒にいこう」
 腰の動きを速め、織田が言った。俺はよがり声を上げ続けた。
 もう、携帯のことも忘れていた。翼のことなんてどうでもよくて、快楽に身を任せた。織田の体がびくりと痙攣する。獣のような悲鳴を上げて、俺は果てた。
 また、中に出された。あとで文句を言ってやる。
 翼の存在を思い出したのは、それから数分後のことだった。
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